S&P 500月例レポート(2017年10月配信)
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
S&P 500:2017年9月:ハリケーン、地震、政局と混乱続き
母なる自然がまたもやその力を示し、人間がどれだけ優位性を示そうとも(愚かな人間ども)、世の中を支配しているのは自然なのだということを改めて思い知らされた1ヵ月でした。気象予報では今年のハリケーンシーズンは慌ただしくなると予想されていましたが、自然の脅威は予想をはるかに上回っていました。
米国に上陸したハリケーン「ハービー(5段階で上から2番目のカテゴリー4)」はヒューストンを含むテキサス州各地で猛威を振るい、製油所は閉鎖され、地域の被害により生産設備やパイプラインが停止した影響で、国内のガソリン価格は2年半ぶりの高値に急騰しました。次に本土を襲来したハリケーン「イルマ」はカテゴリー5まで発達し、フロリダ州では停電の被害が740万人に及びました(被害総額は数十億ドル)。ハリケーン「マリア」は米自治領プエルトリコを直撃して甚大な被害をもたらし(一時はカテゴリー5まで発達しましたが、上陸時はカテゴリー4)、全土が停電しました。
現地調査が行われ、復興計画(建て直し、あるいは今後の被害に備えた改良を伴う建て直し)をめぐる議論が進むにつれて、ハリケーンによる被害総額が徐々に明らかになってきました。「ハービー」の被害総額は700億ドルから最大で1900億ドル(ほとんどがヒューストン地域)、「イルマ」の被害総額は750億~1120億ドル、「マリア」の被害総額は最低でも850億ドル以上(ほとんどがプエルトリコで、現地では今も電力が復旧していません)と試算されています。
ハリケーンに関連してホームセンター銘柄の株価が上昇し、Home Depot(HD)は9月に9.1%、Lowe’s(LOW)は8.2%上昇しました。一方で再保険会社は下落し、Everest Re Group(RE)は9.5%下落しました。また、バイオテクノロジー会社、Exelixis(EXEL)も17.1%下落しました。
地震に関しては、メキシコでマグニチュード8.1の地震(メキシコでは少なくとも過去100年間で最大規模)が発生し、死者は300人以上に上りました。
世の中を揺るがした人為的な出来事もありました。市場でほとんど揺れは感じられませんでしたが(株価はわずかに上振れ)、税制改革に向けた第一歩となる改革案が発表されました。現行の法人税率は35%で、現在S&P 500指数構成企業に適用されている実効税率は平均25.6%です(大きなばらつきがありますが)。共和党が発表した改革案の概要(9ページに上る)では、所得税率の引き下げが示されました(法人税率は現行の35%から20%に、個人所得税は10%~39.6%の範囲で7段階に分かれている現行の税率区分から、12%、25%、35%の3段階に)。個人に適用されていた税控除はほとんどが廃止され、その代わりに代替ミニマム税と相続税も廃止されます。
しかし、現在の暫定予算が12月に期限を迎えるため、議会は税制改革をまとめる前に予算を決議しなければなりません。そうすれば、上院は通常の60票ではなく、財政調整法を活用して51票で税制改革を通過させることが可能になります(上院の定数は100で、賛否同数の場合は副大統領が投票)。法人税率が20%になれば(海外からの利益還流やその他の細かい改革は除く)、S&P 500指数構成企業の利益は6%増加する可能性があります。
北朝鮮をめぐっては、国連は北朝鮮への追加制裁決議を採択しましたが、中国とロシアの支持を取り付けるために米国が譲歩し、制裁内容はやや緩められた形となりました。その翌週、北朝鮮は弾道ミサイルの発射実験を再び実施しました。これを受けてトランプ大統領は就任後初の国連演説で北朝鮮を激しく非難し、北朝鮮が米国や他の同盟国を脅かすならば、米国は北朝鮮を「完全に破壊する」と発言するなど、トランプ大統領と北朝鮮の最高指導者である金正恩氏との直接的な非難合戦が繰り広げられています。トランプ大統領はさらに、中国が北朝鮮との金融取引の制限に消極的なことから、北朝鮮と取引のある金融機関に対する追加制裁を決めました。
ドイツで9月24日に行われた総選挙では、メルケル首相率いる中道右派政党が戦後最低となる得票率の33%で第一党となり、極右政党で反移民を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」が13%を獲得しました。今回の勝利によりメルケル首相の4期目(1期4年)は確実と思われますが、連立交渉次第です。
英国のメイ首相は、EU離脱に伴う数百億ポンドの支払いを受け入れるとの見方を示しましたが、労働許可、貿易、関税といった大きな問題についての交渉は続いています。
日本では安倍首相が衆議院を解散し、10月22日に選挙が行われる予定です。このところの北朝鮮との対立で安倍首相の支持率が高まっており、支持率をさらに回復させることが狙いとみられています。
市場を揺るがすほどではありませんでしたが、S&P Global Ratingsは香港の信用格付けを最上位のAAAから、米国と同じAAプラス(ただし、米国の14州はAAA格付け)に引き下げました。これにより、AAAの格付けを持つ国はオーストラリア、カナダ、デンマーク、ドイツ、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、シンガポール、スウェーデン、スイスの11ヵ国のみとなりました。S&P 500指数構成銘柄のうち、AAA格付けを持つのはJohnson & Johnson(JNJ)とMicrosoft(MSFT)の2社しかありません。
さらに小さな出来事としては、中国は通貨規制の強化を目的に(為替操作とは全く異なります)、ビットコイン取引所の閉鎖に向けて動き出しました。
●9月の重要ポイントは以下の通りです:
* S&P 500指数は今年で39回目となる終値での最高値更新で9月を終えました。39回のうち10回が金曜日でした。1928年以降、四半期の最終日に最高値を更新したのは13回目で、第3四半期最終日の高値更新は4回目です。
* 9月の月間上昇率は1.93%(配当込みのトータルリターンは2.06%)で、6ヵ月連続のプラスとなりました(2016年11月からの11回のうち月間騰落率がプラスとなったのは10回目です。2017年3月だけが0.4%下落しましたが、配当込みのトータルリターンで見ると0.12%のプラスで、11回中11回がプラスとなります)。月内の最高値更新は9回(8月は1回)で、第3四半期の上昇率は3.96%(トータルリターンは4.48%)、年初来の上昇率は12.53%(同14.24%)、過去1年間の上昇率は16.19%(同18.61%)となっています。
* 11セクターのうち8セクターで騰落率がプラスとなりました(8月は5セクター)。エネルギーセクターは9月に大幅に反発し、9.77%上昇という最も高い騰落率となりましたが、年初来では8.62%下落しており、引き続き最低のパフォーマンスとなっています。金利の上昇とリスクオンの動きを受け、公益セクターは9月に3.00%下落して月間騰落率が最低となりましたが、年初来では8.97%のプラスを維持しています。
* S&P 500指数は昨年11月8日の大統領選以降で17.75%上昇しており(トータルリターンは19.93%)、終値ベースで最高値を47回更新しています(年初来では39回、2016年は18回、2015年は10回、2014年は52回)。
* 世界の株式市場を総合すると、9月は好調に推移し、11ヵ月連続で騰落率はプラスとなりました。ただし、先進国市場は概ね上昇しましたが、新興国市場は半分の市場で下落しました。米国市場は平均を上回るパフォーマンスでした。9月のグローバル市場は1.97%上昇し、8月の0.17%上昇を上回るパフォーマンスとなりました。世界47市場のうち31市場が上昇し、8月の30市場を上回りました。
* S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、S&P 500指数構成銘柄について9月に2件の入れ替えを行い、事務用品を販売するStaplesが上場廃止に伴って指数から除外されました(将来的に企業分割される可能性があり、過去の例に倣うと、いずれIPOを通じて再上場される可能性があります)。
* 過去の実績に基づくと、10月の騰落率は57.3%の確率でプラスとなり、上昇した月の平均上昇率は4.20%、下落した月の平均下落率は4.66%、全体を平均すると平均0.47%の上昇となっています。10月は1987年にブラックマンデーが起きた月でもあり、今年は30周年という「記念」の年です。
* 今後の連邦公開市場委員会(FOMC)スケジュール:2017年10月31日-11月1日、12月12日-13日*、2018年1月30日-31日、3月20日-21日*、5月1日-2日、6月12日-13日*、7月31日-8月1日、9月25日-26日*、11月7日-8日、12月18日-19日*(*は記者会見が行われる)。
●10月の見通し
祝宴は続くでしょうか、それとも暴落が再来するのでしょうか。再び決算シーズンを迎えますが、第2四半期と同様に市場は現在のバリュエーションが維持されるかどうか、進展(そして高値更新)を見守る必要があります。
ワシントンの話題は引き続き税制改革が中心となるでしょうが、実際の交渉(や裏工作)では12月の予算決議と債務上限をめぐる交渉がカギを握るとみられます。北朝鮮問題も依然として大きな懸念であり、緊張が高まり、小さなアクシデントが大きなインシデント(衝突)に発展する恐れがあります。
●政治情勢
国連は北朝鮮への追加制裁決議を採択しましたが、中国とロシアの支持を取り付けるために米国が譲歩し、制裁内容はやや緩められた形となりました。ところが、北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を止めることはなく、トランプ大統領は(国連で)、北朝鮮が米国や他の同盟国を脅かすならば、米国は北朝鮮を「完全に破壊する」と発言しました。
ドイツの総選挙では、メルケル首相率いる中道右派政党が得票率の33%(戦後最低)で第一党となり、極右政党で反移民を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」が13%を獲得しました。
英国のメイ首相は、EU離脱に伴う数百億ポンドの支払いを受け入れるとの見方を示しましたが、労働許可、貿易、関税といった大きな問題についての交渉は続いています。日本では安倍首相が支持率の回復を狙って衆議院を解散しました。
トランプ政権はオバマ政権下で施行された「幼少期に米国に到着した移民への執行延期措置Deferred Action for Childhood Arrivals(DACA)」について、議会が代替法案を可決できなければ6ヵ月以内に廃止すると発表しました。また、新たな入国規制(期限切れとなった前回の規制に代わるもの)を発表し、従来のイラン、リビア、ソマリア、シリア、イエメンに加え、チャド、北朝鮮、ベネズエラが対象国に追加された一方で、スーダンは対象から除外されました。
共和党は再びオバマケアの廃止または代替を試みましたが、単純過半数で可決できる期限までに採決に持ち込むことができず(共和党指導部は採決すら認めませんでした)、今回も失敗に終わりました。今では60%の賛成票が必要となります。
●各国中央銀行の政策行動
74歳になる連邦準備制度理事会(FRB)のフィッシャー副議長が、個人的理由によって2017年10月13日付での退任を突然発表しました。同副議長は2018年半ばの退任が予想されていたことから、今回の発表は予定が早まったに過ぎません。フィッシャー副議長はイエレンFRB議長の見解を強く支持しています。トランプ大統領は副議長の後任と次期FRB議長候補を指名(もしくは、現在のFRB議長で、2018年2月で任期を終えるイエレン氏を再任)することになり、いずれの候補も上院の承認を得る必要があります。トランプ大統領が指名した候補者が就任するのは2018年で、それまでは金融政策の決定には係わらないものの、候補者の言動は影響力を持ちます。フィッシャー副議長の退任の発表は、金利に直接影響を与えませんでした。
地区連銀経済報告(ベージュブック)によれば、個人消費は増加しましたが、商業ローンは減少しました。また、自動車産業の減速に対する懸念が明記され、労働市場は引き続き、「引き締まっている」と評価されました。7月のJOLT(求人労働移動調査)では求人件数は617万件となり、6月の612万件から増加しただけでなく、予想の600万件も上回りました。
FRBは4兆5000億ドルのバランスシートの縮小を2017年10月に開始し、保有資産を月額100億ドルずつ削減すると発表すると同時に、12月会合で今年3回目となる利上げ決定をなお想定していることを示唆しました。今後の見通しとして、FRBは利上げを2018年に3回、2019年は2回、2020年は1回見込んでいることを明らかにしました。イエレン議長はクリーブランドでの講演で、インフレ率はFRBが予想した水準を下回っているが、なお想定通りに推移しており、2017年12月に0.25%の利上げが決定される見通しだ、と述べました。
欧州中央銀行(ECB)は政策金利を据え置き、資産買い入れ(月額715億ドル)を少なくとも2017年12月末まで、あるいは必要があればそれ以降も継続することを発表しました。日銀は金利を据え置きましたが、投票結果は全会一致ではなく、1名の委員が金融緩和を主張して反対票を投じました。
●グローバル経済
ユーロ圏の8月のインフレ率は前年同月比1.5%となり、7月の同1.3%から上昇しました。9月のユーロ圏マークイットサービス業PMIの速報値は予想の54.8を上回る55.6となり、同製造業PMIの速報値は予想の57.2に対して58.2となりました。
S&Pグローバル・レーティングは中国の与信拡大によるリスクを理由に、中国のソブリン格付けをAAマイナスからAプラスに引き下げました。また、香港の信用格付けも最上位のAAAから米国と同格のAAプラスに引き下げました。
米国の経済指標関連では、8月のマークイット製造業PMIは7月の53.3から52.8に低下し、サプライ管理協会(ISM)製造業景況指数は7月の56.3から58.8に上昇しました。8月のサービス業PMIは56.0と、7月の54.7から上昇しましたが、予想の56.9には届きませんでした。ISM非製造業景況指数も同様に、7月の53.9から55.3に上昇しましたが、予想の55.8を下回りました。9月のPMI速報値は、製造業PMIが8月の52.5に対して53.0に上昇、サービス業PMIが8月の56.9に対して55.1に低下した結果、総合PMIは54.6となりました。
8月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比2.4%上昇し、食品とエネルギーを除くコアPPIは同1.9%上昇しました。8月の消費者物価指数(CPI)は予想通り前年同月比1.9%の上昇となり、コアCPIは予想の同1.6%上昇を小幅に上回る同1.7%上昇でした。8月の個人所得は前月比0.2%増、個人消費支出は同0.1%の増加でした。8月のPCE価格指数は前月比では0.2%上昇、前年同月比では1.4%の上昇でした。
7月の建設支出は予想の前月比0.6%増に対して同0.6%減となり、前年同月比では1.6%増となりました。7月の製造業受注は予想の前月比3.2%減とほぼ同じ同3.3%減となり、6月の数字は速報値の3.0%増から3.2%増に上方修正されました。8月の鉱工業生産は予想の前月比0.1%増に対して同0.9%減となり、設備稼働率は7月の76.9%から76.1%に低下しました。8月の卸売在庫は前月比1.0%増、小売在庫は0.7%増となりました。7月の企業在庫は予想通り前月比0.2%増加しました。耐久財受注は予想の前月比1.5%増を上回る同1.7%増となり、前年同月比では5.1%増となりました。
8月の財の貿易収支は輸出が0.2%増、輸入が0.3%減となり、その結果、629億ドルの赤字となりました。8月の輸入物価指数は予想の前月比0.4%上昇に対して同0.6%上昇(前年同月比では2.1%の上昇)、輸出物価指数も予想の0.2%上昇に対して0.6%上昇(前年同月比では2.3%の上昇)となりました。
2017年第2四半期の非農業部門労働生産性の確報値は予想の前期比1.3%上昇を上回る同1.5%上昇(速報値の同0.9%上昇から上方修正)となり、単位労働コストは予想の前期比0.3%上昇に対して同0.2%上昇しました。
9月のミシガン大学消費者信頼感指数は8月の95.3から95.1に低下しました。9月のコンファレンスボード消費者信頼感指数は119.8と、予想の120.2を下回り、同時に8月の数字は速報値の122.9から120.4に下方修正されました。8月の自動車販売台数は7月の軟調から改善しましたが、内訳は強弱が入り混じり、General Motors(GM)が前月比7.5%増、Ford(F)は同2.1%減でした。8月の小売売上高は予想の前月比0.1%増に対して同0.2%減、自動車を除く小売売上高は同0.2%増となり、予想の同0.5%増を下回りました。8月の景気先行指数は予想の前月比0.2%上昇を上回る同0.4%上昇となりました。
2017年第2四半期のGDP成長率の確報値は予想通り前期比年率3.1%となり、改定値の同3.0%から上方修正されました。2017年第2四半期の企業利益の確定値は前年同期比7.4%増でした。
●住宅市場
8月の新築住宅着工件数は118万戸(年率換算)となり、予想をわずかに上回りました。住宅着工許可件数は予想の122万戸に対して130万戸となりました。8月の中古住宅販売件数は535万戸で、7月の548万戸から1.7%減少しましたが、前年同月比では0.2%増加しました。8月の新築住宅販売件数は56万戸(年率換算)となり、予想の58万3000戸を下回りました。8月の中古住宅販売仮契約指数は予想の前月比0.2%低下に対して同2.6%低下となりました。ハリケーン「ハービー」の影響が予想されましたが、住宅販売件数は米国の大半の地域で減少しました。
米連邦住宅金融局(FHFA)発表の7月の住宅価格指数は前月比では予想の0.4%上昇に対して0.2%上昇、前年同月比では6.3%上昇となりました。7月のS&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数は予想通りの結果となり、前年同月比で5.9%上昇(6月の5.8%から加速)しました。9月のNAHB住宅市場指数は予想の66に対して64となり、8月の67を下回りました。
●雇用関連
8月の雇用統計は予想を下回り、非農業部門就業者数は15万6000人増(予想は18万人増)となりました。また7月の数値は20万9000人の大幅増から18万人増に下方修正されました(7月の当初予想は17万8000人増だったため、これで当初予想並み)。失業率は4.4%に上昇しました。これに対して予想は4.3%の横ばいでした(7月は前月の4.4%から低下)。労働参加率は62.9%で横ばいでした。週平均労働時間は(またもや)前月と同じ34.5時間となりました(予想通り)。平均時給は前月比0.1%増(予想は0.2%増)の26.39ドルで(前月は26.36ドル)、前年同月比では前月と同じ2.5%増でした。市場はこれにほとんど反応しませんでした。少なくともこの時点で市場参加者は、これは最近の上昇の調整であり、「一時的な」動きであると受け止めていました。
ファミリー向け百貨店Target(TGT)は、年末商戦で増加する顧客への対応に備えるため(またネット通販に対抗するため)、臨時雇用を昨年の7万人から10万人に増やすと発表しました。Macy’s(M)は、年末商戦に向けて特定部門の臨時雇用を20%増やすものの、期間中の臨時雇用は全体で若干減少する(昨年の8万3000人から8万人に)と発表しました。ネット通販大手Amazon.com(AMZN)は、米国の第二本社(最大5万人を収容)を推定費用50億ドルで建設する計画を発表しました。これを受けて、複数の州が誘致に動いている模様です。
レイオフ関連では、テクノロジー・ソリューションのHewlett Packard Enterprise(HPE)は経費削減策の一環として、グローバルで5000人(全従業員数は約5万人)を削減すると発表しました。医療用医薬品メーカーEli Lilly(LLY)は、2018年に従業員3500人(全体の8%)をレイオフし、工場1ヵ所(アイオワ州)と研究施設2ヵ所(ニュージャージー州と中国)を閉鎖すると発表しました。
●M&A関連
航空機エンジン・機械大手United Technologies(UTX)は市場の憶測通り、航空機電子部品メーカーRockwell Collins(COL)を230億ドルで買収すると発表しました。防衛大手 Northrop Grumman(NOC)は航空・防衛メーカーOrbital ATK(OA)を現金78億ドルで買収すると発表しました。接着剤・シーラントの製造大手H.B. Fuller(FUL)は同業Royal Adhesives & Sealantsを15億8000万ドルで買収する契約を締結したと発表しました。
報道によると、ソフトバンク傘下で通信サービス大手Sprint(S)とT-Mobile(TMUS)が再び合併交渉に入りました(両社はこの数年間断続的に交渉を行ってきたようです)。東芝(TOSYY)は、半導体事業を投資ファンドBain Capital率いる企業連合に180億ドルで売却すると発表しました。
General Electric(GE)は産業ソリューション事業をABB(ABB)に26億ドルで売却すると発表しました。米投資ファンドHellman & Friedman率いる民間企業連合は、デンマークの決済処理会社Netsを53億ドルで買収すると発表しました。
●企業業績
S&P 500指数構成企業の2017年第2四半期決算は総じて好調でした。株式数の減少を通じて1株当たり利益(EPS)を押し上げる自社株買いによる支援効果が減ったにもかかわらず、利益は会社予想のみならず、市場の非公式予測(whisper numbers)も上回りました。これはまさに市場参加者が求めていた支援材料でした。株価収益率(PER)は、企業がそれを正当化できるか否かとともに、大きな懸念要因となっていました。また、ワシントンの動き(あるいは何も動きがないこと)ならびに地政学問題をめぐる不透明感の継続が、依然として景気見通しに影を落としていました。
決算発表を受けて、S&P 500指数は緩やかなペースで過去最高を更新し続け、PERは高水準にとどまりました。近く開始する2017年第3四半期決算発表シーズンに関しては、市場参加者の利益予想は底堅く、下方修正幅は6月末時点から僅か1.5%、2016年12月時点から僅か2.5%にとどまっています。本稿執筆時点で、市場参加者は前期比7.8%増、前年同期比14.7%増と予想しています。
しかし、増益率は一様ではなく、また、数値だけですべてを判断できるわけではありません。エネルギーセクターは300%増と予想されていますが、依然として回復の途上にあります。同セクターのEPSは6四半期連続で減少した後、昨年第2四半期にプラスに転じました。今年第3四半期のエネルギーセクターの予想利益は、原油価格が1バレル100ドル近辺にあった2014年第3四半期の水準を71%下回っており、2017年予想PERは36倍と高水準となっています。
ヘルスケアセクターの利益は前年同期比26%増で過去最高を記録すると予想されています。同セクターの今年の株価は全般的には好調ですが、サブグループごとに差があります。PERは19倍と、より妥当な水準にあるものの、やはりセクター内でかなり差が見られます。情報技術セクターには注目が集まっており、前年同期比で33%の増益で過去最高を付けると予想されています。さらに同セクターの業績が例年最も好調となる第4四半期については、過去最高益が予想される第3四半期を27%上回ると見込まれています。この予想は、Apple(AAPL)の新製品だけでなく、子供向けおよび大人向けのあらゆる電子機器に対する市場参加者の多くの見方を反映するものです。
情報技術セクターがS&P 500指数に占める割合は23%と最も大きく、配当への寄与度は最も高く(16%)、第3四半期の利益に最も貢献すると(23%)予想されています。現在の2017年PERは21倍で、同セクターの株価は昨年の大統領選から年末までどうにか切り抜けた後、今年は全セクター中トップを付けています。
全般的に、そして第2四半期と同様に、第3四半期には多くの出来事が予想されており、特に年初来で株価の上昇が積み上がる中、PERを正当化する必要があります。現在は利益確定のタイミングとして決して早すぎることはありませんが、特に所得税の見通しが織り込まれ始めることで、市場に資金がとどまる傾向がある中、マネーマネージャーや一部のリスク志向の投資家グループが恐れているのは、自分だけ時流から取り残されることです。
●個別銘柄
保険会社のAnthem(ANTM)は、2018年にケンタッキー州でのオバマケアによる保険適用範囲を縮小する予定だと発表しました(同社はすでにサービスを提供している14州のうち10州で適用範囲を縮小)。信用情報会社のEquifax(EFX)は、米国で1億4300万人の顧客情報が流出したことを明らかにしました。同社の対応と事態への対処能力も問題視されており、同社の株価は9月に26.3%下落しました。下落率は一時36.9%に達し、年初来では11.2%の下落となっています。米証券取引委員会(SEC)は、2016年にハッキング攻撃に見舞われたことを公表、一部のデータが違法な証券取引に利用された可能性があるとしています。
玩具販売大手のToys”R”Usは、債務返済に支障が生じため連邦破産法第11条の適用を申請しました。
ソーシャルメディア大手のTwitter(TWTR)は、現在140文字の字数制限を240文字に増やすことに取り組んでいることを明らかにしました。米国政府は保険会社のAmerican International Group(AIG)を「システム上重要な金融機関(SIFI)」の指定から外し、同社に対する規制を解除しました。
また、特筆すべき点として、2016年の米国の家計所得の中央値が(2015年から)3.2%上昇して5万9039ドル(インフレ調整後)となり、ようやく1999年の数字(5万8665ドル)を上回ったことが挙げられます。家計部門の純資産額は2017年第2四半期に過去最高となる96兆2000億ドルに達しました。
ロシアでは爆破予告の電話が相次ぎ、各地で10万人以上が避難しましたが、爆弾は発見されませんでした。「テロ事件」はロンドンの地下鉄でも発生し、計画通りではなかったものの爆弾が爆発しました(死者は出ていません)。
新たな会計ガイドラインは、米国の州や地方自治体に対して退職者の医療費を全額費用計上することを義務付けています。この結果、6450億ドルが新たに帳簿上で債務に加えられる可能性があり、これまで認識されていなかったコストが将来発生する費用として計上されることになります。
配車サービスのUberはロンドン市内での営業に問題があると判断されて以降、同市交通局とサービス提供についての交渉を続けました。
●利回り、金利、コモディティ
FRBが4兆5000億ドルに膨らんだ保有資産の縮小に着手することを決定し、2017年12月(12-13日にFOMC開催)の利上げ実施の可能性を示唆したことを受けて、米国金利は9月に上昇しました。米国10年国債の9月末の利回りは2.34%となり、前月末の2.12%から上昇しました。しかし、2016年末の2.45%は下回っています。米国30年国債の 9月末の利回りは2.86%と、前月末の2.73%から上昇しました(2016年末は3.07%)。
外国為替市場では、ユーロは8月末の1ユーロ=1.1904ドルから1.1814ドルに下落し(同1.0520ドル)、英ポンドは8月末の1ポンド=1.2929ドルから1.3399ドルに上昇しました(同1.2345ドル)。円は8月末の1ドル=109.95円から112.50円に下落し(同117.00円)、人民元も8月末の1ドル=6.5906元から6.6366元に下落しました(同6.9448元)。
金価格は1トロイオンス1282.50ドルで取引を終え、8月末の1327.90ドルから下落しました(同1152.00ドル)。
原油価格はハリケーンが関連施設の操業に影響し、供給懸念が続いたことから、8月末の1バレル47.07ドルから上昇し、1バレル=51.64ドル(過去1年間の取引レンジは43ドル~58ドル)で取引を終えました(2016年末は53.89ドル)。米国のガソリン価格(全等級)はハリケーンが複数回襲来した影響を受けて、9月末は1ガロン2.701ドルと、8月末の2.513ドルから上昇しました(同2.419ドル)。
VIX恐怖指数は月中の最高は14.06、最低は9.36となり、結局8月末の10.69から9.51に低下して月を終えました(同14.04、2016年11月8日の米大統領選直前は23)。
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスは、S&P中型株400指数構成銘柄のアプリケーション・ソフトウェアメーカーのCadence Design System(CDNS)をS&P 500指数に新たに追加し、Sycamore Partnersに買収されたStaples(SPLS)を同指数から除外しました。
S&Pグローバル・レーティングは、香港の信用格付けを最上位のAAAから米国と同じAAプラス(ただし、米国の14州はAAA格付け)に引き下げました。これにより、AAAの格付けを持つ国はオーストラリア、カナダ、デンマーク、ドイツ、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、シンガポール、スウェーデン、スイスの11ヵ国のみとなります。
S&P 500指数構成銘柄のうち、AAAの格付けを持つのはJohnson & Johnson(JNJ)とMicrosoft(MSFT)の2社のみです。
●S&P 500指数
9月のS&P 500指数は56.2%の確率で下落するというこれまでの冴えない実績に反して上昇しました。実際9月は、6ヵ月連続で月間での上昇を記録し(過去11ヵ月中10ヵ月で上昇、ただし、配当込みのトータルリターンは実際に全11ヵ月でプラス)、初めて2500の大台を上回り、その水準で月末を迎えました。
9月末のS&P 500指数は2519.36で、0.05%上昇(7月は1.93%上昇)した8月終値2471.65から1.93%(配当込みのトータルリターンは2.06%)と大きく上昇しました。第3四半期は3.96%(同4.48%)上昇しており、一部のファンドの四半期報告書は素晴らしい内容になるでしょう。年初来でのS&P 500指数の上昇率は12.53%(同14.24%)、昨年の大統領選以降では17.75%上昇(同19.93%)しています。
9月は11セクター中8セクターで騰落率がプラスとなりました(8月の5セクターから増加)。エネルギーセクターが反発し、9.77%の上昇で騰落率トップとなりましたが、同セクターは年初来ではなお8.62%の下落と、騰落率は最低となっています。公益セクターが、金利上昇と投資家のリスクオンモードを背景に、3.00%下落して騰落率最下位となりました。同セクターは年初来では8.97%上昇しています。
9月は上げ基調(と所得税に対する期待)が市場の上昇の助けとなり、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を大幅に上回りました。値上がりは334銘柄と(平均上昇率は6.04%)、8月の232銘柄(7月は326銘柄)から増加し、49銘柄(8月は12銘柄)が10%以上上昇した一方、値下がりは170銘柄(平均下落率は3.79%)と、8月の273銘柄(7月は178銘柄)から減少し、9銘柄(8月は44銘柄)が10%以上下落しました。
2017年第3四半期は、値上がりが323銘柄で(平均上昇率は8.81%)、111銘柄が10%以上上昇した一方(平均上昇率は16.36%)、値下がりは180銘柄(平均下落率は7.70%)で、55銘柄が10%以上下落しました(平均下落率は16.27%)。
年初来では引き続き値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を大幅に上回り、値上がりは355銘柄で(平均上昇率は21.86%)、うち113銘柄が25%以上上昇し、値下がりは147銘柄で(平均下落率は13.51%)、うち23銘柄が25%以上下落しています。
S&P 500指数は過去最高値で9月を終えましたが、10月第1週もワシントン発のニュース(所得税、予算、債務)が大きく取り上げられるのに伴い、最高値の水準は試されることになるでしょう。その後は決算発表シーズンに入り、10月半ば以降は企業の業績発表がニュース(そして取引)の中心となり、(北朝鮮問題など世界的なイベント次第ですが)企業業績への注目が11月初旬にかけて続くことになります。
[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはこちらをご参照ください。
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