S&P500月例レポート(2019年10月配信)<中編>

<前編>から続く

●トランプ大統領と政府高官

 ○米中貿易問題では、10月の協議を前に、中国が一部品目(医薬品、魚産物、潤滑油)を2020年9月16日まで一時的に追加関税の適用対象から外しました。これに対してトランプ大統領は(10月の協議に向けて)「善意を示すものだ」と述べ、2,500億ドル相当の中国製品に対する追加関税(現行25%から30%に引き上げ予定)の実施時期を2019年10月1日から10月15日に延期しました。ゲームが続くなか、その後中国は米国産の大豆200万~300万トンの輸入に対する関税免除を認めました。

 ○トランプ大統領のFOMCに対する圧力は続いており、ツイッターでFOMCは金利を「ゼロ%またはそれ以下に」引き下げるべきだと投稿しました。FOMCは2019年9月17-18日の会合で金利を(2.25%に)0.25%引き下げると予想されていました(政策金利は2008年に景気後退期の最低の0.25%に引き下げられてから、2015年12月までその水準にありました)。

  →FOMCが金利を0.25%引き下げた後に、トランプ大統領は「根性も理性もビジョンもない」とツイートしました。

 ○電子タバコの蒸気を吸引したことに関係して8人が死亡した(そして805人が肺疾患にかかった)疑いがあることで、トランプ大統領はフレーバー付き電子タバコの大半の販売を禁止する計画だと表明しました。ニューヨーク州とミシガン州はフレーバー付きの電子タバコ、マサチューセッツ州は全ての電子タバコの販売を3カ月間禁止し、状況について調査を行っています。

 ○トランプ大統領は日本と関税問題で合意しました。これに関して議会の承認は必要ありません。注目は自動車への関税問題で、詳細は公表されませんでした。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)をめぐるメキシコとの合意に関しては議会での審議が続いていますが、弾劾手続きに入ったことから成立は疑問視されます。

 ○民主党が過半数を占める議会下院でペロシ議長(民主党)がトランプ大統領の弾劾に関する正式な調査を開始すると表明しました。複数の出来事に関する調査について「議論」が行われていますが、トランプ大統領とウクライナ大統領との7月の電話会議がきっかけとなった模様です。弾劾プロセスは下院のサブグループで開始され、その後下院議員全員の採決に進む可能性があります(過半数が賛成すれば、大統領は起訴に相当する弾劾訴追となります)。その後、上院(共和党が過半数を占有)に進み弾劾裁判が行われます。トランプ大統領が罷免されるには3分の2が賛成する必要があります。これまでに弾劾訴追されたのは、1868年のジョンソン大統領と1998年のクリントン大統領の2人で、いずれも議会で無罪判決を受けました。ニクソン大統領は1974年に辞任して弾劾訴追を回避しました。弾劾手続きに入ったため他の審議は後回しになり、まずは短期的にUSMCAの成立は見込めないため、このニュースを受けて相場は下落しました。

●中央銀行関連の動き

 ○中国人民銀行は今年3回目(2018年以降では7回目)となる預金準備率の引き下げを実施しました。引き下げ幅は0.50%で、2019年9月16日から適用を開始しました(また一部の適格銀行にはさらに1.00%の追加引き下げを実施しました)。

 ○米連邦準備制度理事会(FRB)の地区連銀経済報告(ベージュブック)によると、貿易問題をめぐる不透明感が中心的テーマとなるなか、この夏にかけて経済は賃金と同様に小幅な成長にとどまりました。

 ○ロシアは今年3回目となる利下げで金利を7.5%から7.0%に引き下げました。

 ○欧州中央銀行(ECB)は政策理事会を開催し、予想通り、「利下げと債券買入れ」を発表しました。具体的には、政策金利を0.10%引き下げて-0.50%とし、量的緩和(QE)(4年間実施した後、2018年12月に終了)を再開し、ユーロ圏の債券220億ドル相当を購入し、「必要な限り続ける」と約束しました。ECBはまた、インフレ率が目標(2%を若干下回る水準)に「しっかりと収れん」するまで利上げを行わないことも約束しました。この新しいプログラムと水準は、ドラギ総裁の後任として2019年11月1日に総裁に就任するラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事による政策運営の土台になるでしょう。

  →日銀は政策金利を据え置き(-0.10%)、今後の緩和の可能性を示唆しました。

  →スイス国立銀行は政策金利を据え置きました(-0.75%)。

  →イングランド銀行(英中央銀行)はブレグジットの先行きが引き続き不透明なことから政策金利を変更しませんでした(0.75%)。

  →一方、ノルウェー中央銀行は政策金利を0.25%引き上げ(過去1年間で4回目)1.50%としました。

 ○FOMCは会合を開催し、予想通り、2回連続で利下げを実施し(0.25%)、政策金利の誘導目標を1.75%~2.00%としました。7人が利下げに賛成し、2人が反対し(カンザスシティ連銀のジョージ総裁とボストン連銀のローゼングレン総裁)、1人は0.5%の利下げを主張しました(セントルイス連銀のブラード総裁)。

  →投票権のないFOMCメンバーの予想を含む(そして個々の予想を示す)ドット・プロット(金利予測分布図)は、FOMC内の意見の相違が深まったことを示しています。5人のメンバーは利上げが不必要だったと考えています。これまでの利下げは必要だったが、今年の追加利下げは不必要だと考えるメンバーは5人で、7人は年内もう1回の利下げを支持しました。つまり、今年の追加利下げには10人が反対し、7人が賛成しました。加えて、FOMCは超過準備金への付利を0.30%引き下げ(利下げ幅0.25%に対して)、1.80%としました.

 ○FRBは市場への流動性供給を開始し、継続しました。2019年10月10日まで1日当たり最大750億ドルを供給するとしています(ただ、少なくとも1日は、別途追加措置で1,100億ドルを供給したことが報告されました)。また14日物レポ(毎回最低300億ドル)を3回実施する予定です。

●企業業績

 ○2019年第2四半期の利益は下方修正されていた予想(2018年末から7.1%引き下げ)を上回り、予想を上回った企業の割合は全体の73.6%となりました(過去の実績は67%)。第2四半期は前期比5.7%の増益でした。2019年第2四半期の株式関連のデータによると、個別銘柄の利益(したがって株価)への自社株買いによる追い風は2019年第1四半期と同様に高水準となり、株式数の減少によりEPSが前年同期比で4%以上押し上げられた銘柄の割合は24.2%となりました。2019年第1四半期は24.9%、2018年第2四半期は15.6%でした。

 ○2019年第3四半期の予想は第2四半期末から3.9%、2018年末から7.8%それぞれ下方修正されています。現在は前期比で1.7%の増益、過去最高だった前年同期比で1.4%の減益が見込まれています。

 ○第4四半期に関しては楽観ムードが続いています。同四半期の利益予想は2019年6月末からは1.8%、2018年末からは6.2%引き下げられています。好調な年末商戦を背景に前期比では3.4%の増益が見込まれており、第4四半期としては過去最高を(2.0%増で)更新する見通しです。

 ○2019年は2018年比で6.3%の増益、大統領選挙が実施される2020年は11.7%の増益を市場は夢みています。貿易と関税に対する懸念を考慮して、2019年第4四半期と2020年通期の業績予想の見直しが行われています。

●個別銘柄

 ○米アクティビストファンド(物言う株主)のElliott Managementは米通信大手AT&T(T)への32億ドルの投資を開示し、AT&Tの取締役会におけるポスト確保を目指すことを明らかにしました。

 ○iPhoneメーカーApple(AAPL)はiPhoneの最新モデルを披露しました。予想より安い価格帯(599ドルから)となった一方で、同社は新たなストリーミングサービス(月額4.99ドル)を開始します。Appleの株価は上昇し、高価格帯に強みを持つ同社は競争力を高めるために中位機種に進出する模様です(利益率が低下する可能性があります)。

 ○ムーディーズは自動車メーカーFord(F)の格付けを「Baa3」から投機的等級の「Ba1」に引き下げました。格下げの理由として、ムーディーズはFordのキャッシュフローと利益の見通しを挙げています。

 ○General Electric(GE)は引き続き保有持ち分を減らしています。2019年6月時点で50.4%だったBaker Hughes(BHGE)の持分を38.4%に縮小し、この持分の売却による収入は27億ドルとなる見込みです。General Electricは資産の売却によって380億ドを調達する見通しで、資金は債務の削減に充てられる予定です。

 ○物流大手FedEx(FDX)の決算発表と業績見通しは、貿易摩擦とAmazon.com(AMZN)との配送契約の打ち切りを理由として、市場の期待を裏切る内容となりました。

 ○全米自動車労働組合(UAW)はGeneral Motors(GM)に対する新たなストライキを開始しました。FordとChryslerの両社はGMとUAWが合意に達すれば、それに追随すると思われます(UAWはこの3社の従業員約15万人を代表しています)。GMの46,000人の従業員は31の工場でストライキに突入しました。GMは数週間分の在庫を保有していると見られています。市場では、このストライキによる同社のコストは週当たり3億ドル前後と見積もられています。9月末には、UAWとGMの合意は近いことが報道されました。

 ○トランプ大統領は予想通り、オバマ前政権下で認められた、自動車排出ガスの独自基準を設けるカリフォルニア州の権限を撤廃しました。カリフォルニア州はこの命令に対し、法廷で争うことを表明しています。

 ○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは情報技術ソリューションを提供するカナダ企業のCDW(CDW)とS&P中型株400指数構成銘柄の住宅建築業者NVR(NVR)をS&P 500指数に追加し、Global Payments(GPN)に買収されるTotal System Services(TSS)とJefferies Financial Group(JEF)を同指数から除外しました。Jefferies Financial GroupはS&P中型株400指数に追加されました。また、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスはリゾート運営会社Las Vegas Sands(LVS)を2019年10月3日の株式市場の取引開始前にS&P 500指数に加え、Nektar Therapeutics(NKTR)をS&P 500指数から除外すると発表しました。Nektar TherapeuticsはS&P中型株400指数に追加されました。

●注目点

 ○現金と流動性が高い有価証券を合計2,110億ドル保有しているiPhoneメーカーApple(AAPL)は低金利を利用して、70億ドルの30年債を利回り2.99%で発行しました(今回の公募前は同社の長期債務総額は850億ドルでした)。

 ○米国の全50州が、Google(GOOG/L)の独占禁止法違反の疑いについて調査に参加することに合意しました。この調査はまず同社のインターネット広告に重点を置くことになります。Facebook(FB)の独占禁止法違反の疑いについて、7州が調査を開始しました。同社の市場支配が焦点となります。連邦取引委員会や司法省を通じて米政府が関わるようであれば、より大掛かりな調査が開始される可能性があります。

 ○国家安全保障担当のジョン・ボルトン補佐官は、トランプ政権で同ポストを退任する3人目となりました。ただ、同氏が辞職を申し出たのか、トランプ大統領が解任したのかは明らかになっていません。

 ○米国の財政赤字は再び1兆ドルの大台に乗りました(2012年以降で初めてです)。2019年8月末までの11カ月で(米国の会計年度は9月が最終月)財政赤字は1兆700億ドル(対GDP比4.4%)となっており、2018年度を19%上回っています。

 ○債務負担増大とオンライン旅行会社との競争激化により経営難に陥った英国の旅行会社Thomas Cook Group Plc(1841年創業)が、破産申請しました。英国政府は足止めされた15万人以上の旅行客を帰国させるために旅客機をチャーターしました。

 ○FRBの発表によれば、2019年第2四半期の米家計資産は1.6%増加して113兆5,000億ドルとなりました。FRBは米国の株式市場と住宅価格が家計資産を押し上げたとしています。

●利回り、金利、コモディティ

 ○FOMCはユーロ圏(0.10%利下げ)に続いて、市場予想通り0.25%の追加利下げを決定しました。第2四半期は相場が好調だった2018年12月に戻ったようでした。米国10年国債の利回りは1.50%から1.91%のレンジで推移し、8月の1.50%から1.85%に上昇して月末を迎えました。

 ○英ポンドは8月末の1ポンド=1.2164ドルから1.2291ドルに上昇し(2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル、2016年末は1.2345ドル)、ユーロは8月末の1ユーロ=1.0995ドルから1.0900ドルに下落した(同1.1461ドル、同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は8月末の1ドル=106.24円から108.05円に下落し(同109.58円、同112.68円、同117.00円)、人民元は8月末の1ドル=7.1567元から7.1485元に上昇して9月を終えました(同6.8785元、同6.5030元、同6.9448元)。

 ○原油価格は8月末の1バレル=55.07ドルから一時は62.49ドルに上昇し、最終的に54.31ドルで月を終えました(同45.81ドル、同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は8月末の1ガロン=2.661ドルから2.737ドルに上昇して月末を迎えました(同2.358ドル、同2.589ドル、同2.364ドル)。

 ○金価格は8月末の1トロイオンス=1,532.60ドルから1,480.50ドルに下落して月を終えました(同1,284.70ドル、同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は8月末の18.98から16.24に下落して月末を迎えました。月中の最高は21.15、最低は13.31でした(同25.42、同11.05、同14.04)。

<後編>に続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム