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―コロナ禍で不安拡大も開催準備加速でジワリ関心高まる―
7月23日の東京オリンピック開幕まで約1ヵ月に迫った。新型コロナウイルスの感染が収束しない状況下での開催に反対の声も根強いが、準備は着実に進んでいる。政府は、10都道府県に出していた緊急事態宣言について沖縄を除き20日で解除。7都道府県については、きのうから「まん延防止等重点措置」に移行したが、「五輪ありきの解除」とみる向きは多い。また菅義偉総理大臣は17日、宣言解除を前にした記者会見で「G7としての開催への支持が表明され、首脳宣言にも明記された」とし、改めて東京オリンピック・パラリンピック開催への意欲を見せている。揺れる東京五輪、それでも活躍期待が高まる関連株を取材した。
●定員50%以内で最大1万人に決定
東京オリンピックは7月23日~8月8日、パラリンピックは8月24日~9月5日の日程で開催されるが、きのう行われた国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長らとの5者協議では、東京オリンピックの観客数上限を定員50%以内で最大1万人とすることが正式に決まった。1年遅れの開催にどうにかこぎ着けそうな東京五輪だが、思い起こせば関連株の裾野は広い。訪日客需要を見込んだインバウンド関連をはじめ観光、スポーツ、放送・広告、 警備など幅広い分野がこれに含まれる。ただ、新型コロナの世界的感染拡大、それに伴う東京五輪の延期と、関連株には苦汁を飲むに等しい状況が続いていた。ここにきては新型コロナワクチンの接種拡大から、経済正常化を期待した買いが東京五輪関連株の一角にも流入、一部銘柄の株価を後押ししている。
●「数字としては目に見えない経済効果」
数日前、「ここまできたら、(東京五輪は)やるんじゃないですか。われわれも報道ベース以外に情報はまったくないですが」と、東京五輪に関連する企業のIR担当者は言う。既に、開催準備のためIOCのジョン・コーツ調整委員長が15日に来日しており、各国の選手団も相次ぎ入国するなど開催へ向けての動きは加速している。ただ、株式市場においては東京五輪への関心は、けっして高いとはいえない。それでも、開催ムードが徐々に醸成されるなか、関連株にも関心が集まることが予想される。
国内証券のストラテジストにコメントを求めると、「東京五輪は開催される方向で動いているが、観客制限がかけられるなかでパブリックビューイングもままならず、粛々と行われるイメージである。経済効果という点では正直期待できないし、してもいけない。しかし、参加することに意義があるとよく言われるが、今回の五輪については開催することに意義があると考えている」。
この理由について「コロナ禍のなかで、逆風にも負けず開催できたということが、世界に対する日本の一つの実績にほかならず、自信につながるからだ。数字としては目に見えない経済効果だが、その後の政策面での支援にも大きな助力となる。例えば五輪開催成功をメルクマールとして、ワクチンの普及をにらみながらにはなるが、Go To トラベルやGo To イートなど以前悪評にさらされた政策についても、大手を振って打ち出すことができるようになる。秋の総選挙を前にして、五輪成功を追い風に財政政策をリリースすることは菅政権にとってもベストシナリオといえる」という見解を示した。
●イベント関連株に出遅れ感
イベント関連株も東京五輪関連の一角として、延期決定までの数年間は株式市場で脚光を浴びてきたセクターの一つだ。しかし、相次ぐイベントの中止に業績も悪化、厳しい状況が続いてきた。しかし、ここにきて関連株にはジワリ見直し機運が浮上。政府が宣言解除後のイベント制限について1万人を上限とする方針が伝わったことで、17日にはスポーツイベントに強みを持つセレスポ <9625> [JQ]が思惑買いに一時ストップ高するなど関連株の株価を刺激した。また、博展 <2173> [JQG]、乃村工藝社 <9716> 、丹青社 <9743> といったイベント関連の主力どころについては、底値離脱の動きを見せているものの相対的に出遅れ感もあり、中長期の視点に立てば絶好の拾い場ともいえる。ただ、ワクチン接種が拡大しているとはいえ、イベント業界にとってはいまだ不透明要因が多いのも事実だ。それでも、東京五輪を通過すれば、次の焦点は2025年の大阪万博に移ることが予想され、再び活躍の舞台が待っているだけにイベント関連株には注視が必要だ。
●警備保障関連は「開催」で活躍の場
約1年遅れとなる東京での五輪開催だが、取材のなかで「企業としては、やらないより、やってくれた方が良い」という声が、さまざまな関連企業から聞かれた。パンデミックという有事のなかでの開催なだけに、言葉を選びながらも東京五輪への期待感を話すが、確かに関連業務を請け負う立場としては、中止よりは開催の方が良いという答えは当然だろう。開催ならばそのままで、開催されないならば多少なりともマイナスの影響がでるということになる。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と「オフィシャルパートナー契約」を締結し警備業務を担うALSOK <2331> 、セコム <9735> はどうなのだろうか。両社ともに取材に対して、(五輪開催については)業績に織り込んでいるという。ある警備業界関係者は「そもそも全体の業績に対する(五輪業務の)インパクトは、それほど大きくない」と話し、いずれにせよワクチン接種拡大による経済正常化が業績回復を後押しするとみているという。もともと上場する警備会社の業績は底堅い状況にあった。以前の取材で、別の関係者は「上場している警備各社に関していえば、イベント警備に比重をおいていない企業が多いことも比較的ダメージが少なく済んだことの要因」と分析。今後、これまで止まっていた営業活動が本格的に再開されることで、新規顧客の開拓が業績にとって力強い援軍になる。
なお、東京五輪に向けて設立された「東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体」は、ALSOKとセコムが共同代表を務め、セントラル警備保障 <9740> も理事会社として名を連ねている。
●放送関連、市況回復が業績回復後押し
フジ・メディア・ホールディングス <4676> 、TBSホールディングス <9401> 、日本テレビホールディングス <9404> 、テレビ朝日ホールディングス <9409> 、テレビ東京ホールディングス <9413> といった民放各社にも目を向けておきたい。今大会は、入場制限という異例の状況にあり観戦もままならないなか、五輪中継への関心も高まりそうだ。複数の企業に話を聞いたが、当然のことながら東京五輪開催については業績に織り込み済みだという。
取材に対し「いまひとつ大会の内容がはっきりしないことから、広告については引き合いがあるものの、ここで一気に新たな需要が増えるかどうかは不明だ。ただ、放送以外にもさまざまな事業を行っており、それらを含め(経済正常化による)業績回復期待は大きい」という。また、五輪効果よりも、ここにきての市況回復が広告収入を後押ししているとし「今期の業績予想については、不透明感を織り込み“保守的な数字”といえるかもしれない」と答える企業もあった。少なくとも経済の正常化が進めば、放送局の業績も復活の道程を走ることが予想される。こうしたなか、民放各社の業績予想で目を引くのがフジHDだ。同社は、22年3月期の連結営業利益が、前期比32.7%増の216億円とV字回復する見通しを示している。
●臨床検査関連は五輪需要で思惑も
東京五輪関連のダークホースとしては、PCR検査 などを請け負う臨床検査会社にも注目しておきたい。大会組織委員会は、選手など大会関係者に対し原則として毎日、新型コロナの検査を義務付ける方針だ。世界各国からの報道関係者などを含めると、その数は非常に多い。もちろん、日程が進むにつれ、競技者の帰国などに伴い検査数は減少することになるが、オリンピックに続きパラリンピックも開催されることから、検査需要が一気に増加することで、思惑買いを誘う可能性もある。契約上の問題があるということで企業名は伏せるが、ある大手臨床検査会社に聞くと、「関係団体から話が来ているのは事実だ。ただ、正式契約はまだしておらず、現在のところ具体的に話せることはない」という。既に、来日したウガンダの選手団のうち1人が新型コロナの検査で陽性だったことが報じられており、安全・安心な大会を目指すうえで臨床検査会社の担う役割は大きい。
主な臨床検査大手では、ファルコホールディングス <4671> 、ビー・エム・エル <4694> 、H.U.グループホールディングス <4544> などが挙げられるが、ここPCR検査の需要増を背景に、業績が回復傾向にある銘柄も多い。“五輪需要”も考慮し各社は検査体制の強化を進めているが、BMLは4月15日に「新型コロナウイルスPCR検査の受託体制の増強」を発表。20年12月時点では1日に2万900件の検査能力だったが、4月15日時点では1日に3万件を超える検査の受託体制を構築したという。臨床検査に絡む銘柄は、新型コロナ感染拡大の影響を受け患者の受診控えが発生したことで業績にも影を落としたが、ここにきては持ち直しの動きも出てきているだけに、今後の動きには注目が必要だ。
●業績急回復のアシックス、大坂なおみ参加ならヨネックスも
アシックス <7936> 、デサント <8114> 、ゼット <8135> [東証2]、ヨネックス <7906> [東証2]など「スポーツ関連」にも目を配っておきたい。このなかアシックスは、東京五輪のスポーツ用品カテゴリーで唯一のゴールドパートナーだが、5月13日に発表した21年12月期連結業績予想で、営業利益を70億~100億円から115億~135億円(前期39億5300万円の赤字)へ上方修正。同時に発表した第1四半期決算では、営業損益146億400万円の黒字(前年同期8億8200万円の赤字)と赤字からの急回復を見せている。これについて、同社はきょう寄り前に「通期連結業績予想の数値は、当競技大会の各種開催シナリオの影響を考慮しているため、今回の開催方法の発表による業績予想の変更はない」とコメントを出した。株価は13日発表の業績予想を受け上昇加速、6月8日には2791円まで買われ年初来高値を更新しており、現在は上昇一服も2500円半ばで頑強展開となっている。
また、大坂なおみ選手とスポンサー契約を結ぶヨネックスにもスポットライトが当たりそうだ。大坂選手については、東京五輪が復帰戦になるとの報道もあり、その動向に世界の注目が集まっている。成績次第の面はあるものの、東京五輪に出場することになれば思惑買いを誘う可能性もありそうだ。
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