*16:57JST オンコリス Research Memo(7):次世代テロメライシンは助成金の範囲内で開発を継続する方針
■開発パイプラインの動向
4. 次世代テロメライシン「OBP-702」
オンコリスバイオファーマ<4588>は次世代テロメライシンとして、テロメライシンに強力ながん抑制遺伝子であるp53を組み込んだアデノウイルス製剤「OBP-702」の開発を進めている。がん患者の30~40%でp53遺伝子に変異・欠損(悪化因子)があり、こうした患者向けの腫瘍溶解・遺伝子治療となる。テロメライシンよりも10~30倍の抗腫瘍活性を示すほか、間質細胞※を破壊する能力の高いことが非臨床試験から明らかとなっている。このため、すい臓がんや骨肉腫などを対象に開発を進める予定であったが、中外製薬とのライセンス契約解消により手元資金の有効活用を図る必要性が出てきたため、優先順位を引き下げて開発を進めることにした。
※臓器の結合組織に関わる細胞で、生体組織の支持構造を構成し、実質細胞を支える細胞である。線維芽細胞、免疫細胞、周皮細胞、内皮細胞及び炎症性細胞が間質細胞の最も一般的な種類で、間質細胞と腫瘍細胞との相互作用は、がん細胞の増殖と進行に大きな影響を及ぼすことが知られている。
「OBP-702」はAMEDの助成金事業に採択され、岡山大学の研究グループが中心となって研究開発を進めてきた経緯がある。臨床試験を行うために必要な治験薬のGMP製造については、委託先の中国企業で2回目の製造に成功しており、2023年3月から3回目の製造を行う予定になっている。2023年度も助成金を取得できれば、岡山大学で第1相臨床研究を開始する計画で、同社は治験薬の販売による売上を計上する予定だ。
2019年4月に米国で開催された癌学会では、すい臓がん細胞のマウスモデルを用いた実験で「OBP-702」に免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、「OBP-702」または免疫チェックポイント阻害剤単独投与よりも強い抗腫瘍効果が得られたことを発表しており、難治がんの1つとされるすい臓がんを対象とした開発が進められていくものと期待される。
がん検査薬のテロメスキャンはAI技術を活用した自動検査プラットフォームの開発を目指すも現在は優先順位を引き下げている
5. テロメスキャン
(1) 概要
テロメスキャンは、アデノウイルスの基本構造を持ったテロメライシンにクラゲのGFPを組み込んだ遺伝子改変アデノウイルスとなる。テロメラーゼ陽性細胞(がん細胞等)に感染することでGFPが発現し、緑色に蛍光発光する作用を利用して、がん転移のプロセスに深く関与するCTCを高感度に検出する。検査方法としては、患者の血液を採取し、赤血球の溶血・除去後にテロメスキャンを添加しウイルスを感染させる。感染により蛍光発光したテロメラーゼ陽性細胞を検出、CTCを採取する流れとなる。これまでPET検査などでは検出が難しかった直径5mm以下のがん細胞の超早期発見や、転移・再発がんの早期発見のための検査薬としての実用化を目指している。また、検出したCTCを遺伝子解析することによって個々の患者に最適な治療法を選択する「コンパニオン診断」※としての開発も将来的に期待されている。
※患者によって個人差がある医薬品の効果や副作用を投薬前に予測するために行われる臨床検査のこと。薬剤に対する患者個人の反応性を遺伝子解析によって判別し、最適な治療法を選択できるようにする。新薬の臨床開発段階でも用いられる。
(2) 開発状況
テロメスキャンの開発に関しては、課題であった目視によるCTC検出時間を大幅に短縮するため、2020年にAI技術開発のベンチャーであるCYBOと開発委託契約を締結して、AI技術を用いたCTC検査自動化プラットフォームの開発に取り組んできた。開発状況としては、2020年10月にT-CAS1(TelomeScan-CTC Analysis System)を完成させ、CTCの有無判定の自動化による検体処理時間の大幅短縮※と判定結果の標準化を実現した。ただ、同システムは発光するCTC以外の異物や健常人の正常細胞もCTCとして認識してしまうなど判別の精度に課題が残っていた。
※目視検査で1検体当たり数時間かかっていた工程を、同システムを利用することで2~3分と大幅な短縮を実現した。
そこで改めて2022年3月にCYBO社と共同開発契約を締結し、AI技術を活用したCTC自動検出ソフトウェアの開発を進めていくことにした。がん患者だけでなく健常人の検体データを多く学習させることで、CTCの判別精度を高め、CTCの可能性が高いと思われる細胞等にテロメスキャンを添加し発光の有無を確認する、二重チェックのシステム構成とすることで、精度を高めていく方針である。
サービスのイメージとしては、術後の移転・再発を早期発見するための検査サービスから開始し、将来的には成人病検診の際に行うがん検査項目の1つとして、テロメスキャンによるCTC検査サービスを普及させる考えだ。ただ、同社は現在テロメライシンへのリソース集中戦略を取っている状況である。また、AIによる画像学習に必要な検体数が不足したことで開発が遅延し、CTC自動検査プラットフォームの完成時期は未定である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<NS>
4. 次世代テロメライシン「OBP-702」
オンコリスバイオファーマ<4588>は次世代テロメライシンとして、テロメライシンに強力ながん抑制遺伝子であるp53を組み込んだアデノウイルス製剤「OBP-702」の開発を進めている。がん患者の30~40%でp53遺伝子に変異・欠損(悪化因子)があり、こうした患者向けの腫瘍溶解・遺伝子治療となる。テロメライシンよりも10~30倍の抗腫瘍活性を示すほか、間質細胞※を破壊する能力の高いことが非臨床試験から明らかとなっている。このため、すい臓がんや骨肉腫などを対象に開発を進める予定であったが、中外製薬とのライセンス契約解消により手元資金の有効活用を図る必要性が出てきたため、優先順位を引き下げて開発を進めることにした。
※臓器の結合組織に関わる細胞で、生体組織の支持構造を構成し、実質細胞を支える細胞である。線維芽細胞、免疫細胞、周皮細胞、内皮細胞及び炎症性細胞が間質細胞の最も一般的な種類で、間質細胞と腫瘍細胞との相互作用は、がん細胞の増殖と進行に大きな影響を及ぼすことが知られている。
「OBP-702」はAMEDの助成金事業に採択され、岡山大学の研究グループが中心となって研究開発を進めてきた経緯がある。臨床試験を行うために必要な治験薬のGMP製造については、委託先の中国企業で2回目の製造に成功しており、2023年3月から3回目の製造を行う予定になっている。2023年度も助成金を取得できれば、岡山大学で第1相臨床研究を開始する計画で、同社は治験薬の販売による売上を計上する予定だ。
2019年4月に米国で開催された癌学会では、すい臓がん細胞のマウスモデルを用いた実験で「OBP-702」に免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、「OBP-702」または免疫チェックポイント阻害剤単独投与よりも強い抗腫瘍効果が得られたことを発表しており、難治がんの1つとされるすい臓がんを対象とした開発が進められていくものと期待される。
がん検査薬のテロメスキャンはAI技術を活用した自動検査プラットフォームの開発を目指すも現在は優先順位を引き下げている
5. テロメスキャン
(1) 概要
テロメスキャンは、アデノウイルスの基本構造を持ったテロメライシンにクラゲのGFPを組み込んだ遺伝子改変アデノウイルスとなる。テロメラーゼ陽性細胞(がん細胞等)に感染することでGFPが発現し、緑色に蛍光発光する作用を利用して、がん転移のプロセスに深く関与するCTCを高感度に検出する。検査方法としては、患者の血液を採取し、赤血球の溶血・除去後にテロメスキャンを添加しウイルスを感染させる。感染により蛍光発光したテロメラーゼ陽性細胞を検出、CTCを採取する流れとなる。これまでPET検査などでは検出が難しかった直径5mm以下のがん細胞の超早期発見や、転移・再発がんの早期発見のための検査薬としての実用化を目指している。また、検出したCTCを遺伝子解析することによって個々の患者に最適な治療法を選択する「コンパニオン診断」※としての開発も将来的に期待されている。
※患者によって個人差がある医薬品の効果や副作用を投薬前に予測するために行われる臨床検査のこと。薬剤に対する患者個人の反応性を遺伝子解析によって判別し、最適な治療法を選択できるようにする。新薬の臨床開発段階でも用いられる。
(2) 開発状況
テロメスキャンの開発に関しては、課題であった目視によるCTC検出時間を大幅に短縮するため、2020年にAI技術開発のベンチャーであるCYBOと開発委託契約を締結して、AI技術を用いたCTC検査自動化プラットフォームの開発に取り組んできた。開発状況としては、2020年10月にT-CAS1(TelomeScan-CTC Analysis System)を完成させ、CTCの有無判定の自動化による検体処理時間の大幅短縮※と判定結果の標準化を実現した。ただ、同システムは発光するCTC以外の異物や健常人の正常細胞もCTCとして認識してしまうなど判別の精度に課題が残っていた。
※目視検査で1検体当たり数時間かかっていた工程を、同システムを利用することで2~3分と大幅な短縮を実現した。
そこで改めて2022年3月にCYBO社と共同開発契約を締結し、AI技術を活用したCTC自動検出ソフトウェアの開発を進めていくことにした。がん患者だけでなく健常人の検体データを多く学習させることで、CTCの判別精度を高め、CTCの可能性が高いと思われる細胞等にテロメスキャンを添加し発光の有無を確認する、二重チェックのシステム構成とすることで、精度を高めていく方針である。
サービスのイメージとしては、術後の移転・再発を早期発見するための検査サービスから開始し、将来的には成人病検診の際に行うがん検査項目の1つとして、テロメスキャンによるCTC検査サービスを普及させる考えだ。ただ、同社は現在テロメライシンへのリソース集中戦略を取っている状況である。また、AIによる画像学習に必要な検体数が不足したことで開発が遅延し、CTC自動検査プラットフォームの完成時期は未定である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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