「米雇用統計、鉛筆ナメナメの眉唾モノ?」

著者:黒岩泰
投稿:2016/01/08 20:02

「米利上げが株価暴落の元凶」

 本日の日経平均は69.38円安の17697.96円で取引を終了した。昨晩の米国株の急落を受けて売り先行となったものの、SQ算出後は落ち着いた値動き。中国株がプラスに転じたこともあり、一時18000円に接近する場面もあった。

 しかし、買い一巡後は徐々に上値が重くなる展開。中国や中東、そして北朝鮮のリスクが完全に払拭したとはいえず、戻り売り圧力は強かった。また、今晩、米国では雇用統計の発表を控えており、三連休前にポジション整理の動きも強まった。日経平均は結局マイナス圏へと沈んでいる。

 本日は朝から波乱の展開となった。1月限ミニ先物・オプションの特別清算指数(SQ)が 17420.01円とかなり低いところで決まり、これが実際につけていない価格である「幻のSQ」となった。ファストリ(9983)が昨日の取引終了後に業績の下方修正を発表しており、安く寄り付いたことも影響したとみられる。

 ただ、SQ算出が済んでしまえば、投資家の一部は意図的に売り崩す意味がなくなる。同時に先物やオプションの建て玉も清算されたことから、需給関係が一変。株価は上値を試す動きとなった。そのとき、中国のサーキット・ブレーカー停止措置も、大きく影響したと思われる。「取引停止」になるリスクが消滅したことで、投資家は売り急ぐ必要がなくなったからだ。それが市場で買い安心感を誘い、株価上昇の原動力となった。

 それでも日経平均の日足チャートでは長い上ひげが出現。上値の重さを示しており、トレンドがまったく変化していないことを示している。本日の一時的な上昇は、あくまでもSQ算出後の需給的な要因。短期的な現象であり、いずれは下値を試す動きになるだろう。その際、目標となるのが、下方の窓(16864.34円-16911.58円)であり、あと820円程度の下落余地がある。来週中にも到達する可能性があり、投資家は改めて気を引き締める必要がありそうだ。

 そして今晩は米雇用統計である。非農業部門雇用者数が前月比で20万人増加、これがコンセンサスとなっている。もちろん市場参加者は「重要な経済指標」として警戒しているわけだが、この指標に関していえば「大本営発表」の色彩は否めない。つまり、鉛筆ナメナメの世界であり、結構、眉唾モノなのだ。

その理由として挙げられるのが、この経済指標はある計算モデルを用いているということ。数値の設定如何によって雇用者数が増減する仕組みとなっており、恣意性が働きやすいのだ。

これまで米国では「経済指標は良好」という触れ込みできていた。雇用などが一定ペースで増加しており、それを前提に「景気は回復基調」と判断されてきたからだ。

もちろん、こんな経済指標はインチキに決まっている。中国ほどではないが、当局の意のままに操られていると考えたほうが良いだろう。特にこれまではFRBの利上げの根拠として、この米雇用統計が使われてきた。「景気が良いのだから、利上げしても構わない」というロジックであり、結局、昨年末にとうとう利上げをしてしまった。そして今の株価急落である。

市場参加者の多くは、年初からの急落を、中国の景気減速や中東、北朝鮮リスクと考えているが、実際に元凶となっているのは、「米利上げ」である。「ドル供給という蛇口を閉め、さらに回収する」と宣言しているであり、これで株価が上がろうというのが無理な話なのである。

米FRBにとって利上げというのは、自爆行為に等しい。なぜならば、米FRBというのはNYに拠点を置く銀行群の元締めみたいな存在であり、米国債とドルをバーターすることでその力を誇示、延命策としてきた。それが「QE1」「QE2」そして「QE3」であり、それを最近になって止めると言っているのだ。それはすなわち「錬金術を止める」といっているのと同等であり、最終的には米国債の暴落へとつながる恐れがある。もし、米国債がデフォルトするような事態となれば、その反対側にあるドルも事実上の無価値となる。米政府、FRBの信用力が地に堕ちるからである。

だから、今回の利上げというのは、最終的に米国債やドル消滅を画策した可能性が高い。米国債の発行残高が無尽蔵に膨れ上がっている今、それをガラガラポンでチャラにしてしまおういう計画だ。もちろん、これは08年リーマンショック以降の救済プロセスにおいて、すでに計画されていた可能性が高い。なぜならば、日米欧の量的緩和策というのはある意味「出口のない政策」であり、「破綻を前提」に始められたものであるからである。それを今回、FRBが「やめる」と宣言したのであり、その意味は非常に大きいのだ。

もちろん、米国は世界一の軍事大国であり、ドルはれっきとした基軸通貨である。最近は中国の台頭がめざましいが、すぐにドル体制が崩壊するというわけではない。「米利上げ」以降の動きはむしろ、米国以外の新興国に悪影響が出ている。金融・経済の面で「より弱いところ」から崩れているのであり、それが世界同時株安の要因にもなっている。もし、FRBの意識のなかに「相対的浮上」があるならば、「他の通貨が崩れることによって、ドルの地位が保たれる」という狙いがあるのかもしれない。その場合には、利上げはすぐに取り消され、「QE4」へと突入するのだろう。現時点でFRBが断続的な利上げを宣言している以上、株価への悪影響は避けられない。買いだけやっている投資家は覚悟しておくべき。
黒岩泰
株式アナリスト
配信元: 達人の予想