外部成長を活かす経営~M&Aの評価はいかに

著者:鈴木 行生
投稿:2022/09/08 18:30

・企業の成長性をいかに高めるか。自力の内部成長だけでは、十分な中身が伴わず、時間がかかることも多い。人材、ノウハウ、テクノロジー、新しい仕組みなど、経営資源を醸成していくには相当な力量が必要である。

・自力の内部成長は、現在の経営陣が頑張ればよいので、投資家としても会社の動きを理解しやすい。1)しかるべき成長に向けて、しっかり手を打っているか、2)リスクをとることを避けて、あまり勝負していないか、3)無理な目標を掲げるわりに、内実が伴っていないかなど、対話をしていると、それなりに分かってくる。

・では、外部成長はどうか。何らかの資本業務提携、大胆なM&Aによって自力ではできない新たな成長の糧を手にいれようという戦略は、今や日本企業においても常識となっている。ここをどう評価するか。

・その中身を理解して、1~2年経って成果が見えてくれば、次第に評価も固まってこよう。しかし、評価が固まってから投資するのでは遅い。一方で、M&Aは大型になればなるほど、インパクトがあるだけに、はずれた時の打撃も大きい。

・日本重化学工業とキリンホールディングスの話を聞く機会があった。海外企業をM&Aして、うまくシナジーを出していくにはどうすればよいのか。一般論では分かるとしても、実際に実行するとなると、ハードルはかなり高い。成功に導くための評価のポイントを取り上げてみよう。

・日本重化学工業は、製鉄に不可欠な合金鉄を生産している。かつて鉄鋼アナリストの時、担当したことがあった。この会社が、仏のボーゼル社を買収した。不純物を取り除くカルシウムシリコンをブラジルで製造している。日本重化学工業の取引先であった。

・買収した後、現地に経営を任せたが、業績が低迷した。マネジメントが十分でない。日本から乗り込んで経営を立て直すことにした。現地の経営陣を変え、戦略を変え、組織の内部を組み替えた。見事に再建した。

・通常、日本からマネジメントのトップを送ったとしても、現地で力を発揮できないことも多い。何が問題か分かっていても、手が打てていなかった。そこで、分析データを示して、キャッシュフローを重視した。営業のやり方を変えるには、コンサルを活用した。インセンティブの仕組みを変えて、利益が出たら反映するようにした。

・国が違っても、経営立て直しの根幹は同じである。この途中のプロセスを、外部の投資家はなかなか知りえない。しかし、もし重要なM&Aであれば、変革の進捗を一定程度開示してほしいし、開示すべきであろう。

・キリンホールディングスの場合は、多くのM&Aを経験して、それを経営力として蓄えている。かつて、多角化のM&Aを実行した。その後、ノンコアのビジネスは整理した。

・次に、海外で大型のM&Aを実行した。ブラジルのビール企業の買収は、高い授業料を支払った。BRICS(ブリックス)の1国として注目されたブラジルであるが、経済の低迷で業績不振となった。大幅な売却損が発生した。

・現在は、米国のクラフトビールやヘルスサイエンスの分野で、M&Aを戦略的に進めている。どこがM&Aのカギとなるのだろうか。

・第1に、地政学的リスクを十分考慮することである。新興国のマーケットは有望にみえるが、思わぬリスクも発生する。実際、ミャンマーはうまくいっていたが、撤退を余儀なくされた。

・第2は、投資家との対話である。どのような事業ポートフォリオを目指すのか。アクティビストからの提案に対して、自社の戦略をしっかり主張して、意見の違いがあっても、社内は一枚岩となって価値向上に邁進することである。

・第3は、戦略に沿ったM&Aのターゲットリストを常に自ら作っておくことである。外部の投資銀行が持ってくる案件を、パッシブに検討するだけでは戦略的でない。

・第4は、これまでの経験、とりわけ失敗の経験を記録としてきちんと残して、社内で共有できるようにしておく。経験知を、組織能力として次に活かせるようにしておく。

・第5に。PMI(買収後の経営統合)には大きなエネルギーがいるので、企業風土がバランスよく醸成されるように、自社から優秀な人材を多めに出して、改革をサポートする。

・第6に、財務規律としてはROIC 10%を基準とし、厳格に運用する。但し、スタートアップのような企業については、別途検討する仕組みを持っておく。

・第7に、フリーキャッシュ・フローの配分でいえば、まず配当、次に内部成長投資、そして、最後がM&Aなどの外部成長投資、という優先順位をしっかり共有しておく。

・京都大学の松本茂特命教授は、M&Aがうまくいくかどうかは、1)買収先の企業は本当に自社にとってポテンシャルがあるのか、2)ポテンシャルがあるとしても、それを引き出す経営力が自社のマネジメントにあるのか、にかかっているという。

・M&Aは、相手方企業のもともとの価値に対して、プレミアムを払って買収する。プレミアム以上のシナジーが出せなければ、本当の価値創造とはいえない。自社の経営で生み出せる価値の一部を、プレミアムとして前払いするのであるから、そこからが勝負となる。

・シナジーといっても、3つのパターンがある。買収は新しい企業結合であるから、結合の型と効果をよく見極める必要がある。垂直結合か水平結合を問わず、無駄な部分はリストラして合理化を図る。次に上流や下流に内製化を進めて、付加価値を取り組む。

・さらに、シェアアップ型なのか、相互補完型なのか、新規参入型なのか、を評価していく。何らかの混合結合が、ネットワーク効果を生んでくるならば、そのシナジーは一段と大きなものとなろう。

・実際には、単品からモジュールへ、水平結合からアフターサービス充実型へ、グリップを効かせた「まかせる経営」の確立など、多面的なシナジーがありうる。

・松本教授は、「戦略は買収に従う」と強調する。かつて筆者の若い時は、「組織は戦略に従うか」あるいは「戦略は組織に従うか」がテーマであった。日本企業は、戦略立案とその実行力が弱い。トップは、つい組織を作って、そこに戦略作りを任せようとする。本物のリーダーシップがついてこない。

・筆者は、まず戦略ありき、と長年考えてきた。M&Aについては、戦略に基づいて買収する。すると買収したことから、次の新しい戦略が生まれてくる。競争の戦略が変化してくる。ここから強みが生まれてくる。確かに、こうした連鎖を通して、グローバルトップニッチを作っていければ最高である。

・M&Aの成功モデルのあり様を、投資家としても身に付けたい。やはり経験知がものをいうので、M&Aの成功・失敗の事例を蓄積して、次の投資に活かしていきたいと思う。

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

配信元: みんかぶ株式コラム

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