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―農産物生産と太陽光発電を両立、日本のフード・マイレージ上昇が喫緊の課題に―
菅義偉首相は「温暖化ガス排出を2050年度に実質ゼロ」を掲げたほか、来年1月に誕生する米バイデン政権は環境重視を鮮明にしている。新年も「脱炭素化」が相場の大きなテーマに浮上することは確実だ。そんななか日本が二酸化炭素(CO2)削減を進めるためには、食料自給率の向上が必要という見方が出ている。この脱炭素と食料自給率向上を一挙に解決する救世主として脚光を浴びているのが「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」だ。
●世界各国が温暖化ガス削減を産業政策の柱に据える
日本を含む世界各国では、温暖化ガス削減を産業政策の柱として位置づける動きが相次いでおり、 再生可能エネルギーの利用促進に向けた規制改革や税制改正の行方に市場の注目が集まっている。米国の次期大統領となる民主党のバイデン氏は気候変動政策や公害対策の強化を担当する閣僚にノースカロライナ州環境当局トップを起用するなど、環境重視の姿勢を鮮明にし、米国がパリ協定に復帰する可能性は高いとみられている。気候危機の防止という大義的な意味に加え、新型コロナウイルス感染症による経済対策という側面もあるなか、温暖化対応施策はグローバルで加速していくことになる。
また、IEA(国際エネルギー機関)の定義ベースで日本のエネルギー自給率は14年度(6.3%)をボトムに上昇しつつある。とはいえ、19年度で12.1%となっており、米英など先進諸国に比較して著しく低くなっている。再生可能エネルギーの導入拡大は、資源輸入に大きく依存している日本にとって、エネルギー自給率向上に向けた重要な手段でもあり、政府主導による大規模な政策対応が必要だろう。
●CO2排出量削減には食料自給率の向上が必須に
そして、CO2の排出量削減という視点からは、食料自給率も重要なのだ。例えば、「食料の総輸入量・距離(フード・マイレージ)」という指標がある。これは端的に表現すれば、食料輸入量と輸送距離で求められるものであり、フード・マイレージが高ければ高い程、輸送コストが高い。つまりCO2の排出量が多いと考えられ、環境に対してより大きな負荷をかけて食料の消費をしていることとなる。日本は断トツでこの数値が高く、CO2の排出削減という視点からは食料の自給率も同時に高めていく必要があり、その対応策として「ソーラーシェアリング」が注目されている。ソーラーシェアリングは、農地で作物を育てながら、その農地の上部で 太陽光発電を行う、環境調和型ソーラープロジェクトである。19年6月に閣議決定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の中にもソーラーシェアリングが盛り込まれている。
ソーラーシェアリングを導入することによって、農業による収入と売電による収入のハイブリッド型収入により収益が安定することで、新たな働き手を囲い込むことができるほか、兼業でなければ成立しにくい農業も専業農家へと変身できる。農業に専念することにより、より品質の高い作物を作ることができ、最終的には農業収入も向上されるとみられる。農家減少に歯止めをかけ、耕作放棄地の再生の道も開ける。
●ウエストHDやENEOSなど事業展開
同事業には大手企業も注力しており、今年の3月に大阪ガス <9532> とウエストホールディングス <1407> [JQ]が再生可能エネルギー事業で提携することを発表した。ウエストHDは農地を活用して発電するソーラーシェアリングのほか、中小企業向けの発電設備販売にも注力しており、大阪ガスは再生エネルギー事業を中長期の収益の柱に育てる考えである。
また、ENEOSホールディングス <5020> は10月に宮崎県新富町と低炭素・循環型のまちづくりで提携。19年に出資した営農発電スタートアップのアグリツリー(福岡県那珂川市)などと発電設備を設置し、作物の選定を始めている。なお、農地の上に太陽光パネルを設置すると日照を遮るため農作物の選定が難しいとされているが、植物はある一定の光があれば育ち、それを超える量(光飽和点以上)の太陽光は成長には必要ないともいわれている。つまり、光飽和点を超える照度以上の光が当たっても、光合成の増大にはつながらないため、採光率を計算して太陽電池パネルを配置することでソーラーシェアリングが進みやすくなる。
●日創プロニやAGCは太陽光発電の架台など
太陽光パネルを支持する架台は、太陽光発電所の寿命や信頼性に大きく影響する。日創プロニティ <3440> [東証2]は建築・建材、環境・エネルギー、工場・プラントなど広範な業界に向けて各種金属製品を提供している。商社からの材料直接仕入れとあらゆる加工に対応可能な生産体制により、材料の調達から最終加工までを一元化したオールインワン加工体制を構築している。NTTファシリティーズと、AGC <5201> の子会社AGCマテックスはFRP(ガラス繊維強化プラスチック)による架台に採用の実績を持つ。
また、蓄電設備なども重要な位置づけとなるが、ニチコン <6996> は太陽光発電と高耐久・大容量のリチウムイオン蓄電システムを組み合わせたシステムを手掛けているほか、古河電気工業 <5801> と古河電池 <6937> は再生可能エネルギーを無駄なく活用するキーデバイスとして、次世代型蓄電池「バイポーラ型蓄電池」を共同開発している。従来の鉛蓄電池と比較して材料削減が可能であり、体積当たりの容量の向上により重量エネルギー密度は従来の鉛蓄電池の約2倍となる。21年度中にサンプル出荷し、再生可能エネルギーの電力貯蔵向けなどに22年度から出荷開始を予定している。
●フィットや省電舎HDも太陽光発電に関連
フィット <1436> [東証M]は再生可能エネルギーの企画製造販売事業において、太陽光発電所やバイオマス発電所などの再生可能エネルギーを用地から設計施工管理までトータルで企画開発しているほか、農業×ソーラー、店舗×ソーラーなど新しいサービスを開発中だ。省電舎ホールディングス <1711> [東証2]は省エネルギー関連事業および再生可能エネルギー事業(太陽光発電 やバイオマス発電 など)を展開している。
そして、ソーラーパネルでは、パナソニック <6752> は、「HIT」というアモルファスシリコンと単結晶シリコンのハイブリッドのパネルを製造。シャープ <6753> はパネルのほか、クラウドHEMSサービス「COCORO ENERGY」を提供しており、エネルギーシステムの稼働状況や、異常発生を速やかにスマートフォンで確認できる。京セラ <6971> は、1984年に千葉県佐倉市に設置された太陽電池が今も稼働中であり、高い技術と長期信頼性を実証している。日本板硝子 <5202> は米オハイオ州トロイ地区ラッキーで太陽光発電市場に向けた太陽光パネル用ガラスの生産能力を増強している。
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