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タムラ製作所のニュース
―電動車や再生可能エネルギー分野の需要拡大、世界的に開発競争は更に加速へ―
エネルギー問題が深刻になるなか、「パワー半導体」の重要性が増している。パワー半導体は、「交流を直流に変換する」「電圧を下げる」など電気エネルギーの制御や供給に用いられる半導体のこと。電力・鉄道車両・家電製品など幅広い用途で、電気をより効率的に無駄なく使うために欠かせないデバイスとなっている。
カーボンニュートラルの実現においては、こうした電気機器の省電力化は重要となっており、パワー半導体も更なる効率化が欠かせない。経済産業省ではパワー半導体の消費電力を2030年までに現在の半分以下に減らす目標を掲げており、「グリーンイノベーション基金事業」の一環として、次世代パワー半導体の研究開発に518億円の支援を行う方針を示している。今後、こうした次世代パワー半導体の開発競争が更に加速しそうだ。
●次世代パワー半導体の世界市場は30年に21年比13倍へ
パワー半導体は近年、テレワークの普及や5G関連の投資継続による情報通信機器分野の好調に加えて、中国や欧州での自動車・電装分野とエネルギー分野の需要が増加している。市場調査の富士経済(東京都中央区)が今年5月に発表した「パワー半導体の世界市場を調査」によると、パワー半導体の22年の世界市場は21年比11.8%増の2兆3386億円の見込み。今後も電動車や再生可能エネルギーの普及が進むことで市場は拡大し、30年には21年比2.6倍の5兆3587億円に拡大すると予測している。
もっとも、高い電圧や高速な動作などでは、現在主流のSi(シリコン)で実現できる性能に物理的な限界が訪れようとしているため、今後は次世代パワー半導体へのシフトが進むとみられている。SiC(炭化ケイ素)パワー半導体需要の堅調やGaN(窒化ガリウム)パワー半導体需要の増加、Ga2O3(酸化ガリウム)パワー半導体の市場の立ち上がりなどにより、次世代パワー半導体の30年の世界市場は21年の13.3倍にあたる1兆469億円と、パワー半導体市場全体を大きく上回る成長が予測されている。
●機器の小型化や高効率化に貢献
次世代パワー半導体の特徴は、Siを材料としたものに比べて、飛躍的な性能の改善が期待できる点にある。例えば、高耐圧化や低損失化、高速動作などが可能となるバンドギャップ(価電子帯の電子と伝導帯の電子とのエネルギー差)は、Siが1.1なのに対して、SiCは3.3、GaNは3.4と高く、圧倒的な差がある。そのため、Siパワー半導体を次世代パワー半導体に置き換えることで、電力損失が抑えられ発熱量が減る。その結果、機器そのものの小型化や高効率化を図ることができるようになる。
一方で、次世代パワー半導体には、生産における歩留まりの低さなどからSiと比較してコストが割高になるなどのデメリットがあった。しかし、近年のカーボンニュートラル意識の高まりや製造技術の進歩などから、課題は緩やかに解消に向かっており、今後の市場の成長が見込まれている。
●先行するSiCパワー半導体
次世代パワー半導体のなかで先行するのはSiCパワー半導体だろう。足もとでは、サーバー電源などの情報通信機器分野や太陽光発電などのエネルギー分野での需要増加に加え、電動車や充電インフラなどの普及による自動車・電装分野が伸長。今後も自動車の電装分野で伸びが見込まれるほか、低価格化が進むことでSiからの置き換えも進みそうだ。
注目銘柄は、Siパワー半導体大手である東芝 <6502> [東証P]、三菱電機 <6503> [東証P]、富士電機 <6504> [東証P]、サンケン電気 <6707> [東証P]、ルネサスエレクトロニクス <6723> [東証P]、ローム <6963> [東証P]など。特にSiCパワー半導体で世界一を狙うロームでは、子会社ローム・アポロの筑後工場内にSiCデバイスの新棟を建設するなど26年3月期までの5年間でSiC事業に1200億~1700億円を投資。同事業の売上高目標として26年3月期に1000億円を目指すとしている。
また、SiCウエハーを高速・高品質に切断できる超音波カッティング装置を手掛ける高田工業所 <1966> [東証S]、SiCウエハーに対応した高精度の研磨機を手掛ける浜井産業 <6131> [東証S]、パワー半導体向けSiC材料切断加工装置の大口受注を相次いで獲得しているタカトリ <6338> [東証S]や、SiC単結晶の開発・製造を行う名古屋大学発スタートアップのUJ-Crystalと資本・業務提携したMipox <5381> [東証S]及びオキサイド <6521> [東証G]などにも注目したい。
●今後の採用本格化が期待されるGaN
SiCと並んで、用途が拡大しているのがGaNパワー半導体だ。足もとでは、ACアダプターやサーバー電源など情報通信機器分野のほか、ロボットなどの産業分野でも採用が進み利用の裾野が広がっている。また、自動車分野では、スイッチング特性により受動部品の削減やコイルの小型化などが図れることから、電動車の走行可能距離の延長やバッテリーの小型化を目的に、今後の採用本格化が期待されている。
なかでも、19年に米クロミス社(カリフォルニア州)と高品質で反りが小さいGaN成膜ができる基板材料のライセンス契約を締結し、同材料を改良したGaNエピタキシャル成長用基板の事業化を加速している信越化学工業 <4063> [東証P]、三菱ケミカルグループ <4188> [東証P]傘下の三菱ケミカルと共同で、GaN基板の量産化に取り組む日本製鋼所 <5631> [東証P]、GaNを搭載したパワーモジュールを開発する新電元工業 <6844> [東証P]、GaNパワー半導体開発が環境省のCO2削減プロジェクトに採択された豊田合成 <7282> [東証P]などに注目したい。
●高耐圧・低損失に優れるGa2O3
Ga2O3パワー半導体は、SiC、GaNに比べてまだ研究開発が進んでおらず、量産化に向けたサンプル評価が継続的に行われている段階。ただ、次世代パワー半導体のなかでも高耐圧・低損失であり、低コスト化が可能であることから、早期実用化が期待されている。国内ではノベルクリスタルテクノロジー(埼玉県狭山市)、FLOSFIA(京都市西京区)などが開発で先行しているといわれており、ノベルクリスタル社のカーブアウト元で、主要株主の一社でもあるタムラ製作所 <6768> [東証P]に注目。また、ノベルクリスタル社と資本提携し、β型酸化ガリウム製品の実用化に取り組むトレックス・セミコンダクター <6616> [東証P]や、FLOSFIAと国内販売代理店契約を締結しGa2O3パワー半導体を販売する協栄産業 <6973> [東証S]などにも注目だ。
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