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―米中の外食需要回復が追い風、30年5兆円に向け政府本腰―
農林水産物・食品の年間輸出額が初めて1兆円の大台を突破する見通しだ。農林水産省がこのほど発表した「農林水産物輸出入情報」によると、2021年1-10月の輸出額は少額貨物(1品目20万円以下)輸出額を含め前年同期比28.0%増の9734億円となった。輸出は今年に入ってからほぼ毎月、前年同月比で20~40%増の水準が続いており、背景には米国や中国などで外食需要が回復していることがあるもよう。政府は食分野の輸出促進に一段と注力する構えで、関連企業のビジネス機会拡大が期待される。
●10月は単月で過去最高更新
1~10月の国・地域別の累計で輸出額が前年同期より20%以上増えているのは、多い順に中国、米国、台湾、韓国、シンガポール、オーストラリア、フィリピン、EU(欧州連合)など。輸出額トップの中国と3位の米国は40%を超える大幅増で、2位の香港は8.8%増となっている。輸出の増加が大きい主な品目は、アルコール飲料の952億円(前年同期比72.2%増)、牛肉の417億円(同89.7%増)、ホタテ貝の516億円(同2.1倍)など。アルコール飲料では日本酒に加え、ウイスキーや焼酎(泡盛を含む)も伸びた。10月の輸出額は前年同月比14.9%増の1054億円で、単月として過去最高を更新している。
岸田文雄首相は10日に開かれた農林水産物等輸出促進全国協議会で、「25年に2兆円、30年に5兆円とする目標に向けて、品目別の輸出促進団体の組織化によるオールジャパンでの輸出力強化を図る」と述べ、次期通常国会に輸出促進法改正案を提出する考えを示した。農水省は21年度補正予算案で「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」として約433億円を計上したほか、自民・公明両党が10日にとりまとめた22年度税制改正大綱では輸出事業計画に基づき導入される製造設備や物流施設などに対して税制上の措置を創設することなどが盛り込まれており、 農林水産物・食品の輸出に関連する事業を手掛ける企業の追い風となりそうだ。
●テックファムは菓子輸出を支援
兼松 <8020> は7日、インドネシアの総合食品メーカーであるチサルア・マウンテン・デイリー(チモリー)に出資したことを明らかにした。同社は中期ビジョンで「アジア食市場の深耕」を注力分野のひとつに掲げており、チモリーグループとは12年に食品加工などを担う企業を共同で設立し、運営している。今回の出資を通じて、グループの販売チャネルを活用した総合食品卸売業への進出や、今後同国に進出する日本の食品メーカーや小売企業への支援を強化し、同国でのフードバリューチェーンの構築・強化を推進する考えだ。
テックファームホールディングス <3625> [JQG]傘下で農水産物流通ソリューションを手掛けるWe Agriは10月から、単独では海外販路を開拓できない人気菓子店など菓子製造業の輸出支援を開始した。We Agriは、高品質な生鮮品を中心とした日本産食材の流通拡大に注力しており、今回の取り組みはその一環。また、同社は農水省の農林水産物・食品の輸出拡大事業として「日本食冷凍ミールキット販売プロジェクト」に参画し、冷蔵・冷凍品輸送のコールドチェーン(低温物流)やシンガポールの主要小売店への販路開拓による流通網の構築などを行っている。
三井化学 <4183> は8月、日本産青果物などの輸出プラットフォーム事業を運営する世界市場(東京都品川区)に出資した。同社は長期の海上輸送に耐えうる青果物用の鮮度保持包装資材及び知見、関係会社の三井化学アグロが農薬とその技術的知見を持っていることが強み。同社はアジアを中心に青果物の流通基盤の構築を目指す世界市場との協業を通して、日本の青果物輸出に係る課題に対するソリューションを提供する。
フォーバル <8275> は4月、シンガポールの食品卸大手であるアングリスと日本産の食品・食材・飲料などの同国への輸出及び販売の拡大で業務提携したと発表。これにより、フォーバルがサポートしている全国の食品関連事業者は、アングリスが運営するライブコマースなどの販売ネットワークを活用することが可能になった。
ラクーンホールディングス <3031> は3月から、BtoB(企業間取引)越境ECサイト「SD export(エスディーエクスポート)」で食品・飲料の取り扱いを始めた。輸出作業や手続き、代金回収はすべてエスディーエクスポートが代行するため、同サイトに出展する企業は国内販売と変わらない作業で、手間やリスクなく海外の雑貨ショップやカフェなど現地で事業を営む中小事業者との取引が可能。高品質で安心安全な日本の食品・飲料が世界で評価されるなか、海外バイヤーや流通額の増加が期待できそうだ。
●コールドチェーン関連にも注目
農林水産物・食品の輸出拡大とともに、コールドチェーンの需要と重要性が高まっている。コールドチェーンでは流通の各段階で切れ目なく一定の温度が保たれる必要があり、輸送技術だけでなく、保管庫などの拠点における冷凍・冷蔵技術からスムーズな移動を可能にするための交通経路の整備に至るまで一貫した管理が求められる。
日本郵船 <9101> グループのMTIは、空気組成をコントロールして食品の品質劣化を防ぐ特殊海上リーファーコンテナ「CA(Controlled Atmosphere)コンテナ」を展開。このCAコンテナによる海上輸送は、空輸と同等もしくはそれ以上の高品質を保ちつつ、空輸に比べ輸送コストは約10分の1に抑えられるといったメリットがある。
O’s&Tec(東京都目黒区)と日本ハム <2282> 、日鉄物産 <9810> 、岩谷産業 <8088> 子会社の岩谷マテリアルなどは4月、高電圧鮮度保持技術の活用に向けたコンソーシアム(共同事業体)を創設した。各社は多くの実証試験などを含めた意見交換や情報交換を行い、質の高いコールドチェーンの構築につなげる。
このほか、冷蔵倉庫大手のヨコレイ <2874> 、RFID温度ロガータグ(ラベル)を開発済みのサトーホールディングス <6287> 、マイナス30度からプラス30度までコントロールできる冷凍・冷蔵技術で世界の食品流通を支えるダイキン工業 <6367> 、フード・ロジスティクスを手掛けるセンコーグループホールディングス <9069> 、青果物や穀物など幅広い貨物の取扱実績を誇る上組 <9364> などにも目を配っておきたい。
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