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―菅首相「温室効果ガス2050年実質ゼロ」を宣言、究極のエコ技術に関心高まる―
菅義偉首相は26日の所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすると宣言した。政府はこれまで「50年に80%削減」との目標を掲げつつもゼロまで減らす年限は示していなかったが、脱炭素社会の実現に向けて更に一歩踏み出したかたち。既に欧州では気候変動問題への危機感を背景に50年カーボンニュートラル(二酸化炭素排出実質ゼロ)の戦略を策定しているほか、中国は60年カーボンニュートラルを表明しており、日本もようやく追いかける。高い基準の公約を達成するためには革新的なイノベーションが必要不可欠となるが、首相がカギを握る技術のひとつとして挙げたのが「カーボンリサイクル」だ。
●日米は普及に向け覚書
カーボンリサイクルとは、二酸化炭素(CO2)を炭素資源(カーボン)と捉え、これを回収し、多様な炭素化合物として再利用するもの。究極のエコ技術とされ、脱炭素社会実現の切り札となる可能性を秘める。経済産業省が19年6月に策定した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」では、CO2を素材や燃料に利用することなどを通して大気中へのCO2排出を抑制していく方針が示されているほか、20年1月に安倍前政権が打ち出した「革新的環境イノベーション戦略」でもカーボンリサイクル技術によるCO2の原燃料化を通じた産業分野のCO2削減の方向が明記されている。また、10月13日に開催された「第2回カーボンリサイクル産学官国際会議2020」では、日米が技術情報の共有や専門家の相互派遣、テストサンプルの交換などで合意し、協力覚書を締結した。
●広がるNEDO委託事業
こうしたなか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は18~19年度に行った調査事業「CO2排出削減のための要素技術検討」で、CO2を還元する技術や炭酸塩化することでCO2を固定する技術などについて、その技術的優位性やCO2削減のポテンシャル、技術課題をまとめ、20年度から技術開発に着手している。
CO2還元技術では、川田テクノロジーズ <3443> 傘下の川田工業と澤藤電機 <6901> 、東海国立大学機構(岐阜大学)の共同開発テーマ「放電プラズマによるCO2還元・分解反応の基盤研究開発」が委託事業に採択された。澤藤電は以前からプラズマを用いた水素製造装置「プラズマメンブレンリアクター」の技術開発を行い、アンモニアを原料にして水素を製造することで、CO2フリーの水素社会の実現に取り組んでおり、共同開発テーマにプラズマ研究で培った技術を応用し、CO2を還元してカーボンと一酸化炭素に転換する技術を開発することで、環境課題の解決につなげるとしている。
また、炭酸塩化技術では、住友大阪セメント <5232> と山口大学、九州大学が共同提案した「カルシウム含有廃棄物からのCa抽出およびCO2鉱物固定化技術の研究開発」が採択された。CO2を多様なカルシウム含有廃棄物から抽出したカルシウムとの反応で鉱物固定化(カルシウムなどのアルカリ土類金属をCO2と反応させ、炭酸カルシウムなどの炭酸塩鉱物としてCO2を固定化すること)し、利用する革新的カーボンリサイクルプロセスを構築するための基盤技術を開発する計画で、30年の実用化を目指す。
「石炭灰およびバイオマス灰等によるCO2固定・有効活用に関する要素技術開発」が採択された東洋建設 <1890> と電力中央研究所(東京都千代田区)、三菱パワー(横浜市)、石炭エネルギーセンター(東京都港区)のグループは、このほど技術開発を開始。CO2吸収装置によるCO2固定システムの構築、処分場を活用したCO2固定システムの構築、炭酸塩化灰の資材化に向けた基礎製造技術の開発に取り組む。
●CO2固定化技術を開発へ
このほか、NEDOは炭酸塩やコンクリート製品・構造物へCO2を固定化し、有効利用する技術開発にも着手。トクヤマ <4043> と双日 <2768> 、ナノミストテクノロジーズ(徳島県鳴門市)のグループは委託事業として、「化石燃料排ガスのCO2を微細ミスト技術により回収、CO2を原料とする炭酸塩生成技術の研究開発」を行う。これは石炭火力発電所の燃焼排ガス中のCO2を技術開発した微細ミスト(超音波などを用いて水溶液を粒径5マイクロメートル以下の霧状にしたもの)で吸収し、炭酸塩の原料に置き換えることでCO2の排出を削減する。
日揮ホールディングス <1963> 子会社の日揮グローバルとササクラ <6303> [東証2]、早稲田大学が共同提案し、採択された「海水および廃かん水を用いた有価物併産CO2固定化技術の研究開発」は、火力発電所などから排出されるCO2を海水及び海水淡水化プラントの廃水に含まれるマグネシウムと反応させることで、炭酸マグネシウムとして固定化し、コンクリート製品の骨材などの部材として有効利用するもの。
出光興産 <5019> と宇部興産 <4208> 、日揮HD、成蹊大学、東北大学は、「廃コンクリートなど産業廃棄物中のカルシウム等を用いた加速炭酸塩化プロセスの研究開発」の委託先となり、廃コンクリートなどカルシウムを多く含む産業廃棄物から原料となるカルシウムを抽出し、排ガス中のCO2と反応させて固定化させるプロセスの実用化と普及を目指した技術開発を行う。
千代田化工建設 <6366> [東証2]と清水建設 <1803> 、古河電気工業 <5801> 、宇部興、東京大学、大阪大学、理化学研究所のグループは、大気中に放散された希薄なCO2及び放散される前のCO2を回収して、再生可能エネルギーを駆動力に電気化学的に富化・還元し、有用化学原料を生成するプロセスまでの統合システムを開発する「電気化学プロセスを主体とする革新的CO2大量資源化システムの開発」プロジェクトが、NEDOのムーンショット型研究開発事業に採択されている。
●ユーグレナ、日立造、IHIにも注目
これ以外でカーボンリサイクル技術に取り組む企業は、日立造船 <7004> が清掃工場から回収したCO2の資源化による炭素循環モデルの構築実証事業のためにメタネーション(触媒を充填した反応容器内で水素と二酸化炭素を反応させ、天然ガスの主成分であるメタンを合成する技術)設備の工事を開始したほか、IHI <7013> はサウジアラビアン・オイル・カンパニー(サウジアラムコ)などが進めているカーボンニュートラルなブルーアンモニアを利用する混焼試験をスタート。ユーグレナ <2931> はカーボンリサイクル技術のひとつである微細藻類の大量培養技術の確立に注力している。
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