資源・新興国通貨の2023年末までの展望

著者:八代和也
投稿:2023/08/28 14:44

豪ドル

RBA(豪中銀)は、7月と8月の2会合連続で政策金利を4.10%に据え置きました。RBAは8月の会合の声明で、「ある程度のさらなる金融政策の引き締めが必要になるかもしれない」との見方を示し、追加利上げに含みを持たせました。

利上げが行われるとすれば、11月の会合の可能性が高そうです(9月と10月は据え置き)。豪州の7-9月期CPI(消費者物価指数)が10月25日に発表されることや、11月にはRBAの金融政策報告が公表されるからです。

市場では、RBAは政策金利を年内据え置くとの見方が有力です。ただ、追加利上げが行われるとの観測もあり、市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によれば、市場では年内に利上げが行われる確率が約4割織り込まれています(据え置きは約6割)。今後発表される豪州の経済指標などでRBAの利上げ観測が強まれば、豪ドルの支援材料になりそうです。

豪ドル/米ドルについては、米FRBの金融政策も重要です。FRBの利上げ観測が強まる場合、豪ドル/米ドルは上値が重くなる可能性があります。豪ドル/円に関しては、米ドル/円の動向には注意が必要です。本邦当局による為替介入(米ドル売り/円買い)によって米ドル/円が大きく下落すれば、豪ドル/円も一時的にせよ引きずられる可能性があります。

豪ドルは投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴もあります。主要国の株価が堅調に推移するなどしてリスクオン(リスク選好)の動きが強まる場合、豪ドル/米ドルや豪ドル/円の上昇要因になる可能性があります。
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【豪ドル/NZドル】
RBAは追加利上げに含みを持たせています。一方、RBNZ(NZ中銀)は政策金利を据え置く姿勢を示しています。ただ、確率は高くないものの、RBNZは追加利上げも想定しているようです(*後述の「NZドル/円、NZドル/米ドル」参照)。また、市場ではRBAとRBNZのいずれも、政策金利は年内据え置かれるとの見方が有力です。RBAとRBNZの金融政策面からみれば、豪ドル/NZドルは明確な方向感が出にくいかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)は追加利上げをするのか。
・米FRBと日銀の金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。リスクオンは豪ドルの上昇要因。
・資源(主に鉄鉱石)価格の動向(資源価格の下落は豪ドルの下落要因)。
・中国経済の動向。中国経済の減速は豪ドルにとってマイナス材料。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は、7月と8月の2会合連続で政策金利を5.50%に据え置きました。8月の会合の声明では、「政策金利は予見可能な将来において抑制的な水準に維持する必要がある」と改めて表明され、政策金利は今後も据え置かれることを示唆しました。

RBNZは8月16 日に四半期に一度の金融政策報告を公表し、政策金利の見通しを5月時点から全般的に上方修正しました。

政策金利見通しにおけるポイントは次の2つです。
(1)5月時点では、政策金利は「23年7-9月期から24年4-6月期まで現在の5.50%に維持される」との見通しが示されました。それが今回は、「23年10-12月期が5.54%、24年1-3月期が5.58%、同4-6月期が5.59%、同7-9月期が5.57%」と、5.50%よりも高い水準が示されました。確率は高くないものの、追加利上げも想定されています。
(2)政策金利が現在の水準を下回る(利下げ開始)時期の見通しが5月時点の24年7-9月期から25年1-3月期へと後ズレしました。RBNZの政策金利は、より長期にわたって高止まりすることが示唆されました。

これらのRBNZの政策金利見通しはNZドルにとってプラスと考えられます。RBNZの年内の政策会合はあと2回(10/4と11/29)。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、市場では政策金利は年内据え置かれるとの見方が有力なものの、11月に利上げするとの観測もあります。今後発表されるNZの経済指標で利上げ観測が強まれば、NZドルは堅調に推移しそうです。

NZドル/米ドルについては、米FRBの金融政策も重要です。FRBの利上げ観測の高まりなどによって米ドルが全般的に強含めば、NZドル/米ドルは上値が重くなりそうです。NZドル/円に関しては、米ドル/円の動向には要注意です。本邦当局による為替介入(米ドル売り/円買い)によって米ドル/円が大きく下落する場合、NZドル/円も引きずられる可能性があります。

NZの総選挙が10月14日に行われます。総選挙では、政権が交代するかどうかが焦点になっています。この結果次第ではNZドルの材料になるかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)は追加利上げをするか。
・米FRBと日銀の金融政策。
・10月のNZ総選挙。政権が交代するか。
・投資家のリスク意識の変化。リスクオンはNZドルの上昇要因。
・中国経済の動向。中国経済の減速はNZドルにとってマイナス材料。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は6月と7月の2会合連続で利上げを実施しました(8月は政策会合なし)。マックレムBOC総裁は7月の会合後の会見で、「新たな情報で一段の措置を講じる必要があることが示唆されれば、政策金利をさらに引き上げる用意がある」と述べ、追加利上げの可能性を示しました。

カナダの7月CPI(消費者物価指数)は前年比3.3%と、上昇率は6月の2.8%から高まりました。一方で、カナダの7月失業率は5.5%と、6月の5.4%から若干悪化し、雇用者数は前月比マイナス0.64万人と軟調な結果でした。

市場ではBOCは「政策金利を年内据え置く」との見方と「年内に利上げする」とで見方が分かれています。BOCの次回政策会合は9月6日です。9月に利上げが行われる、あるいは利上げが行われなくても声明の内容が10月の会合での利上げ観測を強めるものになれば、カナダドルが堅調に推移しそうです。

米FRBの金融政策にも影響を受けるものの、米ドル/カナダドルは下値を試す展開になる可能性があります。カナダドル/円に関しては、本邦当局の為替介入(米ドル売り/円買い)には注意が必要です。

原油価格(米WTI原油先物が代表的な指標)に大きな変動がみられれば、市場は原油価格の動向を強く意識するかもしれません。カナダは原油を主力輸出品とするため、原油価格の上昇はカナダドルにとってプラスです。

<注目点・イベントなど>
・BOC(カナダ中銀)はどこまで利上げするか。
・米FRBと日銀の金融政策。
・資源(特に原油)価格の動向(資源価格の上昇はカナダドル高要因)。

トルコリラ

TCMB(トルコ中銀)は8月24日の政策会合で、7.50%の利上げを行うことを決定。政策金利を17.50%から25.00%へと引き上げました。利上げは3会合連続です。

TCMBの声明では、6月と7月の会合と同様に「インフレ見通しの大幅な改善が達成されるまで、金融引き締めは適切なタイミングかつ緩やかなペースで必要な限り強化される」とし、追加利上げが示唆されました。

TCMBが市場予想(2.50%)を大幅に上回る7.50%の利上げを実施したことで、トルコリラは短期的に底堅く推移するかもしれません。

ただ、トルコの実質金利(政策金利からCPI上昇率を引いたもの)が大幅なマイナスであることに変わりはありません(8/25時点でマイナス22.83%)。また、「金利が下がれば、インフレ率は下がる」を持論とし高金利を嫌うエルドアン大統領が金融政策に干渉しないかとの懸念もあります。

トルコリラが持続的に上昇するためには、TCMBがインフレの抑制に向けて今後も適切に利上げできるかどうかが鍵を握りそうです。

<注目点・イベントなど>
・TCMB(トルコ中銀)は適切に利上げできるか。
・エルドアン大統領は金融政策に干渉しないか。
・トルコの外貨準備は枯渇しないか。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は7月の政策会合で政策金利を据え置きました。SARBが政策金利を据え置いたのは、21年11月の利上げ開始後初めてです。

南アフリカの7月CPI(消費者物価指数)は前年比4.8%と、上昇率は6月の5.4%から鈍化し。SARBのインフレ目標(3~6%)内に2カ月連続で収まりました。市場ではSARBの利上げサイクルは終了したとの見方が有力です。また、SARBは早ければ24年1月にも利下げを開始するとの観測が市場にはあります。今後発表される南アフリカの経済指標(特にCPI)を受けて利下げ観測が市場で強まれば、南アフリカランド/円は軟調に推移する可能性があります。

南アフリカでは発電設備の老朽化などによって慢性的な電力不足が続いており、計画停電が頻発しています。停電は経済活動を阻害するため、計画停電が続く場合には同国景気をめぐる懸念が市場で強まる可能性があります。その場合、南アフリカランド/円が下押しするかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)の利下げ観測が強まるか。
・計画停電が続く場合、南アフリカランド/円の下押し要因になる可能性あり。

メキシコペソ

メキシコペソ/円は8月25日に一時8.729円へと上昇し、14年10月以来、8年10カ月ぶりの高値をつけました。メキシコペソ/円が堅調な主な要因として、(1)全般的な円安、(2)BOM(メキシコ中銀)の政策金利は11.25%と高いうえ、メキシコの実質金利(政策金利-CPI上昇率)も大きなプラスであること(8/25時点で6.46%)、(3)米国など外国に住むメキシコ出身の労働者によるメキシコへの送金(本国送金。外貨売り/メキシコペソ買い需要)が挙げられます。外国からメキシコへの送金額は、6月まで前年比で38カ月連続増加しました。

BOM(メキシコ中銀)は8月10日の政策会合の声明で、「政策金利を現在の水準に長期間維持する必要がある」と改めて表明。利下げを想定していないことを示しました。政策金利と実質金利の高さというメキシコペソの優位性は今後も保たれそうです。メキシコペソ/円は引き続き堅調に推移すると考えられます。

原油価格(米WTI原油先物)が大きく変動する場合、市場では原油価格の動向も意識されるかもしれません。原油価格が上昇を続ければ、メキシコペソにとってさらなるプラス材料になりそうです。

米ドル/円の動向には要注意です。本邦当局による為替介入によって米ドル/円が大きく下落する場合、メキシコペソ/円も引きずられる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・主要中銀と比べて高いBOM(メキシコ中銀)の政策金利。
・資源(特に原油)価格の動向(資源価格の上昇はメキシコペソ高要因)。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想