―増産図るがEV、5G向け引き合い強い、パワー半導体関連株など一段高期待―
2021年は世界的な半導体不足が一段と深刻化した年だった。自動車メーカー各社では工場停止が相次ぎ、新車納入が滞った。任天堂 <7974> の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」は販売好調にもかかわらず、減産を余儀なくされた。この背景には半導体不足に起因した部品不足が背景にある。このような状況を背景に、21年は世界中の株式市場で 半導体関連株が人気化した。米国の主要な半導体関連銘柄で構成される「SOX指数」は上昇トレンドが明確になっており、東京市場も半導体関連株の好パフォーマンスが目立つ。半導体不足はなお長期化が予想され、22年の株式市場でも人気が続きそうだ。
●コロナ禍からの回復で半導体需要が急増
半導体不足は、複数の要因が絡み合って発生している。まず、新型コロナウイルスのパンデミックのもとで多くの半導体製造工場の生産が停止されたが、新型コロナの感染状況が落ち着き、操業を再開しているものの、供給は遅れ受注残は積み上がったままだ。加えて、コロナ禍からの経済再開に向けて需要が急増したため、需給バランスは完全に崩れてしまった。
これには米中の政治的な対立も影響している。半導体の製造拠点は東アジアに多いが、バイデン米政権が21年6月に取りまとめた報告書で半導体などの戦略物資の調達における中国依存を減らす方針が示され、各国の企業は新たなサプライヤーを中国以外に求めざるを得なくなった。米中対立の先鋭化につれて半導体の在庫をできるだけ確保しておくため、中国メーカーも駆け込み的に注文を出したことが影響している。中長期的には、大手半導体メーカーは、台湾の台湾積体電路製造(TSMC
●「脱炭素化」で新たな半導体需要の発生も
新たな半導体需要の発生も需給逼迫の要因として挙げられる。従来の自動車や家電製品だけではなく、例えば、世界的なデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の動きや「脱炭素化 」により、電気自動車(EV)向け、 太陽光発電向けの半導体需要が伸びていることも大きい。
昨年秋に行われた国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、販売されるすべての新車を主要市場では35年までに、世界全体では40年までに、EVなど温室効果ガスを出さない車とすることを目指す宣言に20ヵ国以上が合意した。欧州連合(EU)ではこれに先立って、7月にガソリン・ディーゼル車の販売を35年に事実上禁止する方針を打ち出している。車の「脱炭素化」に向けた取り組みが進展し、EVへのシフトは22年以降に一段と加速すると考えられ、これが半導体需要を拡大させるとみられる。
再生可能エネルギーへの投資が世界中で拡大するなか、太陽光発電の一段の普及が見込まれることも大きい。太陽光パネルは組み込まれた半導体が光エネルギーを吸収して電気に変換する仕組みであり、この動きも半導体需要の拡大を後押しすると考えられる。
また、テレワークの普及でパソコンの出荷台数が好調であるなど、民生用IT機器向けの需要は今後も堅調に推移する見通しである。 5G端末ではスマートフォン1台当たりの半導体の搭載量が多いと言われており、とりわけスマホの5G端末の普及は半導体需要を大きく押し上げるとみられている。
特に、自動車は電子化が進むとともに搭載する半導体が増えている。EV生産の拡大とともに パワー半導体の需要が急拡大しているほか、アナログ半導体の受注も増加している。そこへ、世界中の自動車に搭載されている半導体チップの2割を生産しているルネサスエレクトロニクス <6723> の工場火災や、米インテル
●岸田政権は経済安保政策で半導体産業を再構築へ
注目すべきは、各国政府が国策として半導体産業を誘致し育成しようとしていることだ。米上院は昨年6月に、半導体産業の国内育成を図る法案を可決した。520億ドル(約5兆9200億円)の補助金を充てるという内容であり、同法案が成立すれば半導体産業への投資が加速しそうだ。
欧州でも「欧州半導体法」を策定して、半導体不足の解消に向けての法整備などを行う動きが昨年9月ごろから伝えられている。そして、日本では同6月に「半導体・デジタル作業戦略」が取りまとめられ、岸田政権では経済安全保障政策として、国内半導体産業を再構築する方針が示されている。半導体産業は30年に世界で1兆ドル規模に拡大するとの見方もあるなか、各国政府が半導体を21世紀の成長産業と見据えて、注力する姿勢を打ち出している。
●TSMCとソニーの熊本での合弁工場建設に注目
世界各国が半導体確保に乗り出すなか、TSMCとインテルが米アリゾナ州にそれぞれ新工場を建設中であり、いずれも24年の稼働が見込まれている。インテルは欧州でも新工場の建設を計画している。このほか、サムスン電子が米国内に工場建設を予定しているほか、日本では熊本県内にTSMCがソニーグループ <6758> と共同で約70億ドルを投じ、24年の稼働を目標に新工場を建設する予定だ。当面の注目点は、熊本県で建設中のTSMCとソニーGによる合弁工場の動向だ。22年はその工場建設の進捗状況を伝える報道により、関連株が動意づく可能性もある。
●22年も好パフォーマンスの期待膨らむ
半導体不足の解消に向けて動き始めているものの、各社の新工場が稼働するのは24年と予定され、それまでは需給逼迫の状況に変わりはないだろう。むしろ、需要増で一段と半導体不足が顕著となる可能性もある。22年も引き続き株価上昇を期待できそうだ。
半導体製造装置関連の大手では、半導体シリコンウエハーで世界首位クラスの信越化学工業 <4063> 、半導体シリコンウエハー専業のSUMCO <3436> 、ウエハー洗浄装置の世界トップメーカーであるSCREENホールディングス <7735> のほか、東京応化工業 <4186> 、ディスコ <6146> 、アルバック <6728> 、アドバンテスト <6857> 、レーザーテック <6920> 、東京精密 <7729> 、東京エレクトロン <8035> は半導体の需給逼迫の追い風を受ける企業として、22年も株価の好パフォーマンスが期待できる。パワー半導体関連でローム <6963> やルネサス、富士電機 <6504> 、三菱電機 <6503> 、東芝 <6502> 、それに三社電機製作所 <6882> [東証2]、タムラ製作所 <6768> 、トレックス・セミコンダクター <6616> 、タカトリ <6338> [東証2]など。
このほか、半導体用マスクブランクスなどを製造するHOYA <7741> 、独立系の半導体商社としては国内上位のマクニカ・富士エレホールディングス <3132> 、更にはフジミインコーポレーテッド <5384> 、ローツェ <6323> 、ジャパンマテリアル <6055> 、新光電気工業 <6967> 、フェローテックホールディングス <6890> [JQ]、信越ポリマー <7970> 、三益半導体工業 <8155> なども関連株として注目できそうだ。
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