S&P500月例レポート(2019年10月配信)<前編>
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
THE S&P 500 MARKET: 2019年9月
●歴史は繰り返す
シーズンが変わって(晩春から初夏にかけての政治ドラマが終わり)、またテレビでも見ようと思っていたのに、秋からのクール(冬、春、夏と続く…)は1998年や1974年のB級ドラマのリメークばかりの番組編成になりそうな気配です。個人的には、東海岸のリベラルな大学生だった1974年から(冗長な言い回しでしょうか)、社会人になり、家を買い、家庭を持った1998年、そしてシニア世代となって知識も経験も身についた(はずの)現在と、私自身の考え方がどれだけ変わっているかは何とも言えません。いずれにしても、リチャード・ニクソン大統領の最後のポスターを引っ張り出してみようかと思います。歴史は繰り返されるのでしょうか。
何よりも、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の批准をめぐる動きやオピオイド中毒に関連した訴訟が疑問視され、政府支出と税務政策(予算と割当)、そして貿易・関税問題(中国側は手が足りないのか、それともとっておきの政治的切り札を持っているのでしょうか)といった諸問題が、どちらに転ぶか分からない状態にあります。残念な現実として、過去2年間のメディアと政治は、まるでアルタモント・スピードウェイでのコンサート(1969年にローリング・ストーンズのコンサートが開かれ、演奏中に観客が殺害される事件が発生)を予告する前座バンドのような賑わいでした(意味:政治はもっとひどくなる)。
読者の皆さんもテレビを見たと思いますが、先日、民主党が過半数を占める議会下院で、ペロシ議長(民主党)がトランプ大統領の弾劾に関する正式な調査を開始すると表明しました。複数の出来事に関する調査について「議論」が行われていますが、トランプ大統領とウクライナ大統領との7月の電話会議がきっかけとなった模様です。正式な弾劾プロセスは下院のサブグループで開始され、その後下院議員全員の採決に進む可能性があります(過半数が賛成すれば、大統領は起訴に相当する弾劾訴追となります)。その後、上院(共和党が過半数を占有)に進み弾劾裁判が行われます。トランプ大統領が罷免されるには3分の2が賛成する必要があります。ちなみに、これまでに2人の大統領が弾劾訴追されました。1868年のアンドリュー・ジョンソン氏、1998年のビル・クリントン氏で、いずれも議会で無罪判決を受けました。リチャード・ニクソン氏は1974年に、辞任して弾劾訴追を回避しました。
弾劾手続きに入ったため他の審議は後回しになり、まずは短期的に米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の成立が見込めなくなったため、このニュースを受けて相場は下落しましたが、すぐに回復しました。しかし、本当の恐怖を感じていたのは、代替肉メーカーのビヨンド・ミートを空売りするほどの肉好きのせいで、スマイルダイレクトクラブの歯列矯正器具を調整し、ペロトンのフィットネス機器を購入して、ウィーワークの騒動に巻き込まれた投資家だったのかもしれません(意味:IPO投資は不振)。
9月は歴史的に年間でパフォーマンスが最も低い月です。1928年以降で9月のS&P 500指数は平均0.99%下落し(5月もマイナスリターンの月で平均0.17%下落、最もパフォーマンスが高いのは12月の1.28%上昇)、同期間のうち53.8%の確率で下落しています。そのため、市場の期待も高くありませんでした。
振り返ってみれば、今年の9月も恐怖の月になっていてもおかしくありませんでした。世界最大の油田が爆撃されたことで世界の原油生産量が5%減少し、米国では流動性が低下して機関投資家のマネー比率が2桁に上昇し、米連邦公開市場委員会(FOMC)は期待に反して経済成長を回復できず、下院がトランプ大統領の弾劾手続きを開始したことで議会審議の停滞が予想されます。
ところが、株式市場の結果は大きく異なりました。S&P 500指数は平均日中値幅が4.50%で推移(過去50年間の平均は7.25%)、さまざまなイベントがあったことを考えると、9月の1.72%の上昇は好ましい結果と言え(配当込みのトータルリターンはプラス1.87%)、第3四半期は1.19%の上昇(同プラス1.70%)となりました。年初来では18.74%の上昇(同プラス20.55%)と、年初来9カ月の騰落率としては1997年の27.88%以来の高水準となり(1997年の年間上昇率は31.01%でした)、最高値更新まで1.62%の水準にあります。10月15日にはCitigroup、Goldman Sachs、JPMorgan Chase、Morgan Stanley、Wells Fargoといった大手銀行を皮切りに、決算シーズンが始まります(好材料となることを期待しています)。
今後に関しては、サーカスに例えて言うならば、ハイレベルのイベントに関しては中央ステージに注目していただき、周辺の余興では混乱が起きることを理解しておいてください。特に、S&P 500指数構成銘柄の約70%の企業が10月中に決算発表を行い、同時に第4四半期や2020年のガイダンス、そして2020年の投資計画を発表する予定で(私は2019年第4四半期の予想に苦労しています)、これによって市場の健康状態や期待値が明らかになるはずです。ハイレベルでは決算が市場を導くと思われますが、それも周辺の余興に邪魔されなければの話です。周辺では、株価の急激な変動をもたらす可能性のある(上振れよりも下振れの方が多いと思われます)、余興が数多く繰り広げられます。
2020年の政治をめぐる動きが過熱し、話題を独占するとみられます(予想は困難です)。議会の進展は(たとえあったとしても)遅くなり、弾劾手続きが始まります。貿易交渉は継続され、USMCAの批准は遅れる可能性があります(中国との交渉が再開され、これも新たな政治材料の一つです)。超党派による薬価改革は、成立の見通しが遠のいています(メールのやり取りだけではなく、双方による直接交渉が必要なのかもしれません)。
各国中央銀行は利下げを継続するとみられますが(名称を変えた追加の刺激策を打ち出す可能性もあります)、FOMCは10月には(まだ)利下げはしないと思われます(現時点での予想であって、10分後には変わっているかもしれません)。
愛すべき米国の消費者については、活発な消費を続け、かつては米国の支出の70%を占めていたのが、ここにきてその割合が上昇していますが(個人の支出が増えているだけでなく、企業が支出を控えていることも大きく影響していると思われます)、ホリデーシーズンを前に(関税による)物価の上昇を店舗(やオンライン)で実感することで、試されることになるでしょう。
10月は、市場は過去57.1%の確率で上昇していますが、今年は波乱も予想されるため、気を引き締めて臨む必要があります(10月には悪夢の歴史もあります:1987年10月19日の20.47%下落、1929年10月29日の10.16%下落、1929年10月28日の12.34%下落)。ハリケーン地帯で言うならば、備えよということです。自身のポートフォリオの内容、エクスポージャー、リスクレベルを知った上で、持ち分を手放す、あるいは流動性があって確信が持てるならば買い増すポイントを決めることです。
過去の実績を見ると、9月は45.1%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.32%、下落した月の平均下落率は4.62%、全体の平均騰落率は0.99%の下落となっています。10月は、57.1%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.17%、下落した月の平均下落率は4.72%、全体の平均騰落率は0.41%の上昇となっています。今後のFOMCのスケジュールは、10月29日-30日、12月10日-11日、2020年は1月28日-29日、3月17日-18日、4月28日-29日、6月9日-10日、7月28日-29日、9月15日-16日、11月4日-5日(米大統領選は11月3日)、12月15日-16日となっています。
●主なポイント
○9月の市場が1.72%の上昇という上出来といえる結果となったことで、第3四半期の騰落率はプラスになりました(8月は1.81%下落、7月は1.31%上昇)。9月のリターンはこれまで53.8%の確率でマイナスとなっていました(1928年以降の9月の平均騰落率は0.99%の下落と12カ月で最低。これに次ぐのが5月の0.17%下落。残り10カ月の平均騰落率はいずれもプラスで、12月が1.28%の上昇と平均騰落率が最も高い)。
S&P 500指数が3,000の大台を回復したことが相場の上昇と楽観ムードを後押ししました。同指数が初めて3,000ポイントを付けたのは7月のことで(7月11日の日中に大台を一時的に突破し、翌12日に終値が3,000を超えた)、9月に終値ベースでの最高値更新(7月26日の3,027.98が依然として史上最高値)までわずかに迫りました。業績発表一色となる(企業決算が独占することはニュースにとって問題ではないのでしょうか)10月に再び最高値が更新されるのではとの期待感が高まりました。第3四半期のS&P 500指数の上昇率は1.19%となり、3四半期連続でプラスを記録しました。年初来の騰落率は18.74%と極めて満足のいく結果となっています。
○9月のS&P 500指数は1.72%の上昇(配当込みのトータルリターンはプラス1.87%)、第3四半期は1.19%の上昇(同1.70%)、また年初来9カ月間の騰落率は18.74%(同20.55%)の上昇となりました。1997年以降の年初来9カ月間の騰落率は21.43%上昇が最高です。
○2009年3月9日に始まった強気相場の上昇率は340%(年率換算で15.06%)、配当込みのトータルリターンはプラス449%(同プラス17.49%)となりました。
○月間騰落率がプラスとなったことで、9月中は重大な問題の一部が巧みに覆い隠されました。サウジアラビアの油田施設がドローン攻撃を受けたことで原油価格が上昇しましたが、極端な高騰とはなりませんでした。確かに世界の生産量の5%といえば相当なものですが、世の中は70年代当時の原油地図から大きく様変わりしています。今では米国が世界最大の石油生産国です。(実際のところ)原油価格は8月末の1バレル=55.07ドルから9月末は1.4%下落し、54.31ドルで取引を終えました。
○金利動向を見ると、市場に友好的な姿勢を強めたFOMCは、事前予想通り2会合連続で0.25%の利下げを決定しました。この直前にはECBも中銀預金金利の引き下げ(0.10%)を決めています。第2四半期は2018年12月に見られた古き良き時代に戻ったかのようでした。米国10国債の利回りは1.43%から1.91%の間で推移した後、(8月末の1.50%から上昇して)1.67%で月を終えました。
○英ポンドは8月末の1ポンド=1.2164ドルから1.2291ドルに上昇し(2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル、2016年末は1.2345ドル)、ユーロは8月末の1ユーロ=1.0995ドルから1.0900ドルに下落しました(同1.1461ドル、同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は8月末の1ドル=106.24円から108.05円に下落し(同109.58円、同112.68円、同117.00円)、人民元は8月末の1ドル=7.1567元から7.1485元に上昇しました(同6.8785元、同6.5030元、同6.9448元)。
○原油価格はサウジアラビアの油田攻撃を受けて1バレル=62.49ドルまで上昇しましたが、結局は8月末の55.07ドルから54.31ドルに下落して月を終えました(同45.81ドル、同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は8月末の1ガロン= 2.661ドルから2.737ドルに上昇して月末を迎えました(同2.358ドル、同2.589ドル、同2.364ドル)。
○金価格は8月末の1トロイオンス=1,532.60ドルから1,480.50ドルに下落して月を終えました(同1,284.70ドル、同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。
○VIX恐怖指数は8月末の18.98から16.24に下落して月を終えました。月中の最高は21.15、最低は13.31でした(同25.42、同11.05、同14.04)。
○第2四半期の企業業績は引き下げられていた事前予想(2018年末時点から7.1%下方修正)を上回りました。利益が予想を上回った銘柄の割合は全体の73.6%(過去の平均は67%)となり、前期比で5.7%の増益となりました。
→第3四半期の利益予想は、前期末時点から3.9%、2018年末からは7.8%引き下げられています。現在は前期比で1.7%の増益、過去最高となった2018年第3四半期からは1.4%の減益が予想されています。
→第4四半期に関しては楽観ムードが続いています。同四半期の利益予想は2019年6月末からは1.8%、2018年末からは6.2%引き下げられています。好調な年末商戦を背景に前期比では3.4%の増益が見込まれており、第4四半期としては過去最高を(2.0%増で)更新する見通しです。
→2019年は前年比で6.3%の増益が見込まれ、大統領選挙がある2020年に関しては11.7%の増益を市場は夢見ています。
○第2四半期の自社株買い額(1,645億ドル)は第1四半期(2,058億ドル)から20.1%減少、また2018年第4四半期(過去最高の2,230億ドル)から26.2%減少しました。
→減税効果を狙って株主還元の拡大を急いだため、企業は2018年に過剰な自社株買いを行ったようです。2018年の自社株買いは1回限りの購入を含んでいたようで、2017年以前の水準を上回りました。第3四半期の自社株買い額は1,700億ドルに落ち着くと思われますが、市場の期待感を抑えると同時に株価を下支える水準と言えるでしょう。
○ビットコインは8月末の9,640ドル(7月末は10,057ドル)から下落して8,265ドルで月を終えました。月中の最高は10,938ドル、最低は7,754ドルでした(2018年末は3,747ドル、2017年末は13,850ドル、2016年末は968ドル)。
○1年後の目標値はS&P 500指数が3,305(現在値から11.0%上昇、8月末時点の目標値は3,290)、ダウ平均は29,715ドルとなっています(同10.4%上昇、同29,684ドル)。
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