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―“コロナ後”の世界、デジタルトランスフォーメーションで翔び立つ企業群―
人工知能(AI)や IoTが日常と融合するなか、企業もIT武装を怠れない時代が到来している。イノベーションがなければ成長はないという淘汰の時代。今求められているのはデジタル技術を駆使して旧来のシステムを更新し、新たな付加価値を手にすることだ。この一連のプロセスによって顧客や社会のニーズに対応した合理的ビジネスモデルを構築するIT投資の概念をデジタルトランスフォーメーション(DX)という。株式市場でも既に有力な投資テーマとして認識されており、同分野はアフターコロナで主導権を握り株価を変貌させる企業の宝庫といっても過言ではない。
●崖を克服すればGDP130兆円アップも
経済産業省ではちょうど2年前となる2018年5月に「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を立ち上げた。そこでまとめられた報告書が産業界の耳目を驚かせた。報告書では今後数年以内にシステム刷新を集中的に進めないと年間で最大12兆円という経済損失が発生すると言及されていた。経産省はこれを「2025年の崖」と称して強く警鐘を鳴らし、官民を挙げてDX促進に向け動き出す契機となった。そして、この「2025年の崖」には続きがあって、もし首尾よくDX化が成就した場合、今から10年後となる30年には実質GDPで130兆円を超える押し上げ効果が発現するとの試算も開示されている。崖を克服すれば、そこには理想郷が待つ。モチベーションの高まりはマーケットをも突き動かす。ソフト開発やクラウド、IoTソリューションなどを展開する企業は、今後、投資対象として存在感を浮き彫りにしていくことが必至だ。
●NEC好決算が“コロナ後”の2極化を暗示
新型コロナウイルスに蹂躙された今回の企業の決算発表だったが、そのなか業界ツートップのNEC <6701> と富士通 <6702> をはじめ、相対的にIT系企業の好決算が目立った。NECの20年3月期はトップラインが3兆円を超え、21年3月期に掲げていた目標を前倒しで達成した。営業利益は前の期比2.2倍の1276億円と急拡大した。更に、返す刀で21年3月期の営業利益予想についてもコロナ禍に臆することなく前期比18%増の1500億円と2ケタ成長見通しを開示している。富士通も、21年3月期の予想は非開示とはいえ20年3月期の営業利益が前の期比62%増の2114億円と急増しており、収益環境に吹く逆風を全く意識させない。これがアフターコロナの産業界の縮図と言い切るのは早計としても、ビジネスの新たなステージが動き出していることを暗示するに十分な衝撃をマーケットに与えた。
●動き出す企業群、DXで変わるビジネス戦略
企業がDXに焦点を当てる動きは、ここにきて一段と活発化している。ITサービス大手のSCSK <9719> は長期経営目標として、DX事業を拡大することにより売上高を31年3月期に1兆円(20年3月期実績3870億円)まで伸ばす計画を発表している。また、日本IBMがシステム開発子会社3社を統合し、DXに取り組む企業への提案力強化を目的とした新会社を、7月をメドに発足させる方針なども伝わっている。
IT業界だけではなく異業種の連携も行われている。直近では19日に、三井不動産 <8801> とKDDI <9433> が次世代通信規格5Gを活用したオフィスビルのDXを目指し今年4月時点で基本合意書を締結したことを発表している。三井不のオフィス運用のノウハウをメガキャリアのKDDIが有する5Gの技術基盤と融合させ、デジタル化によるオフィスビルの利便性向上に向けた取り組みを開始した。
株式市場では、足もと日経平均株価が軟化するなかでも上値指向を続けている銘柄は少なくない。強い株を選別する分水嶺となるのは「デジタル化の波に乗っているかどうか」である。仮に全体相場が上昇基調一服となっても、新型コロナの影響が軽微でなおかつ今後の成長シナリオが明確なDX関連は時流に乗る銘柄として脚光を浴びることになろう。ここから注目したい5銘柄をピックアップした。
●アフターコロナで頭角現すDX関連有望5銘柄
◎YE DIGITAL <2354> [東証2]
安川グループに属しIT技術開発の中核的存在に位置する。FAシステム構築やメカトロ機器向けシステム開発、組み込みソフト開発などAI・IoTソリューション事業で高い実力を有する。AI画像判定サービス「MMEye」は同社の独自技術によりAI外観検査を行うもので、食品業界を中心に引き合いが旺盛だ。業績も好調で20年2月期営業利益は27%増益を達成。また、安川電機 <6506> と共同出資で工場や物流などのIoTソリューションビジネスを手掛けるアイキューブデジタルを今年7月に設立する予定で、メカトロニクス技術にデジタルデータのマネジメントを加えた新境地を開拓していく。
◎フォーカスシステムズ <4662>
大手企業や官公庁に強みを持つ独立系のソフト受託開発会社だが、セキュリティー分野も手掛ける。デジタル機器の記録を収集・分析し、証拠保全や調査を行う「デジタル・フォレンジック」や暗号技術でノウハウを蓄積、デジタルコンテンツの普及に対応した電子透かしなどでも実力を有する。IoT関連では工場内や屋外での作業現場向けスマートグラスソリューションなどが注目される。また、相転移物質の利用による三次電池の高電圧化に成功しており、交換や管理不要の自立型電源の開発に大きな期待がかかっている。20年3月期は売上高、営業利益ともに過去最高を更新、中期成長力も高い。
◎CIJ <4826>
システム開発を手掛け、独立系ながらNTTグループや日立グループからの受託比率が高く、安定した収益基盤を持っている。クラウドサービスでは米アマゾンが展開するAWSのAPNテクノロジーパートナーに認定されている点はポイント。新卒採用強化を推進し、IT技術者育成に注力して学生の育成支援に取り組んでいる。また、神奈川県藤沢市と共同で自律移動できるAIロボット「AYUDA」を開発しており、ロボット事業への展開にもマーケットの関心が高い。光通信 <9435> が同社の筆頭株主でしかも昨年来一貫して買い増す動きを続けており、株式需給面からも中期的な上値思惑がある。
◎CAC Holdings <4725>
独立系のソフト開発会社でシステム構築、運用のほか医薬品の開発支援事業なども手掛けている。20年12月期は国内IT事業が信託銀行や製造業向け中心に需要を取り込み、前期に売り上げを減らした医薬品開発支援も損益改善に向かうことで、営業利益は前期比52%増の20億円を見込んでいる。また、株主還元に前向きであり、年間配当は前期の50円から10円増配した60円を計画。配当利回りは5%を超える水準にある。広告業界や医療業界向けに旺盛な需要がある感情認識AIを活用したコミュニケーションアプリなどを手掛けていることも将来的な成長の源泉となる。
◎日本システムウエア <9739>
システムインテグレーターで組み込みソフトやデバイス設計に優位性を持つ。官公庁向けITソリューションで実績が高いことは評価材料で、今後は“官庁DX化”に絡む開発案件で商機を捉えそうだ。産業用スマートグラスを活用したデータセンター運用の遠隔作業支援サービスもスタートさせている。20年3月期は営業利益段階で前の期比15%増の38億6000万円と2ケタ成長を達成している。21年3月期については非開示ながら、新型コロナの影響を受けにくい業態であり、力を入れるAI・IoT分野の需要開拓で増収を確保するとともに利益も前期実績を上回る公算が大きい。
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