*12:05JST ファンペップ Research Memo(5):「FPP003」は住友ファーマで第1/2a相臨床試験結果を評価中
■主要開発パイプラインの動向
1. FPP003(乾癬、強直性脊椎炎)
「FPP003」は、大阪大学大学院医学系研究科及び住友ファーマとの共同研究の下でファンペップ<4881>が創製した開発化合物で、IL-17Aを標的タンパク質とする抗体誘導ペプチドとなる。IL-17Aは免疫反応に関するサイトカインの1つであり、幅広い免疫性疾患に関与しており、主なところでは乾癬や強直性脊椎炎、乾癬性関節炎などの疾患原因となっている。
同社は、オーストラリアで進めていた乾癬を適応症とした第1/2a臨床試験の速報結果を2023年2月に発表した。安全性及び忍容性に問題がなく、抗体の産生も確認されるなど主要評価項目を達成したことを報告している。今回実施した第1/2a相臨床試験では、尋常性乾癬患者36名を対象に「FPP003」またはプラセボを二重盲検下で3回皮下投与し(第1日、第15日、第29日)、120日間の観察を行った。臨床試験は低用量群から順に実施し、高用量群(投与量15mg)において治験薬の3回目投与後4週間時点(投与開始から60日目)で、投与患者9人のうち7人(78%)に「陽性」※が確認され、抗体価の上昇が観察期間の終了する120日目まで維持し、持続性のあることも確認された。
※感染症ワクチンの陽性判定基準を参考に、ベースラインと比較して4倍以上に抗体価が上昇した症例を「陽性」と判定。
今回の臨床試験においてヒトでペプチドのみによる抗体産生の持続性が確認されたことは世界初の画期的なことであり、抗体誘導ペプチドに対する注目度も一層高まるものと予想される。なお、住友ファーマでオプションの行使を決定した場合には、本契約に移行して住友ファーマが北米で臨床試験を行い、同社はマイルストーンを受領することになる。仮に、オプションが放棄された場合には他の製薬メーカーとライセンス交渉を行うことになるが、速報結果の内容だけで判断すればその可能性は極めて低いと弊社では見ている。
(1) 乾癬
乾癬とは慢性の炎症性皮膚疾患のことで、その多くは尋常性乾癬と呼ばれる疾患となる。表皮細胞が異常増殖し、紅斑が現れて表面に鱗屑が付着して剥がれ落ちるなどの症状が出る。患者数は国内で約43万人、米国で約800万人と言われている。治療法としては、軽症から中等症患者に対しては塗り薬などの局所療法が行われ、中等症から重症患者に対しては光線療法(紫外線照射)や内服療法(メトトレキサート、経口低分子医薬品等)が、また、これらの治療法が効かない患者には、抗体医薬品が使用されている。
「FPP003」は、抗体誘導ペプチドの特性から長期間にわたり治療効果が持続するものと考えられており、内服療法や抗体医薬品の患者層をターゲットとして「有効性」「安全性」「投与回数」により優位性を示すことで上市を目指している。作用メカニズムは抗体医薬品と同様のため、体内で十分な活性を持つ抗体を産生できれば上市まで進む可能性が高い。特に、今回の臨床試験において抗体価の持続性が「陽性」判定から少なくとも60日間続くことが確認された点は「投与回数」を減らすという点においてもポジティブに評価される※。価格面では抗体医薬品に対して優位性があるだけに、「有効性」において抗体医薬品と同等レベルであることが確認されれば代替医薬品として市場に浸透する可能性は十分にあると弊社では予想している。抗IL-17A抗体医薬品としては「コセンティクス®」「トルツ®」などが販売されている。そのほか乾癬治療用抗体医薬品としては、抗TNFα抗体医薬品の「ヒュミラ®」や「レミケード®」なども使用されている。
※抗体医薬品は薬剤にもよるがおおむね2~4週間の間隔で投与する必要がある。
(2) 強直性脊椎炎
強直性脊椎炎とは、青年期に発症する脊椎と仙腸関節を主な病変部位とする全身性の慢性炎症性疾患を指す。病変部位では靭帯と骨との付着部位に炎症・骨化が起こり、疼痛、膨張、運動制限等が見られる。症状が進むにつれて、次第に脊椎や関節の動きが悪くなり、脊椎が強直(骨性に固まり動かなくなる)して日常生活能力が著しく低下するケースもある。原因は不明で国の指定難病にもなっている。治療法としては、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)が使用されているが、効果が不十分な場合や副作用の問題がある場合には「コセンティクス®」や「ヒュミラ®」などの抗体医薬品が使用されている。
2022年4月より実施していた大阪大学大学院医学系研究科らの研究グループによる医師主導の第1相臨床試験※1において、安全性に加えて抗体価の上昇や持続性(最終投与後12週目まで持続)も確認されたことを受け、2023年8月より第2a相臨床試験を(公財)日本生命済生会日本生命病院にて開始した。臨床試験の概要は、体軸性脊椎関節炎※2の患者6人を対象に、安全性及び免疫原性を評価するほか、有効性評価項目を探索的に検討するものとなる。非盲検非対照試験となり、投与量も1群で複数回投与を実施し一定期間観察を行うものとなる。費用は(国研)日本医療研究開発機構(以下、AMED)の助成金で賄われ、試験期間としては1~2年程度かかる見通しだ。
※1 健康成人20人を対象に「FPP003(低用量、高用量)」とプラセボを比較する二重盲検試験(低用量群、高用量群各8例、プラセボ群各2例)を実施した。
※2 体軸性脊椎関節炎とは、何らかの原因で免疫の働きに異常が生じて、背骨や骨盤などの体軸関節やその付着部(筋肉と骨が付着する部位)などに炎症が生じる疾患群の総称。強直性脊椎炎とX線基準を充たさない体軸性脊椎関節炎(X線検査で仙腸関節に大きな変化が認められないもの)がある。国内患者数は2018年の調査で強直性脊椎炎が3,800人、X線基準を充たさない体軸性脊椎関節炎で880人と推計される。
(3) 市場規模
乾癬や強直性脊椎炎等の治療薬となる抗IL-17A抗体医薬品の市場規模は、2020年の5,810百万米ドルから2025年には9,942百万米ドルに成長することが調査会社で予測※されている。抗IL-17A抗体医薬品である「トルツ®」「コセンティクス®」の2022年販売実績は合計で7,270百万米ドルとなっており、「FPP003」が開発に成功すれば少なくともこれら抗体医薬品の代替として市場に浸透する可能性が高く、今後の動向が注目される。なお、「FPP003」については2016年の開発当初から住友ファーマと共同研究を進めて研究開発リスクを共有してきた経緯から、マイルストーン総額の金額は一般的な水準よりも低く設定されているもようだ。一方、販売ロイヤリティ料率は一般的な水準と見られる。
※Informa「Datamonitor Healthcare」(2021年11月)。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<SO>
1. FPP003(乾癬、強直性脊椎炎)
「FPP003」は、大阪大学大学院医学系研究科及び住友ファーマとの共同研究の下でファンペップ<4881>が創製した開発化合物で、IL-17Aを標的タンパク質とする抗体誘導ペプチドとなる。IL-17Aは免疫反応に関するサイトカインの1つであり、幅広い免疫性疾患に関与しており、主なところでは乾癬や強直性脊椎炎、乾癬性関節炎などの疾患原因となっている。
同社は、オーストラリアで進めていた乾癬を適応症とした第1/2a臨床試験の速報結果を2023年2月に発表した。安全性及び忍容性に問題がなく、抗体の産生も確認されるなど主要評価項目を達成したことを報告している。今回実施した第1/2a相臨床試験では、尋常性乾癬患者36名を対象に「FPP003」またはプラセボを二重盲検下で3回皮下投与し(第1日、第15日、第29日)、120日間の観察を行った。臨床試験は低用量群から順に実施し、高用量群(投与量15mg)において治験薬の3回目投与後4週間時点(投与開始から60日目)で、投与患者9人のうち7人(78%)に「陽性」※が確認され、抗体価の上昇が観察期間の終了する120日目まで維持し、持続性のあることも確認された。
※感染症ワクチンの陽性判定基準を参考に、ベースラインと比較して4倍以上に抗体価が上昇した症例を「陽性」と判定。
今回の臨床試験においてヒトでペプチドのみによる抗体産生の持続性が確認されたことは世界初の画期的なことであり、抗体誘導ペプチドに対する注目度も一層高まるものと予想される。なお、住友ファーマでオプションの行使を決定した場合には、本契約に移行して住友ファーマが北米で臨床試験を行い、同社はマイルストーンを受領することになる。仮に、オプションが放棄された場合には他の製薬メーカーとライセンス交渉を行うことになるが、速報結果の内容だけで判断すればその可能性は極めて低いと弊社では見ている。
(1) 乾癬
乾癬とは慢性の炎症性皮膚疾患のことで、その多くは尋常性乾癬と呼ばれる疾患となる。表皮細胞が異常増殖し、紅斑が現れて表面に鱗屑が付着して剥がれ落ちるなどの症状が出る。患者数は国内で約43万人、米国で約800万人と言われている。治療法としては、軽症から中等症患者に対しては塗り薬などの局所療法が行われ、中等症から重症患者に対しては光線療法(紫外線照射)や内服療法(メトトレキサート、経口低分子医薬品等)が、また、これらの治療法が効かない患者には、抗体医薬品が使用されている。
「FPP003」は、抗体誘導ペプチドの特性から長期間にわたり治療効果が持続するものと考えられており、内服療法や抗体医薬品の患者層をターゲットとして「有効性」「安全性」「投与回数」により優位性を示すことで上市を目指している。作用メカニズムは抗体医薬品と同様のため、体内で十分な活性を持つ抗体を産生できれば上市まで進む可能性が高い。特に、今回の臨床試験において抗体価の持続性が「陽性」判定から少なくとも60日間続くことが確認された点は「投与回数」を減らすという点においてもポジティブに評価される※。価格面では抗体医薬品に対して優位性があるだけに、「有効性」において抗体医薬品と同等レベルであることが確認されれば代替医薬品として市場に浸透する可能性は十分にあると弊社では予想している。抗IL-17A抗体医薬品としては「コセンティクス®」「トルツ®」などが販売されている。そのほか乾癬治療用抗体医薬品としては、抗TNFα抗体医薬品の「ヒュミラ®」や「レミケード®」なども使用されている。
※抗体医薬品は薬剤にもよるがおおむね2~4週間の間隔で投与する必要がある。
(2) 強直性脊椎炎
強直性脊椎炎とは、青年期に発症する脊椎と仙腸関節を主な病変部位とする全身性の慢性炎症性疾患を指す。病変部位では靭帯と骨との付着部位に炎症・骨化が起こり、疼痛、膨張、運動制限等が見られる。症状が進むにつれて、次第に脊椎や関節の動きが悪くなり、脊椎が強直(骨性に固まり動かなくなる)して日常生活能力が著しく低下するケースもある。原因は不明で国の指定難病にもなっている。治療法としては、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)が使用されているが、効果が不十分な場合や副作用の問題がある場合には「コセンティクス®」や「ヒュミラ®」などの抗体医薬品が使用されている。
2022年4月より実施していた大阪大学大学院医学系研究科らの研究グループによる医師主導の第1相臨床試験※1において、安全性に加えて抗体価の上昇や持続性(最終投与後12週目まで持続)も確認されたことを受け、2023年8月より第2a相臨床試験を(公財)日本生命済生会日本生命病院にて開始した。臨床試験の概要は、体軸性脊椎関節炎※2の患者6人を対象に、安全性及び免疫原性を評価するほか、有効性評価項目を探索的に検討するものとなる。非盲検非対照試験となり、投与量も1群で複数回投与を実施し一定期間観察を行うものとなる。費用は(国研)日本医療研究開発機構(以下、AMED)の助成金で賄われ、試験期間としては1~2年程度かかる見通しだ。
※1 健康成人20人を対象に「FPP003(低用量、高用量)」とプラセボを比較する二重盲検試験(低用量群、高用量群各8例、プラセボ群各2例)を実施した。
※2 体軸性脊椎関節炎とは、何らかの原因で免疫の働きに異常が生じて、背骨や骨盤などの体軸関節やその付着部(筋肉と骨が付着する部位)などに炎症が生じる疾患群の総称。強直性脊椎炎とX線基準を充たさない体軸性脊椎関節炎(X線検査で仙腸関節に大きな変化が認められないもの)がある。国内患者数は2018年の調査で強直性脊椎炎が3,800人、X線基準を充たさない体軸性脊椎関節炎で880人と推計される。
(3) 市場規模
乾癬や強直性脊椎炎等の治療薬となる抗IL-17A抗体医薬品の市場規模は、2020年の5,810百万米ドルから2025年には9,942百万米ドルに成長することが調査会社で予測※されている。抗IL-17A抗体医薬品である「トルツ®」「コセンティクス®」の2022年販売実績は合計で7,270百万米ドルとなっており、「FPP003」が開発に成功すれば少なくともこれら抗体医薬品の代替として市場に浸透する可能性が高く、今後の動向が注目される。なお、「FPP003」については2016年の開発当初から住友ファーマと共同研究を進めて研究開発リスクを共有してきた経緯から、マイルストーン総額の金額は一般的な水準よりも低く設定されているもようだ。一方、販売ロイヤリティ料率は一般的な水準と見られる。
※Informa「Datamonitor Healthcare」(2021年11月)。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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