■中期成長戦略と進捗状況
3. ストックビジネスの強化
前述のように、電算システム<3630>は長期計画『PLAN2020』において売上高の80%をストックビジネスとすることを目標に掲げている。同社の2つの事業セグメントのうち収納代行サービスセグメントはほぼストックビジネスだ。情報サービスセグメントでは、サブセグメントの情報処理サービス(BPO事業やデータセンター事業など)はストックビジネスだ。SI・ソフト開発の中でもクラウド関連サービスや保守・メンテナンスはストックビジネスであるため、フロービジネスは新規のソフト開発やシステム構築、商品販売などに絞られる。その売上高の規模は2018年12月期で80億円程度と弊社では推測している。この推測が正しければ、ストックビジネスの売上構成比は2018年12月期の時点で80%という目標に非常に近づいていることになる。
したがって今後のストックビジネスに関する注目点は、売上構成比の上昇から利益率(採算性)の上昇へと移行してくるだろう。この点について、同社は既に様々な施策に取り組んできており、2018年12月期までに先行投資的な施策を完了している。2019年12月期からは“回収期”すなわち利益率の上昇を実現していくステージに入ることになる。ストックビジネスの収益拡大に関する主な取組内容は以下のとおりだ。
(1) BPO事業における取り組み
業績の項で述べたところと重なるが、BPO事業においては2つの大きな進捗があった。1つは東濃BPOセンターの稼働だ。従来は本社事業所で行っていたがキャパシティに限界が見えたことや設備や動線の面で効率性が悪化していたことから、東濃データセンターの隣接地に東濃BPOセンターを稼働させた。
2018年10月の稼働以来、BPO業務は従来の本社事業所と東濃BPOセンターの2ヶ所でダブルトラック運用が行われている。これは一気に東濃BPOセンターに移管した場合の事業リスクを避ける狙いがある(その詳細は2018年9月5日付レポート参照)。本格稼働初年度となる2019年12月期は、ダブルトラック運用による低稼働と減価償却費の増加で、収益貢献はニュートラルと弊社ではみているが、本社事業所からの移管が進んで稼働率が上がってくれば収益性も改善してくるとみている。
BPO事業におけるもう1つの進捗はRPAの導入だ。2018年12月までに、7つの業務で600時間/月を超える省力化を実現している。RPA導入による効果はまだ余力を残していると弊社ではみており、今後の更なる効果の進展に注目したい。
RPAについて同社は、販売代理店として2社のRPA商品を取り扱っている。AIやRPAを活用した業務効率の改善については企業関係者の注目度は高いものの、実際に導入に踏み切るケースはまだ少ないもようだ。同社自身がBPO事業で実績を出すことは最大の販売促進策と言え、この観点でもBPO事業の動向が注目される。
(2) 決済サービス事業における取り組み
決済サービスにおける取り組みでまず挙げられるのは基盤移行の完了だ。これまでつぎはぎ的に拡張してきたシステムや機器を統一したものへと刷新することで、システム全体としての強靭化や処理能力の拡大、効率性の向上が図られた。2018年12月期中に予定どおり完了し、年間の処理件数が2億件を超えた現時点でも安定的に稼働しているもようだ。
基盤移行が2019年12月期業績にもたらす影響としては、プラス面では効率性アップによる利益率上昇や、前期に発生した基盤移行にかかる費用の減少がある。一方マイナス面では減価償却費の増加がある。同社ではこれらプラス・マイナス両要因をネットした場合、プラス効果が残る見通しとしている。
決済サービスではまた、主力の払込票による決済サービスの利便性を高める施策を矢継ぎ早に打ち出した。ポイントは、払込票という紙を用いたサービスの“キャッシュレス化”と“ペーパーレス化”だ。
“キャッシュレス化”では、払込票のバーコードをスマートフォンのカメラで読み込み、アプリに登録した口座からリアルタイムに支払いができるサービスの充実に取り組んでいる。同社は2017年7月にビリングシステム<3623>と提携し「PayB」による決済を導入した。また2018年4月にはLINE Pay(株)と提携し「LINE Pay請求書支払い」を開始した。さらに2018年12月には楽天銀行(株)と提携し、2019年2月「楽天銀行コンビニ支払いサービス」を開始した。これらのサービスはいずれも、払込票を発行する事業者側には業務フローの変更がなく、一方消費者側はコンビニへ出向く必要がないというメリットがあり利用拡大が期待さ
れる。
“ペーパーレス化”では、払込票に載っているバーコードをスマートフォン上に表示させる、電子バーコードの活用に取り組んでいる。同社は電子バーコードアプリ「PAYSLE(ペイスル)」を提供する(株)ブリースコーポレーションと2017年9月に業務提携した。電子バーコードを読み取るコンビニ側は2018年12月にセブン-イレブンが取扱いを開始したことで全国のコンビニの約70%で電子バーコードの利用が可能となった。2019年度中には残る主要なコンビニでも利用可能となる見通しだ。
一方、電子バーコードを発行する事業者側の導入については、同社はブリースコーポレーションとともに導入支援を行い、普及拡大に取り組んでいる。2018年6月にポーラ・オルビスホールディングス<4927>の事業子会社であるオルビス(株)が自社のスマートフォンアプリ「ORBISアプリ」にPAYSLEを導入したが、同社はそのインターフェースを提供して導入を支援した。
払込票の“キャッシュレス化”と“ペーパーレス化”が組み合わさると、利便性が大きく向上し、クレジットカード決済に近づくことが期待される。これらの普及がさらに進めば、EC市場が一段と拡大するなかで、クレジットカード決済への流れを止めるだけでなく、払込票決済の利用に呼び込むポテンシャルすらあると弊社では考えている。
過去のM&A案件では所期の成果を達成できているもよう。今後の案件への期待が高まる
4. M&Aの進捗状況
同社はM&Aを主要な成長エンジンの1つと位置付け、候補先の選定を積極的に進めている。しかしながら、事の性質上、その詳細な内容が事前に明らかになることはない。
M&Aに関する1つの考え方として同社は、同社がその拡大に注力するストックビジネスを事業モデルとする企業を理想的候補企業の1つに挙げている。一方、ソフト開発の企業については優先度や興味の度合いが高くないことも示唆している。
M&Aについては将来予測が困難であるため過去実績を振り返ると、同社はこれまで、主要なものとしてガーデンネットワーク(株)(2014年9月、100%)と(株)ゴーガ(2016年10月、51%)の2社を買収した。
ガーデンネットワークはガソリンスタンド向けの勘定系システムや情報系システムの開発と保守・運用に強みを持っている。この事業は同社自身も手掛けていたが、同社は昭和シェル石油<5002>系に強みがある一方、ガーデンネットワークはJXTGエネルギー(株)系に強みがあり、顧客基盤という点で補完関係にあった。ガーデンネットワークを子会社化後は、同社のガソリンスタンド向けの事業をガーデンネットワークに移管し、事業規模拡大と効率性改善を図った。現状ではガソリンスタンド数ベースで10%のシェアを有し、順調に事業を展開しているもようだ。
ゴーガはGoogle Mapsを活用した位置情報サービスや情報分析サービスの提供を目的に設立され、当初からGoogleの地図開発パートナーとして認定されていた。一方同社は、Google AppsなどのGoogleの企業向けサービスの有力代理店として様々な商材の販売やクラウド関連サービスの提供などを行っていた。しかしGoogle Mapsについて扱いがなく、“Google関連のすべてのサービスをワンストップで提供する”体制の構築を目指すうえで、ゴーガとは最適な補完関係にあった。同社のGoogle関連サービス売上高が順調な拡大を続けているのは前述のとおりであり、ゴーガとの連携強化を目的に、2018年6月に残りの株式を取得して100%子会社化した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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3. ストックビジネスの強化
前述のように、電算システム<3630>は長期計画『PLAN2020』において売上高の80%をストックビジネスとすることを目標に掲げている。同社の2つの事業セグメントのうち収納代行サービスセグメントはほぼストックビジネスだ。情報サービスセグメントでは、サブセグメントの情報処理サービス(BPO事業やデータセンター事業など)はストックビジネスだ。SI・ソフト開発の中でもクラウド関連サービスや保守・メンテナンスはストックビジネスであるため、フロービジネスは新規のソフト開発やシステム構築、商品販売などに絞られる。その売上高の規模は2018年12月期で80億円程度と弊社では推測している。この推測が正しければ、ストックビジネスの売上構成比は2018年12月期の時点で80%という目標に非常に近づいていることになる。
したがって今後のストックビジネスに関する注目点は、売上構成比の上昇から利益率(採算性)の上昇へと移行してくるだろう。この点について、同社は既に様々な施策に取り組んできており、2018年12月期までに先行投資的な施策を完了している。2019年12月期からは“回収期”すなわち利益率の上昇を実現していくステージに入ることになる。ストックビジネスの収益拡大に関する主な取組内容は以下のとおりだ。
(1) BPO事業における取り組み
業績の項で述べたところと重なるが、BPO事業においては2つの大きな進捗があった。1つは東濃BPOセンターの稼働だ。従来は本社事業所で行っていたがキャパシティに限界が見えたことや設備や動線の面で効率性が悪化していたことから、東濃データセンターの隣接地に東濃BPOセンターを稼働させた。
2018年10月の稼働以来、BPO業務は従来の本社事業所と東濃BPOセンターの2ヶ所でダブルトラック運用が行われている。これは一気に東濃BPOセンターに移管した場合の事業リスクを避ける狙いがある(その詳細は2018年9月5日付レポート参照)。本格稼働初年度となる2019年12月期は、ダブルトラック運用による低稼働と減価償却費の増加で、収益貢献はニュートラルと弊社ではみているが、本社事業所からの移管が進んで稼働率が上がってくれば収益性も改善してくるとみている。
BPO事業におけるもう1つの進捗はRPAの導入だ。2018年12月までに、7つの業務で600時間/月を超える省力化を実現している。RPA導入による効果はまだ余力を残していると弊社ではみており、今後の更なる効果の進展に注目したい。
RPAについて同社は、販売代理店として2社のRPA商品を取り扱っている。AIやRPAを活用した業務効率の改善については企業関係者の注目度は高いものの、実際に導入に踏み切るケースはまだ少ないもようだ。同社自身がBPO事業で実績を出すことは最大の販売促進策と言え、この観点でもBPO事業の動向が注目される。
(2) 決済サービス事業における取り組み
決済サービスにおける取り組みでまず挙げられるのは基盤移行の完了だ。これまでつぎはぎ的に拡張してきたシステムや機器を統一したものへと刷新することで、システム全体としての強靭化や処理能力の拡大、効率性の向上が図られた。2018年12月期中に予定どおり完了し、年間の処理件数が2億件を超えた現時点でも安定的に稼働しているもようだ。
基盤移行が2019年12月期業績にもたらす影響としては、プラス面では効率性アップによる利益率上昇や、前期に発生した基盤移行にかかる費用の減少がある。一方マイナス面では減価償却費の増加がある。同社ではこれらプラス・マイナス両要因をネットした場合、プラス効果が残る見通しとしている。
決済サービスではまた、主力の払込票による決済サービスの利便性を高める施策を矢継ぎ早に打ち出した。ポイントは、払込票という紙を用いたサービスの“キャッシュレス化”と“ペーパーレス化”だ。
“キャッシュレス化”では、払込票のバーコードをスマートフォンのカメラで読み込み、アプリに登録した口座からリアルタイムに支払いができるサービスの充実に取り組んでいる。同社は2017年7月にビリングシステム<3623>と提携し「PayB」による決済を導入した。また2018年4月にはLINE Pay(株)と提携し「LINE Pay請求書支払い」を開始した。さらに2018年12月には楽天銀行(株)と提携し、2019年2月「楽天銀行コンビニ支払いサービス」を開始した。これらのサービスはいずれも、払込票を発行する事業者側には業務フローの変更がなく、一方消費者側はコンビニへ出向く必要がないというメリットがあり利用拡大が期待さ
れる。
“ペーパーレス化”では、払込票に載っているバーコードをスマートフォン上に表示させる、電子バーコードの活用に取り組んでいる。同社は電子バーコードアプリ「PAYSLE(ペイスル)」を提供する(株)ブリースコーポレーションと2017年9月に業務提携した。電子バーコードを読み取るコンビニ側は2018年12月にセブン-イレブンが取扱いを開始したことで全国のコンビニの約70%で電子バーコードの利用が可能となった。2019年度中には残る主要なコンビニでも利用可能となる見通しだ。
一方、電子バーコードを発行する事業者側の導入については、同社はブリースコーポレーションとともに導入支援を行い、普及拡大に取り組んでいる。2018年6月にポーラ・オルビスホールディングス<4927>の事業子会社であるオルビス(株)が自社のスマートフォンアプリ「ORBISアプリ」にPAYSLEを導入したが、同社はそのインターフェースを提供して導入を支援した。
払込票の“キャッシュレス化”と“ペーパーレス化”が組み合わさると、利便性が大きく向上し、クレジットカード決済に近づくことが期待される。これらの普及がさらに進めば、EC市場が一段と拡大するなかで、クレジットカード決済への流れを止めるだけでなく、払込票決済の利用に呼び込むポテンシャルすらあると弊社では考えている。
過去のM&A案件では所期の成果を達成できているもよう。今後の案件への期待が高まる
4. M&Aの進捗状況
同社はM&Aを主要な成長エンジンの1つと位置付け、候補先の選定を積極的に進めている。しかしながら、事の性質上、その詳細な内容が事前に明らかになることはない。
M&Aに関する1つの考え方として同社は、同社がその拡大に注力するストックビジネスを事業モデルとする企業を理想的候補企業の1つに挙げている。一方、ソフト開発の企業については優先度や興味の度合いが高くないことも示唆している。
M&Aについては将来予測が困難であるため過去実績を振り返ると、同社はこれまで、主要なものとしてガーデンネットワーク(株)(2014年9月、100%)と(株)ゴーガ(2016年10月、51%)の2社を買収した。
ガーデンネットワークはガソリンスタンド向けの勘定系システムや情報系システムの開発と保守・運用に強みを持っている。この事業は同社自身も手掛けていたが、同社は昭和シェル石油<5002>系に強みがある一方、ガーデンネットワークはJXTGエネルギー(株)系に強みがあり、顧客基盤という点で補完関係にあった。ガーデンネットワークを子会社化後は、同社のガソリンスタンド向けの事業をガーデンネットワークに移管し、事業規模拡大と効率性改善を図った。現状ではガソリンスタンド数ベースで10%のシェアを有し、順調に事業を展開しているもようだ。
ゴーガはGoogle Mapsを活用した位置情報サービスや情報分析サービスの提供を目的に設立され、当初からGoogleの地図開発パートナーとして認定されていた。一方同社は、Google AppsなどのGoogleの企業向けサービスの有力代理店として様々な商材の販売やクラウド関連サービスの提供などを行っていた。しかしGoogle Mapsについて扱いがなく、“Google関連のすべてのサービスをワンストップで提供する”体制の構築を目指すうえで、ゴーガとは最適な補完関係にあった。同社のGoogle関連サービス売上高が順調な拡大を続けているのは前述のとおりであり、ゴーガとの連携強化を目的に、2018年6月に残りの株式を取得して100%子会社化した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
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