エヌビディア祭りの先に姿を現す、意外な本命銘柄とは?<大山季之の米国株マーケット・ビュー>

配信元:株探
投稿:2024/07/09 10:00

◆過度に進む一極集中、エヌビディアとGAFAMで株価上昇分の6割を占める

 2024年の折り返し点、6月までの世界の株式市場を振り返ってみると、S&P500株価指数が約14%プラスとなり、SOX(フィラデルフィア半導体株指数)は約31%プラス、TOPIXと日経平均、そしてナスダック総合指数が約18%プラス、台湾の加権指数は約28%プラスとなっている。こうして見るとやはり、半導体などのテクノロジー・セクターが強かった、と言える。だが、その内訳をより詳しく見てみるとそれ以上に、ほんの一握りの企業への一極集中が鮮明になっていることが分かる。

 6月の各アセットマネジメントから出されたファンドの月次レポートを詳しく見てみると、この半年は前例のない、記録的な相場だったということが改めて理解できる。S&P500構成銘柄の半年間の資産増加分の3分の1をエヌビディアが占め、これにマイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アルファベット、メタ・プラットフォームズ、アップルを加えると6割に達する。感覚的には誰もが感じていたのではないかと思うが、上昇銘柄の幅の狭さが改めて浮き彫りになっている。もちろん、こうした傾向は近年の米国株市場ですでに表れていた。だが、わずか6社で5000以上ある米国銘柄の上昇分の6割を占めてしまうという状況は、以前なら考えられないことだ。

 6月単月で見ると、出遅れていたテスラが11%超上昇し、5月末のセールスフォース決算の結果、"連れ安"となっていたアドビが約25%、オラクルが約20%とともに上昇。これまで半導体セクターの中では上値が重かったブロードコムも約20%上昇と、大型ハイテク株への資金集中がさらに進んでいる。一方、小型株指数であるラッセル2000は年初来ほぼ横ばいといったパフォーマンスで、決して米国株全体が好調だったわけではない。

 こうした過度な依存状態が進んでいることに対しては、マーケット関係者の中でも危惧する声が聞かれないでもない。だが例えばいま、S&P500をベンチマークにしているようなファンドがエヌビディアをポートフォリオから外すなどという選択ができるだろうか。運用者にとっては、現在のような相場では、持つことのリスクより持たざるリスクの方が大きいからだ。

◆7月の決算、マーケットの関心は "AIへの本気度"から"AIの利益化"へ

 あるファンド・マネージャーが話していたのは、「今年の前半はあまり苦労しなかった」ということだ。「エヌビディア&フレンズ」、つまりエヌビディアとその周辺企業、「コモディティ」「ドル」の3つをロング(買い持ち)していれば、勝手に資産が増えていったからだ。もっとも「米国債」のロングだけは当てが外れたそうだが。

 「エヌビディア&フレンズ」に関しては、エヌビディアを不動の核として、決算内容によって売られ過ぎたり買われ過ぎたりした周辺銘柄が、都度、エヌビディアの"お友達度"の順位を変えながらも、一群としてはひたすら上昇を続けてきた。だが、「ここからは難しい」という。このままの相場の流れが続けばいいが、もし、エヌビディアが失速したらどうすればいいのか。ほかに核となるような銘柄は容易には見つからないし、何より前述したように、エヌビディアを持たない、という選択はしにくい。「降りたくても降りられない」 状態だという。

 いずれにしてもこれから始まる各企業の決算に注目していくほかないのだが、前回の24年1-3月期決算は、各社が生成AI向けにどれだけ設備投資をしているか、つまり生成AIへの"本気度"がマーケットの関心を集めていた。それに対して今回の4-6月期決算では、生成AIが実際にどれだけ収益貢献をしているのか、つまり"業績"そのものに焦点が当たってくるだろう。

 一つ難しいのは、マーケットの評価基準がどのあたりにあるのかを見極めることだ。例えば、すでにマイクロン・テクノロジーの24年3-5月期決算が発表されているが、一見業績は堅調だったのに、市場の期待に届かなかったとして売られたように、マーケットの期待値がどのレベルにあるのかはふたを開けてみなければ分からない。

 したがって24年後半へ向けての投資スタンスは、 前回お伝えした通り、ハイテク・セクターを中心とした"逆張り戦略"が賢明だろう。エヌビディアを軸に、その周辺銘柄ではアドビやオラクル、IBMのように、何かのきっかけで売られ過ぎてしまった銘柄には買いを入れ、逆に買われ過ぎてしまった銘柄を売る。そのうえでもし、エヌビディアが大きく失速するようなことがあれば、簡単には同社の代わりになるような銘柄は現れてこないだろうから、例えばダウ平均に採用されるような大型株の中で景気敏感株と言われるようなで銘柄でカバーする、といった戦略が妥当ではないだろうか。

◆FRBの利下げ開始はいつ?……最大のリスクはやはり「もしトラ」

 次に見方が分かれるアメリカ景気についてはどう捉えればいいのだろうか。まず、アメリカの消費動向を測るバロメーターでもあるウォルマートは、年初来、業績が堅調で株価も上昇しているが、これだけではアメリカ全体の景気を測ることができないかもしれない。同社によると、好調の要因は富裕層の消費が増えたためだというし、6月25日に同社のCFOが24年5-7月期は直前の24年2-4月期に比べて厳しいという発言をすると、株価は一時急落した。実際、一般消費者向けのマクドナルドやスターバックスなどはどこも苦戦しているし、アメリカの消費環境全体が良好だとはとても思えない。

 一方、富裕層にとっては、景気は決して悪くない。ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングスやフェラーリなどのラグジュアリー・ブランドは相変わらず好調だし、このままトランプが大統領になったとしても、富裕層は減税などで優遇されるだろうから資産は棄損されない。富裕層に続く中間層についても、現在の賃金上昇がインフレを上回っており、株式や不動産などの資産高の恩恵もあって、それほど不安はないだろう。つまり、よく言われているように、二極化が進んでいることは確かだ。だが、中間層以上の状況を考えれば、当面はアメリカの景気全体が急速に悪化するようなことはないのではないか。

 そうした状況を受け、FRB(米連邦準備理事会)はどう動いていくのか。現時点で本命視されている11月に1回の利下げとなるのか、市場参加者が期待している9月利下げ開始で年2回の利下げとなるのか。7月2日にパウエル議長が、「ディスインフレの軌道に戻りつつある」という見方を示したが、確かに足もとでは物価と消費が落ち着き、あとは雇用の減速次第、といった状況になっている。今後の各種指標を見てFRBは慎重に判断していくのだろうが、そうなると昨年同様、今年も8月22日から開催されるジャクソンホール会議に注目が集まらざるを得ないだろう。

 そして、先日のバイデン大統領とトランプ前大統領によるテレビ討論会で露わになった「もしトラ」のリスクについてだ。トランプ大統領になれば、富裕層は優遇され、株高は続くかもしれない。だがアメリカだけではなくヨーロッパの動向を見ても、世界的な右傾化が進むとなると、各国が保護主義に走り、関税合戦が激化して物価も上がる。そうなるとひょっとしたら利下げどころではなくなるかもしれない。いまの段階で考えすぎることはないかもしれないが、年後半の一番のリスクは、やはりこれかもしれない。

◆短中期的には引き続き、ハイテク・セクターへの逆張り戦略、では長期的には?

 こうした状況の中で、24年後半へ向け具体的にどのような投資戦略が注目されるのだろうか。先月お伝えしたように、ハイテク・セクター内での"逆張り戦略"で運用されている「iFreeNEXT FANG+インデックス」(大和アセットマネジメント)はやはり耳目を集めるだろうが、新たにもう一つ、面白いファンドを紹介したい。24年5月に運用を開始した「Tracers S&P500 トップ10インデックス(米国株式)」(日興アセットマネジメント)というファンドで、S&P500構成銘柄のうち時価総額が大きい10社のみで構成して23年7月にスタートした新指数、「S&P500トップ10指数」に連動したポートフォリオを組んでいる。

 この指数は、銘柄の時価総額の増減によって、年に1回、構成銘柄の入れ替えが行われるのだが、直近6月の銘柄入れ替えを見てみると、テスラ、ユナイテッドヘルス、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、そして昨年の8月にJ&Jからスピンオフ(分離・独立)したケンビューが外れ、イーライ・リリー、JPモルガン・チェース、ブロードコムの3銘柄が新たに組み入れられている。本コラムの冒頭でも述べた通り、いまの米国株は、株価上昇が上位の特定の銘柄に偏る構図になっている。その意味では、株価上昇の勢いがある上位銘柄だけを厳選し、しかも定期的なリバランスを行うというこのファンドは理にかなっている。

 最後にもう一つ、実は私がいまひそかに注目している銘柄がある。誰もが知り、誰もが注目する企業でありながら、なぜか今回の生成AIムーブメントでは蚊帳の外に置かれてしまっているあの企業、そう、テスラだ。いまは皆が皆、生成AIに関心を向けているが、現段階で注目を集めているのは、AIのラーニングの部分で、それによって社会にどのような変革をもたらすかは、誰も具体的なイメージを持てていない。そして、いわゆるマグニフィセント・セブンの中で、これから本当に世の中を変える力がある企業はどこなのかと考えると、この会社はやはり侮れないのではないか?

 例えば、現在の生成AIムーブメントで脇に追いやられている感があるが、同社の子会社、ウェイモによりアメリカの西海岸では自動運転タクシーの実証実験が始まっていて、現地の人からは「人が運転するタクシーよりよほど安全だ」という声も上がっている。センサー技術はもとより、映像解析技術がそこまで進んでいることに驚くしかないのだが、こうした同社の動きが、現在の生成AIブームの後にやってくるイノベーションを暗示している気がするのだ。

 さらに言えば、人の代替えとなるテクノロジー、つまりロボットの分野だ。同社では自社工場の作業用にヒト型のロボットを開発し、年内にも販売を予定しているが、公開されている動画を見てみれば、すでに人間と変わらないようなスムーズな動きで、一昔前のオートメーション・ロボットとは比べ物にならないほど高いレベルに達している。ロボットは日本メーカーを含めて各社がこぞって開発しているが、ここまで完成度が高いものは見たことがない。しかもバッテリーが切れれば自ら電源スポットに向かって充電してくるし、これで価格が1台2万5000ドルだという。ご存じの通り、いま、アメリカでは工場労働者の人件費が年間10万ドルは下らないと言われているが、この価格で人間並みの動きができるロボットが導入できるのであれば、世界中の工場の風景は一変するのではないだろうか。

 いま、同社の株価は徐々に見直されてきているが、それはEV(電気自動車)関連の業績に関するもので、こうしたイノベーションは恐らくまだ、マーケットはほとんど織り込んでいない。実際に同社の収益に貢献するのは先の話だろうから、現時点ではこうした事業が同社の株価に直結する段階ではないだろうが、長期的な視点で考えると、「本当に世の中を変えるような目に見えるイノベーション」とは、こうしたものではないかとも思うのだ。

【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

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