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―脱炭素のキーパーツとして存在感、政府の半導体戦略で開発・設備投資を支援―
昨年秋ごろ以降に顕在化してきた 半導体不足が深刻さを増している。内閣府が7日に発表した5月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が3ヵ月ぶりに前月比2.6ポイント低下の92.7となり、なかでも「生産指数(鉱工業)」が同5.9%低下した。半導体不足に伴う自動車関連の生産や出荷の落ち込みが影響したとみられ、「鉱工業用生産財出荷指数」も低下した。
半導体不足の解消には、まだ時間を要するとの見方が強いが、一方で半導体を巡る状況には新たな動きもみられるようになった。経済産業省は6月、データ処理量の急増に伴うIT機器の消費電力の急増に対して、キーパーツである パワー半導体の消費電力を30年までに現在の半分に減らす目標を発表した。目標達成のため、超高効率の次世代パワー半導体(SiC、GaN、Ga2O3など)の実用化に向けて、研究開発支援をするとともに、導入促進のために、半導体サプライチェーンの必要な部分に設備投資支援などを実施する。
特に、GaN(窒化ガリウム)パワー半導体は、価格面が課題ではあるものの、高効率・高耐久性デバイスの実現が可能とされている。関連銘柄への注目も今後更に強まろう。
●小型化や高効率化に貢献するGaN
窒化ガリウムは、ガリウム(Ga)の窒化物(N)であり、SiC(炭化ケイ素)やGa2O3(酸化ガリウム)と同様の化合物材料。従来は青色LEDやレーザーダイオードの材料として広く用いられてきた。
これまで、生産における歩留まりの低さなどからSi(シリコン)と比較してコストが高くなり、これがネックとなっていた。ただ、GaNを用いたパワーデバイスはオン抵抗が低いため、高速スイッチング(ON/OFFの切り替え)が可能となり、例えば充電器やアダプターに使われてきたSiダイオードやトランジスタをGaNデバイスに置き換えることで、電力損失が抑えられ、発熱量が減る。その結果、機器そのものの小型化や高効率化を図ることができるため、最近ではスマートフォンやタブレット端末向けの急速充電器にGaNを採用するケースが増えている。
モバイルバッテリーや急速充電器の人気ブランド「ANKER」や「AUKEY」が相次いでGaNを用いた充電器を製品化しているほか、ASUSの最上位モデルパソコン「ProArt StudioBook One」にはGaNを採用したACアダプターが同梱されており、300ワットのACアダプターとは思えない、手のひらサイズで大きな話題となった。このようにGaNを用いたパワー半導体市場は徐々に拡大しつつあり、今後更なる加速が期待できる。
●日製鋼はGaN単結晶基板の量産化実証設備を建設
関連銘柄としては、ここ最近でGaNパワー半導体に関連する取り組みを強めている企業が注目される。
日本製鋼所 <5631> は今年5月、三菱ケミカルホールディングス <4188> 傘下の三菱ケミカルと共同で、GaN単結晶基板の量産に向けた実証設備を、日本製鋼所M&E室蘭製作所構内に建設したと発表した。まずは4インチ基板の量産に向けた実証実験を行う。22年度初頭からは市場供給も開始する予定で、更に近年需要が増加するパワーデバイス用途に適用可能な6インチ基板の開発も行うという。
住友化学 <4005> は、15年に日立金属 <5486> のGaN基板・エピウエハー、ガリウムヒ素(GaAs)エピウエハーなどにかかる事業を取得し、次世代の化合物半導体材料の開発を強化している。同社に関しては、22年にもパワー半導体向けに4インチサイズの単結晶基板の量産販売を開始し、24年をメドに国内で本格的な4インチ基板拡大に必要な生産体制を整え、5年後をメドにGaN単結晶基板の売上高を現在の3倍強の100億円超に拡大させるとも伝えられている。
また、住友電気工業 <5802> は、世界で初めてGaNを用いた超高速トランジスタ(GaN-HEMT)を実用化した実績があり、5G基地局向けGaN-HEMTでは世界シェアトップを誇る。GaNデバイスは現在主流のシリコン製デバイスよりも高周波数帯域で使われるため、通信網が進化してより高い周波数帯の利用が進むと、更に需要が増える見通しだ。
●Mipox、オキサイドに注目
中小型株のなかにもGaNパワー半導体に関連した銘柄はある。
Mipox <5381> [JQ]は今年1月、名古屋大学との共同研究「半導体製造の生産性を向上させるキラー欠陥自動検査システムの開発」が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「官民による若手研究者発掘支援事業」に採択されたと発表した。GaNなど次世代パワー半導体のウエハー内部に含まれる結晶の欠陥を非破壊で可視化することで生産性を飛躍的に向上させるという。
オキサイド <6521> [東証M]は6月、GaN薄膜単結晶の成長に適した新材料単結晶基板「SAM」のサンプル出荷を開始すると発表した。SAMを利用することで、従来よりも高歩留まりで高性能なGaN薄膜単結晶の実現が期待できるとしており、今後量産化へ向けた開発を加速させるという。
このほか、GaNを使用したパワーモジュールを子会社が開発した富士通ゼネラル <6755> や新電元工業 <6844> 、GaNパワー半導体の開発向けに計測器や評価装置を手掛ける岩崎通信機 <6704> やHIOKI <6866> 、浜松ホトニクス <6965> 、GaNデバイスの中規模量産に対応した化学気相成長(CVD)装置やドライエッチング装置を提供するサムコ <6387> などにも注目したい。
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