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―政府による5年ぶりの新戦略公表が間近、半導体を超える輸出産業育成へ再加速―
岸田文雄首相が4月8日から14日までの日程で、米国を国賓待遇で公式訪問した。米議会上下両院合同会議での演説などを通じ、安全保障やAI 、半導体 、クリーン・エネルギー分野で米国と協調する姿勢を示した今回の訪米では、米バイデン大統領への手土産が能登半島地震の被災地の伝統工芸品「輪島塗」となり、ホワイトハウスの公式晩さん会に、日本の人気音楽ユニット「YOASOBI」が招待されたことが社会的に大きな関心を集めている。日本独自の文化に対する世界的な関心を経済成長に生かすうえで、政府は今年6月をメドに新たな「クールジャパン 」戦略を5年ぶりに公表する方向で準備を進めており、関連銘柄への見直し機運が高まりそうだ。
●ホワイトハウス招待のYOASOBI旋風続く
ホワイトハウスからYOASOBIが招待を受けた理由はほかでもない。世界各国で高い人気を誇っているためである。アニメ作品「【推しの子】」のオープニング曲である「アイドル」は、米ビルボードが発表する米国を除いたグローバル・チャート「Global Excl.U.S.」において昨年6月、日本語楽曲として初めて首位を獲得。7月には米国を含む「Global 200」で7位をつけた。
YOASOBIはホワイトハウスでの晩さん会の後、米カリフォルニア州で開催中の世界最大級の音楽フェスティバル「コーチェラ・フェスティバル」に出演し、多くの観客を魅了した。コーチェラには、日本発のバーチャルシンガー「初音ミク」や、4人組ダンスユニット「新しい学校のリーダーズ」、3人組男性グループ「Number_i」も登場。K-POPが世界を席巻するなかで、日本のアーティストも海外でのファン層を拡大しつつある。
海外に活路を見出そうという取り組みが広がるのは伝統工芸分野でも同じだ。今年1月1日の地震で大きな被害を受けた石川県能登地方では、輪島塗や珠洲焼などの職人の多くが避難生活を強いられた。しかし、「千舟堂」ブランドを展開する輪島塗の製造販売会社の岡垣漆器店(石川県輪島市)は、生産再開のメドが立たないなかにあっても、2月に米ニューヨークで開かれた生活雑貨の国際見本市「NY NOW」への出展を決意し、輪島塗が持つ美を世界にアピールした。
バイデン大統領への贈呈で輪島塗はグローバルでの関心を一段と高めることとなったが、バイデン大統領夫人にプレゼントされたアクセサリーにその技術が用いられた富山県の「高岡銅器」も、海外での知名度向上が期待されている。バイデン大統領の孫には任天堂 <7974> [東証P]の「スーパーマリオ」のグッズが贈られたことも忘れてはなるまい。
●「機構」の反省生かした新政策に高まる関心
アニメやJ-POP、日本食や伝統工芸品など、海外からみて「クール」と受け止められる日本の魅力的な文化を「クールジャパン」として世界に発信する取り組み自体は今に始まったわけではない。安倍政権下では2013年に官民ファンド「海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」が設立されたが、投資活動の失敗により巨額の累積赤字を抱えることになったのは多くの人が知るところである。これまでの失敗体験を踏まえ、自国のキラーコンテンツを経済成長に結びつけるための策を刷新しなければ、コンテンツ産業の国際競争力を低下させる事態を引き起こしかねない。
こうした危機感のもと、岸田政権の「新しい資本主義」の実行計画には、コンテンツ産業におけるクリエーターの支援や海外展開などに向けた施策を検討することが掲げられており、具体策について議論が進んでいる。そして、5年ぶりとなる新たな「クールジャパン」戦略に関しては、高市早苗内閣府特命担当大臣のもとで策定に向けた準備が進められている。
内閣官房の資料によると、日本のコンテンツ産業の海外での売上規模は21年時点で4兆5000億円に上る。鉄鋼産業の輸出額(4兆1000億円)を上回り、半導体産業(4兆9000億円)に迫る規模だ。日本食や伝統工芸が加われば、更にその規模は拡大する。自民党が支持基盤を強固なものとするには、人口減にあえぐ地方経済の立て直しを鮮明にすることが求められる。その一助を担うのは、インバウンド関連だけではないだろう。日本全国の文化的な資産を海外に訴求し、販路拡大につなげる施策は、コンテンツ産業の強化策とともに有効なツールとなるはずだ。
●マンガ関連企業は海外事業を強化中
コンテンツビジネスでの主要銘柄は、前述の任天堂や、「ハローキティ」のサンリオ <8136> [東証P]、「ドラゴンクエスト(ドラクエ)」や「ファイナルファンタジー(FF)」を展開するスクウェア・エニックス・ホールディングス <9684> [東証P]、「ストリートファイター」のカプコン <9697> [東証P]などがある。YOASOBIが楽曲を提供したアニメ「【推しの子】」のヒットは、KADOKAWA <9468> [東証P]の業績を下支えする役割を担っている。バンダイナムコホールディングス <7832> [東証P]は「機動戦士ガンダム」や「ワンピース」に加え、3月に訃報が伝わった鳥山明氏の「ドラゴンボール」のIP(知的財産)ビジネスも展開する。アニメシリーズ「ドラゴンボールDAIMA(ダイマ)」は今秋以降、東映アニメーション <4816> [東証S]による世界展開が予定されている。
マンガ関連銘柄に着目すると、古本やサブカルチャー商品を手掛けるまんだらけ <2652> [東証S]の業績が好調だ。24年9月期は連続最高益更新を計画するなど成長は加速中。コロナ禍を経て急成長したEC事業で海外からの需要を一段と取り込むことができれば、業績拡大に弾みがつきそうだ。フィギュアやプラモデル販売の壽屋 <7809> [東証S]は2月、海外展開の強化に向け、台湾と韓国、香港において現地代理店とプレミアムパートナー契約の締結で合意したと発表。同社は北米や中国での新たな販売網の構築にも動いている。トレーディングカードのブシロード <7803> [東証G]は、ライブエンタメ部門も成長軌道にあり、ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」の音楽ライブをアジアで積極的に開催している。
鳥山明氏の死去により「ドラゴンボール」への関心が高まるとの思惑が広がった局面で、株価が動意づいたマンガまとめ買いサイト運営のTORICO <7138> [東証G]は、「古本市場」や「トレカパーク」を展開するテイツー <7610> [東証S]との資本・業務提携を3月に発表した。両社の経営資源をもとに事業基盤を強化するとともに、海外での店舗の新設や拡充なども進めていくという。
●マーベラスやエムアップなども要マーク
ゲーム関連に目を転じると、例えばコロプラ <3668> [東証P]の「白猫プロジェクト」は今年10周年を迎え、記念キャンペーンや大規模なリアルイベントによる収益面での影響が注視される。同社の「白猫GOLF」は世界約170ヵ国で配信されている。マーベラス <7844> [東証P]は、4月19日にサービス開始を予定するRPG「ビックリマン・ワンダーコレクション」の収益貢献が期待されるなかにあって、配当利回りは4.9%近くに上り、600円台の株価には割安感も意識される。
音楽・芸能分野では、アーティストのファンサイト運営などを展開するエムアップホールディングス <3661> [東証P]の24年3月期が大幅増益で過去最高益を更新する見込みだ。ファンサイト事業で韓国アイドルグループの獲得が加速し、会員数も順調に増加している。日本人アーティストの中国本土でのファンクラブ事業も展開。海外事業を強化する方針を示している。
芸能プロダクションのアミューズ <4301> [東証P]もグローバルアーティストの発掘・育成に努めており、同社に所属する「BABYMETAL(ベビーメタル)」の北米ツアーでは29公演で11万人を動員した。PBR(株価純資産倍率)は0.8倍前後と、資本効率の上昇に向けた新たなアクションの有無が注目される。ファッション関連で「クールジャパン」戦略の恩恵を受ける企業としては「東京ガールズコレクション」を展開するW TOKYO <9159> [東証G]のほか、衣料セレクトショップのTOKYO BASE <3415> [東証P]が候補に挙がる。T-BASEは「日本発」を自社のブランド力とし、海外にも店舗を展開している。
日本食 のグローバル化やラーメン店の世界的な増加は、日本の食材を海外に供給する西本Wismettacホールディングス <9260> [東証P]の業績を押し上げており、同社の24年12月期の最終利益は前期比4割増で過去最高益を更新する見込みだ。中小食品会社のM&Aで成長を加速させるヨシムラ・フード・ホールディングス <2884> [東証P]も、和食の国際化は事業の追い風となっている。海外への日本食材卸事業を展開する企業にはほかにも、酒造大手の宝ホールディングス <2531> [東証P]などがある。同社と競合するオエノンホールディングス <2533> [東証P]に関しては焼酎に加え、傘下企業が製造する地酒の拡販に期待が膨らむ。非鉄金属加工の黒谷 <3168> [東証S]は高級美術工芸品事業を展開しており、伝統工芸産業の活性化は同事業にプラス効果をもたらしそうだ。
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