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―止まらない「脱炭素」と自動車産業のパラダイムシフト、2次電池関連は変身株の宝庫―
週末26日の東京株式市場は日経平均株価が一時900円近い急落をみせるなど波乱展開となった。その前日(25日)の米国株市場が感謝祭で休場であったことから売り買いともに手掛かり材料に乏しく、方向感の定まらない中で小幅の値動きを見込んでいた市場関係者や投資家にとっては大慌ての1日となった。急落相場のトリガーを引いたのは南アフリカで新型コロナウイルスの新たな変異株が検出されたこと。デルタ株を上回る感染力の高さに加え、ワクチン効果も希薄であるとの見方が浮上、金融市場はリスク回避の動きが一斉に強まった。
●日本株は下げ過ぎ、好業績株の拾い場に
しかし、日本株の下げの大きさは同じ時間帯で取引が行われていた他のアジア各国の市場と比較しても突出していた。既に南アフリカの旅行者からの検出が確認された香港ではハンセン指数が大きく値を下げたが、日経平均の下落率は一時それさえも大幅に上回る下げとなった。先物主導で狼狽売り的な地合いが演出され、一気に2万8000円台に売り込まれた日経平均は冷静に見ればイレギュラーな下げであり、目先の下値模索はリバウンドに向けた位置エネルギーを蓄積している局面と考えてもよい。ここは、日本企業のファンダメンタルズを信じて、業績好調銘柄の押し目を拾うチャンスと捉えたい。
そうしたなか有力な投資対象として浮上しているのが電気自動車(EV)関連だ。政府による国策推進がフォローの風としてマーケットで改めて意識されている。とりわけ、 EV電池の国内生産や充電インフラ整備を支援する政策などもここにきて漸次明らかとなっており、好業績銘柄を中心に安値買いの好機となっている。
●400兆円産業の歴史的パラダイムシフト
「脱炭素社会」の実現に向け、世界が協調体制で総力を挙げて地球温暖化防止に取り組むなか、EV普及に向けたシナリオが着実に進んでいる。2035年には世界市場におけるガソリン車及びディーゼル車の割合は1割強にとどまり、EVやハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)など電動車が9割近くを占めるとの試算もある。その際に電動車のなかでも主力を担うEVは全体の5割前後を占めるとみられ、十数年後には街中を走る2台に1台が内燃機関を全く持たない自動車という時代がやってくる。この光景は、世界で400兆円規模と言われる自動車産業にとって、いまだ経験したことがない歴史的なパラダイムシフトといっても過言ではない。
各国の取り組みを見てみると、環境先進国の欧州では35年に内燃機関を持つ新車の販売を全面的に禁止する方向で、禁止の対象にはHVも含まれる。また、バイデン政権に移行して急速にグリーン革命に舵を切った米国では、州によってやや目標設定が異なるが、例えば環境規制の厳しいカリフォルニア州では35年までにガソリン車の販売を全面禁止する見通しにある。一方、アジアに目を向けると、EV化戦略を積極推進する中国では35年までに新車販売のすべてをガソリン車以外の環境対応車とし、50%以上を新エネルギー車(このうちEVが占める比率は95%以上)とする政策方針を表明している。
●盟主トヨタを筆頭に着々と進むEV化戦略
日本では政府が35年までに新車販売の電動車比率を100%にする目標を開示している。電動車比率100%としているのがポイントで、電動車には当然ながらHVが含まれる。これは世界においてHVで断トツの実績を誇るトヨタ自動車 <7203> の存在が考慮された可能性が高い。
トヨタの世界における電動車販売台数の昨年実績は175万台あまりに達し、2位のフォルクスワーゲンや3位のダイムラーグループをダブルスコア以上に引き離している。これはHVで世界にはトヨタに対抗できる存在がいないため。EV特化ということであれば米テスラ
一方、日産自動車 <7201> は30年度までに電動車の販売比率を5割に引き上げる方針が直近報じられた。ホンダ <7267> は既に35年にガソリン車の販売を事実上禁止する計画を開示しているが、このEV化計画が前倒しされる可能性も伝わっている。
大手自動車メーカーの動きと合わせ、政府も強力にEV普及を後押しする構えをみせている。EVの基幹部品である2次電池については、車載用を中心に先端電池工場の建設を支援する補助金として、21年度補正予算案に1000億円程度を計上することが報道された。国内におけるサプライチェーン構築という課題に向け、国策的にバックアップを図っていく方針が鮮明だ。
●2次電池材料の象徴株、田中化研が大変身
株式市場でもEVの市場拡大が加速するなか、 リチウムイオン電池を筆頭とした2次電池の材料メーカー、あるいはその周辺部材や設備に関わる企業が相次いで人気化する動きをみせている。最近では2次電池向け正極材料を手掛ける田中化学研究所 <4080> [JQ]が10月下旬を境に強烈な上値追いを続け、株価は1ヵ月で2倍となった。22年3月期業績で営業損益が従来見通しの6億5000万円の赤字から8億円の黒字に上方修正したことがサプライズとなったのだが、その背景には車載用リチウムイオン電池材料の想定を上回る伸びが収益を押し上げたことがある。
そして今の株式市場には、この田中化研に決して負けないポテンシャルで株価の居どころを大きく変えようとしている“次の銘柄”がひしめいている。今回はその候補となる有望株を7銘柄リストアップした。
●ここから加速モード期待のEV電池関連7銘柄
◎ニチコン <6996>
コンデンサーの大手メーカーで、アルミ電解コンデンサーを主力にEV用フィルムコンデンサーなどを手掛ける。稼ぎ頭のアルミ電解コンデンサーが好調で業績押し上げの原動力となっているほか、EVなど電動車向けフィルムコンデンサーの売り上げが急増している。EVの大容量バッテリーを家庭用電力に活用するEVパワー・ステーションでも先駆的存在であり、今後の活躍が期待される。22年3月期営業利益は従来予想の40億円から46億円(前期比2.9倍)に大幅上方修正していることもポイント。株価は今月10日にマドを開けて買われた後も次第高の展開となり無類の強さを発揮していた。1000~1200円のボックス圏推移が9ヵ月あまり続いており、上放れ前夜の気配が漂う。
◎三櫻工業 <6584>
自動車用チューブや配管部品を手掛ける自動車部品メーカーで、独立系ながら自動車用チューブで国内市場シェア約4割と高い商品競争力を誇っている。全固体電池分野の研究に早い段階から取り組んでいるほか、車載用電池や電力制御機器向けにモジュール化した冷却システムの設計・関連デバイスにも注力する構えにある。パワー半導体分野では窒化ガリウム(GaN)半導体基板の加工サービスを今年7月からスタートさせている。22年3月期は営業利益段階で前期比2.3倍の79億円を見込む。株価は9月下旬以降、2ヵ月にわたり900円台後半から1000円トビ台のボックスゾーンでのもみ合いが続いている。しかし、PER7倍台と割安感が強く、材料性も考慮して時価近辺は買いに分がある。
◎菊水電子工業 <6912> [JQ]
電子計測器や電源機器を製造販売する。据置型の直流安定化電源や耐電圧試験器などを得意とし商品シェアもトップクラス。EV用電池向け耐電圧試験器が会社側の想定を上回る伸びを示しており、業績の牽引役を担っている。9月下旬にはさまざまなEVに対する充電技術であるCCSの促進を目的とした団体「CharIN」のメンバーに加入したことも発表。22年3月期営業利益予想は2度にわたる増額修正を経て9億円(前期実績4億1800万円)と大幅な伸びを見込んでいるが、なお会社側予想は保守的で一段の上振れ余地を内包。株価は直近、10月27日につけた年初来高値1143円に肉薄したが更新はならなかった。しかしここは通過点との見方で、18年1月の高値1524円クリアが上値の目標となる。
◎ヒラノテクシード <6245> [東証2]
塗工・化工関連機器を主力展開し、高精度薄膜塗工などコーティング技術の高さに定評がある。EV市場の拡大を背景に2次電池向け電極塗工装置が好調で収益を押し上げており、業績は急回復途上にある。全固体電池などの次世代品に対応した技術も深耕している。22年3月期業績予想は、営業利益段階で従来予想の31億円から43億円(前期実績25億6000万円)に大幅上方修正したほか、好業績を背景に株主還元姿勢も強化、年間配当を従来計画の40円から56円に大幅増額した。前期実績は37円で19円の増配となる。株価は今月12日に3115円の年初来高値をつけた後調整を余儀なくされているが、25日移動平均線を足場に切り返し、下値切り上げ波動の継続から早晩高値奪回も視野に入りそうだ。
◎日本航空電子工業 <6807>
NEC系のコネクターメーカー大手で小型化や高速伝送で優位性を持つ。スマートフォン向けで高い実績を持つほか、車載用でも需要開拓が進んでいる。また、社名にある通り、航空用電子機器も手掛ける。EV充放電用コネクターに注力しており新製品を7月に発表、小型・軽量化、定格電流拡大を実現したシリーズを追加して顧客ニーズに対応する。22年3月期はトップラインの伸びに加え、内製化や設備効率化などにより収益体質が急向上、営業利益は従来予想の155億円から前期比倍増となる185億円に増額している。株価はマドを開け急伸後もみ合っていたが、目先乱調となった全体相場に引きずられ下値を試す展開となった。信用買い残など需給面は軽く、1700円台は押し目買い好機とみられる。
◎ニッポン高度紙工業 <3891> [JQ]
セパレータ(絶縁紙)の専業メーカーであり、アルミ電解コンデンサー向けではおよそ60%の圧倒的な世界シェアを有する。また、リチウムイオン電池用セパレータも育成し収益に貢献している。同電池用セパレータでは、世界初となる植物由来の高性能セルロース系セパレータを開発、車載用のほか産業用電池向けに幅広く納入実績がある。営業利益は21年3月期に前の期比2.8倍の高い伸びを示したが、22年3月期も前期比34%増の37億円予想と高成長を継続、上期時点の進捗率から一段の上方修正も視野に入る。株価は昨年10月を起点とする大相場で今年8月3日には4250円の最高値を形成。その後は法人筋とみられる実需売りで4割近い下げとなったが、成長性を拠りどころに逆張りで対処。
◎日本セラミック <6929>
赤外線センサーのニッチトップ企業で国内シェアは約90%という圧倒的な商品競争力を誇っている。EV向け電流センサーの需要開拓も進めているが、EV普及に注力する中国を中心にモーター制御向け電流センサーの引き合いが活発。また、リチウムイオン電池の充放電を計測するセンサーでも技術力の高さを発揮している。21年12月期は営業利益で前期比23%増の35億円を見込むが上振れの可能性を内包し、18年12月期に達成した過去最高利益37億1500万円に肉薄することもあり得る。株価は3000円近辺では戻り売りに押されがちだが、2900円近辺は押し目買いが厚い。信用買い残は枯れ切った状態で株式需給関係は良く、当面は今月16日の戻り高値3075円払拭を目指す。
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