日本株式市場展望(2012年9月)

著者:広木隆
投稿:2012/09/07 10:24

    

株式市場は世界景気の減速を織り込む形で下落トレンドが鮮明になりつつある。トレンド自体がそのトレンドを正当化するようなところがあって、典型例は「トレンド・フォロー」のアルゴリズム・トレードが活発化することである。こうしたアルゴ・トレードはCTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー)型のヘッジファンドが多く使用している。プログラムに、センチメント(市場心理)は関係ないから、トレンドが強くなれば、ピラミッディング(ポジションを乗せていくこと)が加速する。機関投資家などは重要イベントを控えて動けず、商いが薄いところを、こうしたアルゴ・トレードで相場が崩れている印象を持つ。日経平均は、年初来安値とその後の戻り高値までの上げ幅に対する半値押し水準を既に下回った。次はフィボナッチの61.8%押しが目途となるが、あまり強力なサポートではない。後述するQE3決定までの不透明な時期、下値目途としてレンジの下限である8500円程度まで覚悟しておいたほうが無難かもしれない。

市場の関心は米国の金融政策に向いている。12-13日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加緩和が打ち出されるのか否かが焦点である。それを占うのが7日発表の雇用統計。先日公開されたFOMCの議事要旨や先日のバーナンキ議長のジャクソンホールでの講演などから判断して、労働市場の改善が明確に認められない場合、次回FOMCでQE3(量的緩和の第3弾)が決定される可能性は高い。

QE3が行われた場合、米国株などにはポジティブだが、日本株にとってはどうか?ドル安円高となって素直に日本株買いにつながらないとする慎重意見もあるが、筆者はQE3は日本株にも好影響を与えると考える。それは以下の観点からである。

<ポイント1:日米短期金利差> そもそも円高になるかどうか分からない。実際にQE2のときは、QE2の前後で円高が進行したが、QE2が行われていた時期(10年11月から半年程度)はドル円は横ばいで円高になっていなかった。インフレ期待で米国金利が上昇したからである。今回もこういう展開になる可能性は十分ある。QE3は底入れしつつある米国の住宅市場の回復を後押しするだろう。そもそもドル円を動かす要因で大きいのは短期金利差だが、もうほとんど縮まりようのないレベルにある。こうしたことからQE3が実施されても円高には限界があるだろう。

     

<ポイント2:日銀の緩和期待> そして米国が追加緩和に踏み切れば、日銀の背中を押すことになる。FOMCの翌週には日銀の金融政策決定会合が予定されていて、そこで日銀も追加緩和を打ち出せば「おあいこ」となって、一方的な円高にはならない。

<ポイント3:クロス円の上昇> そうは言っても教科書的には量的緩和はドルの売り材料に違いないので、円高になるというのをメインシナリオにおくのが無難だろう。しかし、それは円の独歩高を意味しない。QE3→リスクオンでユーロや豪ドルなどが買われ、クロス円が上昇するだろう。そうなれば日本株も、ドル円の円高を嫌気するより、QE3によるリスクオンの地合いのほうを好感すると思われる。

QE3観測を高めるきっかけとなったFOMC議事要旨が公開された翌日8月23日の日経平均の値動きを見ると、朝方は円高を嫌気して売り先行で始まったが、じりじりと値を戻して午後にはプラスに浮上、結局高値圏で引けた。QE3観測が高まったときに日経平均はこういう動きをしたわけである。QE3は円高の悪材料を打ち消して、結局は日本株にプラスに働くだろう。

9月のメインシナリオは、QE3の決定を前提にリスクオン復活による戻り相場を想定する。次回FOMCの結果を踏まえて、確認・修正を行うが暫定的にはそうした相場観を提示したい。
広木隆
マネックス証券株式会社 チーフ・ストラテジスト
配信元: 達人の予想