(3)鍵は市場観、株式悲観ポジションの修正が求められる
巨大な投資資金はどこに向かうのか
ファンダメンタルズの霧が晴れるとなると、焦点は投資資金需給と投資対象ということになる。2020年、潤沢な投資資金はどこから来てどこへ行くのか、という市場観が焦点になるだろう。武者リサーチは株式悲観論総ざんげの年になる可能性が大きい、と考える。
2019年は巨額のグローバル貯蓄余剰は先進国の国債に向かい、先進国国債のマイナス金利という債券バブルを引き起こした。しかし、2020年は世界的景気回復が想定され金利上昇は必至であり、もはや債券は買えず、残された投資対象の処女地は株式ということになるだろう。株式は十分買われ尽くされバブル化している、到底処女地とは言えないという反論が聞こえてきそうである。この反論は妥当なのだろうか。
2020年バブルか否かの議論はさておいて株式に資金集中へ
今は危険帯なのか、安全地帯なのか、現在の潤沢な投資資金の存在を危険なものでバブル性のものとみるのか、そうではなく健全なものであるのか(新時代を開く展望に結びつくのか)。武者リサーチは後者の可能性が高いと考えているが、2020年に関しては、結論を急ぐ必要はない。いずれにしても2020年は株高、リスクテイクを続ける年となるだろう。まずは株式などの資産価格が上昇し、そのあとの風景がどうなるのかを見極めることで、結論は見えてくるだろう。
歪んだポートフォリオの是正急務、適正株価の探求始まる
ここ数カ月間で2020年の景気見通しコンセンサスは悲観から楽観へとシフトしてきたが、投資家のポートフォリオはほとんど是正されていないと見られる。株式市場には「買いたい弱気」が蔓延している状況、つまり世界株式はかつてないほどの好需給であり、そういう時には往々にしてパラダイムシフト(大局観の大転換)が起きやすいものである。
日米ではここ数年、景気悪化想定のポートフォリオ構築が際立っていた。ドル安、株安、金利低下のリスクを防御する資産配分である。投資家がその想定の間違いに気付くとすれば、壮大な資金移動が引き起こされる可能性を軽視できない。
米国では株式から資金が流出し続けた
まずは米国。リーマンショック以降の10年間、米国国内の投資主体、米国家計、年金、保険、投信はすべて米国株式を売り越してきた。米国国内の投資主体は家計・年金・保険・銀行すべて、貯蓄余剰を国債投資に回すなど、米国株式に対して著しい慎重姿勢を維持し続けてきたのである。唯一企業の自社株買い(10年累計3.9兆ドル)だけが株式を買い上げてきたのである。
米国投信とETFの2016年以降の累積投資を見ると、資金流入はもっぱら債券投信であり、株式投信に対しては全く入っていない。また、今年に入り待機資金は大きく積み上がっている。MMFへの資金流入は1~10月累計で5000億ドルと過去最高レベルの流入となり、10月末の残高は3.4兆ドルと、2009年リーマンショック時に並ぶ過去最高水準となった。弱気心理の大きさを物語っている。この環境下で金融緩和による新規マネーの増加と自社株買いによる株数の減少が進展するのであるから、バブルどころか株価急伸の条件が揃っていると言えよう。
日本でも株式から民間資金が流出し続けた
日本での事情は更に極端である。日銀によるQE(量的緩和)により、郵貯、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、民間金融機関は巨額の国債保有を日銀に肩代わりしてもらったが、その資金は外貨資産投資(外貨証券、海外融資)、現金に向かっただけで国内株式にはほとんど向かっていない。株式投資はといえば、家計の極端な売却を日銀のETF購入と企業の自社株買いで吸収している状況。外国人投資家は2013年以降累計で23兆円買い越したものの、その過半を売却している状況。日銀の自己犠牲的努力がポートフォリオリバランスを通して投資家のリスク資産の増大をもたらす、ということにはなっていない。
大きな悲観バイアスの存在、株安・ドル安への過剰な備え
加えて市場に大きな悲観バイアスが存在している。日銀は10月発表の金融システムレポートで、(1)大手行で急増している株式投信保有の半分がベア型投信(つまり政策保有株下落に備えている)、(2)円高警戒に傾くリスクリバーサルが対円と対ドルの為替ヘッジコストを著しく乖離させており、外国人のヘッジ付き日本国債投資の急伸をもたらしていることを指摘している。
米国人投資家の10年国債投資利回りをみると、為替ヘッジをすれば米国債より日本国債の方が利回りが高くなるという珍事が起きている。米国投資家が円ヘッジをすると約2%のプレミアムが得られ、逆に日本投資家がドルヘッジをして米国国債を購入すると約2%のコストがかかり、円ベースではリターンがマイナスになるということが起きている。
この極端な為替ヘッジコスト格差の背景にはヘッジ需要のインバランスがあり、日本人投資家が過度にドル安への防御を高めていることが原因と考えられる。
日本の生保の外貨投資ヘッジ比率は70%にまで高まっている、と金融システムレポートは報告している。こうして日本の投資家は株式下落、ドル下落に対する備えを整えているが、逆に株高円安となったら大いなるマイナスを背負うことになる。2020年世界景気回復シナリオは、日本の機関投資家・金融機関にとって、大いなるポートフォリオ調整を迫るものになるだろう。
株式需給を端的に示す投資家の投機的ポジションは陰の極に達した
もともと日本株式は、(1)製造業主体で世界景気に敏感、(2)為替変動により増幅される、(3)取引の70%が外国人、国内安定投資家の不在、ということで、最もボラティリティーが高く、投機の絶好の対象とされてきた。これまで何度か世界経済低迷、世界的リスクオフの場面では先物主体の株式売却が日本株式を不当な水準まで押し下げた。東証の裁定買い残は投機ポジションの指標として注目されてきたが、裁定買い残5000億円の大台まで低下すると、株価は大底を入れ大転換するということが繰り返されてきた。
ただ、グッドニュースは、投機による振幅の大きさは、長期トレンドに対しては中立だということである。いくら投機で売られたとしても売られ続けるわけではない。いずれ投機売りポジションは投機買いによって相殺されるわけで、その時には大きなアップサイドの圧力が発生する。1998年、2003年、2009年、2016年がそれであり、その後1年から1年半の間に、日経平均は6割上昇している。
この裁定買い残は昨年クリスマス時5000億円台を付け、7~8月には4000億円台を下回ったが、それはリーマンショック時以来の低水準であり、今後どこかの時点で投機買いが急復活する可能性を示唆している。
(4)日本株式への追い風に
世界製造業景気のミニサイクルの落ち込みで最もダメージを受けたのが日本株式であった。日本経済は先進国では最も製造業依存が大きいうえに、東証上場株式時価総額のほぼ50%が製造業であり、グローバル景気に左右されやすい。また、ミニサイクル下落局面でのリスクオフから円高になったこともそれに拍車をかけた。
しかし、世界景気回復となれば、リスクオンの円安も加わり株高がサポートされる。そもそも需給面、心理面、バリュエーション面で日本株式は大底圏場面にあった。グローバル投機家のポジションを示す裁定買い残は歴史的低水準、陰の極のシグナルを示していた。8月につけたPBR1倍はバリュエーション上の岩盤であった。
加えてインフレ加速の気配が見え始めた。マンションとオフィスビルで空き室率が低下し賃料がはっきりと上昇に向かい、不動産価格が上昇している。マイナス金利の下で不動産の投資スプレッドが拡大し、REITなどがますます魅力的になっている。日本の長期デフレは、20年にわたる不動産価格暴落→家賃下落→広範な物価下落→賃金下落、という悪循環が引き起こしたと言っていい。この結果、日本は世界最低の低レバレッジ国となった。日本の低成長をもたらした、デフレ、レバレッジの低下、購買力低下、それらが今大きく変化しつつあるといえる。
日本企業の低レバレッジは投資魅力
日本企業は欧米企業に比べてレバレッジが低い。それは財務上のクッションが著しく大きいことを示しており、(1)万一、世界リセッションとなれば最も不況抵抗力が強い、(2)好況が続くならM&Aや自社株買いを通して一株当たり利益を顕著に増加させる潜在力がある、(3)買収のターゲットとなりやすく、企業再編成を引き起こす誘因となる、ことを示している。
ほぼアベノミクス以降の5年間の日本株買いをすべて吐き出した世界の投資家は、日本株の比率を再度急速に高めざるを得ない時期に来たのではないか。
(2019年12月23日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン241号」を転載)
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