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―企業間決済の勢力図は一変、「デジタル円」の議論加速でIT・コンサル業界中心に特需発生も―
改正資金決済法の施行を受け、円や米ドルといった法定通貨を裏付け資産とするステーブルコインに市場参加者の関心が集まっている。最大の特徴は、即時入出金サービスを安価な手数料で実現できる点にあり、貿易決済などでの利用拡大が期待されている。「デジタル円」など、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)の実用化に向けた動きも加速している。今回の株探トップ特集では、ステーブルコインやデジタル円の実用化の恩恵を受けそうな銘柄をピックアップする。
●「暗号資産」ではない国内発行のステーブルコイン
ステーブルコインと聞くと、「テラUSD」を巡る騒動を思い起こす投資家は多いのではないだろうか。一時は時価総額が185億ドルを超える規模となったテラUSD(現テラクラシックUSD)は昨年5月に大暴落し、ヘッジファンドの連鎖倒産などを引き起こした。
直近でも今年6月5日に米証券取引委員会(SEC)が、暗号資産(仮想通貨)交換所最大手のバイナンスと同社のCEO(最高経営責任者)を提訴したと伝わり、ビットコイン相場は一時大きく下落した。値動きの不安定な暗号資産が決済などに使えるのか。そんな疑問が湧いてくるのも無理はない。
だが、6月1日に施行の改正資金決済法をもとに、国内で発行が解禁されることになったステーブルコインは、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用したものではあるが、暗号資産には該当しないという。
ステーブルコインは大きく分けて、法定通貨などの裏付け資産を持つ「担保型」と、金融工学やアルゴリズムを駆使して法定通貨などと連動させる「無担保型」がある。今回の改正法の規制対象となるのは「担保型」だ。法定通貨担保型を暗号資産から区別したうえで、「デジタルマネー類似型」ステーブルコインと位置付け、利用者の保護やマネーロンダリング対策などを目的に規制をかけようとするものだ。
テラUSDのような「無担保型」は暗号資産との位置付けになるが、6月1日から交換業者に対して資産移転時に送付人と受取人の情報通知を義務付ける「トラベルルール」が導入され、暗号資産に対しても新たなマネロン対策が講じられることとなった。
●「プログマコイン」など近く発行へ
法定通貨担保型のステーブルコインは、暗号資産と比較して価格変動性が低いのが特徴だ。日常の買い物で利用される電子マネーと違って、異なるステーブルコイン同士を容易に交換できるという利便性もある。改正法の施行を受け、年内にも国内ではさまざまなステーブルコインが発行される見通しだ。
三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]傘下の三菱UFJ信託銀行は、ステーブルコイン「プログマコイン」の発行を目指す。技術面ではSpeee <4499> [東証S]子会社のDatachainや、カンボジアのCBDCの発行を支援したソラミツ(東京都渋谷区)などと連携し、開発を推進してきた。仲介業者のライセンス登録の完了次第、発行や流通が可能になるという。
スタートアップ企業のJPYC(東京都千代田区)も、資金移動業者の登録を年内にも済ませ、改正法に沿ったステーブルコインを流通させる方針と伝わっている。同社に対しては、に2021年にアステリア <3853> [東証P]がファンドを通じて出資に乗り出しており、ステーブルコインの利用促進に取り組む構えを示している。
●ITコンサルなどに商機拡大
民間企業が発行するステーブルコインはデジタル通貨の一種とみなされている。これまで国内では官民が一体となって、デジタル通貨の実用化を目指す動きが進んできた。その代表格となるのが、100以上の企業や自治体・団体や関係省庁により構成される「デジタル通貨フォーラム」だ。
座長を務めるのは、ITコンサルティングを手掛けるフューチャー <4722> [東証P]の取締役で、日銀で金融市場局長と決済機構局長を務めた経歴を持つ山岡浩巳氏である。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が業績の追い風となるフューチャーにとって、デジタル通貨の実用化に向けた動きは、中期的な成長のドライバーとなるに違いない。
同フォーラムの分科会のうち、産業流通面での決済分野に関しては、三菱商事 <8058> [東証P]を中心としてバイオマス燃料の海上輸送取引での実証実験が行われ、ディーカレットDCP(東京都千代田区)がデジタル通貨発行のためのシステムを提供した。同社を傘下に持つディーカレットホールディングスは、インターネットイニシアティブ <3774> [東証P]の持ち分法適用関連会社だ。デジタル通貨構想の旗振り役とも言えるIIJも、市場拡大時は先行者利益を享受しそうだ。
また、ツルハホールディングス <3391> [東証P]と日立製作所 <6501> [東証P]が参画した小売・流通業でのデジタル通貨を用いた決済の実証実験では、システムインテグレーターのTIS <3626> [東証P]グループであるインテックが電子受発注(EDI)サービスを提供しており、TIS全体に対しての業績面でのプラス効果に注目が集まる。「デジタル通貨勉強会」の時代から同フォーラムに参加してきたコンサル業のシグマクシス・ホールディングス <6088> [東証P]にとっても、更なる事業拡大に寄与しそうだ。
●CBDC実用化へスタートアップ出資企業にも注目
「デジタル円」も将来的な普及拡大が見込まれている。新興国や途上国ではすでにバハマやカンボジアがCBDCを導入したほか、中国ではデジタル人民元を巡る実験が進む。日本でも制度に関する議論が加速している。
日銀は「CBDCフォーラム」の参加者の公募を4月28日まで行った。日銀による審査を経て、7月中をメドに参加する法人の一覧が公表されるようだ。金融や情報通信の大手企業や、フィンテック系のスタートアップ企業が参加するとみられている。
過去に日銀が開いた「決済の未来フォーラム」のデジタル通貨分科会の会合の資料をみると、さまざまなスタートアップの名が登場している。このうち、決済サービスのフィンテック企業であるインフキュリオン(東京都千代田区)に対しては、21年にグロース投資ファンドのMinerva Growth Partnersが、GMOインターネットグループ <9449> [東証P]傘下のGMO VenturePartnersとの共同投資の実施を発表。同時に、インフキュリオンはマネーフォワード <3994> [東証P]との資本業務提携の強化なども発表している。インフキュリオンの成長は、各社に恩恵をもたらしそうだ。
●物色候補にアクリートも
このほか、デジタル通貨関連銘柄として投資家の関心が集まっているのが、インタートレード <3747> [東証S]だ。同社は金価格との連動を目指す暗号資産「ジパングコイン」の取引システムを手掛けており、デジタル通貨の決済システムを整備するうえで、商機の拡大が期待できそうだ。
デジタル地域通貨の発行プラットフォームを提供するDigital Platformer(東京都千代田区)に対して21年に出資を発表したアクリート <4395> [東証G]も、業績に浮揚力を働かせる起爆剤を内包した状況といえる。アプリ開発のアイリッジ <3917> [東証G]は、子会社が岐阜県飛騨地方などで使われるデジタル地域通貨用プラットフォームの導入実績を持ち、事業拡大の足掛かりを構築した。
株式の流動性は高くはないが、コンピューターマネージメント <4491> [東証S]は日銀の電子決済システム「日銀ネット」に対応した決済管理システムの開発・保守に長年携わってきた。CBDCの実用化に向けた動きが加速すれば、業績拡大の思惑が働きやすい状況と言えるだろう。
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