金融リスクから地政学リスクへ

著者:菊川弘之
投稿:2014/05/02 16:53

米国の経済情勢は改善も

 今週のADP雇用統計も強気での数字が発表されたように、今晩の4月雇用統計も、非農業部門雇用者数が21.5万人増、失業率が6.6%と、強気の予想となっている。年初に統計の足を引っ張った記録的な雪の影響は完全に消えた格好だ。リーマンショックで歴史的な金融リスクに見舞われた米国は、QE政策を経て最悪期は脱し、世界全体を見回しても景気・経済に関しては、勝ち組に移行していると言えよう。

 ただし、経済回復の一方で、外交能力は著しく落ち込んでおり、オバマ大統領自身が述べたように、もはや「世界の警察」としての地位からは陥落している。このことが世界各地で頻発するようになった地政学リスクの一因でもある。今後の世界のメガトレンドは、「金融リスク」から「地政学リスク」へ移行するだろう。レイムダッグ化したオバマ政権が続く間は、米国の内向き姿勢は継続、世界的な「地政学リスク」が高まる事はあっても、収まる可能性は低い。

 そうした中、4月・雇用統計が事前予想を上回る強気の数字となり、株高・ドル高となったとしても、その持続性は疑問である。NY株価は高値更新した場合、踏み上げが予想される、ドル円も狭いレンジ相場が継続している為、保合い放れも期待されそうだが、一時的な上昇の後は、5月25日のウクライナ大統領選挙へ向けて「Sell in May」が意識される局面が予想される。中国のシャドーバンキング問題も、第二四半期殻第三四半期に理財商品の償還が集中する。今年は新興国で44の選挙が予定される中、ウクライナ問題以降、欧州中心に分離独立の機運も高まりを見せている。9月には北海油田を要するスコットランドで独立を問う国民投票が予定されている。ウクライナ経由でロシアから欧州に提供されている天然ガス供給も、ウクライナ情勢次第では、2009年ガス危機と同様に、一時的に完全にシャットアウトする可能性は残ったままであり、ロシアと欧米の制裁合戦になった場合も、世界景気には悪い影響しか与えないだろう。足もと、ドル高・株高期待から200日移動平均線を割り込んでいるNY金も、強気の雇用統計が出れば、もう一段安も想定されるが、南アの生産コスト(GFMS推定:1253ドル)を大きく割り込んだまま推移する可能性は低いと見る。仮に、NY金の下値が限定的なら、NY株・ドルの上値も限定的になるだろう。
菊川弘之
日産証券調査部 主席アナリスト
配信元: 達人の予想