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―再びバリュー株シフトへ、解散価値を下回るPBR1倍割れ銘柄の株価変身に期待―
東京株式市場は目先難しい局面にある。今年は年初からリスクオン全開の地合いとなり、日経平均株価は3月22日に終値で史上最高値4万888円をつけたが、その後は深い押し目形成を余儀なくされた。4月後半には中長期波動の分水嶺である75日移動平均線を下に抜け、昨年秋口を起点とする約半年にわたった上昇波動の終了を意識させたのだが、4月下旬以降はしぶとく切り返し、時価は5日・25日・75日移動平均線が収斂(しゅうれん)する3万8000円台で強弱観を対立させている。
企業の好決算発表も次期業績のガイダンスが弱ければ売り対象となってしまう。不透明感の強い相場でグロース株には向かい風が強い。しかし、物色意欲そのものは失われておらず、ここにきてバリュー株に投資資金が食指を動かしている。再び出番が近づいている低PBR株の一角に目を向ける場面だ。
●世界株市場はリスク選好が続く
世界的にみれば株式市場はリスク選好を明示している。欧州株市場では英国やドイツの主要株価指数が史上最高値圏を走り、フランスも最高値圏まであとわずか。米国株市場ではNYダウが直近7連騰(9日現在)でフシ目の3万9000ドル台を回復、アジア市場でも昨年来長期下降トレンドにあった中国・上海株や香港株が、目を見張る戻り足を見せつけ弱気筋を一蹴した。グローバル・マネーフローは株式にロングポジションをとることに躊躇していないことが分かる。東京市場もこの流れに乗れない道理はなく、リスク許容度の高まった海外投資家が、ここから日本株への買い攻勢を再開したとしても驚く要素には乏しい。
ただし、日本株にとってアキレス腱がないわけではない。欧州は景気減速とインフレの沈静化で再びECBによる利下げ局面が近づいている。また、世界の中で経済の強さを際立たせる米国でさえ、FRBが米大統領選より前に利下げに動く可能性が改めて意識されている。対して日本では、日銀が早晩追加利上げに動くとの思惑が次第に高まってきた。中央銀行が利下げに動けば当該国の株式は相対的に割安感が増すことになるが、利上げとなれば当然ベクトルは逆方向に働く。欧米と比べ日本株に今一つ覇気が感じられないのは、中央銀行の金融政策スタンスの違いが挙げられる。
●日銀利上げに怯えてはいけない
しかし長期金利の水準を考えれば、世界における日本の圧倒的な低金利環境は疑うべくもない。仮に日銀が追加利上げに動くとしても、それは過度な為替の円安に対する方策であって本意ではない。住宅ローン金利の上昇と天秤にかければ、今後も拙速な利上げを継続する可能性は非常に低い。今は政策変更の初動で不安心理が先に立っているが、“目が慣れてくれば”東京市場から投資マネーが退避する蓋然性は低いことが認識され、欧米株にキャッチアップする形で全体相場は再浮上に向かうはずである。
では、このタイミングでどこに目を向けるべきか。株式市場の花形である半導体セクターは戻り相場のメインストリートとして常に魅力的だが、金利が上昇傾向にある場面では風向きがアゲンストであることは否めない。半導体はハイテクの象徴として大相場を演じてきたが当面はその反動で売りを浴びやすく、長期金利の動向を抜きにして今が買い場かどうかを判断することは難しい。
●低PBR是正の動きはまだ3合目
ここは個人投資家の特権ともいえるニッチ性を生かして、戻り売り圧力の弱いバリュー株に照準を合わせるのが投資戦略として期待値が高い。最近の東京市場をみても低PBR株のパフォーマンスが良好で、今がバリューシフトの時間軸にあることがうかがえる。足もとで3月期企業の通期決算発表が佳境を迎えているが、決算内容と併せて東証が要請する「資本コストや株価を意識した経営」に対する回答にもマーケットの耳目が集まっている。
PBR1倍以上、つまり企業として株式の時価総額が純資産を上回るのは元来当たり前の話なのだが、これまで東京市場ではおよそ2社に1社はPBR1倍を下回っていた。しかし、ここにきて企業の経営努力と株価上昇効果で状況はかなり改善してきた。今年3月末時点でプライム市場では約60%が1倍を上回ったという。東証の“鶴の一声”が効果を発揮していることは間違いなく、今後もこの流れが続くことは必至であろう。
そして逆説的になるが、PBR1倍未満の企業が依然として残りの4割を占めている状況であれば、それだけ株価正常化の過程で、投資対象として魅力ある銘柄が多いということにもなる。有配で株主還元を怠っていないにもかかわらず、解散価値を下回る株価に放置されているというのはイレギュラーにほかならず、現状で低PBR是正の動きはまだ3合目といったところ。全般相場のバリューシフトの流れが、そうした銘柄群に再びスポットライトを当てる可能性は高い。
今回のトップ特集ではプライム・スタンダード両市場に上場するPBR1倍を下回る銘柄の中から、ファンダメンタルズ面で株価見直し余地が大きいと思われる企業を10銘柄選出。視界不良な現在の東京市場で、ディフェンシブ的な観点からも強みを発揮しやすく、好パフォーマンスを期待したい。
●見直し余地の大きいPBR1倍割れ10銘柄
◎三陽商会 <8011> [東証P]
三陽商は百貨店向けを主力とするアパレル大手で、「ポール・スチュアート」や「マッキントッシュ ロンドン」など基幹7ブランドを複合展開する。アフターコロナによる既存店の客足回復に加え、ECサイトのコンテンツ強化にも傾注し、売上高、利益ともに拡大基調。都市型ファッションビル出店にも力を入れている。25年2月期営業利益は前期比8%増の33億円予想と回復色を強める。年間配当は125円(前期は88円)と大幅増配を計画し、配当利回りは4.3%前後。PBRは0.8倍近辺で、1倍台への復帰が当面の目標に。
◎ワッツ <2735> [東証S]
ワッツは100円ショップの大手だが、小規模店舗による展開で業界他社と差別化を図っている。M&A戦略にも長じ業容拡大に余念がない。連結決算に移行した05年8月期以降、前期までトップラインが前の期を下回ったことはわずかに2回しかない。営業利益はここ数年苦戦が続いていたが、24年8月期は期初予想を大幅に上方修正し、前期比7割増の10億5000万円予想と急回復を予想している。PBR0.7倍台で600円台の株価は見直し余地が大きく、中期スタンスで4ケタ大台復帰をにらむ強調展開が見込める。
◎東洋電機製造 <6505> [東証S]
東洋電は鉄道車両用の駆動装置やパンタグラフなど電機品の製造・販売を手掛け、中国の高速鉄道向けなど海外展開でも実績が高い。24年5月期はトップラインが2ケタ増収となり、製品価格引き上げ効果が寄与して営業利益も2ケタ増益が見込まれる。続く25年5月期は海外の鉄道大型案件が計上され、営業利益は12~13億円と今期比倍増する公算が大きい。年間配当は30円配を継続するが、PBR0.4倍前後と格安水準に放置されており、株主還元強化への思惑もある。4月初旬の年初来高値1260円は単なる通過点に。
◎カワチ薬品 <2664> [東証P]
カワチ薬品は北関東を営業地盤とするドラッグストアで栃木県に本社を構える。超大型の郊外店舗と広大な駐車場を特長とし、生活必需品や食品に力を入れ低価格戦略による顧客誘導に余念がない。売上高は着実に拡大基調を続けており、25年3月期は前期比2%増収の2920億円予想と前期に続き過去最高更新の見通し。営業利益も同5%増の80億円予想と増益基調を確保する。前期に30円の大幅増配で年80円としたが、PBR0.5倍台と極めて低く、累進配当を継続する方針を表明しており、今後一段の株主還元に期待。
◎井筒屋 <8260> [東証S]
井筒屋は北九州市を本拠とする老舗百貨店で食料品や衣料品などを主力に展開、西日本鉄道 <9031> [東証P]が実質筆頭株主となっている。福岡市が主導する大規模都市再開発プロジェクトである「天神ビッグバン」は繁華街の天神をアジアの拠点都市にすることを目指しており、国家戦略特区にも指定され、これに伴う経済活性化効果は小倉に本店を構える井筒屋の商機拡大にもつながっていく。25年2月期は営業減益見通しながら、配当は前期比1円増配の6円を計画しており、PBR0.5倍前後と解散価値の半値水準で依然上値余地が意識される。
◎三協立山 <5932> [東証P]
三協立山は住宅用などを中心とするアルミ建材の大手だが、トヨタ自動車 <7203> [東証P]のギガキャスト構想などが業界の注目を集めるなか、同社も電気自動車(EV)向けアルミ形材などで商機をつかむ可能性がある。24年5月期業績は能登半島地震の影響による特損計上に伴い最終赤字見込みながら、本業のもうけを示す営業利益段階では前期比3割増益予想にある。一株純資産が2800円強あり、PBRに換算して何と0.2倍台。2.5%近い配当利回りを持つ銘柄としてはあまりに評価不足、中期で株価4ケタ大台復帰を狙う。
◎エストラスト <3280> [東証S]
エストラストは自社ブランドマンションの開発・分譲を手掛け、本社を置く山口県や九州での展開を図っている。山口県でのマンション販売戸数は上位にランクされ、福岡県でも積極的に攻勢をかけている。足もとの業績は好調で25年2月期は営業利益が前期比5割増となる17億円を見込んでいる。0.5倍台のPBRはもちろん、PERも4倍台という投資指標面からの割安感は群を抜く。毎期増配を繰り返していることもポイントで、今期予想配当利回りは3.2%前後と高い。年初来高値更新から4ケタ大台指向は自然の流れに。
◎タキヒヨー <9982> [東証S]
タキヒヨーは名古屋を地盤とする老舗の繊維商社で婦人服や子供洋品、ベビー服などを主軸に全国に展開している。企画・製造・物流と一気通貫で体制を整備しているのが強みで、採算重視の受注によって利益率改善を進め営業利益の伸びに結実させている。24年2月期営業利益は前の期比7.5倍となる7億800万円と急回復を果たしたが、続く25年2月期も前期比6%増の7億5000万円と成長が続く。有配企業でなおかつ今期は2期連続の増配も計画しているだけに0.3倍台のPBRは株価の修正余地が大きい。
◎カネコ種苗 <1376> [東証S]
カネコ種は野菜や花卉(かき)などの 種苗を生産・販売するほか、農薬や園芸用品も手掛けている。同社のビジネスモデルでは利益が下期、特に第4四半期(3~5月期)に偏る傾向が強いようだ。24年5月期営業利益は前期比4%増の18億5000万円と堅調を見込んでいる。PBR0.7倍前後だが、配当利回りは2%を超える。出来高流動性に欠けるものの、株価は1400円台でのもみ合いが煮詰まっている状況にあり、5日・25日・75日移動平均線はいずれも上向きで、目先的に動きが出やすいタイミングにある。
◎コメリ <8218> [東証P]
コメリは新潟県を本拠とするホームセンターで、関東や中部、東北など積極的に全国展開を図っている。ローコストオペレーションによる小規模店でも強みを有し、園芸用品やDIY用品などの需要をターゲットとした「ハード&グリーン(H&C)」を中核業態としている。25年3月期は売上高が前期比5%増の3880億円、営業利益は同10%増の243億円と回復色を鮮明とする見通し。株価は4月下旬にマド開け大陽線で新高値圏に浮上。依然としてPBR0.7倍台で、3800円近辺でのもみ合いを経て大勢2段上げが視野。
株探ニュース
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