S&P 500 月例レポート

S&P 500®

幸せな日々の再来 – 少なくとも今は
10月のS&P 500は8.30%高と、2011年10月以来の上昇率を記録し、第3四半期の6.97%の損失を打ち消しました

決算発表シーズンが到来するたびに思い描くのは、輝かしく、大きな、美しい「明日」ですが、10月の市場はその「明日」を手に入れ、2011年10月以来の上昇率を記録しました。決算発表シーズンの市場にとっては期待が全てです。これまでのところS&P構成銘柄の75%が第3四半期の決算発表を終え、そのうち70%は下方修正後の予想を上回りました。その結果10月のS&P500は8.30%高となりました(業績予想管理をMBAの必修科目に加えるべきでしょう)。公正かつ率直に言うと(私は当局の人間でないのでそれが可能です)、10月は三連勝単式(競馬で1着、2着、3着になる馬を着順どおりに当てること)のように好材料が揃い、4年ぶりの上昇率を付ける環境が整いました。第一の要因は、上述の通り、決算発表です。利益見通しは成長の持続を示しており、2015年第4四半期の利益は過去最高を更新すると予想されています(前年同期と比べて僅か0.01ドルの差かもしれませんが、それでも過去最高水準であればプラス要因となります)。二番目の要因は、連邦準備制度理事会(FRB)です。今回は利上げを見送ったものの、12月の利上げの可能性に含みを残し、「利上げ時期」を巡るゲームは続いています。現在、最も有力なのは2016年第1四半期ですが、12月という見方も僅差で続いています。しかし、FRBの判断は経済指標次第との見方には大方が同意しており、この先、12月15~16日の次回連邦公開市場委員会(FOMC)までに公表される予定の経済指標(雇用統計、GDP、消費者物価指数、生産者物価指数)がFRBの政策判断に大きな影響を与えるとみられます。そしてこれら2つには大きく差を開けられているものの、三番目の要因として挙げられるのがM&Aで、10月も大型案件の発表が続きました(従って投資アドバイザー、引受会社、会計士、弁護士などの懐は引き続き潤うことでしょう)。また、米議会も株価引き上げレースに参戦しました。下院議長が交代し、2年間の予算案が承認され、債務上限問題が「解決」し、政府機関の閉鎖は回避できました(簡単には信じてもらえないでしょうが、私は、政府機関は閉鎖されずに開いている方が米国にとってよいと考えています――異論がある人は多いと思いますが)。

M&Aは10月も非常に活発で、従って、引き続き証券会社の損益計算書に反映されるでしょう(もちろん会計士や弁護士も)。ベルギーのビール大手Anheuser-Busch InBev(AHBIF、10月は14.6%高)は、数回にわたる買収提案を経て、ついに同業の英SABMiller(SBMRF、同7.7%高)を1,060億ドルで買収することになりました。IT大手Dell(株式非公開)は、コンピューター・ストレージ大手 EMC(EMC、同8.5%高)の買収を、現金670億ドルならびにEMCが株式の80%を保有するVMウエア(VMW、同23.7%安)のトラッキングストック(部門業績連動株)で行うと発表しました(IT業界で史上最大規模の買収)。資産運用大手Blackstone(BX)は、ニューヨーク市最大規模の複合集合住宅施設(Stuyvesant and Peter Cooper、総戸数1万1,200戸)を53億ドルで買収すると発表し、集合住宅REITのEquity Residentialは複数世帯住宅不動産2万3,000戸を不動産投資会社Starwood Capital Groupに54億ドルで売却することを明らかにしました。ウエハ製造設備メーカー(半導体用)Lam Research(LRCX、同17.2%高)は同業のKLA-Tencor(KLAC、同34.2%高)を106億ドルで買収すると発表しました。アトランタに本拠を置くエネルギー関連商品の取引所Intercontinental Exchange(ICE、同7.4%高)は、金融情報サービスのInteractive Data(報道によるとIPOも検討していた模様)を52億ドルで買収すると発表しました。電力ガス大手Duke Energy(DUK、同0.7%安)からは、同業Piedmont Natural Gas(PNY、同43.0%高)の49億ドルでの買収が発表されました。ブリヂストンは自動車用品大手Pep Boys(PBY、同23.3%高)を8億ドルで買収することを発表しました。地方商業銀行大手のKeyCorp(KEY、同4.5%安)は同業First Niagara(FNFG、同1.4%高)を41億ドルで買収すると発表しました。また医薬品大手 Pfizer(PFE、同7.7%高)と後発医薬品メーカーAllergan(AGN、同13.5%高)が合併協議を行ったことが明らかとなりました。実現すれば3,000億ドル超となるこの案件を巡っては、AGNの本社がアイルランドにあるため、PFEが法人税負担軽減のために合併後の本社を海外に移転するのではないかとの憶測も浮上しています。


経済関連のニュースも多く、中でも2つのニュースが特に注目を集めました。一つは、FRBが今回は利上げを見送ったものの、12月の利上げの可能性には含みを残したことです(経済指標次第という従来の姿勢を改めて示しました)。市場の予想では2016年が依然として有望です。もう一つは、10月29日発表の第3四半期のGDPの速報値(3回公表される数値の第1弾)がほぼ予想通りになったことです――とはいえ成長率は1.5%と、第2四半期の3.9%(第1四半期から反発)から減速しました(2回目の改定値は11月24日、最後の確報値は12月22日に公表予定)。世界の経済指標に関するニュースでは、国際通貨基金(IMF)が2015年の世界経済成長率予想を再び下方修正し、従来の3.3%から3.1%とし、2016年についても3.8%から3.6%へ予想を引き下げました。ドイツの8月の製造業受注指数は前月比0.3%上昇の予想に対して同1.8%下落となりました。ユーロ圏以外からの需要が3.7%減だったことが問題のようです。中国が19日に公表した第3四半期のGDP成長率は前年同期比6.9%と、予想(6.8%)を上回ったものの、2009年以来の低い伸び率となり(2009年第1四半期は6.2%)、政府の公式目標の7.0%(現在「7%前後」とされています)を下回りました。中国は23日、2014年11月以降で6回目となる0.25%の利下げにより、貸出金利を4.35%に引き下げ、預金金利を1.75%から1.5%に引き下げました。また経済の成長と安定を下支えするために預金準備率の引き下げも実施しました。サウジアラビアは、他の石油輸出国機構(OPEC)加盟国の動きに合わせて、アジア向けの原油価格を引き下げました。レポートによると、原油安を受けた米国の設備投資支出の削減を背景に、2016年の米国の原油生産量は2008年以来初めて減少に転じるとみられます。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスの調査によると、S&P 500構成企業の2015年上半期のエネルギー関連の設備投資額は20.5%減少しました(1,040億ドルから830億ドルへ減少)。米国の9月の雇用統計には明るい材料はなく、当月の数字も過去の修正値も予想を下回り(非農業部門就業者数は20.1万人増の市場予想に対して14.2万人増)、労働参加率は1977年9月以来の低い水準(62.4%)に低下しました。9月の生産者物価指数(PPI)は予想を下回る前年同月比1.1%低下となり(食品とエネルギーを除くコア指数は0.8%上昇)、消費者物価指数(CPI)は前年同月比で横ばい、食品とエネルギーを除くと同1.9%の上昇でした。個人消費支出(PCE)は前年同月比0.2%上昇、コアPCEは1.3%の上昇となりました。住宅関連のニュースは強弱まちまちで、8月のFHFA住宅価格指数は予想を下回り(予想の0.5%上昇に対して0.3%上昇)、9月の中古住宅販売件数は予想を上回り、新築住宅販売件数は予想(54.9万件)を大幅に下回る46.8万件となりました。

S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、S&P500の構成銘柄に調査・コンサルティング会社のVerisk Analytics(VRSK)を追加し、建設機械会社のJoy Global(JOY)を除外しました。またHewlett-Packard(HPQ)からスピンオフされるテクノロジー・ソリューション会社Hewlett Packard Enterprise(HPE)を10月30日の取引終了後に追加し、銀行持ち株会社Hudson City Bancorp(HCBK)を11月2日の取引終了後に除外すると発表しました。Hewlett-Packardは社名がHPに変更され、引き続きS&P500の構成銘柄にとどまります。

10月はFRBが政策金利を再び据え置いたものの、12月(そしてそれ以降)の利上げの可能性は残されたため、金利は上昇しました。米国10年債利回りは2.14%で取引を終えました(9月は2.05%、2014年末は2.17%、2013年末は3.03%)。30年債の利回りは2.92%となりました(同2.87%、2.75%、3.94%)。為替市場では1ユーロに対してドルは1.1007ドル(同1.1165ドル、1.2098ドル、1.3756ドル)、英ポンドに対しては1.5427ドル(同1.5129ドル、1.5582ドル、1.6564ドル)、円は1ドルに対して120.62円(同119.91円、119.80円、105.20円)、人民元は1ドルに対して6.3161元(同6.3567元、2015年8月10日の切り下げ前は6.2104元)となりました。金は1,141.70ドル(同1,114.40ドル、1,183.20ドル、1,204.80ドル)となり、原油価格は1バレル40ドル台半ばで推移して46.39ドルで(同45.45ドル、53.27ドル、98.70ドル)、ガソリン価格は2.228ドルに下落して(同2.322ドル、2.299ドル、3.271ドル)10月の取引をそれぞれ終えました。VIX恐怖指数は相場が上昇する中、9月の24.50から低下して15.09で10月を終えました。


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10月のマーケットは「大虐殺の10月」ならぬ「夢のような1カ月」に

10月のS&P500は8.30%高となりました。10セクター全てが上昇し、構成銘柄のうち420銘柄が値上がりしました。上昇を牽引したのはこれまで振るわなかったセクターです。素材セクターは、9月は9.55%の下落と最も低調でしたが、10月は反発して13.45上昇と最も好調でした。残念ながら、1カ月だけでは1年分の損失は打ち消せず、同セクターは年初来で依然として6.76のマイナスとなっています。同じく反発したのはエネルギーセクターで11.25%上昇しました。原油価格は僅かな上昇にとどまったものの、1バレル40ドル台半ばで活発に取引されました。ただし年初来では14.40%低下と、全セクター中で最低となっています。10月は安定性や利回りが選好されなかったことから、公益事業は主に持続的な低金利が下支えとなったものの1.05%の上昇でした。一般消費財セクターは8.99%上昇しました(年初来では12.15%上昇と、全セクター中で最高)。消費者の懐が潤い、消費を増やせるようになったとの見方によります(もちろん反対に懐具合がさみしくなったからといって、根っからの消費好きな米国人は財布の紐を締めたりしませんが)。10月は、420銘柄が値上がりしました(平均上昇率は9.72%)。それに対して9月は148銘柄、8月は僅か60銘柄しか値上がりしませんでした。10月の値下がり銘柄数は85銘柄(平均下落率は5.00%)と、圧倒的多数の銘柄が値下がりした8月(442銘柄)、9月(355銘柄)を大きく下回りました。多くの銘柄が業績やガイダンスの発表に大きく反応し、変動は大幅になりました。構成銘柄の約3分の1にあたる170銘柄で上昇率が10%以上となり(平均上昇率は15.22%)、下落率が10%以上となったのは15銘柄でした(平均下落率は14.36%)。


11月は経済指標の重要性が高まるとみられます。FRBは、利上げは経済指標次第との姿勢を維持しており、12月(15~16日)のFOMCに向けて現在の景気の基調を見極めようとするでしょう。小売業界からは、休暇シーズンの幕開けとなる感謝祭翌日の「ブラック・フライデー」の売上高が公表される予定です(感謝祭の11月26日は市場休場。翌日は米東部時間午後1時まで)。投資家の間では、クリスマス商戦の動向や小売業の競争激化に伴う利益率への悪影響に注目が集まるとみられます。

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投資家が押さえておくべきポイント
・素晴らしいことに、10月のS&P500は8.30%上昇し、調整局面からの反騰による2011年10月の10.77%の上昇以来、月間では最大の上昇率となりました。そして、もう一つ素晴らしいこととして、S&P500は5週連続の上昇を記録しました(同期間の上昇率は7.66%)。
・大荒れ相場という野獣を飼いならしたのは企業決算でした。全体として決算からは、高い利益率、堅調なキャッシュフロー、そしておそらくは(常に「おそらく」ですが)、消費支出の拡大が続いていることが示されました。
・もちろん、持続的な低金利という美女も登場し、一部で醜い為替差損が生じたにもかかわらず(1カ月が過ぎた段階で、第4四半期もさらなる悪化が見込まれます)、業績予想の達成を可能にしました。
・VIX指数は、急上昇した過去2カ月から落ち着きを取り戻し、9月末の24.50から15.07に低下して10月を終えました(S&P500の8.30%上昇に何か恐れることがあるでしょうか?)。
・原油価格は10月も変動が続いたものの、月末価格ベースでの前月比の変化は(比較的)小幅にとどまり、1バレル46.41ドルと9月末の45.45ドルから上昇して取引を終えました。石油企業が発表した長期計画では、原油価格は低水準が続くと想定されています。
・S&P500構成企業の20%超が株式数を4%以上減らし、EPSの4%以上の押し上げをもたらした記録は、2015年第3四半期で7四半期連続に達する模様です。

考えのメモと注目のポイント:
・「FEDウォッチャー」にとってすべては経済次第です。FRBの12月FOMCでの利上げの決定は、今後2回の雇用統計と求人労働異動調査、第3四半期のGDP成長率改定値、ならびに一連のインフレ指標(消費者物価指数、財価格、サービス価格など)に基づいて判断されることになります。
・中国政府は(35年間に及ぶ一人っ子政策の後に)第2子の出産を認めることを決定しました。乳幼児向けのサービスや必需品でさらなる需要が生まれることになるでしょう。
・9月のレイオフの発表(Hewlett-Packard:2万~3万人、Caterpillar:1万人)に続き、10月も国内でより小規模な人員削減計画が発表されました。また、Deutsche Bankは3万5,000人、Chevronは7,000人の人員削減計画を明らかにしています。
・今年のM&Aの活況は今後も続くとみられます。

基本統計:
・S&P500は10月の1カ月間で、第3四半期の6.94%の大幅な下落を打ち消し(10月は8.30%上昇)、年初来の騰落率はプラス(0.99%)に転じました。
・暫定集計の段階ながら、2015年第3四半期も7四半期連続で、S&P500構成企業の20%超が株式数を前年比4%以上減らし、EPSの押し上げにつながっています。第3四半期は、決算発表を終了したS&P500 構成企業のうち23%がこの基準を満たしており、第2四半期の21%から増加しています。
・S&P500構成企業の2015年第3四半期の営業利益は前期比5.3%増が予想されているものの、過去最高を記録した2014年第3四半期の水準からはなお6.9%の減少が見込まれています。前年同期比66%減が予想されているエネルギーセクター(同セクターは2015年第1四半期、第2四半期ともに減益)を除いたベースでは前年同期比2.9%増が見込まれます。
・金利は低水準にとどまり、米国10年債利回りは2.14%と、2014年末の2.17%から低下して10月の取引を終えました。
・S&P500の2015年第4四半期予想EPSは、10月に2.2%低下しました(現在では、2014年第4四半期のEPSをわずか0.01ドル上回る水準)。また、2016年通期の予想EPSも1.8%低下しました。
・S&P500のリターンは、10月がプラス8.30%(配当を含めたトータルリターンは8.44%)、過去3カ月間ではマイナス1.16%(同マイナス0.63%)、年初来ではプラス0.99%(同2.70%)、過去1年間では3.04%(同5.20%)となっています。

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11月のフューチャー・ショック
過去の実績を見ると、11月は58.6%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は4.04%、下落した月の平均下落率は4.25%で、全体の平均騰落率はプラス0.66%となっています。

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FOMCの会合:
12月15-16日※、2016年1月26-27日、3月15-16日※、4月26-27日、6月14-15日※、7月26-27日、9月20-21日※、11月1-2日、12月13-14日※
※議長の記者会見が通常、米東部時間午後2時30分に行われます。また、四半期ごとの経済見通しの改定が2時に発表されます。
 

ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・
インデックス
シニア・インデックス・アナリスト

本翻訳は、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。
SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはこちらをご参照ください。
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配信元: みんかぶ株式コラム