大統領選挙前の混乱は一時的か、年末に向けては円安、株価上昇を予想

著者:戸松信博
投稿:2016/11/08 17:56

大統領選挙前の混乱は一時的か、年末に向けては円安、株価上昇を予想

日本ではクリントン候補圧勝との印象を与えるような報道が目立っているように思います。しかし、大手メディアを含む11社の世論調査の中で、過去3度の大統領選挙で最も正確な数字を挙げてきたIBD/TIPPによる合同調査結果によると、10月31日時点でトランプ氏41.6%、クリントン氏44.1%と、徹底的な差がつくほどまでではなく、接戦となっており、どちらが勝つのか予断を許さない状況と思います。

今回の大統領選は政策論争より誹謗中傷合戦となり、「史上最も醜い討論会」とも揶揄されています。あえて言えば、どちらがより好ましくないかという投票とも言えると思います。

ここでは、それぞれの候補が大統領となった場合の株・為替、日本経済への影響を考えてみましょう。

 まず、トランプ氏が大統領となった場合ですが、同氏が唱える貿易保護主義(北米自由貿易協定(NAFTA)や世界貿易機構(WTO)からの脱退や、中国やメキシコに対する関税の引き上げ等を唱えている)やFRBに対しての批判などは、世界経済が混乱する火種となる可能性があり、株式市場にとってマイナス要因です。また、日本を為替操作国として批判し、関税を大幅に引き上げるとの主張をしており、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)にも反対しています。もっとも、トランプ氏が大統領に決定しても、実際にはこれらの主張がそのまま通る可能性は低いと考えますが、不透明感から為替は一時的に急激な円高となり、日経平均は大きく調整する恐れがあります。

 一方、クリントン氏が大統領となった場合ですが、こちらも株や為替、日本経済にとって必ずしも好ましいとは言えません。まず、クリントン氏は所得が100万ドル以上の富裕層には最低30%の所得税率を課すなど、富裕層や投資家に的を絞った増税を主張しています。通常、富裕層への増税は、投資資金の減少につながる懸念などから株式市場のマイナス要因となります。さらに、FRBや地区連銀理事会のメンバーから銀行出身者を排除することを主張している点も金融政策の不安定化を招く可能性がある要因としてマイナスです。

また、現職のオバマ大統領は「史上最悪の大統領」とのレッテルを貼られるほど、米国の求心力は8年間に大きく失われました。そのオバマ政権の元閣僚で、同じ政党のクリントン氏が後を継いだとしても、株価的に大きなプラスとはならないでしょう。日本に対しての影響も、為替が円安になったり、日経平均がプラスに動く要因には成り得ないと思います(ちなみに、クリントン氏もTPPには反対の立場で、これも日本経済にとってはマイナスです)。

強いてプラス面を言えば、増税による消費への影響があまりない富裕層への増税により、政府のインフラ投資を5年間で2750億ドル拡大する計画としていますので、一時的な景気浮揚効果は出るかもしれません。

総じて、トランプ氏よりクリントン氏の方が不透明感や波乱要因が少ない事がプラス面と言える程度です。インドの首相交替時や、安倍政権が生まれた時のような、「停滞感からの開放」というプラスのイメージはありません。クリントン氏の方がゆっくり停滞を続けていく程度のイメージで、トランプ氏の大崩壊をもたらすような危うさに比べ、安堵感があります。

さて、16年末時点の予想の方は現時点で可能性が高いクリントン氏勝利を想定して予想をしました。クリントン氏勝利の場合、順当に12月に利上げが見込まれ、緩やかな円安が続くものと予想します。現在の基調で円安が続けば年末までに1ドル=108円程度まで円安が進むのではないかと予想します。そして、円安になればそれに応じて日経平均も上昇し、1万8200円程度まで上昇するのでないかと予想します。

為替予想:1ドル=108円
日経平均予想:1万8200円
戸松信博
グローバルリンクアドバイザーズ(株)代表取締役
配信元: 達人の予想