―来年は日本株主役の年か―
ボラティリティ高まる米国株式
米国選挙前後、株式が急落・急騰と乱高下している。選挙結果がなかなか判明しない中、トランプ氏が容易に敗北を認めず法廷闘争に持ち込むなどの不確実性が市場のボラティリティを高めている。
しかし、選挙の影響以前に、コロナショック後、米国株式のボラティリティ水準が高まり、市場が投機色を強めていることに注目したい。米国株式(S&P500)が3月23日のボトム以降6割強の上昇を遂げ、史上最高値を更新してきたにもかかわらず、ボラティリティ水準は高まったままである。
なぜ、ボラティリティが高いのだろうか。それは膨大な資金余剰の存在に加えて、超金融緩和・低金利政策の下での投機熱が高まったためと推察される。具体的には米国長期金利が低下し、短期金利がゼロになったことにより、株式の超過リターン=リスクプレミアムが拡大し、ゼロ金利で資金を調達し株式投資をしようという意欲が強まったためである。
ゼロ金利定着で株式の超過リターン上昇⇒ボラティリティコスト上昇
2019年は米国株式の国債に対する超過リターンは3.0%であった。しかし、金利の急低下により、2020年3~10月平均の超過リターンは3.9%に跳ね上がり、レバレッジ投資の妙味が高まっているのである。
2019年平均 米国株式益回り(5.2%)>国債利回り(2.2%) 超過リターンER=3.0%
2020年3~10月 米国株式益回り(4.6%)>国債利回り(0.7%) ER=3.9%
この株式の債券に対する超過リターンは、株式で発生するボラティリティコストによって相殺される。金利が低く超過リターンが大きいとなれば、投資家はレバレッジを高めてより大きな投資成果を追求する。その高レバレッジポートフォリオの高リターンは、時折到来する市場の大波によって逸失する。このボラティリティコストを通して、株式に存在する超過リターンは様々な市場参加者、金融機関、投資家に再配分される、というメカニズムが存在している。米国株式の荒い値動きの原因は、この大幅に上昇した超過リターンにあるといえる。
低下した日本株式のボラティリティ
米国株式とは対照的に、日本株のボラティリティが著しく低下し、日本は低リスクの市場になった。2020年9~10月の米国株の10%の変動に対して日本株式は3%に止まっている。2010年代を通して日本市場は最も投機的な市場で、あまりにもボラが高く、個人などの投資家は近づきがたかった。日本株式取引の7割を占める外国人投資家は、投機(トレード)目的主体のプレーヤーであった。この日本株の高ボラティリティの背景にあったものが、2000年代からの異常低金利下での、日本株式の著しく高い超過リターンである。投機妙味がとても大きかったのである。
しかし、そうした小鬼(投機プレーヤー)たちがNY市場に移動したことによって、日本市場に落ち着きが戻ってきたようである。三極株式 (S&P、日経平均、STOXX) のVIX指数の推移をみると日本の落ち着きぶりが顕著である。
短期投機資金が日本株から米株に移動したこととは裏腹に、長期投資家が日本株を買い始めている。2013年以降アベノミクスを評価して外国人投資家は日本株式を23兆円買い越し、2020年年初でそのすべてを売り尽くしたが、10月に入り買い越しに転じている。(1)新型コロナ感染者が少なく、経済正常化の加速が見込まれること、(2)中国回復の恩恵を受けたグローバル企業の業績好転、(3)菅改革政権の登場に対する評価、(4)ウォーレン・バフェットの商社株投資に触発される、などの要因がある。「裁定買い残/時価総額」と日経平均株価の推移を確認すると、投機的ポジションから見た日本株式の需給は極めて良好であることがわかろう。
オリンピック開催年となる2021年は、日本経済の成長率加速の年になるのではないか。(1)ペントアップ需要(欲望とカネの開放)、(2)イノベーション加速、(3)政策支援(財政出動、金融緩和)などが指摘される。世界的な景気拡大の中で、投資資金は景気敏感セクターの比重が高い日本株へさらに集中すると思われる。
米大統領選の影響と米国経済と市場不透明感は晴れないかも
他方、米国経済と株式は、ここ数ヵ月は警戒を要するかもしれない。(1)トランプ氏が負けを認めず決まらない、(2)バイデン氏が大統領に確定したとしても弱い政府で方向が見定められない、(3)法人増税、capital gain tax(キャピタルゲインタックス)など、反ウォール街政策の実施も懸念される、などがクリアされねばならない。コロナ感染拡大に対応した財政パッケージ成立の遅れも危ぶまれる。ただし、1月20日の就任演説以降大きく出直る可能性はあるだろう。
バイデン氏は穏健派であり、市場フレンドリーな政策に舵を切るのではないか。上院が共和党多数となる見通しであることもあり、法人増税、capital gain taxなど、反ウォール街政策は棚上げされるだろう。
バイデン氏の下で大きな政府への政策レジームの変化があり得る。環境重視、税制改革と歳出増大、雇用形態の変更、国際連携などトランプ氏とは大きく異なった成長アジェンダを打ち出す可能性がある。それらの多くは時代の要請でもあり長期的には株価にプラスと考えられるが、市場はトランプ氏からのゲームチェンジを警戒しつつ具体策を見極めるだろう。ただし、米国株式の長期上昇トレンドは健在であろう。
(2020年11月6日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン264号」を転載)
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