地政学的リスクにいかに対応するか

著者:鈴木 行生
投稿:2023/05/18 11:03

・人生100年といわれるようになった。一日一日が大事であるが、100年経てば地球上のほぼ全員が入れ替わっていく。寿命を超えて、生物としての種は続くだろうが、そこにはさまざまな戦いがある。共存を求めつつ、そうはいかないことがいたるところで起きている。

・株式市場では、インフレと米国金融政策の行方が短期的な変動要因として重視されている。政治社会環境が安定していれば、経済環境を軸に、企業活動を語ることができる。企業は30年単位で新陳代謝していくようだ、経営陣も30年でみれば、ほぼ入れ替わっていく。経営能力の持続的継承は容易でない。

・イノベーションが企業の栄枯盛衰を決定的にする。イノベーションとは、狭い意味での技術革新だけでなく、新しいパラダイムを切り拓く仕組み革新を含む。

・何億年もかけて地球の代謝が作り込んできた石炭、石油、天然ガスを、数100年で燃やしている。有益なエネルギー源であるが、その副産物であるGHGは自らの生存を危うくしかねない。それに気づいて30年かけて何とかコントロールしようとしている。

・その時、何を予見とするのか。原子力発電の放射性廃棄物について、1万年単位での管理が必要である。1万年で、日本の地形は数百mも動いてしまう。地球の地殻変動を無視するわけにはいかない。

・そんな先のことは、と無視するわけにはいかない。我々は、ステークホールダーに将来世代を入れようとしている。気候変動だけでなく、生物多様性もそのあるべき対応を求められ始めている。自らの存在は、もう1つ別の次元から見るという人類の知恵が、自らを救い、存在を長続きさせることになろう。そういうサステナビリティが求められている。

・ゲームのルールが地球上の人々の共存を前提にできればよいが、現実は厳しい。あらゆる紛争は人に依存する。人々が何等かの仲間だけで、自分たち中心に生きている時には、紛争はその中だけに限られる。

・生存の領域、領海、領空が制約を受ける時、生存をかけた戦いが始まる。それを生物の進化として客観的にみることはできない。一方で、有史以来、戦争は尽きない。戦争がない期間がある程度続いたとしても、その地域や期間は限られている。

・どんな仕組みも劣化してくる。誰かに都合よくなると、不満を持つ人々はそのルールに従わなくなる。国連の仕組みもそうであり、軍縮の仕組みもそうなりそうである。

・歴史学者のエマニュエル・トッド氏は、人類の文化としての「家族制度(ファミリーシステム)」から社会を分析している。人口統計には長期的な一貫性があるが、世論調査や経済調査は人々の本来の意識を知るという意味では十分でないとみている。

・意外なことを指摘する。1)2050年に中国が世界を支配することはありえないから、中国を心配する必要はない。2)日本は老人を大事にしすぎで、むしろ少子化を抜け出すべきである。3)ロシアはもはや弱い国となっているのに、米国はここを攻めたてて追い込んだ。4)米国はモータリティ(死亡率)が上がっており、国としての行動がおかしくなっている。

・ウクライナ紛争はその象徴であり、米国病に惑わされることなく、エモーショナルな行動から抜け出して、もっとラショナル(理性的)であれという。

・これから多くの国が、人口減少社会に入っていく。これは長期的にインフレを招く。国家の崩壊は、国家の中に主因があるので、ナショナリズムを作り出す必要がある。日本は、子どもを持つことが大事である、という価値観へシフトさせる必要がある。

・エリート社会は格差社会を助長する。どこかで傲慢になるから、よほど注意する必要がある。メタバースのメタサピエンスが台頭してくるが、ホモサイエンスと共存していけるのか。トッド氏は、それではヒトが退化しそうだから、空想の世界ではいきていけないという。

・では、現実はどうか。ウクライナ紛争で、グローバル化はブロック化に向かい、政治、経済、社会の分断が認識されている。5月に広島でG7サミットが催されるが、米国の価値観が世界には通用しなくなっている。日本は米国にどこまで付き合うのか。日本のスタンスが問われると、森本氏(元防衛大臣)は指摘する。

・国家完全保障局長を務めた北村氏は、日本の安全保障について3つの課題を挙げた。昨年、国防三文書(安全保障戦略、防衛戦略、防衛力整備計画)が改定され、防衛費をGDPの2%まで増やすこととなった。自国の防衛力を高めないと、国が守れないという危機感に基づく戦略である。

・第1は、ミサイルギャップである。中国のミサイル、北朝鮮のミサイルに対して、日本はどうなるのか。日米同盟でも、全く不十分である。いかに打たせないようにするという抑止力を高めておく必要がある。

・第2は、尖閣諸島に正面から向き合うことである。領海、領空侵犯をきちんと防ぐという姿勢をみせないと、なし崩し的に追い込まれ取られてしまう。

・第3は、ハイブリッド戦である。サイバーアタックは、その程度がどんどん高まっている。軍事、経済、技術を使って、中国は日本をけん制する。経済安全保障のインフラをいかに守るか。その法制がようやくできた。

・自分の国は自分で守る。安全保障の領域は広い。技術の流出は防ぐ必要がある。インテリジェンスの戦いにはもっと力を入れる必要がある。戦争になれば原発が攻められる。ウクライナでは起きている。国連は全く機能しない。宇宙は、サイバー空間と同じで新しい戦いが始まっている。

・人命は戦争で大きく失われている。戦争による環境破壊、生物多様性破壊は著しい。核使用も今や視野に入っている。単なる抑止力とはいえなくなっている。こうした地政学的リスクに対して、マーケットはどのように対峙するのか。予見できないこととして、前提とするだけではもはや適切でない。平和へのアクションが何としても必要である。

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配信元: みんかぶ株式コラム