高齢化社会到来をポジティブにクリアする
“時代の申し子”的企業
●溝部正太氏
キャリア 代表取締役
企業の旺盛な求人需要を背景に、人材関連ビジネスの成長性が株式市場でもテーマ視されている。そのなか中長期的にみれば、社会構造的に少子高齢化が進行していくことで、労働人口の減少だけでなく、介護市場でのマンパワー不足も浮き彫りとなっていく。この“時代の要請”といってよい不可避の課題に対し、「シニアワーク事業」と「シニアケア事業」によって、きっちりと対応していく企業として急速に頭角を現しているのが、昨年6月に東証マザーズに上場したキャリア<6198.T>だ。同社の溝部正太代表取締役に話を聞いた。
――高齢化社会の到来で、株式市場でもシニア関連ビジネスを展開する御社に対する注目度が高まっています。業務内容について簡単にお聞かせください
溝部 当社はひとことで言えば売り上げの99%を人材派遣ビジネスで占めています。特長としては2つのビジネスに特化しています。まず、高齢者の方々の働きやすい環境を整えつつ企業の人材ニーズに対応したシニアワーク事業、そしてもうひとつは看護や介護市場における人手不足を解消していこうというシニアケア事業です。
まず、シニアワーク事業ですが、シニアが働きやすい形をつくるということに軸足を置いているので、どんどん仕事を取ってきてマッチングするだけでよい、というものとは根本的に違います。いまは若年層の労働力が不足している。ただ、若い人が足りないからといって、そこにシニアがそのまま入れるかといえばそうではありません。若い人が行う業務をシニアが行えるように作り変えていかないといけないわけで、我々はそこにスポットをあてて事例を作っていく、今はその途上にあります。業務フローを分析して、シニアが対応できる部分と、対応が難しい部分を切り分けて、全体としてうまく業務を遂行できる形に作りかえていきます。
ただ、企業の側からすれば、シニアを採用するにあたって、業務フローをわざわざ作り変えるかというと、それもなかなか難しいわけです。我々がそれを担当して企業の人手不足の問題を解消し、なおかつ、企業の収益性を上げるというニーズにも応えていきます。働きたいシニアにも企業にとっても喜ばれるWin‐Winの関係を構築する営業提案をさせてもらっています。
――高齢化も今後は世代が下から上に移動していくなか、仕事の中身も変わってきますね
溝部 シニアのできる仕事というのは、例えば、パソコン操作などのITリテラシーの向上であったり、世代によって出来る業務が確実に増えていきます。それによって、提案の幅も広がっていきます。繰り返しますが、シニアワーク事業は若者が人材として不足しているから、その分を高齢者の労働力で補うというような単純なものではなく、シニアの望むような業務にしていく、そして企業にとっては収益性が上がるということが主眼なのです。
――シニアのニーズでは職種的にはどういった業務が多いのでしょうか
溝部 ホワイトカラー、いわゆる事務的な業務に対するニーズが高く、そこを増やしていくということに力を入れています。基本的にはホワイトカラーが全体の過半を占める形です。一方、ブルーカラーでは、例えば掃除関係の仕事とかは定番的なものなので、これまでの延長線上で自然に伸ばしていくという状況。同じブルーカラーでもロジスティック(倉庫内作業)については力仕事的な部分も多いので業務フローを作り変えるなどの対応で、大手物流会社に提案するという感じです。
働く側のシニアのニーズという点では、ホワイトカラー系を望む方が非常に多い状況ですが、企業側は必ずしもそうではない。有効求人倍率は確かに上がり続けていますが、それは若年層を基準にした数字で、それとは(シニアのニーズは)大きなギャップがある。企業がシニア層を採用することで収益性が上がるということがコンセンサスとして出来上がれば、一斉にそちらに舵を切ると思うのですが、今はまだ企業側はそのように認識していないというのが実情です。それを事例の積み重ねによって、企業側の信頼を得て(未開拓の)需要を捉えていければと考えています。
――国が後押しする「働き方改革」では労働者の残業時間を減らすことも課題に挙げています。積み残しの仕事などが企業には出やすくなると思うのですが、そうした需要に対応して御社は「ソーシング・モーニング」というサービスを打ち出していますね
溝部 ソーシング・モーニングは、早朝にシニアが代行して前日の企業が積み残した業務を処理するサービスですが、これは単にシニアのほうが朝に強い特性があるから、というような話ではなく、労働環境的に午前中の早い時間帯であれば、その方のライフスタイルを維持したまままで仕事がしやすいというシニア側の需要に対応したものです。
このサービスは昨年12月ごろからスタートして今は実績作りの段階にあり、今期はまだ業績への寄与は見込んでいません。(早朝に前日分の残務をこなす)というのはあまりこれまで前例の少ない形ではあるので、業務フローの作り変えなどが大変ではありますが、来期以降は当社の成長率を上げるドライバーのひとつとして期待しています。
今は社会構造的に人手不足であり、我々にすれば要は(ソーシング・モーニングに限らず)シニアの仕事の開拓さえできれば、それがすなわち売り上げの伸びにつながっていくという構図になっています。一般的な派遣会社とは異なり、人材の獲得競争をする必要がないというのが当社の強みなのです。
――御社のもう一つの柱であるシニアケア事業についてご説明いただけますか。高齢者介護の問題も今後の日本で避けては通れない大きな課題となっています
溝部 介護市場での人手不足の問題ですが、これについて解消するという観点では基本的に2つしかないと考えています。ひとつは看護師も介護士も新規の資格者を増やしていくということ。そして、もうひとつは資格を持っているにも関わらず、労働環境や賃金の問題で働くことをやめてしまった潜在的な有資格者を現場に戻すということ。我々が注力しているのは、現場に戻す、つまり潜在看護師や潜在介護士の市場を開拓することです。
資格を持っているのに働いていない方が、今は看護師で71万人、介護士では228万人に上るとみられています。こうした人たちを戻すための仕事として、当社は特徴のあるやり方で市場のニーズに対応しています。それは介護施設で、常勤スタッフが休みをとる日の仕事を確保するのです。例えば土日だけの仕事を取りにいきます。休みの日の仕事をとるので、月単位でみれば当然ながら給料は常勤スタッフより安くなりますが、時給にすると少し割高な仕事とすることができます。そういった仕事をたくさん取ることによって、潜在的な人材をライトな労働環境で呼び戻し、徐々にこの業界に定着させていくという方向で対応しています。
――御社のシニアワーク事業とシニアケア事業の売り上げ全体に占める割合というのはどのような感じでしょうか
溝部 シニアワーク事業が4割、シニアケア事業が6割というところです。これは、シニアケア事業のほうに力を入れているというわけではなく、拠点の数がシニアケアの方が20拠点あるのに対し、シニアワークの方は9拠点にとどまっており、その差が売り上げの比率に反映されています。今後を考えた場合は、シニアワークのほうが伸びシロがあるといえるでしょう。派遣市場は時を経るに従って、シニアが占める割合が高まっていきます。今の派遣市場は40代前後がボリュームゾーンとなっていますが、20年後は、半分はシニアの派遣ということになっているでしょう。今後シニア派遣の市場が漸次拡大基調をたどる過程で、当社は先駆者の強みを生かして優位性を発揮できると考えています。
当社の成長率については継続的な収益の伸びを維持していくことに重きを置いていて、現状で鑑みれば、今後も営業利益ベースで年30%前後の成長は確保していけるのではないかと思っています。
(聞き手・中村潤一)
●溝部正太(みぞべ・しょうた)
東洋大学卒。2003年アサンテ入社。キャリアマート取締役などを経て、09年10月キャリアを設立。同12月取締役。11年10月から代表取締役に。
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