母とﾀｸｼｰに乗ったときの話です｡　　母が､ｼｰﾄの上の運転手名を､声を出して読み上げました｡　｢津軽弁蔵(仮名)さん｡津軽弁蔵さんて仰有るんですか｣　すると弁蔵､冷たい口調で言葉を返してよこしました｡　｢そうですよ｡それが何か？｣　私はﾑｯとしました｡それが何かはないでしょうと思いました｡すかさず母も言いました｡　｢ここに貼り出してあるから｡お名前を覚えておこうと思って｣　　今度また利用させてもらうつもりで､... ...続きを読む

今日も阿鼻叫喚の相場です｡板を見ないでいようと思うのに､板の方から　　ｶﾞﾗｶﾞﾗ､ﾄﾞｶｰﾝ､ﾄﾞﾊﾞｰﾝ､ぎゃあぁぁぁ｡｡｡｡　という騒音が聴こえてくるので無視するわけにはいきません｡　　まれに､ﾋｭﾙﾋｭﾙﾋｭﾙﾋｭﾙ､ﾄﾞｰﾝﾄﾞﾄﾞｰﾝ！　　ｽﾄｯﾌﾟだかぁ～～　　信じられない轟音も｡一体どなたがその数少ない恩恵に与っているのでしょう｡　　　今､私の頭の中では､ゆうべ歌謡ｺﾝｻｰﾄで観たｸﾘｽ･ﾊｰﾄ... ...続きを読む

今日ほどひどい板を見たのは初めてでした｡　　監視銘柄がどれもこれも､ｶﾞﾗｶﾞﾗと音をたてて崩れていきました｡ﾋﾞﾙの解体作業で､爆破されてあっという間に崩れ去っていく価格を目の当たりにしているようでした｡瓦礫は札束の紙片です｡見事なまでに粉々です｡　　こんなときにくるﾒｰﾙは､別に取引をしているわけではなくてもｲﾗｲﾗします｡　　｢今日は私の誕生日でｰす｡福田こうへいｺﾝｻｰﾄのﾁｹｯﾄ旦那からもらったので旦... ...続きを読む

連日の暑さで､我が家の扇風機は四六時中ﾌﾙ稼働です｡　　｢１枚､２枚｡｡｡｡｣　｢３枚､４枚｡｡｡｡ああ､どうして｡｡｡｡｣　　みんな私のもとからから飛び去っていくのはなぜなんでしょう｡｡｡｡　　　ﾃｨｯｼｭが､ﾚｼｰﾄが､ﾋﾞﾆｰﾙ袋がﾋﾗﾋﾗﾋﾗﾋﾗ｡果ては惣菜ﾊﾟｯｸの殻までも､扇風機に豪快に吹き飛ばされて飛んでいきます｡本棚の上に､ﾃﾚﾋﾞの裏に､集めているｷｭｰﾋﾟｰの顔にたこ焼きのﾚｼｰﾄが貼りつい... ...続きを読む

昨日の昼前のことです｡母が座卓に腰かけようとした拍子に足を滑らせて､椅子の木の部分に背中を強くぶつけてしまいました｡　　｢あう～～っっ｣とただならぬ叫び声が超高速で耳に突き刺さり､台所で朝食の後片付けをしていた私は仰天して､　｢どうしたのっ！｣　と飛んで行くと､母がｶﾞﾏｶﾞｴﾙのように中腰で座り込んだまま唸っていました｡　　｢へ､へ､へ､へ｡｡｡｡｣　　｢何笑ってんのよっ｣　｢ちがう｡｡｡｡へ､へなが､へなが... ...続きを読む

台風がまだしがみついていそうな暗い雲に追われるように介護施設に急いで行くと､ちょうど祖母のﾍﾞｯﾄﾞのｼｰﾂ交換とかち合ってしまいました｡　　やむなく廊下で待っていたら､入所者のﾊﾅさんが､私に声をかけてきました｡　｢ねっちゃ､結婚するんだってね｡おめでとう｣　｢？ は､はぁ？｣　　仰天する私の顔を覗き込んだﾊﾅさんは､無邪気に話を続けました｡　｢あんだのﾊﾞｯﾁｬが､じき結婚するって話したもの｡おらみんなに教... ...続きを読む

ｷﾞﾘｼｬ地獄の日経市場｡ｷﾞﾘｼｬ国民も､投票の意味をよく考えもせずに､ただ借金締め付けは厭だからﾉｰとした人が多かったとか｡　　なんておおらかな国でしょう｡どこに行ってもﾊﾟﾙﾃﾉﾝ神殿が見えるので､国民のすべてが神のDNAを受け継いでいるから偉いのだと勘違いしているという意見も聞きました｡｡　｢おれと似てるなぁ､まずいよなぁ｣　　ﾀﾞｼﾞｬﾚｵｼﾞが昨日やってきて､ﾃﾚﾋﾞを見ながら言いました｡　｢なるべ... ...続きを読む

いきなりﾊﾟｷｰﾝと目が覚めて､それから眠れなくなりました｡　　真夜中に目覚めると､私はろくなことを考えません｡私の暗い本性が一気に作動し耳も刺激し､柱時計のﾁｸﾀｸいう音が､やたらと心臓に刺さってきます｡　　株もうまくいかないし　　ﾁｸﾀｸﾁｸﾀｸ　　お金もないし　　ﾁｸﾀｸﾁｸﾀｸ　　この先私はどうなるんだろう　　ﾎﾞｰﾝﾎﾞｰﾝﾎﾞｰﾝ｡｡｡｡　柱時計が３時を告げると同時にｺﾞｵｫｫｫ｡｡｡｡　　外では急... ...続きを読む

株の取引が始まってまもなく｡人生悲喜こもごもの付加価値をひっさげうごめいている板の数字に疲労を覚え､一息つこうと横を見れば､母が好物のﾊﾞﾅﾅを頬張りながら一人でﾎﾞｿﾎﾞｿ喋っていました｡何度も何度も聴かされて､耳にﾀｺが何十匹もぶら下がってしまう話です｡　｢子育てはとにかく大変だったよ｡ﾕﾘｯﾁが早く大きくなって､私の話し相手になってくれないかなって､おしめを替えながら､よ～～く思ったもんだわよ｡｡｡｡｣　... ...続きを読む

以前手放した銘柄がいきなり急騰｡最近そんなｹｰｽばかりで､日経市場連騰も私にはまるで異次元の世界の出来事にしか過ぎません｡　　ﾀﾗﾚﾊﾞの虚しさを､お相撲さんの取組の最中にゆるんだﾌﾝﾄﾞｼのごとく垂らしながら板を見ていたら､母が突然隣の部屋で叫びました｡　　｢あｰｰっ､恋がしたいっっ！｣　　一瞬､耳を疑いました｡　　こいが､したい｡｡｡｡？　　　父が亡くなり､以来母はれっきとした未亡人｡海老族病院や施設では顔... ...続きを読む

奇跡の低位株と噂のｼｰﾏ｡持ち株ではありませんが､爆発的に高騰したので､私は一昨日からｽﾚｯﾄﾞを他ｻｲﾄで追って見ていました｡ｼｰﾏは株をやり始めた頃に買ってみて､おっかなびっくりでﾌﾟﾗｽで利確できた思い出の株でもあったからです｡　　昨日の掲示板では､　｢まだまだいくぞ､ほらきたｰっ｣が前半｡後半は､　｢終わった､さよなら｣と､｢待て､この値ではまだ終わらんだろ｣という意見が錯綜していました｡　　そして今日... ...続きを読む

今年は弘前も桜が早咲きで､かんじんの祭期間中には葉桜になってしまいました｡それでも地元の新聞によれば､集客は去年とほぼ変わらずでめでたしめでたし､という感じでした｡けれども公園内屋台となると､そうは問屋がおろさなかったようです｡　｢全然だめ！特にGWはまるで儲からず！｣　という屋台の方の呻き声が記事から聴こえてきて､気の毒になってしまいました｡　　そのGW期間中｡あるおでん屋さんでは､暇と大書した顔つきで焼きそ... ...続きを読む

昨日､弘前公園の桜祭りに行ってきました｡天気は花曇りで､日曜だというのに思いのほか人出は少なくて､桜も満開にはまだあと一息といったところ｡一緒に出かけたﾀﾞｼﾞｬﾚｵｼﾞは､　｢なんか､ﾊﾅｱｲﾀなｰ｣　　ﾊﾅｱｲﾀ､というのは津軽弁で､拍子抜けした､という意味です｡　　それでもずらりと濠端に並ぶ桜はやはり美しく､小さな毬のような花弁の塊が､空にﾎﾟﾝﾎﾟﾝと弾んでいます｡母が､　｢まだまだね､ｶﾞｯｶﾘね｣と... ...続きを読む

朝目覚めたらやたらと寒くて､まるで冬に逆戻りだと思いながら新聞を取りに行ってびっくりしました｡　｢ｳｿ｡ゆき｡｡｡｡？｣　　思わず見張った目の中に､屋根や庭木や地面に控えめに施された雪化粧がひんやりと飛び込んできました｡ふぅっと吸い込まれてしまいそうなほど､とても綺麗な風景でした｡　　雪を見て綺麗だと思ったのは何年ぶりでしょう｡こちらに来てからは雪と聞くだけでもとにかくうんざりで､積もり始めの時期でさえ､すぐに... ...続きを読む

施設の祖母の面会を終えた帰り道｡ﾊﾞｽの最後部で窓の外の雪の消えた景色を感慨深く眺めていると､母が｢あ｣と声を上げました｡　｢財布､落ちてる｣　　ﾄﾞｷﾘとしました｡雪のない景色を眺めながらも､正直私は株のことばかり考えていたからです｡　　(持ち株また下がってきた｡｡買い増ししようか｡｡でもなんたってお金がなくちゃ｡｡｡｡ｶﾈほしいなぁｶﾈｶﾈｶﾈｶﾈ｡｡｡｡)　季節外れのﾋｸﾞﾗｼと化していた矢先に､母が突き... ...続きを読む

昨日､NHKのど自慢弘前の予選会を見てきました｡全くその気はなかったし､予選会を見られるということも知らなかったので､ﾀﾞｼﾞｬﾚｵｼﾞが朝早く電話をかけてきて､　｢ｶｶﾞｱ行くってゆｰから｡一緒に行くべ､車で迎えに行くからよ！｣　の誘いに母が大喜び､わけもわからず私は腰元として付き添う羽目になりました｡　当日､つまり今日の本番生放送の観覧は葉書で当たらなければ見られないのですが､なんと前日の予選会は応援団ふう... ...続きを読む

だらんと垂れ込めた雨雲がとうとう破れて､雨粒を撒き散らし始めました｡やれやれ雪の次は雨かと脱力しながら傘を広げて歩いていると､前方から頭にﾊﾝｶﾁをかざし小走りにやって来た白髪混じりのご婦人が､息せき切って訊ねました｡　　｢ﾅﾝﾀﾗ寺はどこだべか､ﾊｧﾊｧｾﾞｨｾﾞｲ｣　　ﾅﾝﾀﾗ寺を知っていたのと､私の目的地のｽｰﾊﾟｰと同じ方向だったこともあり､そこまで相合い傘で案内してあげることにしました｡　　｢すみませ... ...続きを読む

たまにﾌﾗﾘと顔を出す､通称Mr.ﾀﾞｼﾞｬﾚｵｼﾞ｡ちょっと厄介な親戚が､この間東京に行ったと報告がてら､お土産を持ってやってきました｡　｢まだﾋﾞﾀ一文儲からねぇ株やってんのかﾕﾘｯﾁ！もうやめれったらやめなｼｬﾚ！｣　｢ｵｼﾞｻﾝこそ低ﾚﾍﾞﾙﾀﾞｼﾞｬ連呼はもういい加減やめてくれない？耳にﾀｺができちゃうよ｣　｢そう冷たいこと言わねｰでさ｡ﾀｺでねくﾎﾚひよこぴょこぴょこみぴょもももも｡｡｡｡｣　　早口... ...続きを読む

100円均一で気まぐれに買った縦笛｡これが案外株のｽﾄﾚｽ解消によくて気ままに吹いていたら､母が｢下手だねぇ｣と呟いて､おやつの卵ﾎﾞｰﾛを１粒口に入れました｡それで､ふと甦ったのが､今は亡き祖父の思い出でした｡　　小学生の頃｡私はまだ東京に住んでいました｡そこへ青森から祖父が訪ねてきました｡私へのお土産は､小さな可愛い鳩笛でした｡喜んで最初のうちは熱心にﾌｰﾌｰ吹いていた私でしたが､そのうち､　｢飽きただか？... ...続きを読む

母の月一度の濃厚ｶﾙｼｳﾑ補給のための､ﾎﾞﾝﾋﾞﾊﾞ注射を打つ日がやってきました｡待合室は相変わらず海老族で活気に満ちていました｡築地市場に負けない賑やかさです｡　　｢あれ､しばらく見ないと思ったら生きていただか！｣　｢んだ､でも雪かきで死ぬとこした！毎日ただ雪かいて病院に来る暇もなくて目に遭ったっきゃ ｣　｢おらもさ｡先生に病院休むって喋るの迷惑で迷惑で｡先生おらと会えなくて寂しかったべってしたら､んだｰ､... ...続きを読む