2020年を目処に、技術者派遣1万人目指す
●佐藤大央氏
夢真ホールディングス 代表取締役社長
2020年の東京五輪開催、リニア中央新幹線、さらには建設後半世紀を経過する基盤インフラの補修・再構築など、建設需要は中長期的に継続拡大するものと想定される。そのなかで、需要拡大を支える建築技術者を供給するという極めて重要な役割を担う夢真ホールディングス<2362.T>の佐藤大央代表取締役社長に、派遣業の将来像と今後の戦略について聞いた。
――建築技術者派遣事業について、具体的に分かりやすくご説明ください
佐藤 派遣といってもさまざまな形態があります。仕事がある時だけ雇用契約を結ぶ登録型派遣のスタイルもありますが、当社の場合は90%以上が正社員であり、安定した雇用のなかで、スキルを高めてもらうというところが大きな特長です。建築技術者というのは、いわゆる現場監督として大手ゼネコンの建設現場などに施工管理チームの一員として派遣されます。現場監督の仕事は、作業者の安全管理、図面通りに仕上がっているのかをチェックするなどの品質管理、仕事がスケジュール通りに進行しているかを確認する工程管理の3つが主です。もうひとつの特長は、20歳代が全体の70%以上と年齢層が若く、建設業界未経験者を大量に採用しトレーニングしていることです。
トレーニングに関しては、図面の読み方や建設用語など建設業に関する基礎知識はもちろん、コミュニケーション能力などの研修も実施しています。ただ、派遣先によってそれぞれ仕事の進め方や要望が異なるケースも多いため、実際に現場に出て覚えていく部分も多くなります。最初は施工管理者の補助といった仕事からスタートしますが、安定雇用でスキルを積み上げていくため、次第に高度な仕事にも対応できるようになり、派遣先からも高い評価を得ています。
――人手不足のなかでも予定を上回る採用ペースで推移し、定着率も向上していますが?
佐藤 現在は人材派遣業界全体にとって追い風の環境ですが、建築技術者という分野では人手不足が特に深刻です。採用マーケットは売り手市場で人材の取り合い状態ですが、採用できる会社とそうでない会社がはっきりわかれているように感じます。おかげ様で当社は現在順調に採用することができています。今後も予定通りの採用水準を継続できる見通しです。採用基準については、過去の職歴については問わず、本人の意欲や人柄に重点を置いています。定着率の向上(17年9月期第1四半期の定着率は前年比2.1ポイント改善の71.3%)については、日頃からきめ細かく話を聞くことで、不安を取り除いてあげることが大切だと感じています。派遣後2週間、1カ月、3カ月、半年と定期的に来社いただいて、話を聞き相談に乗り、問題点があれば改善するという地道な努力の積み重ねがだんだんと定着率を押し上げているように思います。
――IT、ネット関連などの企業へのM&Aや提携を積極化していますね
佐藤 いま、当社が主力としている建築技術者派遣事業は、2020年の東京五輪以降も需要は堅調だと思います。ただ、人手不足は高齢化の進捗など構造的なもので、その先の30年、40年を考えた時に、この分野が成長を続けているか不透明感もあります。そこで、当社の得意な人材派遣のなかで、次に来る分野は何かを考えると、これは間違いなくITといえます。2030年には、世界規模でIT技術者が2000万人足りないという話もあります。日本の建設業就業者は約30万人で、そのうち当社が3500人を派遣しているわけです。対してIT技術者の不足分は2000万人ということで、1%でも20万人の需要となることから、物凄く大きな需要と可能性がある業界ということがわかると思います。これを次の柱として取り組んでいきます。現状、当社にはIT関連のノウハウが十分ではないので、IT企業とのM&Aや業務提携を積極化しています。同時にIT関連技術者の採用も既にスタートしていますので、早期に収益に結びつけたいと考えています。
――17年9月期の業績見通しを教えてください
佐藤 17年9月期第1四半期(16年10~12月)決算の段階では、採用人数、稼働人数、定着率、派遣単価など主な指標は、いずれも順調に推移しているので、この状態を継続していれば、現在開示している連結業績予想(通期営業利益予想は前期比48%増の36億円)は十分達成できそうです。現在は東京を中心とした首都圏の再開発などの需要が多いので、当然、首都圏への派遣人数が伸びていますが、その分地方の技術者および技能者が首都圏に集められており、福岡や大阪など地方での人材不足が顕著になっています。そのため、地方での当社技術者の派遣人数も大幅に伸びている状況です。
――新たに策定した中期経営計画の目的とビジョンをお示しください
佐藤 派遣業界には追い風が吹いているので、それに沿ってきっちりと業績を拡大させていくことが重要です。中期経営計画では、2年後の18年9月期に夢真ホールディングスで5000人、子会社の夢テクノロジー<2458.T>で2000人の技術者派遣をそれぞれ目標にしています。さらに、これにIT技術者派遣が上乗せされるので、2020年頃にはグループ全体で1万人という数字を目指しています。建築関連で6000人、IT関連で4000人の内訳です。IT技術者は、未経験の方に対し、プログラミングやネットワーク構築を学ぶ研修を2カ月間実施しています。1万人規模になると売上高で600億円、営業利益90億円程度のイメージになります。
――人材派遣の果たしている役割についてどうお考えですか
佐藤 派遣会社各社で考え方はさまざまですが、当社としては、採用に苦労している建設業界に若い人材を供給する役割を担っていると思っています。また、求職者からみると未経験の場合、敷居が非常に高く感じる。ところが、当社をあいだに挟んでもらうと、建設業界の仕事を経験するファーストステップとしては非常に良い環境で、求職者および派遣先企業の双方にとって、敷居を低くすること、ひいては建設業界の活性化に役立っていると思います。派遣という働き方をネガティブにとらえる風潮も一部にはありますが、逆に残業代が必ず支払われる点や、セクハラ、パワハラといった職場環境に問題が生じた場合、直接の雇用関係だと言いづらいケースが多いなか、派遣会社には双方とも改善点を申告しやすいというメリットもあります。「同一労働同一賃金」など働き方の整備が進んでいる昨今の企業活動の中で、「派遣」という雇用形態はますます重要になっていくように感じています。
――今後の株主還元策について聞かせてください
佐藤 13年9月期から17年9月期まで、1株配当金に対する目標配当性向は100%を掲げています。さらに、来期以降も、毎期増配方針で高配当での株主還元を実施していきます。また、採用の強化や定着率の改善ならびに株式の流動性や株主層の拡大のため、早い時期での東証1部指定を目指しています。
(聞き手・冨田康夫)
●佐藤大央(さとう・だいお)
1983年生まれ。2006年に野村不動産株式会社入社。その後、2010年に同社に入社、子会社の社長などを経験。2015年12月に代表取締役社長に就任し現在に至る。休日はもっぱら4人の子どもたちへの家族サービスにおわれるが、仕事同様に遊びにも真剣に取り組む。時に子どもより熱くなることも。
●株式会社夢真ホールディングス
http://www.yumeshin.co.jp/
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