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―大乱調の東京市場、年末に向けて気になり始めたネガティブ材料の数々―
2024年は年初から日経平均株価が急速に水準を切り上げ、2月22日には1989年末のバブル期につけた史上最高値3万8915円を更新した。その後3月初旬にいったん調整を入れたものの買い直され、3月22日には終値で4万888円の最高値を形成、年初からの上げ幅は7700円近くに達した。ところが、期待感が高まった4月新年度入りを境に皮肉にも東京株式市場はバランスを大きく崩すことになる。米国の早期利下げ期待の剥落や中東の地政学リスクなどが取り沙汰されるなか、日経平均はあっという間に4000円あまりの下げに見舞われ、投資マインドはにわかに弱気優勢に傾く場面もあった。果たして、ここからマーケットは完全に立ち直ることができるのか、それとも大勢上昇トレンドに終止符が打たれる可能性はあるのか。年後半相場の行方について、鋭い考察とコメント力に定評があり、個人投資家動向にも詳しい松井証券の窪田朋一郎氏に見解を聞いた。
(聞き手・中村潤一)
「リスクシナリオが作動すれば深押しも」
窪田朋一郎氏(松井証券 投資メディア部長 シニアマーケットアナリスト)
株式市場は4月新年度入り早々に波乱に見舞われたものの、年後半は基本的にはバランスを立て直し強調展開が維持できるとみているが、不透明要素もいくつか存在しており、リスクシナリオが顕在化すれば秋口までに崩れる懸念もありそうだ。結論から先に言えば、日経平均の今年末時点の予想としては4万1000円前後を本線とするが、ネガティブシナリオに傾いた場合は3万2000円程度まで大きく下押す可能性が考慮される。
まず、今回の相場の波乱要因となった中東情勢について、足もとで不安心理は沈静化しているものの中期的には火種が残っており、特に原油価格に影響を与えやすいだけに注意を要する。地政学リスクを背景とした原油価格の上昇は米長期金利の上昇につながる。エネルギー価格高騰に伴うインフレ圧力は、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げに向けた動きを一段と封じることにもなりかねない。
●逃げ水のように遠のいていく米利下げ
現状は6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げの可能性はかなり希薄化し、7月の利下げシナリオも後退しつつある。逃げ水のように当初想定が後ずれするなか、現状は年内の利下げなしがメインシナリオであり、初回の利下げが来年の1月という見方がコンセンサスになりつつある。マーケットがこれをどこまで織り込んでいるかは未知数だ。
9月は大統領選を目前に控えるだけにFRBは動きにくい面もあり、場合によっては、年内利下げゼロというケースも考えておく必要がある。その場合、米株市場は動揺が避けられない可能性が高い。日本株市場も当然上値は追いにくくなる。米利下げ期待の剥落は外国為替市場でドル高・円安に誘導される要因とはなるが、仮に円安環境であっても米株市場が調整色を強める展開となれば、リスク回避ムードは強まることが予想される。
その大統領選も不透明だ。バイデン大統領は資産課税を強化する方針を示しており、株式市場に悪影響を与える可能性がある。一方のトランプ前大統領が返り咲いた場合には、減税などを打ち出し瞬間的には好感されそうだが、景気過熱から更なる金利上昇を招く可能性がある。
●米個人消費の失速と商業用不動産が火薬庫
米国の政策金利が5.25~5.5%の水準で高止まりしている現状は経済実態面でもネガティブな影響が警戒される。その一つがクレジットカードの延滞率の高まりで、このままいけば個人消費の失速を生む公算は小さくない。また、商業用不動産ローンの不良債権化も無視できない問題となりそうだ。最近再燃していた米経済のノーランディング説が吹き飛び、にわかにハードランディングに対する懸念が高まれば、リスク資産圧縮の動きが加速するパターンも想定しておかなければならない。NYダウは順調にいけば3万9807ドルの最高値を更新し4万ドルを視界に入れる展開だが、経済失速懸念が表面化した場合は売り直され、年末は3万7000ドル前後まで水準を切り下げる可能性もある。
一方、国内は日銀の金融政策スタンスがカギを握る。早晩追加利上げが行われることをマーケットは織り込んでいるが、ドル・円相場にどう反映されていくかは注意深く見極めていく必要がある。足もとの円安は、植田日銀総裁が利上げ姿勢を示さずに政府・日銀当局が為替介入に動いたようだが、今後日銀の政策姿勢に変化が見られれば円高方向への急速なアンワインドが生じるだけに、円安を拠りどころに株に対して強気ポジションを取りにくい面もある。
●悲観一色でなくポジティブシナリオにも着目
企業業績について言えば24年3月期は総じて好調だが、25年3月期は前期ほど伸びしろは大きくなく、日本企業は体質的に保守的な見通しを出しやすいことを考慮すると、今回の決算発表終了後に買い気が盛り上がるというケースはさほど期待できない面はある。ただ、逆の見方をすれば期中増額修正の可能性を残すことで、後になって株高材料として働くケースは考えられる。
年後半の株式相場を見るうえで、ポジティブな切り口がもちろんないわけではない。まず、米国の利下げ期待の後ずれが嫌気されているが、利下げをする必要がない環境が続くということは米景気が強いことの裏返しでもある。金利が高止まりしていても企業業績が強ければ株価の上昇基調は当面維持できる。また、原油市況高に加えサービス価格の高止まりでインフレ警戒感が再燃しているが、人工知能(AI)による生産性向上は賃金上昇圧力を低減させる可能性があり、そうなれば、次第に米金利も落ち着くというシナリオが描ける。この場合は株式の相対的な割高感が緩和されることで、全体株価の大幅調整は回避される。
一方、日本国内に目を向けると、足もとで円安が進んでも株がポジティブな反応をみせなくなったことが警戒されている。これは円安進行に伴うデメリットを政府・日銀当局が放置できず、小手先の為替介入では限界があり、日銀が利上げせざるを得なくなるとの見方が投資マインドを委縮させているためだ。しかし、ドル買いの背景にある米金利の高止まりが解消され低下傾向をたどれば過度な円安懸念は希薄化し、これによって日銀による引き締めバイアスも緩和される方向が読める。こうした外部環境面での逆風が収まることで、年末までに日経平均4万円台復帰の可能性も十分にあるとみている。
ここからの株式市場の投資対象を考えた場合、有力視されるのはやはり三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]や三井住友フィナンシャルグループ <8316> [東証P]といったメガバンクをはじめとする銀行株。また、原油を筆頭とするコモディティ高騰を背景に三井物産 <8031> [東証P]や三菱商事 <8058> [東証P]などの総合商社及びINPEX <1605> [東証P]などの資源関連株を押さえておきたい。また切り口は異なるが、アクティビストが絡むディフェンシブストックは全体相場が不安定でも強さを発揮する可能性があり、その観点から花王 <4452> [東証P]などにも目を配っておきたい。
<プロフィール>(くぼた・ともいちろう)
松井証券に入社後、WEBサイトの構築や自己売買担当、顧客対応マーケティング業務などを経て現職。ネット証券草創期から株式を中心に相場をウォッチし続け、個人投資家の売買動向にも詳しい。日々のマーケットの解説に加えて、「グロース市場信用評価損益率」や「デイトレ適性ランキング」など、これまでにない独自の投資指標を開発。また、投資メディア部長としてYouTubeチャンネルやオウンドメディア「マネーサテライト」を運営。
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