―石油や天然ガス高騰のなか、太陽光・風力発電の地政学リスクの低さ再評価―
ロシアのウクライナ侵攻により原油価格が高騰している。もともと上昇基調を強めていたが、ウクライナ侵攻が現実になったいま、ロシアからの原油供給不安に拍車がかかった。2月24日には、WTI価格が一時1バレル=100ドル台まで上昇している。更に、米、英、欧州などが銀行間の国際決済ネットワークである「SWIFT」からロシアを排除することで合意。日本もこの動きに参加することを表明するなど各国が強める経済制裁だが、エネルギー資源の供給を盾にロシアも強い対抗措置に出てくる可能性もあり、日本のエネルギー政策にも大きな影響を与えることになる。供給不安が台頭するなか、業績悪化懸念などで冴えない展開が続くものの、「再生可能エネルギー関連」に再び関心が向かうことも考えられる。海外から影響を受けず、地政学リスクの低い地産エネルギーとしての存在感を高める再生可能エネ関連 のいまを追った。
●リオープンに影を落とす可能性も
岸田首相は2月25日、記者会見でロシアへの追加の制裁措置を発表した。そのなかで、エネルギーの安定供給について「現時点では、世界の原油供給はロシアの侵攻によっても断絶しておらず、対ロシア経済制裁は、エネルギー供給を直接阻害するものでない」とした。また、「国内には現在、原油については、国、民間合わせて約240日分の備蓄があり、LNGについても、電力会社、ガス会社において2週間から3週間分の在庫を保有している。このため、エネルギーの安定供給に直ちに大きな支障を来すことはない」と強気の姿勢を示した。
ウクライナとロシアの停戦協議の結果はどうあれ、流動的な状況は続きそうだ。仮にロシアのウクライナへの軍事侵攻が早期に終結したとしても、経済制裁については当面継続されることも考えられ、ロシア側も報復措置に出る可能性は高い。岸田首相が言うように「直ちに」大きな支障はないのかもしれないが、この問題が長期化すれば、当然状況にも変化が生じることになる。ロシア経済の衰退は言われて久しいものの、資源大国という側面ではいまだ世界経済に大きな影響力を持っており、更なる原油やLNGなど資源価格の上昇に加え供給不安は、コロナ禍からのリオープン(経済活動の再開)を目指す日本経済にも影を落とすことになる。
●再生エネにいまひとつ注目が集まらない、そのワケ
こうしたなか、他国からのエネルギー供給に頼らない「再生可能エネ」に再び注目が集まっても良さそうだが、ことはそれほど単純な話ではない。国が二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルの実現に向けて進むなか、新規参入企業の増加などによる競争の激化、加えて部材の供給不足など、再生可能エネ関連を取り巻く状況は極めて厳しく、業績が低迷する銘柄も少なくない。また、メガソーラー発電所の設置などについては、昨年7月に発生した静岡県熱海市の土砂災害の現場付近に太陽光発電設備があったことも、逆風ムードを助長している。太陽光発電機器を手掛ける高島 <8007> も、2月10日に発表した決算短信のなかで「太陽エネルギー関連分野は産業用太陽光パネルの値上げと供給不足、更には半導体の供給不足の影響で低調に推移」としている。とはいえ、同社の業績は堅調で、22年3月期第3四半期累計の連結営業利益は前年同期比22.5%増の12億5500万円となり、通期計画に対する進捗率は78.4%に達し、株価も高値圏で推移している。
●原発回帰の欧州、選択肢限られる日本
また、ここにきて欧州において原発回帰に舵を切る動きが出ていることも、再生可能エネ関連銘柄にとっては向かい風といえる。背景には、EU域外からのエネルギー資源の供給に頼らないことを念頭においた“エネルギー安保”の台頭があり、ロシアのウクライナ侵攻により、この考えが更に加速する可能性もある。ただ、日本においては東日本大震災での福島第一原発事故の発生という独自の事情もあり原発推進は見込みにくく、電力供給安定化の選択肢は限られることになる。こうしたなか、再生可能エネ関連にもさまざまな動きが出ている。
●ウエストHD、JERAと太陽光発電開発で業務提携
太陽光発電 の設置工事や保守・管理などを手掛けるウエストホールディングス <1407> [JQ]は2月2日、東京電力ホールディングス <9501> と中部電力 <9502> が共同で出資するJERA(東京都中央区)と太陽光発電の開発などに関する業務提携について基本合意したと発表。3月末ごろの最終合意を目指し、「国内の新規地点及びJERAの発電所跡地において、ウエストHDがJERA向けに太陽光発電プロジェクトの優先開発を行う」「JERAによるウエストHDへの資本参画」「両社間での太陽光発電を始めとした電力の融通」「海外を含めた両社による第三者向けの太陽光発電事業機会の創出」について具体的な協議を進めるとしている。同社は、脱炭素関連の象徴株として人気を集めた経緯があるが、今年に入って株価は、高い成長期待を背景にこれまで買われてきた反動から大きく売られている。ただ、1月26日につけた3085円を底に切り返し、ここにきては4000円台でもみ合う状況にある。
●イーレックス、通期計画を大幅に超過
余剰電力を買い取り再販する電力小売り事業を展開するイーレックス <9517> は、昨年11月には韓国のサムスン物産と国内外における非効率石炭火力発電へのバイオマス燃料供給事業などに関する業務提携に向けた検討を開始する覚書を締結。また同月、ベトナムフーイエン省とバイオマス燃料事業に係る覚書を締結しており、コロナ禍にあっても攻勢の手を緩めていない。2月10日に発表した22年3月期第3四半期累計の最終利益は、前年同期比2倍となる79億900万円と急拡大、通期計画の65億円を大幅に超過した。株価は、2月9日に直近安値の1409円まで売られたあと上値を慕う展開。きょうは、77円高の1852円で取引を終えている。
●日立造、ごみ焼却発電施設が好調
日立造船 <7004> は、海外でのごみ焼却発電施設が好調だ。同社は2月7日、22年3月期の連結業績予想について、売上高を4000億円から4200億円(前期比2.8%増)へ、営業利益を140億円から150億円(同2.6%減)へ、最終利益を50億円から55億円(同29.2%増)へ上方修正した。環境部門における海外ごみ焼却発電施設の大口工事の進捗により売上高が上振れる見通しであることに加えて、機械・インフラ部門及びその他部門において工事コストダウン及び固定費削減に伴う改善が見込まれることが要因だという。同社は2月17日に、英国ロンドン北部のごみ焼却発電プラント建設工事において、主要機器の供給を行うと発表。国内では、同月3日に同社を代表とする共同企業体が、広島県福山市で木質バイオマス発電所の建設工事を受注したことを発表している。
●実績積み上げるテスHD
昨年4月に東証1部に上場したテスホールディングス <5074> は再生可能エネ発電所の運営や売電、電気の小売り供給などを手掛けるが、エネルギーの脱炭素化に向けた取り組みが加速するなか業績は好調だ。2月22日には、子会社のテス・エンジニアリングがやまみ(広島県三原市)本社工場、関西工場、富士山麓工場向けに自家消費型太陽光発電システムによる再生可能エネ電気の供給を開始したことを発表。また、1月にはTESS兵庫朝来ソーラー発電所、TESS茨城桜川ソーラー発電所が発電事業を開始するなど順調に実績を積み上げている。昨年12月には、日系企業による英国初の系統用蓄電事業となる、英国大規模蓄電プロジェクトに共同事業者として出資参画することを発表するなど攻勢を強めている。2月14日に発表した22年6月期第2四半期累計の連結営業利益は前年同期比67.0%増の41億5800万円に拡大し、通期計画の49億500万円に対する進捗率は84.8%に達した。
●応用地質は洋上風力発電でワンストップサービス
地質調査業大手で、洋上風力発電 への継続的な取り組みを強化する応用地質 <9755> にも注目しておきたい。同社は、拡大が続く洋上風力発電について、海底地盤調査に係る計画から調査実行、結果解析、3次元化、新探査手法の導入、審査資料の取りまとめまでをワンストップで提供しており、ニーズの取り込みに懸命だ。同社が2月10日に発表した21年12月期の連結営業利益は前の期比45.3%増の36億6600万円となり、続く22年12月期も前期比3.6%増の38億円を計画している。
●駒井ハルテク、多摩川HD
そのほかでは、鉄骨・橋梁大手の駒井ハルテック <5915> も、ここ風力発電事業に注力しており、再生可能エネ関連の一角として活躍期待が高まっている。1月21日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がグリーンイノベーション基金事業の一環として、浮体式を中心とした洋上風力発電のコスト低減によって導入拡大を目指すプロジェクト「洋上風力発電の低コスト化」(総額1195億円)に着手すると発表。このなか同社は、「洋上風車用タワーの高効率生産技術開発・実証事業」の実施予定先として名を連ねている。
また、多摩川ホールディングス <6838> [JQ]はモバイル端末や無線機器、計測器の製造販売を行い、5G関連の需要を捉えているほか、風力発電などの再生可能エネ事業にも注力し、ビジネス領域を広げている。同社は2月14日、連結子会社であるGPエナジーIが、秋田県男鹿市において協調融資により小型風力発電所を10基開発すると発表した。
株探ニュース
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