グローバリズム批判、キャピタルゲイン増税
国際分業と国際資本市場、国際的な資本移動が貫徹している現実に対して、国境障壁を高めて経済ナショナリズムを追求することなどあり得ないが、各氏の主張に反グローバリズム的傾向もうかがわれる。国際分業と国際資本移動に背を向ければ、鎖国経済となり国際競争の敗者になることは確実。
国境をまたいだ分業、資本移動、人的移動、ビジネス展開を促進することは、日本が勝ち抜く最低限の条件である。米中貿易戦争や、中国などからのダンピング対応、海外資本の無防備の資本流入による資産買い占めなど、緊急避難時の障壁構築の必要性は否定できないが、国際障壁を低め、(1)海外の有益な資源を導入すること(リスクキャピタル、有為人材、技術・ノウハウ、ブランド)、(2) 日本企業による海外市場への浸食を推し進めることは、資源、食料、インターネットプラットフォームなどの国際インフラ、国際公共財を海外に依存する日本にとっては不可欠である。グローバル資本が求める株主利益の極大化は、資本効率を高め国際資本主義競争に勝ち抜くためには、必須の愛のムチと考えるべきである。
株式資本主義批判、キャピタルゲイン課税
株価上昇を基幹エンジンとする米国で進む株式資本主義は、資本主義金融制度の最新型である。銀行による信用創造に代わって株価上昇が購買力を産む新たな金融メカニズム(株式資本主義)が始まっている。
かつての中銀の目標は、持続可能な最大マネー供給(信用創造)による購買力創出であったが、いまの中銀の目標は持続可能な最高株価の維持にある、と言っても過言ではない。好き嫌い、正しいか間違いかの議論以前に、それが現実である。
この株式資本主義の基盤を棄損、否定し不当な資産価格の下落(=マイナスバブル)を作ったことが、1990年から2012年アベノミクス登場までの日本経済一人負けの一大原因であった。他方、リーマン・ショック後に11年で株価が6倍となった米国の成功は、株式資本主義が見事に機能したからである。
PBRが4.3倍とバブル化と言えるほどまで上昇した米国ならともかく、PBR1.3倍と米国の3分の1まで沈んでいて、負のバブルと形容できるほど割安な日本株式市場において、株式値上がり益を不当としてキャピタルゲイン課税を強化するなどは、マクロ的逆効果の政策と言える。血まなこで税源を模索する財務官僚か、嫉妬を正義感で糊塗する左翼分配論者の議論のように思われ、いずれも角を矯めて牛を殺すものになりかねない。
高市氏は、2%インフレ目標達成後という条件付きで金融所得課税を20%から30%への引き上げを主張。岸田氏も、分配論の原資として金融所得をターゲットとしている公算がある。河野氏も金融所得への課税強化を著書で述べている。
中国台頭に対応する安全保障(高市氏)やデジタル化の推進(河野、高市、岸田氏)など大いに評価できる要素も大きいが、市場改革の後退とリフレ政策の後退だけは修正してほしいものである。
(2021年9月17日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン289号」を転載)
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