花の一里塚~市場見通しサマリー
2014年12月1日時点での主要市場見通し
今号より、予想期間を2015年12月末までに延長した。
前々号(「花の一里塚」2014年10月号)の予測表から、予測表を見やすくするため、以前表示していたリスクシナリオを外し、メインシナリオだけの表記としている。9月号まで掲載していた、リスクシナリオも含めての予想表は、掲載を中止する。
基本シナリオと見通し数値について
中長期的な展望として、地政学的リスクや欧州の景気低迷、中国の経済成長減速など不透明要因は根強く残りながらも、米国を中心として世界経済が緩やかな持ち直し軌道にあり、世界的に概ね株高、長期金利上昇、外貨高・円安が生じる、という見通しに変更はない。一方で、10月末の日銀の追加緩和などを受けての国内株高、円安は、行き過ぎであるとの考えも堅持する。短期的には一旦国内株安・円高の揺り戻しが生じ、その後再度株高・円安が緩やかに進むと予想している。あわてて国内株式や外貨(特に米ドル)の上値を買い上げることはせず、押し目を丹念に拾う投資姿勢を薦める(逆に、予想したような株価や外貨の下振れが生じた場合、あわてて売らないことも肝要だ)。
なお、今回から予想期間を2015年12月末までに延長した。予想レンジの数値上は、年後半は年前半と同じように見えるが、年前半は概ねレンジ上限に迫るような穏やかな市場動向を予想している。これに対し年後半は、レンジ上限と下限の間で、激しく上下動するような相場付きになると懸念している。そうした波乱を見込む最大の要因は、米長期金利の上振れの可能性であるが、そうした上振れが生じる確率は高いと見込んではいるものの、確度が極めて高いとは言い難く、加えていつそれが生じるかのタイミングについては(おそらく年後半であるとは予想しているものの)全く予想できない。
具体的な予想レンジの修正については、2014年12月までについては、主に足元の国内長期金利の低迷と予想以上の円安を受けての修正を行なう。
2015年6月までの予想レンジについても、同様の理由で微修正を行なった。
2014年12月までの予想レンジを、前号(11月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 15500~18500 ⇒ 16500~18500
10年国債利回り(%) 0.42~0.9 ⇒ 0.40~0.70
米ドル(対円) 105~114 ⇒ 110~120
ユーロ(対円) 133~145 ⇒ 135~150
豪ドル(対円) 92~110 ⇒ 95~110
2015年6月までの予想レンジを、前号(11月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 16500~21000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.6~1.9 ⇒ 0.45~1.5
米ドル(対円) 105~112 ⇒ 105~122
ユーロ(対円) 135~150 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 95~120 ⇒ 変更なし
シナリオの背景
・大枠として、内外経済の回復に沿って、投資家のリスク許容度もさらに高まり、中長期的な世界株高、長期金利上昇、外貨高・円安を見込む、という考え方に変わりはない。
・世界をみわたすと、やはり足元で最も堅調さが強いのは米国経済だ(図表1)。住宅、自動車といった高額商品にはやや頭の重さも見えるが、雇用情勢の回復基調は持続している。
(図表1)
(図表2)
・原油価格下落の功罪が議論されているが、米国にとっては、シェールオイル・ガスなどの開発投資にブレーキがかかる部分がありうる(※1)ものの、ガソリン・燃料油の値下がりが個人消費を刺激する効果の方がはるかに上回るだろう。足元のクリスマス商戦は、セール期間の延長(消費の盛り上がりの分散化)やネット通販の拡大により、どの程度の強さかがすぐには把握しがたいが、全米小売協会は今年11~12月の売上高累計は前年比4.1%増を見込んでいる。これは昨年同期の同3.1%増を上回るものだ。
・先進諸国中で景気の先行きが最も懸念されているのは欧州経済であるが、ユーロ圏の鉱工業生産は低迷しているものの、底割れに向かっているとも言い難い(図表2)。今後、経済制裁や原油安の影響を受けてロシア経済が悪化し、それが欧州に降りかかってくる恐れはあるが(EUからの域外輸出において、ロシア向けは15%を占める)、一方ではECB(欧州中央銀行)が追加緩和の構えを見せている。欧州経済について大幅な改善は見込みがたいが、過度の悲観も禁物だろう。
・国内経済は、消費増税後の悪影響から回復軌道にはあるが、回復の度合いが極めて緩やかであるとも言える(図表3)。ただし、国内雇用市場において、単に失業率が低下しているだけではなく、所定外労働時間が増えていること(人手不足を示す、図表4)や、パートだけではなく一般労働者(≒正社員+派遣社員)の雇用も増加していること
(図表5)をみると、長い流れでは個人消費の持ち直しが期待できるだろう。
(図表3)
※1 シェールガス・オイルの生産コストは、企業によってかなり幅広いと推察されており、原油換算で1バレル40~80ドルであると言われている。80ドル近辺の高コスト業者は収益が苦しく、先端開発技術への投資を手控えざるを得なくなる、という「ジリ貧」状態に陥る恐れがあるが、先行投資し積極的な効率化を図った業者は、現状のような70ドル割れの原油価格でも生き延びる可能性が高いと言える。
(図表4)
(図表5)
(図表6)
(図表7)
・新興諸国については、中国やブラジルの景気減速などにより、先進国との経済成長率格差が縮小した(図表6)。一方で、ウクライナやイラク情勢など地政学的リスクが意識されたため、先進国と新興国の株価・通貨の推移に格差が生じている(図表7)。
・しかし一方で、地政学的リスクは(よほど想定外のことが今後起こらない限りは)場に晒され織り込まれた感が強くなっており、一方で先進国と新興国との成長率格差は、かなり縮小はしたものの依然として新興国優位が保たれると見込まれる。こうした点を反映して、新興諸国株価・通貨は徐々に底固さを示し始めている。
・新興国投資ブームが再燃するとまでは見込みがたく、一斉に新興諸国市場が立ち直ることは難しいだろう。それでも、各国の実情に応じて、選別的に投資資金が新興国市場に向かうことは今後ありうると予想される。
・以上のような経済状況を背景に、選別色が強いながらも、基調としては内外株価上昇、長期金利上昇、外貨高・円安を継続して予想している。しかし、短期的に市場に波乱が生じそうな「魔の時」が2回起こりうると考えている。それは、①足元と、②おそらく2015年後半であると予想する。
(1)足元の国内株安・円高の可能性
・足元は、一旦株安・円高に振れ戻るリスクが高いと予想している。
・まず、日銀が10月末に行なった追加緩和をはやした相場動向は、そろそろ賞味期限切れだろう。というのは、日銀が金融システムに大量に散布した資金は、資金需要の弱さから貸し出しという形で金融システム外にはなかなか流れ出していないからだ。現在の国内株高・円安は、気分的なもの以上ではないだろう。
・特に国内株式については、投資家動向をみると外国人投資家、それも短期筋の日経平均先物買いの一手買いで、そろそろ疲労感が出てもおかしくない。実際、日経平均先物主導である点は、NT倍率(日経平均÷TOPIX)の高さに表れている(図表8)。
・円相場も、たとえば購買力平価(図表9)との乖離率(図表10)で見ると、既に10月の月中平均値で乖離率は10.57%と、最近の最高値(2007年6月)を抜いていた。11月の購買力平価が10月と同じ(97.69円)として、米ドル円相場が119円と置いて乖離率を計算すると、21.8%にも達している。乖離率が20%を超えたことは長期的に見ても1982年と1985年の2回しかない。中長期的な米国経済の堅調推移に沿った米ドル高基調は良いとしても、少なくとも足元の米ドル高・円安は行き過ぎ感が強い(※2)。
(図表8)
(図表9)
(図表10)
※2 特に足元で、「原油価格下落→国内物価上昇率低下→追加緩和」が円安シナリオとして語られているのは、日銀がヘッドラインの物価上昇率ばかりを追いかける形に陥っていることに対する皮肉としては的確だが、円安の「真っ当な」材料としては行き過ぎだ。
(2)2015年は米長期金利の急速な「正常化」のリスク
①長期金利の水準は低すぎ、水準訂正が急速に生じる恐れ
・米国内外の実体経済は、述べたように堅調だ。また米連銀は、2015年後半にも利上げを行なうと予想されるが、利上げのタイミングも政策金利の上げ幅も、慎重なものになると見込まれる。したがって、実体経済が内包するリスクや連銀の金融政策から、足元のような米国景気の緩やかな改善がかき乱される、という可能性は低いと考える。
・ただし証券・金融市場の乱れが生じ、それが経済のかく乱要因となりうる、という懸念は残る。その市場の乱れとは、具体的には、まず米長期金利の跳ね上がりである。
・そもそも現状の米長期金利は、実体経済に比べて低すぎる。米国製造業企業の景況感を示す、ISM製造業指数と10年国債利回りの推移を比べてみると(図表11)、過去は両者の相関が高かったものが、最近では景況感に比べての長期金利の低迷が際立っている。
・一時は、米国経済が弱い時期があったため過度の米景気悪化懸念が生じたことや、連銀が量的緩和という形で国債の大きな買い手であったこと、欧州財政懸念が広がり欧州国債から米国債への資金シフトがあったことから、景況感と長期金利の格差を説明できた。そうした3つの要因はその後大きく剥落し、実際の長期金利も一時は景況感が示す水準に近づくという、「正常化」が進んだ局面もあった。しかし現在の長期金利は再度低下を鮮明にしており、これは金利が低すぎると判断せざるを得ない。
(図表11)
・低すぎる金利は、いずれ景気の実力に見合った水準へと修正されよう。それ自体はさしたる問題ではないが、市場はしばしば、激しく変動する。金利上昇が緩やかに起こればよいところ、急速なスピードで動くと、後述のように、様々な影響を生じる恐れが強まる。
②貸出金利上昇が実体経済に影響を与えようが、限定的か
・まず、長期金利上昇の影響として懸念されるのは、住宅や自動車など、高額で、借り入れに頼った購買の比率が高い分野だ。特に足元の自動車市場については、販売業者がサブプライムローンを含めた融資攻勢で購買を支えている面があり、金利上昇により借り入れにブレーキがかかると、販売台数の水準が落ちる可能性がある。
・とは言うものの、前掲の(図表1)で述べたように、住宅や自動車には既に軽い一服感が漂っている。この点では、住宅や自動車が過熱状態から一気に悪化する、というような事態は見込みにくく、「山低ければ谷浅し」といったような、軽微な調整にとどまるものと予想される。
・また、そもそもどうして長期金利が上昇するかに立ち返れば、上昇の理由は景気が堅調だからである。景気が強くもないのに金利だけが上がるような状態(たとえば財政悪化懸念で国債が売り込まれるような事態、いわゆる「悪い金利上昇」)ではないために、悪質な金利上昇が景気を傷める、という展開にはなりくにいだろう。
③株価、社債価格反落の恐れ
・悪影響が大きく表れるとすれば、それは実体経済面より、むしろ証券・金融市場だろう。
・まず株式については、企業の増益企業が続いているものの、株価の上昇の方が速く、PER(株価収益率、株価÷一株当たり利益)は、近年では高めの水準にある(図表12)。しかし長期金利の水準を勘案したイールドレシオ(PER×10年国債利回り)は、長期的な低下傾向に沿った動きにあり(図表13)、金利も勘案すれば、株価は割高とは言えない、という結論となる。しかしそれば裏返した言い方をすれば、長期金利の低さに頼った株価の割安さと解釈でき、金利上昇が生じた際には、株式市場は割安さの根拠を失うことになりかねない。
(図表12)
(図表13)
(図表14)
・国債の低金利に頼み、割高になっているのは、株式市場だけではない。投資家は国債金利が低すぎるため、利回りを求めて社債を買い進めている。そのため、社債と国債の利回り格差はかなり縮小した(図表14)。足元は高値警戒感から利回り差がやや開いてはいるが、昨年までの水準と比べるとまだかなり低い。
・ここで、利回り格差が「正常化」して開くとともに、「土台」となっている国債利回りの上昇が生じれば、社債価格の下落が大幅になる展開も否定できないだろう。
④公社債価格下落は広範囲に悪影響を
・社債価格の下落は、様々な悪影響を引き起こしうる。もちろん米国企業にとっては、資金調達コストが増大することになる。足元は、米国以外の企業も、低金利を活用しようと、米国内での米ドル建て社債発行を増やしてきた。こうした非米国企業も、資金調達がこれまでほどは安易にできなくなるだろう。
・ちなみに一部の海外企業は、米ドル建てで調達した資金を、米国の証券市場に投資する、といった、利ザヤ稼ぎ、マネーゲームに走っているのではないか、との疑念も強いようだ。もし資金調達が細れば、米国内の証券市場に売りが広がる、という展開が生じうる。
・加えて、米長期金利の上昇が米ドル高を招けば、海外企業にとっては、既発の米ドル建て債務残高の、現地通貨換算額が膨張し、債務の返済負担が増大する恐れも広がるだろう。
・また、国債のみならず社債の価格下落が懸念されるのは、そうした公社債が、レポ取引
(買戻し条件付き債券売買取引、日本の現先に相当)の担保によく使われているからだ。国債や社債の価格が下落すれば、場合によっては資金の出し手は取り手に対し、追加担保の差し入れを要請する。資金の取り手が追加担保を供することができず、資金もすぐには返せない、となれば、レポ取引がデフォルトする。この場合、資金の出し手は担保の債券を売却して資金回収に走るので、そうした売りがまた債券価格を押し下げる、といった、悪循環を引き起こすことも生じかねない。
⑤長期金利の上振れによる混乱が生じても、短期的なもので、タイミングもわからない
・もちろん、述べたような金融取引の決済不能の広がりなどが、金融システム全般を脅かすリスク(システミックリスク)に対しては、米連銀は既にリスクの可能性を踏まえて事態を注視しており、個別の案件はともかく、米国金融システム全体を揺るがすようなことにはなりくにいと考える。
・加えて、米国経済の回復度合いの緩やかさや、前述のような連銀の慎重な利上げ姿勢を踏まえれば、米長期金利が長期的持続的に大きく上昇し続ける、という展開は見込みにくく、最悪の場合でも、金利の水準訂正が短期的に急速に生じる形だろう。したがって、述べてきたような米国証券・金融市場の動揺が現実に起こるとしても、短期的な混乱であり、深刻な事態に陥るとまでは想定する必要は薄いと考えている。
・問題は、本当にそうした長期金利の急速な跳ね上がりが(実現する可能性が高いとは考えてはいるが)必ず起こるかどうかはわからない(跳ね上がりというより、極めて穏やかな金利上昇がゆっくり続くかもしれない)、ということだ。また、長期金利の跳ね上がりは、何かタイミングが決まったイベントにより引き起こされるようなものではないだろう。年後半とみられる連銀の利上げが迫るほど、長期金利の上振れは起こりやすいだろうが、上振れが始まる前日まで、その気配は捉えられないだろう。
・したがって、投資スタンスとしては、2015年後半に、市場の波乱が米長期金利の上昇により引き起こされることが必ず実現する、という前提を元に投資行動を行なう、というより、そうした波乱が生じるかもしれない、ということを頭において、株高・外貨高(円安)時にレバレッジをかけた買いポジションを拡大しない、また波乱が実現した時にあわてない、という心構えを薦めたい。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号見通しのレビュー。
前月号見通し(2014/11/4時点)のレビュー
①日経平均株価
・11月の日経平均株価は、レンジ内で下限から上限に向かう動きとなった。ただし一旦短期的な下押し(17000円割れか)の後、再度上限に向かうと予想する。
②国内長期金利
・国内長期金利は、10月末の追加緩和もあって、相変わらず下限から離れる動きが明確化しない。ムーディーズの日本国債格下げ(12/1)を受けても、相場付きはあまり変わらないだろう。予想レンジを全般的に下方修正する。
③外国為替相場
・米ドルとユーロは、予想レンジの上限を打ち破って上昇した。特に米ドルの上昇度合いが大きい。
・しかし、少なくとも短期的には、さすがに円安が行き過ぎた状態にあると考える。
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