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―テクノロジー分野における今年最強テーマに浮上、大量生成される画像が暗示する未来社会―
テクノロジー分野で今年最も注目されたテーマのひとつに、「画像生成AI」を推す声は少なくない。今年春以降、アプリ上で何かしらのキーワードを入力すると、自動的にデザイン性の高い画像を作り上げるサービスが急速に普及している。人類が長い時間をかけて作り上げてきたアート作品を、一瞬にして完成させてしまう新技術。ここで活用されているのが画像生成AIである。
作成される画像数は1日当たり100万件超との観測があり、今この瞬間も増加している。人類の創作活動のあり方に揺さぶりをかける画像生成AIの誕生に、多くの有識者は「パンドラの箱が開かれた」と口を揃えて言う。
代表的な画像生成AIには、英スタートアップが開発・公開した「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」、米新興企業による「Midjourney(ミッドジャーニー)」、イーロン・マスク氏が創業に携わったOpenAIによる「DALL・E2(ダリ・ツー)」などがあるという。
社会的な認知度も急速に高まっている。Webメディアのモニタリングサービス「Qlipper」を提供するトドオナダ(東京都港区)の調査によると、「画像生成AI」というワードを含む記事数は8月下旬以降に増加傾向が顕著となっている。10月17日までの3ヵ月間では「Midjourney」を含む記事数は1291本、「Stable Diffusion」を含む記事は999本に上る。
●動き出したマネー
注目すべきは、単にその目新しさばかりではない。例えば「Stable Diffusion」のプログラムは世界中のエンジニア向けに公開されている。「オープンソース化」された画像生成AIの関連市場は、かつてない速度で拡大すると期待されている。
金融市場も将来のリターンを獲得すべく動き出している。「Stable Diffusion」の開発会社を持つ英Stability AIの場合、ベンチャーキャピタルから資金調達を受けた際、企業価値の評価額が10億ドル(約1500億円)に上ったと報じられた。スタートアップの事業環境に逆風が吹く環境下にあって、ビジネスを軌道に乗せる前の「シードラウンド」の段階にもかかわらず「ユニコーン(評価額10億ドル超の未上場ベンチャー)」の地位を手に入れるなど、投資家の期待の高さをうかがわせるエピソードが伝わっている。
米IT大手の新サービスも誕生しつつある。米マイクロソフト
●AIチップ、ディープフェイク対策と幅広い関連分野
華々しい米IT大手の陰に潜む形にはなるが、日本の研究機関や大手企業も、ただ手をこまねいているばかりではない。AIが生成した画像と本物の画像の真贋(しんがん)を高精度に判別する技術が求められるなか、東京大学の山崎俊彦教授らは4月、偽画像で作成される「ディープフェイク」について、世界最高性能で検出できる技術を実現したと発表した。ソニーグループ <6758> [東証P]は3月、国際団体「コンテンツの来歴と真正性のための連合(C2PA)」の運営委員会への参画を表明。デジタルコンテンツの信ぴょう性の証明に向けた技術仕様の策定に取り組む。
画像生成AIの普及にはAI半導体(AIチップ)の進化が欠かせず、この領域でも日本企業は無縁ではない。AIチップの代表企業は米エヌビディア
通信インフラはどうか。動画に比べれば画像データの送受信が通信トラフィックにもたらす負荷は大きくはないとみられるが、それでも画像生成AIを繰り返し利用するユーザーが増えれば、通信量の増大に寄与することには違いはないだろう。光ファイバーケーブルを展開する住友電気工業 <5802> [東証P]、古河電気工業 <5801> [東証P]、フジクラ <5803> [東証P]、昭和電線ホールディングス <5805> [東証P]の事業にはポジティブな効果が期待できる。
もちろん、実務で画像を多用する広告やデザイン制作、ゲーム開発領域で画像生成AIの活用が期待されるのは言うまでもない。特に電通グループ <4324> [東証P]や博報堂DYホールディングス <2433> [東証P]など広告関連企業にはデジタル戦略の重要性が増している。例えばプレスリリース配信の「PR TIMES」を展開するベクトル <6058> [東証P]は、企業のマーケティング支援のほか、オウンドメディアの構築支援サービスなどを手掛けている。画像生成AIの活用は同社が手掛けるデジタルコンテンツの制作コストの低減や、短納期化などが期待できる。受注面での競争力を高め、同社を通じデジタルマーケティングを強化したいという固定客を増加できれば、ストック型の収益の拡大につながるだろう。こうした好機は共同ピーアール <2436> [東証S]やプラップジャパン <2449> [東証S]にも訪れていると言えるはずだ。
●インプレス、アエリア、ワコムなどに注目
ここまで触れた日本の産業界への波及効果を踏まえ、注目銘柄を取り上げていきたい。
直近で「画像生成AI」に関連した発表を行ったのが、雑誌「山と溪谷」などを刊行する出版・コンテンツ事業のインプレスホールディングス <9479> [東証S]だ。同社傘下で電子出版事業を手掛けるインプレスR&Dは9月、画像生成AIによるイラスト集を発売した。同社によると画像生成AIの画像集の発売は日本初(Amazonストア内で商業出版された印刷版書籍として)。画像生成時に入力するプロンプト(文字列)に関する権利や、画像の著作権に関するコラムも掲載しており関心を引く内容に仕上げた。
インプレスの23年3月期の連結業績予想は売上高が前期比4.2%増の154億円、最終利益は37.1%減の5億5000万円。電子書店の大型キャンペーン効果が剥落することに加え、書籍の大幅な刊行遅れなども重なり、増収減益見通しとしている。画像生成AIのテーマ化によって、同社が運営するIT系メディアのPV増や、イベント・セミナー需要の拡大への期待が膨らめば、PBR0.78倍というバリュー評価面での割安感が修正される形で、株価の反発機運が高まるシナリオが想定できそうだ。
スマートフォンゲームの開発を手掛けるアエリア <3758> [東証S]は、京都大学発のベンチャー企業であるデータグリッド(京都市左京区)と協働し、エンターテインメント領域において、AI技術を活用したキャラクターの生成プロジェクトを進めてきた。同社は過去に「アイドル自動生成AI」によって作成した画像が注目されたことがあるが、アエリアから資金調達を受けた後、NTTドコモや住友電、日本経済新聞社など主要企業と取引関係を構築するまでに至っている。アエリアの22年12月期の連結業績予想は売上高が220億円、最終利益が7億円。収益認識に関する会計基準を適用する前の実績と単純比較すると増収増益の計画だ。直近の株価はブロックチェーンゲームや、Web3領域への事業展開に対する期待が支えとなっているが、画像生成領域の「先駆者」とも呼べるデータグリッドが蓄積したリソースをどうビジネスに活用していくのか注目される。
著作権保護に関連したビジネスを展開する企業にも、成長の余地が生まれるかもしれない。ワコム <6727> [東証P]は、目にみえない「透かし」をデジタルアート作品に付与し、著作者の権利保護につなげるサービスの実現を目指していると報じられている。ブロックチェーン技術によるデジタル証明書を発行するスタートバーン(東京都文京区)と、デジタルアート作品の権利保護や流通基盤の構築に向けて協力をすることで2019年に合意。実証実験や外部とのデータ連携の整備を進めているようだ。ワコムの23年3月期の最終利益は46.1%減と大幅な減益を計画しているが、画像生成AIによるデジタルアートに対しても新たなサービス展開ができれば、中長期的な事業成長の蓋然性が高まっていくに違いない。
既存のAI関連銘柄では、企業の経営課題をAIの実装により解決することを支援するエッジテクノロジー <4268> [東証G]が筆頭格になるだろう。AI人材の育成に向けた法人研修なども手掛けており、画像生成AIの普及は同社のソリューションビジネスに新たな引き合いを生み出しそうだ。世界的なグロース株の調整により同社株は3月につけた年初来高値から50%超下落したものの、10月に入ってからは下げ渋りの動きを見せつつあり、割安感が意識される水準といえる。
オウンドメディアを自社で運営する企業には、ピクスタ <3416> [東証G]が提供する画像データを活用するところも多い。そもそもAIが画像を自動生成し続けるには、AIが機械学習をするための大量の画像データの存在が前提となるとみられている。同社は機械学習を目的とした画像の調達が必要な顧客に対し、自社がストックする画像データを提供するサービスを手掛けている。画像生成AIの利用拡大に伴って画像データの調達ニーズが高まれば、収益基盤の多様化につながることが期待されるため、関連銘柄としてピックアップしておきたい。
株探ニュース
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