経営者をどう評価する?

著者:舞妓さん
投稿:2015/08/05 14:28

 株式投資を行う際には様々なポイントを考えなければなりません。その会社が置かれている市場全体の動き、ライバル企業・代替製品・技術革新の動向、その企業を率いる経営者、そして財務諸表などなど。どのポイントも、分析・評価は簡単ではありませんが、中でも経営者の評価は非常に難しいポイントと思います。人間が人間を判断するのは、いつの時代も大きな課題です。今回のまいこばなしでは、ファンドマネージャーとして、どのようなポイントに基づいて経営者を評価しているのか、を書いてみたいと思います。
(今でも、正しい答えはないと思っています。今回の表題を、“どう評価する?”と疑問形にしたのは、今後も正しい答えを自分に問い続けるという意味を込めています)

 先日、ダイヤモンド・オンライン社のホームページに「日経新聞の『私の履歴書』に出るとROEが低下するという怪」(著者:山崎元氏(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員)) (http://diamond.jp/articles/-/73760)という興味深い記事がありました。内容は、岡三証券の栗田昌孝シニア・クオンツアナリストが発表した「『私の履歴書』の呪い」というレポートに関するものでした。
「『私の履歴書』の呪い」というレポートの要点は、2005年~2015年のデータに基づくと、

 ① 過去10年「私の履歴書」の登場企業は平均すると、登場する当該年には東証一部平均よりも2%近くROEが高い
 ② ところが「私の履歴書」に登場すると、翌年、翌々年とROEが低下し、登場の2年後には東証一部の平均を2%以上、下回っている

というものでした。あくまでもデータのみに基づいて分析されているので、何が因果関係は分かりません。(詳しくはインターネットで上記の記事をご参照ください)

 これも経営者を評価する方法の1つとして非常に面白いポイントと言えます。日経新聞の『私の履歴書』には、誰もが知っている優良企業の経営者が登場することが多く、概ね業績が好調なときに取り上げられることが多いと言えます。よって、登場した後に平均ROEが低下するというのは、『私の履歴書』に登場する時点では自社の業績は好調であると同時に、経営者の慢心が出ている可能性があるのではとの見方もできるのではないでしょうか。もちろん、慢心でなく、単純に景気サイクルによる業績低迷なのかもしれません。

 他社に在籍している知合いのファンドマネージャーには、経営者の腕時計や車を見ているという人もいます。所有物を通じて自己顕示欲の強さを感じ取り、あまりにも自己顕示欲が強い経営者は避けたい、というのが背景だそうです。同じようなポイントとして、著作の有無をあげるファンドマネージャーも居ます。本来、経営者は執筆活動の時間などないはずだ、というのが背景です。


 どれも一理ありますが、あまり当たっていないようにも感じます。沢山の書物を執筆している実力経営者は何人もいます。ライフスタイルに関する雑誌などで、高級外車を乗り回す姿を見せる辣腕経営者もいます。自己顕示欲と企業業績にはあまり関係がないのかも知れません。逆に、あまりにもみすぼらしい格好をしていたら、それはそれで問題だろうと思います。

 人間が人間を判断する際には主観が大きく影響してしまいます。非常に紳士的な態度の経営者に好感を持つ人もいれば、逆に、頼りなさ・リーダーシップの欠如を感じる人もいると思います。経営者に対して感じる、安心感・嫌悪感は、数字では割り切れないだけに、正しい答えを出すことは極めて難しいと言えます。

では私がどのようなポイントを重視しているかというと、大枠においては、

① 情熱がある。誠実さを感じる。経営者が、自社のことが大好き、自分の仕事が大好きと感じることが出来るのか。全てにおいて情熱と、誠実さは大切だと思います。

② 経営に関する意思決定が自分の考えに基づいている。様々な状況を考慮した上で、意思決定をしている場合、経営者の話には自然と迫力が出ます。自分の考えに基づいて意思決定しているため、特に上手く行かなかったときに、どこを改善すべきか、が見えている経営者が多いように感じます。

③ 自分の任期とは無関係に、その会社の将来を考えている。どの方向に会社は向かうべきなのかを長期的な視点で考えている。目先の先行投資負担を厭わず、会社の将来のために動いている経営者は、一歩だけ余裕をもって意思決定できているように感じます。

もっと沢山のポイントがありますが、後日、機会がありましたら記載したいと思います。

 ファンドマネージャーの仕事は、企業の財務諸表を分析することが中心のように考えられていますが、実際には多くの方にお会いし対話を通じて、投資先企業の発掘をしています。そして財務諸表は、当該企業の経営者が社員の方々と一緒になって作り出したものです。ボトムアップ・リサーチでは経営者を評価するというのは、最も難しい部分ではありますが、欠かせないポイントなのです。

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配信元: みんかぶ株式コラム