「変わり種投信」や「仕組債」が人気

著者:矢口 新
投稿:2016/08/09 15:48

主要国の国債の3分の1以上がマイナス利回り

世界の主要中央銀行のほとんどすべてが、ほぼゼロ金利やマイナス金利政策を採る中で、主要国の国債の3分の1以上がマイナス利回りになっているという。

日本国債に関すると、2年国債が継続的にマイナス利回りとなった(以降はプラス利回りがないという意味で)のは2015年の11月9日から、そして徐々に年限を伸ばし、2016年2月24日からは10年国債までが継続的にマイナス利回りとなった。

まだ15年国債以降はプラス利回りだが、直近の財務省の資料にある8月4日終値時点で、0.093%、20年国債が0.30%、利回りが日本国債で最も高い最長期の40年国債でも0.477%でしかない。その40年国債も7月6日には0.067%だった。

国債などの金融商品は、投資家の資金運用手段であると同時に、発行者の資金調達手段だ。つまり、政府は40年間の借金を1億円しても、毎年の利払いは50万円もかからないことになる。7月6日に発行していれば、7万円もしなかった。1カ月当たりの利息は5583円だ。元金の1億円は40年間借りていられるので、財政赤字の政府としては、空前絶後の資金調達環境だ。マイナス利回りの国債を買ってくれることを含め、マイナス金利政策の日銀には足を向けては寝られない。

もっとも10年国債だと、投資家が実質的に政府に利息を払ってくれるので、もっと有利な資金調達ができる。しかしどう考えても、そういった損をしてもいいという投資家は特殊な投資家で、10年後の償還まで持っていてくれる可能性は低い。途中で投げ出されると利回りが上昇するので、その時点での資金調達が高くつくことになる。それで、麻生財務相は40年債発行の増額を決めた。他に投資物件がないのだから、低利回りでも買う長期投資家がいるだろうとの目論見だ。

マイナス利回りは問題外だが、1億円を40年間預けても毎年の利息が50万円にも満たないことは、投資環境としては最悪だ。そこで、少しでも多くの利回りをと、「変わり種投信」や「仕組債」が人気だという。
以下は、8月8日付け日本経済新聞の報道だ。

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6月に新規設定された三菱UFJモルガン・スタンレー証券が販売する「マクロ・トータル・リターン・ファンド」は設定時で400億円強の資金を集め公募投信では今年最大のヒット商品になった。仕組みは複雑だ。株式や債券、金融派生商品などを駆使し、相場の上げ下げにかかわらずプラスの運用を目指す。「グローバル・マクロ」と呼ばれる海外ヘッジファンドが得意とする運用戦略だという。

T&Dアセットマネジメントは「大災害債券」の投信運用を6月に始めた。地震や台風といった自然災害リスクに備えた債券で、従来は機関投資家や一部の富裕層向けだった。利回りは一般に年4~5%程度と個人向け国債の0.05%とは桁違いだ。

みずほ投信投資顧問は米国の地方債を組み入れた投信を運用する。損害保険ジャパン日本興亜は8日、満期まで30年の劣後債を発行する。利率は当初10年固定で年0.84%になる。
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また、日経平均などにリンクした仕組債も販売されている。これは株価バブルの頃に人気だった商品で、日経平均先物のオプションを売ることで得るプレミアムを、債券の利息に乗っけるものだ。個人向け国債の利回りが0.05%であれ、外債の利回りが2.0%であれ、売るオプションの行使価格と数量次第で、利回りはどこまででも上げられる。

バブル当時は、3万円を超えていた株価に対し、2万円以下の行使価格が人気だった。当時は誰も日経平均が2万円を割れるとは思っていなかったので、プレミアムのただ取りだと思われていた。
また、仮に一時的に2万円を割れても、すぐに戻るだろうから、2万円で株を買える権利を持つことは、悪い話ではないと考えた。

とはいえ、そんな誰もがつかないと思うような行使価格のオプションのプレミアムは安く、たいした利回りアップにはつながらない。そこで、何倍ものオプションを売ることで、希望の利回りに近付けた。その悲惨な結果は、推して知るべしだ。また、「変わり種投信」や「仕組債」は流動性にも欠けるので、売りたい時には、更に悲惨な価格でしか売れない。

ここで申し上げたいのは、利回りは取るリスクに応じて、いくらでも上げられるということだ。このことは、誰もが希望する利回りを得るには、誰もが望まないリスクを取る必要があることを意味している。手間暇をかけずに、ただ買うだけで儲けたいということは、そういうことなのだ。

私は、業者と運用者という両方の立場でいた者として、短期トレードに勝る運用手段はないと確信している。
配信元: 達人の予想