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インターネットイニシアティブのニュース
―政府と日銀の足並み揃えた中央銀行デジタル通貨(CBDC)で風雲急の気配―
政府が中央銀行デジタル通貨(CBDC=Central Bank Digital Currency)の検討を公式に始めることが伝わっている。経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針)にも盛り込まれたが、デジタル通貨においては、日銀が7月2日に「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」と題した技術面の論点をまとめたリポートを公表していた。同リポート内で「ユニバーサル・アクセス」の観点から、多様なユーザーが利用可能な端末の開発が重要とし、「強靱性」に関しては、通信・電源途絶への耐性を備えたオフライン決済機能を備えることが望ましいとしており、この2つの特性について技術的に可能かを検討することが重要なテーマとして挙げている。
●デジタル決済へのシフトが加速
今回のコロナ禍は、「現金決済からデジタル決済へのシフト」の流れを生んだ側面があるが、これが一過性のものではなくなる可能性がある。現在は、現金流通高のGDP比が2割を超えており、国民の中銀マネーへのアクセスが困難になるような状況ではないものの、現金決済からデジタル決済へのシフトが継続していけば、当然ながら現金流通自体が次第に縮小していくことになる。このようなシナリオを想定した場合、デジタル決済へのユニバーサル・アクセスの確保、つまり年齢や障害の有無といったさまざまな要因にかかわらず、あらゆる人が問題なく利用できるか否かが必然的に重要となってくる。もちろん強靱性については、言わずもがなといったところだ。
CBDCについては、過去に何度か話題として取り上げられたことがあるが、政府の検討開始方針が公式に示されたことで改めて注目度が高まった。そもそも、日銀が銀行券を発行(日本銀行法第四十六条)していることは周知の通りだが、発行する銀行券の種類については「政令で定める。」(同第四十七条)とされており、実は政府の判断事項に属している。さまざまな手続きの決定や変更についても財務大臣の承認を受ける必要(同第四十九条)がある。つまり、政府がCBDCの検討を公式に始めることにより、現実味が一気に増してくることになる。
昨年6月に米フェイスブックが独自のデジタル通貨「リブラ」の発行計画を発表した。今や超巨大IT企業の一角となっているフェイスブックの世界規模の動きが実際に始まってしまえば、ドルや円など既存の法定通貨の価値を不安定なものにし、取って代わる危険性すらあるとの懸念が各国の強い抵抗を招いた経緯がある。国際決済銀行(BIS)は否定しているものの、こうした従来にない動きがCBDCへの流れを生み出したとされている。しかし、強い抵抗を受けてもリブラの開発を担う組織は当初の計画を進めているもようで、各国政府は取り組みの加速を迫られている。実際、BISが1月に発表した調査報告によると、調査対象となった中央銀行のうち、80%がCBDCのプロジェクトに取り組んでいた。更に最近のリポートでは、新型コロナウイルス危機を受けてCBDCの開発研究を改めて推奨している状況だ。コロナ禍において各国中央銀行の導入計画が加速するとみられるなか、慎重姿勢だった米国も検討を始めている状況だ。
●「デジタル人民元」が金融勢力図に影響
更にCBDC導入を加速させる最大の要因が、中国が準備を進めている「デジタル人民元」である。キャッシュレス化が進む中国は、デジタル通貨を導入しやすい環境にあるとされ、発行されれば、主要国としては初めてとなる。これが世界の金融勢力図に影響を与えかねない動きと注目されるようになり、各国の動きが加速しているといえる。なお、直近でも中国人民銀行は、いわゆる「スーパーアプリ」を展開する美団点評とデジタル人民元の試験運用についての協議を進めていることが報じられた。美団点評はアリババやテンセントと異なり、日本での知名度はあまり高くないものの、それらに次ぐ存在と目される巨大企業だ。
日本政府はキャッシュレスの推進を政策として進めており、安定的にキャッシュレスが進むような仕掛けを考えている。また、政府の未来投資会議においても、デジタルトランスフォーメーション(DX)を踏まえ、決済システム改革を進めていくなかで、関連銘柄への関心が高まっていくことになりそうだ。
●CBDC普及局面で電子マネー関連企業に商機
なお、CBDCと混同しやすい概念について簡単にまとめておきたい。中央銀行は誰でも365日、24時間使える支払決済手段として銀行券を提供しているが、CBDCとはこれをデジタル化したものとなる。我々にも馴染み深いSuica(スイカ)などの「電子マネー」の発行元は民間企業で、資金決済法に定める「前払式支払手段(プリペイド方式)」であり、CBDCとは異なる。また、よく話題に挙がる「仮想通貨(正式には暗号資産)」は、国家にその価値を依存しない独自の通貨であり、強制通用力も有していない。これに対し、デジタル通貨は中央銀行が発行する法定通貨そのものをデジタル化したものであるため、実現すれば送金や現金の管理などにかかるコストを削減できるといったメリットがある。
関連する銘柄としては、やはり電子マネーに関連する銘柄が中核になりそうである。仮想通貨は価格変動の大きさが決済利用を難しくしている側面があるため、デジタル通貨を決済インフラとして利用するにあたっては、価値の安定をいかに実現するかが求められる。現在の交通系などが発行する電子マネーとCBDCとは違うものであるが、まずは、政府と日銀が検討する段階において、幅広く流通している電子マネーがベースになると考えられる。将来的には地域通貨を含めた多くの電子マネーがデジタル通貨に集約される大規模ネットワークが構築される可能性も意識しておきたいところであり、メガバンクのほか、大手システムインテグレーター への関心が高まることも予想される。
●大手以外にも有力関連企業が目白押し
インターネットイニシアティブ <3774> は社会インフラとしてデジタル通貨取引のスタンダードとなるサービスの提供を目指しているが、6月には持ち分法適用会社で仮想通貨事業を行っているディーカレットを事務局として、デジタル通貨勉強会を開催している。この勉強会において、ITコンサルティング事業はビジネスイノベーション事業を展開するフューチャー <4722> の取締役が座長を務め、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクのほかセブン銀行 <8410> に加えて、NTTデータ <9613> 、KDDI <9433> が参画。オブザーバーとして金融庁、財務省、日本銀行、経済産業省も参加している。
また、ネットワークの規模が大きいほど利用者の利便性は向上するため、相互運用性が求められると考えられる。そういった点では交通系でJR東日本 <9020> が提供しているSuicaなどがターゲットになりやすいところであろう。NTTデータは、地方創生プラットフォーム構想の一部としてブロックチェーン を用いた地域通貨の実証実験を行っている。チェンジ <3962> は子会社のトラストバンクが、自治体向け地域通貨プラットフォームサービスを手掛けている。システムインテグレーターのアイエックス・ナレッジ <9753> [JQ]は、金融機関向けシステム開発に強みを持っていることから、みずほ銀行の「Jコインペイ」などへの思惑につながりやすい。
金融システムの開発を手掛けているインタートレード <3747> [東証2]は、子会社のデジタルアセットマーケッツが、フィンテックを駆使して暗号資産・ブロックチェーン技術を通じた金融サービスを展開。アイリッジ <3917> [東証M]は、スマートフォンアプリで利用できる電子通貨サービス「MONEY EASY」を展開。短期間かつ安価に、電子地域通貨サービスを開始できるプラットフォームシステムである。スマートバリュー <9417> は北海道のITベンチャー企業であるINDETAILと資本・業務提携しており、システムインテグレーター大手のTIS <3626> などと地域通貨を活用した次世代交通×エネルギーのプラットフォーム構築を展開している。
10月に予定されている20ヵ国・地域(G20)では、デジタル通貨を事実上容認する方向で調整に入ったことが伝わっている。マネーロンダリング(資金洗浄)の防止など規制論議を本格化させる見通しと伝えられており、今後デジタル通貨への市場の注目度が高まることになりそうだ。
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