―交通渋滞の解消や地域経済の活性化に一役、関連企業の動向に関心高まる―
パラリンピックの閉幕式が5日行われ、新型コロナウイルス感染拡大の影響で1年延期された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は日程をすべて終えた。次の焦点は25年に開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)に移ることになるが、目玉のひとつになるのが「空飛ぶクルマ」による移動体験だ。自動車では自動運転技術が進展するなど“陸”の移動革命が始まっているが、“空”の移動革命に向けた取り組みも着実に前進しており、今回は関連銘柄にスポットを当てた。
●関西電などエアタクシー実現へ
関西電力 <9503> は8月27日、大林組 <1802> 、東京海上ホールディングス <8766> 傘下の東京海上日動火災保険、近鉄グループホールディングス <9041> 、SkyDrive(東京都新宿区)と共同で、空飛ぶクルマによるエアタクシー事業性調査を実施すると発表した。この事業は大阪府の「21年度 新エネルギー産業 電池関連 創出事業補助金『空飛ぶクルマの実現に向けた実証実験』編」に採択されており、10月から大阪ベイエリアでドローン による海上飛行実演と、空飛ぶクルマの実機や周辺技術・サービスの展示、説明を行い、一般のモニターを対象にアンケート調査を実施する予定。25年の万博開催時のエアタクシーサービスの実現に向け、空飛ぶクルマの認知度や社会受容性を高め、将来的な事業の可能性を検証するとしている。
また、同日には大阪府が「空飛ぶクルマの実現に向けた実証実験」に対する補助金の交付を決定した。同補助金は大阪での空飛ぶクルマを活用したビジネスの実現を目指し、飛行環境の検証や運用面での課題などを検証する実証実験に対し、必要な経費の一部を助成するもの。三井物産 <8031> のエアモビリティ総合運航管理プラットフォーム事業、日本航空 <9201> の顧客期待などの社会受容性の向上/運用性の検証/機体輸送性の調査、ANAホールディングス <9202> の大阪市内中心部における離着陸場利活用に向けた可能性調査などが採択された。
このほか、GMOインターネット <9449> グループは7月から、経済産業省などが運営する「大阪・関西万博×空飛ぶクルマ実装タスクフォース」に参画しており、主にセキュリティー技術分野で協力する。
●日機装は米社に部品供給
空飛ぶクルマに明確な定義はないが、「電動」「自動(操縦)」「垂直離着陸」する移動手段を指すことが一般的。諸外国ではeVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)やUAM(Urban Air Mobility)とも呼ばれ、主に交通渋滞に苦しむ都市部での移動代替手段として各国で機体開発が進められている。日本でも地上交通インフラの影響を受けないという特長を生かし、都市部の渋滞による経済的損失回避に加え、道路や橋梁などのインフラ修繕負担の軽減を含めた持続可能な交通手段の構築、観光産業などの地域経済の活性化、災害救助などを通じた安全・安心な地域社会の構築などに貢献することが期待されている。政府は世界に先駆けて実用化したい考えで、経産省が8月31日に公表した22年度概算要求では次世代空モビリティ(ドローン、空飛ぶクルマ)の社会実装に向けた実現プロジェクトとして新たに38億円を計上している。
企業の関心も高く、日機装 <6376> は7月、米ジョビー・アビエーションが開発を進めているeVTOLの構成部品を供給するサプライヤーに選出されたことを明らかにした。ジョビーは24年からの商用飛行開始を目標としており、両社は複合材部品の設計の初期段階から協力し、量産段階での製造のしやすさを考慮した最適な設計、競争力のあるコストの実現に取り組むという。
住友商事 <8053> は6月から、出資している米ワンスカイシステムズ及び東北大学と共同で、多数のエアモビリティが飛び交う未来を予測し、量子コンピューティングを活用したリアルタイム三次元交通制御に関する実証実験を始めた。この実証では複数台機の最適航路・運航ダイヤのリアルタイム設計を行い、12月まで高層ビルが立ち並ぶ都市部でのエアモビリティ航行を想定した高精度軌道シミュレーションを実施する。
パーソルホールディングス <2181> で技術系エンジニアリング事業を手掛けるパーソルR&Dは4月、SkyDriveと空飛ぶクルマの23年度事業開始を見据えたサポーター契約を締結した。具体的には、パーソルR&Dの航空機開発スペシャリストがSkyDriveに出向。互いに知見を持ち寄ることで、機体仕様の最適化を加速させる狙いがある。
●長大、東レなどにも注目
また、21年9月期通期の連結業績予想と配当計画の上方修正を手掛かりに、足もとで年初来高値を更新した長大 <9624> にも注目したい。同社は3月、空飛ぶクルマ関連のインフラプラットフォームの開発・運用などを手掛けるエアモビリティ(東京都新宿区)と資本・業務提携した。同社はエアモビリティと連携することで、空飛ぶクルマの実装に必要な制度設計や課題解決、空飛ぶクルマの利用のために必要な地上インフラとの連携、新たなバーティポート(eVTOL垂直離着陸機用の離着陸ターミナル)の整備などを提案し、国内での空の移動革命に寄与する構えだ。
東京センチュリー <8439> は空飛ぶクルマを開発するドイツのボロコプターに出資している。ボロコプターはシンガポールなどでの都市内デモフライトに成功しているなど、この分野でのリーディングカンパニーの1社とされている。東京センチュはボロコプターの日本を含むグローバルな事業展開に対して、多様な金融・サービスを提供することでシナジーの創出が可能だとみている。
これ以外では、小型無人航空機(UAV)などの画像データを扱うイメージ ワン <2667> [JQ]、機体軽量化につながる炭素繊維複合材料を手掛ける東レ <3402> 、6月に開催された「Japan Drone 2021」に故障した際の落下速度を低減する緊急パラシュートシステムを出展した日本化薬 <4272> 、経済産業省と国土交通省が主導する「空の移動革命に向けた官民協議会」のメンバーに名を連ねているACSL <6232> [東証M]、物流eVTOLへの装着が可能な大型貨物ユニットの空力形状を開発済みのヤマトホールディングス <9064> 、地図データに強みを持つゼンリン <9474> に商機がありそうだ。
株探ニュース
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