アナリストの行動様式~対話の活発化に向けて

著者:鈴木 行生
投稿:2019/09/24 12:13

・8月に大阪で、IRの担当者に向けて、アナリストの行動様式について話をする機会があった。新任のIR担当者が多かった。アナリストはどういう視点で何を求めてくるのか。その時どうしたらよいのか。いくつかの質問が出たので、それらを取り上げてみたい。

・まず、こちらからのプレゼンでは、1)アナリストのこれからの役割、2)アナリストの新たな分析手法、3)IR担当者との関わり方、4)自社のガバレッジをどう広げるか、について話をした。

・アナリストは、何よりも企業の金儲けのしくみを知りたいと必死になる。業績予想と株価評価では、コンセンサスと違う予想をしたいと常に行動する。PBR = ROE × PERという恒等式において、まずは数値におとせるものを評価する。次に、数値にならないもの、見えない資産をいかに見抜くかに挑戦する。

・アナリストの基本動作は、比較と予測にある。これらの蓋然性(確からしさ)とインパクト(影響度)を知りたいと考える。生産性も重要な指標として注目する。その上で、ESGはいかにROEにむすびつくのか。質の高い企業の株価パフォーマンスは本当に良好なのか。ここを分析していく。

・アナリストは、会社の秘密情報を知りたいわけではない。企業活動のさまざまな側面から発生するモザイク情報へ、接点を増やしたいと行動する。目先の業績にだけ捉われるショートターミズムから逃れたいと思いつつ、つい戻ってしまうことも多い。

・深い分析レポートを書くことが大切であると分かっていても、目先のことに追われて実行しない。こういうアナリストと、IR担当者は付き合う必要があり、彼らを引きつけていくことが求められる。

・アナリストを引きつけて、自社を継続的にカバーしてもらいたいとIR担当者は考える。しかも、的確に理解してほしいと活動するが、そうでないこともよく起こる。フェアディスクロージャーが厳格に求められる中で、アナリスト達をどのように扱うのか。

・平等に対応するとともに、分析力に差がある時には、品の高いアナリスト、熱心なアナリストを優先したくなる。一方、自社に見向きもしないアナリストをどう引きつけていくのか。若手アナリストに対するエンゲージメントも大いに必要である。

・こんな話をした後で、いくつかの質問が出た。1つ目は、トップマネジメントがIRに熱心でない。どうしたらよいのか。

・一般にIRに積極的でない理由は2つある。1つは、IRの時間があるなら、売上に結びつく客を回った方がよい、という考え方である。こういうトップは、そもそもIRの重要さが腹落ちしていない。

・もう1つは、IRで話すことが嫌なのである。なぜか。話すことで、自社の強みがみんなに分かってしまう。同業他社に知られたら元も子もない。一方で、自社の弱みを話すなんて耐えられない。業績が冴えない上、うまく手が打てていない。そういう時に、何を話すのか。

・これに対しては、次のように理解してほしい。トップ外交は顧客だけではない。投資家を回って、企業価値を表す時価総額が上がったら、そのことが自らの評価に直結する。顧客の声を商品やサービス開発に活かすのと同じように、投資家の声をマネジメントの方針策定に活かすことは大いに有効である。これが分かったトップは様変わりとなる。

・話をしたくないという経営者に対しては、まず弱みは話さなくてかまわないとアドバイスする。弱みを話すことは誰も楽しくない。強みを話せばよい。上場企業として存在しているのだから、大いなる強みは必ず持っている。但し、秘密にしておきたいことは話す必要がない。同業他社に知られて強みが弱みになっては、投資家も困ってしまう。

・この強みについては、3つの側面がある。第1に、本当の強みは、会社が心配するほど真似されるものではない。分かったとしても、すぐにできるものではない。

・第2に、会社は課題に対して、いろいろ手を打っている。これが一定の効果を発揮してくれば、強みとなってくる。この変化について話せばよい。

・第3に、会社が話さないことは、何も言わなくてもアナリストは弱みと分かっている。つまり、ある程度は見抜かれている。

・2つ目の質問は、IR担当者として、どのように腕を磨いていったらよいのか。アナリストはIR担当者に何を期待するのか。

・最初は慣れていないので、アシスト業務でIR実務の実態を身につけていく。その時に、アナリストは、なぜそのことをそのように聞いてくるのだろうとよく考えて、突き詰めてほしい。

・開示資料にすでに記載してあるのに、どうして聞いてくるのだろう。公表しないことが分かっていながら、なぜ手を変え、品を変え、根掘り葉掘り聞いてくるのだろう。そんな細かいことを聞かれても、それをどう開示していくのか。

・手間がかかり、面倒くさいとなってしまうかもしれない。そうではなく、求められるモザイク情報の意味を問うていくと、次第にいろんなことがみえてくる。

・さらに、社長やCEOが話している真意をよく捉えることである。どういう意味を含めて、答えているのか。それをアナリストはどう受け止めているのか。本当に分かっているのか。何を分かってもらう必要があるのか。自分なら、社長やCFOの代弁者として、どう表現していくかを突き詰めて考え、実行してみることである。

・こういう行動をとって、IRの実務を磨いていると、アナリストからは、このIR担当者は話が分かる人だと認識される。つまり、アナリストから見て、使えるIR、役に立つIR、信頼できるIR担当者となっていく。3年で相当なレベルに上がっていけよう。

・3つ目の質問は、機関投資家にカバーしてもらうには、どうしたらよいのか、というものであった。企業規模の制約は別にして、機関投資家に相手してもらうには、まず個人投資家を味方につけることである。

・個人投資家向けIRなど、暖簾に腕押し、砂に水を撒くようなもの、それで株主が何人増えるのか、というのがネガティブな意見の代表であろう。

・ところが全く異なる。個人投資家は素人と思うかもしれないが、実は多様で、耳年増で、お金を持っていて、人を観る目もある。個人投資家の前で話してみれば、わが社の企業価値ストーリーが本物かどうか、通じるかどうか、がすぐに分かってしまう。

・個人投資家説明会は、年に数回やればよいというものではない。年に50回はやってみる必要があろう。社長、CFO、IR担当者など、いろんな立場の人で分担すればよい。若手も出てよい。

・そうすれば、あっという間に鍛えられる。通用しなかった要因が、1) 慣れていなかったのか、2)ストーリーが十分でなかったのか、3)そもそも会社の経営戦略が練れていなかったのか、が分かってくる。

・こうした点を踏まえて、機関投資家に訴求していく。まだ十分評価されていない企業価値がありそうだとなれば、中小型企業でも興味を持ち、フォローするようになる。

・IRとは、会社そのものの営業であるから、根気より対話を求めていくことである。セルサイド、バイサイドのアナリストに対して、丁寧ながらも押しの強いエンゲージメントが必要であろう。

・アナリストもトップクラスの力量をもった人は少ない。若手で、まだ駆け出しという人も多い。どの世界でもそうだが、教育的指導をまめに行い、互いにアドバイスして、育て合うことが大切である。その時に知り合った深い分析の仲間(IRとアナリスト)は、そのリレーションが長く続くことになろう。

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配信元: みんかぶ株式コラム