翻訳AIが描く「未来」、9割超を自動化
●皷谷隆志氏(ロゼッタ 取締役COO)
企業のグローバル化が進むにつれ、翻訳・通訳の市場規模も着実に拡大している。この分野で注目を集めている自動翻訳で先行メリットを享受しているのが、昨年11月に東証マザーズに新規上場したロゼッタ <6182> [東証M]だ。将来は自動翻訳がほとんどを占めるようになるといわれるなか、皷谷隆志取締役COO(執行社長)に今後の事業戦略について聞いた。
――事業内容を教えてください
事業構成は、ロゼッタが手掛けている自動翻訳を行うMT事業、および人間による翻訳と自動翻訳の中間的な位置付けとなるGLOZE事業、子会社2社が手掛ける従来型の人間が行う翻訳・通訳事業、および企業内語学研修事業の4つのセグメントで成り立っており、人間による翻訳から自動翻訳までを一貫して提供できることが強みとなっています。翻訳・通訳事業と企業研修事業が安定して利益を上げている一方、足もとではMT事業とGLOZE事業が急速に伸びています。
――現在、注力しているMT事業およびGLOZE事業とは?
MT事業とは、インターネット上にある膨大な言語のビッグデータの中から分野ごとに、よく使われている言い回しを独自開発したAI(人工知能)を使って統計的に解析処理をして自動翻訳するクラウドサービスです。訳語候補と前後の文脈を統計解析で判断することで高い翻訳精度を実現しています。これは特に専門分野における翻訳に有効で、従来型の翻訳ソフトとの大きな違いとなります。また、無料の翻訳サイトに比べるとセキュリティー性が非常に高いのも特徴で、これらを企業のニーズにあわせて提案することでユーザーを増やしています。
GLOZE事業は、子会社が手掛ける従来型の翻訳者による翻訳とMT事業の自動翻訳の中間的なビジネスモデルとなります。翻訳を行う工程の中には機械に任せた方が効率的な部分も少なくないことから、翻訳者が翻訳する際にMT事業で開発してきた技術を援用して、従来の翻訳者が行っていた工程を機械的に置き換える比率を増やして効率化していくというサービスです。具体的には、専門用語や言い回しについて、分野別の対訳データベースや過去に行われた翻訳を解析することによって、訳文候補や統計情報を翻訳者に提供します。これにより翻訳品質が標準化され、かつ短期間で納品でき、ユーザーに対して低価格で翻訳を提供することが可能となります。
――足もとの業績は堅調ですね
国内の翻訳市場は緩やかながら年率数%と成長を続けており、これに伴って弊社の翻訳・通訳事業も着実に成長しています。新規事業で利益率の高いMT事業とGLOZE事業はそれ以上に急激に伸びており、新規事業の営業利益構成比では15年2月期の約20%から16年2月期は約40%にまで高まっています。今後はこの構成比をさらに高めていくことで利益を伸ばし、配当性向は30%(16年2月期は23.4%)を目指したいと考えています。
――今後の事業展開を教えてください
2025年にプロ翻訳者に匹敵する翻訳機を完成させるという目標に向け、今17年2月期には開発費を前期に比べて支出ベースで約1億円(償却費ベースで3100万円)ほど増額する予定です。これにより今期の利益の伸びは前期に比べてやや鈍化しますが、弊社独自の手法にDeep Neural Networkを組み合わせる試みを行うなど、自動翻訳の技術的ブレークスルーの可能性を模索します。
具体的には、今期は顧客企業別のテーラーメイド自動翻訳システム「T-400」(Translation for Onsha Only)のリリースを計画しており、来期以降は2025年に完成を目指しているウエアラブル型自動翻訳機の原形となる翻訳エンジン「T-4PO」(Translation for Private Only)の開発に取り組みます。この過程で画像認識AIや音声認識AI、AR(拡張現実)の技術を持つ企業や大学などと連携し、開発のスピードアップにつなげたいと思っています。
――将来的に翻訳はすべて機械に取って代わるのでしょうか
将来的には翻訳のほとんどは機械ができるようになるとみていますが、どうしても人間が最終チェックしなければならない部分は残ると思います。また、映画などの映像翻訳や小説などの文芸翻訳についても機械では難しい部分があります。例えば、行間を読むといったことは人間にしかできず、10年経っても機械に置き換わることは難しいと考えます。ただ、それ以外の9割以上を占める産業翻訳といわれる分野は人によって解釈が違うということがあってはならないので、この部分については自動翻訳に優位性があると考えています。
(聞き手・三宅和仁)
●皷谷隆志氏(つづみたに・たかし)
ロゼッタ取締役COO(執行社長)。1963年大阪府生まれ。1986年に京都大学を卒業後、西武百貨店(現そごう・西武)に入社。2007年ロゼッタに入社し、2008年から取締役執行社長を務める。●ロゼッタ
2004年2月に、AI(人工知能)型の機械翻訳研究開発事業を手掛けるため創業。AI型オンライン自動翻訳サービス「熟考」「熟考Z」を展開しているほか、IT技術による革新的翻訳受託サービスも提供している。2025年に「人間に匹敵する翻訳能力を持つ翻訳機を完成させる」という企業ミッションを遂行するため研究開発を進めている。
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