資源・新興国通貨の2022年12月までの展望

著者:八代和也
投稿:2022/08/29 15:16

豪ドル

豪ドル/NZドルと政策金利差<月足。期間:2008/1~2022/7(豪ドル/NZドル)、2022/8(政策金利差)>
豪ドル/NZドルと政策金利差<月足。期間:2008/1~2022/7(豪ドル/NZドル)、2022/8(政策金利差)>出所:リフィニティブより作成

RBA(豪中銀)は5月に利上げを開始し、前回8月2日の政策会合まで4会合連続の利上げを実施。RBAの現在の政策金利は1.85%です。

RBAは8月会合時の声明で「今後数カ月間、(豪州の)金融情勢を正常化するプロセスにおいてさらなる措置を講じる見込み」と表明。今後も利上げを継続する意向を示しました。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によれば、市場ではRBAの政策金利は22年末までに3.35%へ、23年半ばには3.85%へと上昇するとの見方が有力です。日銀は大規模な金融緩和策を継続する姿勢を示しており、RBAと日銀との金融政策の方向性の違いを考えれば、豪ドル/円は堅調に推移しそうです。

豪ドル/米ドルについては、米FRBの金融政策にも影響を受けると考えられます。FRBの利上げ打ち止め観測が市場で強まる場合には、豪ドル/米ドルは堅調に推移するとみられます。

一方で豪ドルには、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。米国など主要国の株価が下落を続けるなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まれば、豪ドル/円や豪ドル/米ドルの上値を抑える要因になる可能性があります。
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豪ドル/NZドルは8月26日に17年10月以来、4年10カ月ぶりの高値をつけました。足もとの豪ドル/NZドル上昇の主な要因として、「RBAはRBNZ(NZ中銀)よりも積極的に利上げする」と市場が予想していることのほか、NZの4-6月期の小売売上高(8/25発表)が弱い結果だったことが挙げられます。NZの小売売上高は前期比マイナス2.3%と、市場予想(プラス1.7%)に反して1-3月期から減少しました。

一方で、13年7月以降、1.10~1.15NZドルのレンジ内で上下動を繰り返しており、現状ではそのレンジ内での値動きです。また、長い目でみれば豪ドル/NZドルは、RBAとRBNZの金融政策が重要なカギを握ると考えられます。

08年1月以降の「豪ドル/NZドル」と「RBAとRBNZの政策金利差」の関係をみると、RBAの政策金利がRBNZの政策金利を上回る局面で、おおむね豪ドル/NZドルは1.15NZドルを上回っています。これを参考にすれば、豪ドル/NZドルが1.15NZドルを超えるには、RBAとRBNZの政策金利が逆転する必要がありそうです(現在の政策金利は、RBAが1.85%、RBNZは3.00%)。

OIS(翌日物金利スワップ)によれば、23年半ばまでにRBAの政策金利は3.85%へ、RBNZの政策金利は4.25%へと上昇するとの見方が有力。市場の見方通りなら、政策金利の水準はRBNZの方が高い状況が続くことになります。

RBAは市場の見方ほど政策金利を引き上げない可能性もあります。RBAは5月以降急激に利上げを行ったうえ、今後も積極的に利上げすれば、豪景気にかなりの打撃になるからです。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)の利上げペース。
・主要国の株価動向には注意が必要か。リスクオフは豪ドルにとってマイナス材料。
・資源(主に鉄鉱石)価格は上昇するか。資源価格の上昇は豪ドルの上昇要因。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は8月17日の政策会合で、0.50%の利上げを行うことを決定。政策金利を2.50%から3.00%へと引き上げました。RBNZの利上げは7会合連続です。

RBNZは8月の会合で四半期に一度の金融政策報告を公表。政策金利のピーク水準の見通しを5月時点の3.95%から4.10%へと上方修正し、ピークに達する時期も1四半期前倒ししました(23年7-9月期から同4-6月期へ)。市場はRBNZの政策金利についてRBNZと同じような見方をしており、市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、RBNZの政策金利は23年半ばまでに4.25%へと上昇するとの見方が有力です。RBNZの利上げ観測に支えられて、NZドル/円は堅調に推移しそうです。

NZドル/米ドルについては、米FRBの金融政策にも影響を受けると考えられます。FRBの利上げ打ち止め観測が市場で強まる場合には、NZドル/米ドルは堅調に推移するとみられます。

NZドルは豪ドルと同様に、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)にも影響を受けやすいという特徴があります。主要国の株価が下落を続けるなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まる場合、NZドル/円やNZドル/米ドルの上値を抑える要因になりそうです。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)は政策金利をどこまで引き上げるか。
・米FRBの金融政策。FRBは利上げを続けるかどうか。
・主要国の株価動向には注意が必要。リスクオフはNZドルにとってマイナス材料。
・乳製品価格の動向。乳製品価格の上昇はNZドルにとってプラス材料。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は3月に利上げを開始し、前回7月の政策会合まで4会合連続で利上げを行いました(現在の政策金利は2.50%)。

カナダの7月CPI(消費者物価指数)は前年比7.6%と、上昇率は83年1月以来39年5カ月ぶりの高い伸びだった前月の8.1%から鈍化したものの、BOCのインフレ目標(2%を中心に1~3%のレンジ)を引き続き大きく上回りました。BOCは利上げを継続するとみられます。OIS(翌日物金利スワップ)によると、市場が織り込む次回9月7日の会合での利上げの確率は、0.50%幅が37.4%、0.75%幅は62.6%。BOCの政策金利は22年末までに3.75%へと上昇するとの見方が有力です。BOCと日銀との金融政策の方向性の違いを背景に、カナダドル/円は堅調に推移しそうです。

米ドル/カナダドルについては、BOCと同様に米FRBも利上げを当面続けるとみられます。BOCとFRBの利上げペースに大きな差がなければ、米ドル/カナダドルは明確な方向感が出にくいと考えられます。

原油価格(米WTIが代表的な指標)や主要国株価の動向には注意が必要です。原油安はカナダドルにとってマイナス材料であり、主要国株価が下落するなどしてリスクオフ(リスク回避)の動きが強まることは円や米ドルにとってプラス材料です。原油安が進む、あるいはリスクオフの動きが強まる場合には、カナダドル/円は上値が重くなり、一方で米ドル/カナダドルは底固く推移する可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・BOC(カナダ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の下落はカナダドルにとってマイナス材料。
・主要国株価の動向。リスクオフが強まれば、米ドル/カナダドルは底固く推移か。

トルコリラ

TCMB(トルコ中銀)は8月18日の政策会合で、1.00%の利下げを行うことを決定。政策金利を14.00%から13.00%へと引き下げました。TCMBが利下げしたのは、21年12月以来、8会合ぶりです。

トルコの7月CPI(消費者物価指数)は前年比79.60%と、上昇率は78.62%から加速し、98年9月以来約24年ぶりの高い伸びとなりました。エルドアン大統領は以前から低金利を志向しており、インフレが加速しているにもかかわらずTCMBが利下げを行ったことは、エルドアン大統領に配慮したと市場に受け取られかねません。TCMBの金融政策への信頼性は一段と低下すると考えられます。

TCMBは8月の会合時の声明で、「新しい政策金利の水準(13.00%)は、現在の見通しの下では適切だ」と表明。利下げは今回限りの可能性も示したものの、TCMBの金融政策はエルドアン大統領の意向によって変わるとの懸念があります。TCMBの金融政策の先行きには不透明感が強く、トルコリラには下押し圧力が加わりやすい地合いが続きそう。トルコリラ/円については、米ドル/円の動向にも影響を受けるものの、6.087円(21年12月につけた過去最安値)への接近もあり得ます。

<注目点・イベントなど>
・TCMB(トルコ中銀)の金融政策の先行き不透明感からトルコリラ安圧力が加わりやすい地合いか。
・金融政策をめぐるエルドアン大統領の言動には要注意。
・トルコと米国やEUとの関係は改善するか。
・シリア情勢などトルコの地政学リスク。

南アフリカランド

SARB(南アフリカ中銀)は前回7月の政策会合まで5会合連続で利上げを行っており、現在の政策金利は5.50%です。

南アフリカの7月CPI(消費者物価指数)は前年比7.8%と、上昇率は前月の7.4%から加速。09年4月以来、13年3カ月ぶりの高い伸びを記録し、SARBのインフレ目標である3~6%から一段と上方へかい離しました。インフレを抑制するためSARBは利上げを継続するとみられます。SARBと日銀との金融政策の方向性の違い考えれば、南アフリカランド/円は堅調に推移しそうです。

一方で、南アフリカでは、発電設備の老朽化などによる電力不足によって計画停電がたびたび実施されています。今後、停電が長期間行われる事態になれば、南アフリカ景気をめぐる懸念が市場で強まる可能性があります。市場が南アフリカの景気減速を強く意識すれば、南アフリカランド/円に対して下押し圧力が加わりそうです。

<注目点・イベントなど>
・SARB(南アフリカ中銀)の政策金利はどこまで上昇するか。
・今後、南アフリカで停電が長期間行われるようなら、南アフリカランド安材料になる可能性も。
・米FRBの利上げペース。
・金など商品価格の動向。商品価格の上昇は南アフリカランドにとってプラス材料。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は前回8月の政策会合まで10会合連続で利上げを行っており、現在の政策金利は8.50%です。

メキシコの7月CPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比8.15%、変動の大きい食品やエネルギーを除いたコア指数は同7.65%。上昇率はいずれも前月(7.99%、7.49%)から加速し、BOMのインフレ目標(3%。2~4%が許容レンジ)からさらにかけ離れました。

BOMの年内の会合はあと3回(9/29、11/10、12/15)。インフレの抑制に向けてBOMは利上げを継続するとみられます。日銀は大規模な金融緩和策を続けるとみられるため、金融政策面からみれば、メキシコペソ/円はいずれ7円台へと上昇する可能性があります。

一方で、メキシコペソはカナダドルと同じく、原油価格の動向にも影響を受けやすいという特徴があります。世界的な景気減速への懸念が強まれば、原油価格(米WTI原油先物が代表的な指標)には下押し圧力が加わりやすくなりそう。また、主要国の株価が下落を続ければ、リスクオフ(リスク回避)の動きが強まることが考えられます。リスクオフは円高要因です。そのため、原油安が進む、あるいはリスクオフが強まる場合には、メキシコペソ/円は伸び悩むかもしれません。

<注目点・イベントなど>
・BOM(メキシコ中銀)は利上げを継続するとみられる。メキシコペソ/円を支援しそう。
・資源(主に原油)価格の動向。資源価格の下落はメキシコペソにとってマイナス材料。
・主要国株価の動向。リスクオフが強まれば、メキシコペソ/円は上値が重くなる可能性も。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想