資源・新興国通貨の2023年3月までの展望

著者:八代和也
投稿:2022/10/03 15:41

豪ドル

RBA(豪中銀)は5月に0.25%の利上げを行い、6月・7月・8月・9月と4カ月連続で0.50%の利上げを実施。現在の政策金利は2.35%です。

RBAは前回9月6日の政策会合時の声明で、「今後数カ月でさらに政策金利を引き上げると予想している」とし、今後さらに利上げを行う意向を表明。RBAは一方で、近い将来に利上げ幅を0.50%から縮小する可能性を示しており、ロウ総裁は9月16日に「ある時点で0.50%の利上げが不要になり、その段階に近づいている」と述べました。年内に開かれるRBA政策会合は、10月4日、11月1日、12月6日です。

市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、RBAの政策金利は23年6月までに4.35%へと上昇するとの見方が有力です。一方で、日銀は金融政策の現状維持を当面続ける姿勢を示しており、RBAと日銀との金融政策の方向性の違いをみれば、豪ドル/円は堅調に推移しそうです。

ただし、米FRBが積極的な利上げを続けるとの観測から米国の長期金利(10年物国債利回り)が上昇傾向にあり、全般的に米ドル高が進行。豪ドル/米ドルには下押し圧力が加わりやすい地合いです。豪ドル/米ドルの下落が続く場合、それに引きずられて豪ドル/円は伸び悩む可能性があります。

米国など主要国の株価動向には要注意です。豪ドルは、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があるからです。米国など主要国の株価が下落を続けるなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まれば、豪ドルの下落要因になる可能性があります。
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豪ドル/NZドルは9月28日、一時1.14843NZドルへと上昇。13年11月以来、9年10カ月ぶりの高値をつけました。

豪ドル/NZドルのレートは、「豪ドル/米ドル÷NZドル/米ドル」で算出されます。9月半ば以降の豪ドル/NZドル上昇は、豪ドル/NZドルの独自材料というよりも、豪ドル/米ドル以上にNZドル/米ドルが下落した影響が大きいと考えられます。米国の長期金利(10年物国債利回り)が安定しない間は、引き続き「豪ドル/米ドルとNZドル/米ドルの変動幅の差」が豪ドル/NZドルの変動要因になりそうです。

RBAとRBNZ(NZ中銀)の金融政策に市場の意識が向かえば、豪ドル/NZドルは伸び悩む、さらには反落する可能性があります。OISによると、RBAの政策金利は23年6月に4.35%でピークに達し、RBNZの政策金利は23年5月に4.75%でピークを迎えるとの見方が有力です。市場の見方通りに利上げが行われれば、政策金利は引き続きRBNZの方が高いこととなり、このことが豪ドル/NZドルの上値を抑える要因になりそうです。市場の見方ほどRBAは政策金利を引き上げない可能性もあります。RBAは5月以降急激に利上げを行っており、その影響が今後も出てくると考えられるからです。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)の利上げペース。RBAはどこまで政策金利を引き上げるのか。
・主要国の株価動向には注意が必要か。リスクオフは豪ドルにとってマイナス材料。
・資源(主に鉄鉱石)価格は上昇するか。資源価格の上昇は豪ドルの上昇要因。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は21年10月に利上げを開始し、前回8月まで7会合連続で利上げを実施。現在の政策金利は3.00%です。

RBNZは10月5日の会合でさらに0.50%利上げを行うとみられ、その後も利上げを続けると考えられます。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、市場ではRBNZの政策金利は23年5月までに4.75%へと上昇するとの見方が有力です。RBNZと日銀の金融政策の方向性をみれば、NZドル/円は堅調に推移しそうです。

一方で、米国の長期金利(10年物国債利回り)の上昇に支えられて足もとで全般的に米ドル高が進んでいます。米長期金利の上昇傾向は当面続く可能性があり、NZドル/米ドルには下落圧力が加わりやすいと考えられます。NZドル/米ドルの下落が続けば、NZドル/円は伸び悩むかもしれません。

NZドルは豪ドルと同様に、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)にも影響を受けやすいという特徴があります。主要国の株価が下落を続けるなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まる場合、NZドルの下落要因になる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)は政策金利をどこまで引き上げるか。
・米FRBの金融政策。今後の利上げペース、どこまで利上げするのか。
・主要国の株価動向には注意が必要。リスクオフはNZドルにとってマイナス材料。
・乳製品価格の動向。乳製品価格の上昇はNZドルにとってプラス材料。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は3月に利上げを開始し、前回9月まで5会合連続で利上げを実施。現在の政策金利は3.25%です。

カナダの8月CPI(消費者物価指数)は前年比7.0%と、上昇率は前月の7.6%から鈍化したものの、BOCのインフレ目標(2%を中心に1~3%のレンジ)を引き続き大きく上回りました。BOCは9月7日の政策会合時の声明で、「政策金利をさらに引き上げる必要があると判断している」とし、利上げを続ける意向を表明しました。

市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、BOCの政策金利は22年末までに4.00%へと上昇するとの見方が有力。BOCと日銀の金融政策をみれば、カナダドルは堅調に推移する可能性があります。

一方で、米FRBが積極的な利上げを続けるとの見方から米国の長期金利(10年物国債利回り)が上昇傾向となっており、足もとで全般的に米ドル高が進んでいます。対米ドルでカナダドルが下落すれば、対円(カナダドル/円)は伸び悩む可能性があります。
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米ドル/カナダドルは9月28日に一時1.38282カナダドルへと上昇し、20年5月以来、2年4カ月ぶりの高値をつけました。

足もとの米ドル/カナダドル上昇の主因として、(1)米国の長期金利の上昇に支えられての全般的な米ドル高、(2)主要国株価の下落によるリスクオフ(米ドルの上昇要因)、(3)原油価格の下落(カナダドルの下落要因)、が挙げられます。(2)と(3)の背景には、米FRBや欧州の中銀が積極的な利上げを続けるとの観測があります。利上げによって景気が下押しする可能性があり(株安要因)、景気が落ち込めば原油の需要が減少する(原油安要因)と考えられるからです。

米長期金利の上昇傾向、主要国株価と原油価格の下落傾向は当面続く可能性があり、米ドル/カナダドルには上昇圧力が加わりやすいとみられます。米ドル/カナダドルが下落傾向に転じるには、米朝金利が低下していく、主要国株価や原油価格が持ち直すなどの必要がありそうです。

<注目点・イベントなど>
・BOC(カナダ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・米FRBの金融政策。今後の利上げペース、どこまで利上げするのか。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の下落はカナダドルにとってマイナス材料。
・主要国株価の動向。リスクオフが強まれば、米ドル/カナダドルは底固く推移か。

トルコリラ

TCMB(トルコ中銀)は9月22日の政策会合で1.00%の利下げを行うことを決定。政策金利を13.00%から12.00%へと引き下げました。利下げは2会合連続です。

トルコは高インフレに見舞われており、8月のCPI(消費者物価指数)は前年比80.21%と、24年ぶりの高水準となりました。インフレ加速への対応策として利上げが考えられるものの、TCMBは逆に2会合連続で利下げを行いました。このことはトルコリラの下落要因と考えられます。また、利下げによってエルドアン大統領の金融政策における影響力の大きさが改めて示されたと言え、これもトルコリラにとってマイナス材料です。

TCMBは今後も利上げを続ける可能性があります。エルドアン大統領が9月29日に「われわれは政策金利を12%まで下げたが、これで十分ではない」と述べ、「政策金利は一段と低下する必要があり、今後の政策会合でも利下げを行う必要があると中銀(TCMB)に提案した」と語ったからです。トルコリラには下押し圧力が加わりやすいと考えられます。トルコリラ/円については、米ドル/円の動向にも影響を受けるものの、6.087円(21年12月につけた過去最安値)にいずれ近づくかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・TCMB(トルコ中銀)は利下げ継続か、トルコリラには下押し圧力が加わりやすいとみられる。
・金融政策をめぐるエルドアン大統領の言動には要注意。
・トルコと米国やEUとの関係は改善するか。
・シリア情勢などトルコの地政学リスク。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は21年11月に利上げを開始し、前回9月の会合まで6会合連続で利上げを実施。現在の政策金利は6.25%です。

南アフリカの8月CPI(消費者物価指数)は前年比7.6%と、上昇率は前月の7.8%から鈍化したものの、SARBのインフレ目標である3~6%を引き続き上回りました。クガニャゴSARB総裁は9月22日の政策会合後の会見で追加利上げを示唆しており、SARBと日銀の金融政策面からは、南アフリカランド/円は堅調に推移しそうです。

一方で、全般的な米ドル高の影響によって南アフリカランドは対米ドルで下落傾向にあります。対米ドルで南アフリカランド安が進む場合、対円(南アフリカランド)も引きずられる可能性があります。南アフリカでは、発電設備の老朽化などによる電力不足によって計画停電がたびたび実施されていることにも注意が必要です。今後、停電が長期間行われる事態になれば、南アフリカ景気をめぐる懸念が市場で強まるかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・米FRBの金融政策。今後の利上げペース、どこまで利上げするのか。
・今後、南アフリカで停電が長期間行われるようなら、南アフリカランド安材料になる可能性も。
・金など商品価格の動向。商品価格の上昇は南アフリカランドにとってプラス材料。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は21年6月に利上げを開始し、前回9月まで11会合連続で利上げを実施。現在の政策金利は9.25%です。

メキシコの9月前半のCPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比8.76%、変動の大きい食品やエネルギーを除いたコア指数は同8.27%と、いずれもBOMのインフレ目標(3%。2~4%が許容レンジ)を大幅に上振れ。BOMは9月29日の政策会合時の声明で、「実勢に基づいて、次回の政策決定(11/10)に向けて利上げ幅を評価する」と改めて表明。今後さらに利上げする意向を示しました。こうしたBOMの金融政策スタンスは、メキシコペソの上昇要因と考えられます。

一方で、米FRBは積極的な利上げを続けるとみられ、メキシコペソは対米ドルで軟調に推移する可能性があります。対米ドルでメキシコペソが下落すれば、対円(メキシコペソ/円)は伸び悩むかもしれません。原油価格や主要国の株価の動向にも注意が必要です。世界的な景気減速への懸念が強まれば、原油価格(米WTI原油先物が代表的な指標)には下押し圧力が加わりやすくなり、主要国の株価が下落を続ければリスクオフ(リスク回避)の動きが強まる可能性があるからです。原油安はメキシコペソの下落要因、リスクオフは円の上昇要因です。

<注目点・イベントなど>
・BOM(メキシコ中銀)は利上げを継続するとみられる。メキシコペソを支援しそう。
・米FRBの金融政策。今後の利上げペース、どこまで利上げするのか。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の下落はメキシコペソにとってマイナス材料。
・主要国株価の動向。リスクオフが強まれば、円が上昇する可能性あり。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想