・国が平和であれば、人々の生活は向上する。妙な独裁者がいなければ経済は発展する。制度や仕組みに課題があっても、人々の頑張りがそれなりに貢献する。しかし、戦争や紛争で国土が疲弊し、難民が続出するようでは、国はもたない。独裁者の専制国家が国民を餓死させて平気なようでは、その国は衰退の一途を辿ろう。
・グローバルな社会や経済が、政治の枠組みの中で一定の安定を保っていれば、発展の道を探ることもできるが、SDGsに暗雲が垂れ込めている。5月に日経SDGsフォーラムで、国連事務次長・軍縮担当上級代表の中満泉氏の講演を視聴した。
・2月24日のロシアによるウクライナ侵攻で国連は根本的な挑戦を受けている。愚かな戦争にいかに対処するのか。中満氏は、3つの課題を提示した。①核軍縮のあり方、②SDGsの行方、③多国間主義と国連の意義である。
・第1の核軍縮において、核は使わないという前提が、いざとなったら使うという脅威に変わった。ロシアのプーチンならやりかねない。軍縮という概念が危機に陥っている。
・ウクライナ紛争をみると、手を抜いているとやられる。よって、防衛を強化するしかない。軍拡競争に入って、軍事費は増大していく。核兵器を持つ国が増えてくれば、それが使われる可能性が高まってくる。核軍縮の規範が壊れていくと警鐘を鳴らす。
・軍縮はレトリックでユートピアになってしまうのか。軍備管理、核管理、核不拡散にどう取り組むのか。NPT(核兵器不拡散会議)が8月に催された。75年続いた不使用をいかに継続し、核戦争のリスクを減らすか。条約への署名が効力を持つようにしていくことが求められる。
・第2のSDGsの行方はどうなるのか。ウクライナ戦争の激化、長期化で、コロナパンデミック後の経済が落ち着くどころか、インフレが加速している。食料、エネルギー、資源の供給が分断されて、サプライチェーンの混乱に拍車をかけている。
・これも長期化しそうである。穀物の供給不足、石油、石炭に戻らざるを得ないエネルギー不足、半導体などの供給制約となる希少資源の不足などが、ショーテッジによる価格高騰を招いている。
・紛争の収束がみえたとしても、前のグローバル経済には戻らないであろう。ロシアとは対峙したまま、中国とも一線を画して、新しい秩序を作っていく必要がある。
・SDGsの観点からみれば、紛争による秩序の再構築は、貧困や不平等を悪化させて、弱者を一段と窮地に追いやることになる。つまり、SDGsへの対応が難しくなり、遅れることになる。
・先進国は、どこまでがまんできるのか。危機が迫った国々や途上国を優先的に助けていく必要がある。しかし、どの先進国でも国内のインフレ、貧困対策を優先せざるを得ない。
・第3の多国間主義(マルチラテラリズム)の将来はどうなるのか。グローバルな課題に対して、多国間で話し合い、取り組んでいくという方式がもはや機能しなくなっている。国連の安保理の常任理事国が、国連憲章違反で侵略を公然と行うようではどうしようもない。
・国連が機能しなくてよいのか。そんなことはない。国連は行動して、救済していくしかない。さもないと、国際秩序のすべてが崩れていく。ウクライナ以外にも、アフガン、イエメンなど戦争、紛争は続いている。
・戦争停止の交渉、難民の保護、市民の保護、原発の保護などに全力で取り組むしかない。国連は来年、新しいビジョンに基づく軍縮のあり方を発表するという。中満氏は平和のために活動を続けている。
・5月に、日経主催で国際交流会議「アジアの未来」が開かれた。そこでの論点は、「越えてはならない一線をどう守っていくか」にあった。
・守るべき秩序を互いに明示して、管理不能な状況になることを回避していく必要がある。主権と独立の尊重はもちろんであるが、一方で人権の尊重と内政不干渉は、すでに対立の軸となっている。
・ロシアのウクライナ侵攻に対して、NATOはどのように立ち向かうのか。中米の相互不振に、アジア各国はどこまでついていけばよいのか。中国の経済を無視するわけにはいかない。
・台湾、南シナ海、東シナ海、サイバー空間、宇宙に至るまで、陣取り合戦は続く。戦略的な地政学リスクの管理、経済的競争の管理が求められる。それを前提として国際関係が成り立ち、企業活動も前に進める。
・成長への道、回復への軌道に向けて、企業としても取り組むべきテーマは、4つの投資であろう。①ヘルスケア投資、②人材投資、③DX投資、④環境エネルギー投資である。次の国際秩序を見据えながら、不透明な経営環境にあっても、先進的な投資を続ける企業を的確にウォッチしたい。
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