「強い先高観、来週にも上方の窓到達か」

著者:黒岩泰
投稿:2016/03/04 20:31

「審議委員交代でマイナス金利はさらに拡大か」

 本日の日経平均は54.62円高の17014.78円で取引を終了した。朝方はやや軟調なスタートとなったが、その後はジリジリと上昇幅を拡大。引けにかけて強含む動きとなった。今晩は米国で雇用統計の発表を控えていたが、市場では円高や原油安の一服を好感する動き。株安に対しての国際協調の動きも出ており、市場には政策期待が高まっている。株高によって売り方は買い戻しを余儀なくされており、それも株価上昇の原動力となっている。

 日経平均の日足チャートでは着実に上値を切り上げる形。典型的なリバウンド相場となっており、強い先高観が残っている。日経平均の日足チャートでは上方に窓(17515.68円―17684.66円)が空いており、これを目指す展開。あと670円程度の上昇余地があり、来週中にも到達するだろう。

 最近、気になったニュースは、日銀審議委員に新生銀行の政井貴子氏が提示されたという話だ。3月末に白井さゆり氏が任期を迎えるからであり、安倍政権に「理解のある人」が選ばれた公算が大きい。

 そもそも先月29日の日銀金融政策決定会合では、マイナス金利導入は「賛成5・反対4」の僅差だった。安倍政権誕生後に選出された審議委員のみで決定しており、反対4名は前白川総裁のときに選任された人たちだ。

 今回、反対派である白井氏が抜けて、賛成派であろう政井氏が入るということは、マイナス金利拡大の可能性が一段と高まることになる。実際、政井氏は2月のコメントで、「追加緩和しなければ、株価も円相場もさらに不安心理が増幅。もし、1ドル=110円を超えるような円高が定着すれば、日本経済の見通しを下方修正せざるを得ない」と発言している。マイナス金利拡大に積極的かどうかは不透明だが、少なくとも現在の「アベクロライン」に同調する流れであろう。そして6月末には反対派である石田浩二審議委員も任期を迎える。そうなればさらに「アベクロマイナス金利派」が増殖することになる。

 一部の専門家からは「マイナス金利の弊害」が指摘されている。銀行収益が圧迫されることで、それを預金者や国民に転嫁する動きがあるからだ。銀行手数料が増加することになれば、それは「デフレ圧力」として機能する。また、銀行株が主導して全体相場が下落すれば、それは「逆資産効果」として機能することになる。これもデフレを助長させる要因となるのだ。

 それではなぜ、安倍政権はこれほどまで危険なマイナス金利を許容し、そしてそれをさらに拡大させようとしているのか。そこに重大なヒントがある。

 国内要因だけで考えれば、マイナス金利は前述のように多くの副作用が存在する。それに対して、まったく副作用がないのは、為替相場である。マイナス金利が導入されれば、その国の通貨は安くなる。なぜならば、為替には「金利裁定」というものが働いており、お金は低いところから高いとこへ流れるからだ。低いところとは、金利が低いところ。高いところとは、金利が高いところという意味である。だから、マイナス金利を導入すれば、その通貨は売られる傾向が強くなる。そこを狙っているのだ。

 一方、アメリカは昨年末に利上げを実施したが、今はその次が「ない」状態となっている。本来ならば、米国が利上げを断続的に実施し、日銀がマイナス金利を拡大させれば、為替相場は確実に円安・ドル高に進むはずだった。なのに、米国は積極的に利上げできない状態が続いており、これが日銀のマイナス金利拡大のインセンティブになっている。米利上げによる「ドル高」が出来なければ、その反対側にある円を利下げするしかない。それがマイナス金利導入の最大の理由と言えよう。

 米FRBが「景気が悪い」にも関わらず、利上げを実施した理由は、何を隠そう「ドル防衛」が目的だ。基軸通貨してのドルを守ることで、既得権益である「通貨発行権」を保持したいのだ。だから、日銀が援護した。そんな構図となっている。

 今後、日本国内でどんな混乱が起ころうとも、そんなことは知ったこっちゃない。宗主国アメリカを援護する目的で属国日本が動いたということであり、それ以上でもそれ以下でもない。仮にマイナス金利が奏功して、為替が円安、そして株高が進めば、安倍政権にとって「御の字」というもの。7月には参院選、場合によっては衆参同日選の可能性も残されており、安倍政権にとって株高は「生命線」となっている。もし、今後、円高・株安が急ピッチに進む場面があれば、躊躇せず「(米国債買いという)為替介入」というバズーカをぶっ放すだろう。売り方にとってもっとも怖いのは、この一発である。
黒岩泰
株式アナリスト
配信元: 達人の予想