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―スマートグリッド分野でVPP・DR、発電分野ではSMRに注目―
年初に発生した電力需給の逼迫は、国内の電力を巡る現状に一石を投じた。直接的な要因としては、寒波の影響による電力需要の増加や燃料調達の遅れなどだが、同時に再生可能エネルギー急拡大に伴う問題も浮かび上がった。需給逼迫は一過性のものとはならない見込みで、来る夏そして今冬にも再び需給状況が厳しくなると予想されている。特に、今冬は首都圏において安定供給が困難になるとの見通しも出ており、危機感は高まる。電力利用の最適化を実現する スマートグリッドをはじめ、電力の供給力増加に向けた発電分野でのイノベーションに注目したい。
●業績で明暗分かれた新電力
今年1月、電力需給の逼迫に関する話題が耳目を集めた。株式市場では、日本卸電力取引所(JEPX)で売買される卸価格の急騰を受けて、大手電力株に見直し買いが流入する一方、新電力関連の銘柄は事業への影響が懸念され大きく売られた。ただ、その後発表された決算を見ると、新電力のなかでも業績の明暗が分かれたことが見て取れる。
新電力大手イーレックス <9517> の業績は絶好調だった。21年3月期は電力小売り事業の伸長やバイオマス発電所の稼働が進み、売上高、営業利益ともに過去最高を更新した。自社電源と相対取引による電源調達を中心としていたことから、電力卸価格の高騰による影響を大きく受けることはなかった。電力コンサルを展開し、電力小売りなども手掛けるグリムス <3150> は、前3月期については電力価格高騰のあおりを受けて営業減益となったが、続く今3月期は営業87.9%増と一転増益で最高益の見通し。同社では、相対取引による調達割合を前期3~4割から今期7割に引き上げるとしている。そのほか、テスホールディングス <5074> やアースインフィニティ <7692> [JQ]も、相対取引による電源調達により供給力を確保している。
一方、深刻な影響を受けた銘柄の一つに、自治体向け広告事業や電力小売りを手掛けるホープ <6195> [東証M]が挙げられる。21年6月期の営業損益見通しは59億1400万円の赤字~50億3800万円の赤字(前期10億2000万円の黒字)で、第3四半期末時点で債務超過に転落した。また、仮想通貨(暗号資産)関連株として知られるリミックスポイント <3825> [東証2]も、前3月期は電力小売り事業において大幅な損失を計上し、営業損益は28億8800万円の赤字(前の期11億9800万円の赤字)となった。今期については黒字転換を見込んでいる。
●今夏は供給力確保も冬に再び逼迫か
経済産業省は5月25日、今年度の夏と冬における電力需給見通しを公表した。これによると、今夏は安定供給に必要な供給力をかろうじて確保できるとしたものの、今冬は北海道と沖縄を除く広い地域で一段と需給が厳しくなるという。特に、東京エリアにおいては予想ピーク需要に対して供給力が下回る見込みで、これは2012年度以降で最も厳しい見通しとなる。
要因として挙げられているのが、火力発電所の相次ぐ休廃止だ。再生可能エネ拡大に伴う電力卸価格の低迷といった事業環境の悪化により、出力の大きい火力の休廃止が増加していることで供給力不足が顕在化しているという。対応として、発電事業者へは休止中の発電所の稼働や補修時期見直し、小売電気事業者へは相対取引などによる供給力確保を求めるほか、早急に制度的な検討を行うとしている。
世界的な脱炭素化の流れを背景に、今後も太陽光や風力発電などの普及を加速させることは重要となる。ただ、自然条件に左右されやすい再生可能エネ導入を進めていくためには、地域間での電力融通の拡大をはじめ、蓄電池やデマンドレスポンス(DR)などの活用が欠かせない。目先、対策待ったなしの状況にある夏冬の厳しい電力需給の解消に向け、仮想発電所(VPP)やDRなどスマートグリッドへの注目度が高まっていくと見込まれるほか、供給力強化や電源分散化が期待される発電分野での技術開発にも関心が集まることになりそうだ。電力イノベーションの進展で活躍の舞台が広がる銘柄群をマークしておきたい。
●スマートグリッド分野でエネチェンジ、東光高岳など
消費者向け電力・ガス切り替えサービスを運営するENECHANGE <4169> [東証M]は、電力・ガス会社向けにマーケティング支援やデータ解析、DRサービスなども手掛けており、特色ある業態でマーケットの注目度も高い。同社は2月、VPP市場への参入を発表した。サービスの第1弾として、アグリゲーターと呼ばれる電力の需給調整を担う仲介業者と、自家発電設備を持つ法人とをマッチングさせるサービスを始めている。また、5月には英国のVPPソフトウェア大手と業務提携するなど、ここ取り組みを積極化させており、今後エネルギーテック関連の有力株として期待が持てる。
東光高岳 <6617> は東電系の送配電機器メーカーだが、スマートグリッドをはじめとする次世代電力ネットワークへの取り組みにも注力している。中期経営計画では、電力分野を軸にエネルギー多様化や社会インフラ全般に対応した総合エネルギー企業を目指す方針を示しており、24年3月期に純利益25億円(21年3月期実績14億800万円)、更に30年の将来目標として同50億円を掲げる。中計の実現に向け、既に進行中のプロジェクトとしては「DX-EGA(ディーエックス・イーガ)」がある。同プロジェクトは、制御・自動化機器大手のアズビル <6845> と協業し、エネルギーデータを活用した新サービスの開発を目指すもので、金融や流通、ヘルスケアなどあらゆる領域での展開を見据える。
正興電機製作所 <6653> は、九州電力 <9508> と日立向け中心に電力制御システムや発電所向け製品などを手掛けており、電力業界のスマートグリッド拡大で恩恵を受けそうだ。足もと業績は、電力システム改革に対応した製品販売などで好調継続。21年12月期業績についても売上高は3割近い増収で、営業利益は5割増益と高成長路線を走る。株価は、昨年後半からの脱炭素銘柄物色の流れに乗り急上昇、今年2月には上場来高値となる2615円をつけている。その後は調整局面が続いているものの、中長期の視点で更なる飛躍を遂げる可能性が高い。
そのほか、NTT系新電力のエネット、KDDI <9433> とJパワー <9513> が共同出資するエナリス、ソフトバンク傘下のSBパワーなどがDRをはじめとする省エネ支援を手掛ける。また、大手企業の取り組みでは、関西電力 <9503> と東京ガス <9531> 、パナソニック <6752> が共同で7日からVPP実証を開始、伊藤忠商事 <8001> は4日にヤオコー <8279> の一部店舗で分散型電源プラットフォーム構築に向けた実証を開始すると発表した。また、日立製作所 <6501> は5月28日にタイのDR実証プロジェクトにシステムベンダーとして決定したことを明らかにした。
●発電分野では「次世代炉」に着目
発電分野、なかでも原子力分野のイノベーションに目を配っておきたい。原発に関しては東日本大震災以降、今なお厳しい視線が投げかけられており、エネルギー政策における原発の位置づけを巡って議論が続いている。こうしたなか、発電量や安定供給といった面で課題が残る再生可能エネとの比較から、原発の有用性に改めて着目する向きもある。
この分野では、次世代炉の開発にむけた動きが注目される。次世代炉は、小型モジュール炉(SMR)、高温ガス炉(HTGR)、核融合炉に分類され、なかでも開発が進展しているのが既存の大型原子炉に比べ小型で安全性が高いとされるSMRだ。IHI <7013> は5月27日、SMRの開発で先駆する米ニュースケール・パワーに出資し、日揮ホールディングス <1963> とともに事業参画すると発表した。ニュースケールは昨年、米国原子力規制委員会からSMRとしては初となる設計認証を取得しており、商業化の実現可能性が高まっている。
次世代炉に絡む銘柄としては、助川電気工業 <7711> [JQ]がまず挙げられる。同社は熱制御技術に強みを持つ温度測定・加熱製品メーカーで、発電所向け関連機器なども手掛ける。ここ最近は研究機関向け核融合関連製品の引き合いが強まっているほか、直近では昨年完成した溶融金属試験棟内で新たに試験装置の一部運用を開始した。今後、次世代炉向け試験の受託や関連機器の開発などを進めていく見通しだ。足もと21年9月期上期の決算は、売上高19億2300万円(前年同期比18.8%増)、営業利益1億8100万円(前年同期400万円の赤字)で着地、半導体向け関連製品の増加や核融合関連製品の大口案件などが寄与した。
建材・工業薬品中堅の神島化学工業 <4026> [東証2]は、独自のセラミックス透明化・緻密化技術を持ち、同技術を生かしたセラミックス製品は宇宙分野をはじめ、実用化に向けた研究開発が進む核融合発電システム向けでも利用されている。同社が6月10日に発表した22年4月期の営業利益予想は、前期比22.7%増の18億5000万円と前期6割増益に続き高成長が継続する見込み。あわせて自社株買いも発表し、これを受けて同社株は急騰、17年5月につけた高値2300円奪回も視野に入ってきた。
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