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米格下げの警戒感は後退

 

米格下げの警戒感は後退、レポ市場に影響出ればドル調達に支障も

 

[東京 5日 ロイター] 米国債の格下げリスクを警戒する声は一時期よりも低下している。問題先送りとの批判もあるが、政府債務上限引き上げ法が成立。世界経済の失速懸念が強まってきたことで「安全資産」とみなされた米国債に逃避マネーが集中しているためだ。

 国内銀行などからは格下げとなっても投資スタンスが変わることはないとの声が出ている。ただ米国債格下げでレポ市場などに異変が起きる可能性もある。欧米債務問題が再燃すれば一部金融機関のドル調達に支障が出るおそれがあるだけに、慎重な見方も少なくない。

 <1社だけの格下げでは影響限定的か>

 米連邦債務上限引き上げ法案が2日成立し、米国債のデフォルト(債務不履行)が回避された。「米国債が本当にデフォルトするとみていた市場参加者がどれだけいたのだろうか」と国内証券の債券担当者は話す。

 米ソブリンCDS(ユーロ建て)5年は7月29日に63.45ベーシスポイント(bp)と過去最高水準を付けたが、米債務上限問題がクローズアップされたこの1カ月間の上昇幅は10数ベーシスポイント(bp)にとどまる。米国債市場では7月最終週、2年、5年、7年と続いた国債入札をこなして金利低下が拍車。10年国債利回りは8月4日の取引で一時2.40%を付け、約1週間で約50ベーシスポイント(bp)以上の低下幅を記録した。

 デフォルト懸念が強まる局面では通常、金利が急騰しヘッジ需要が強まるはずだが、こうした市場理論と裏腹に米国債に買いが観測されたことに「デフォルトが差し迫っているとされる国家の国債市場とは到底思えない」(国内金融機関)との声も聞かれ、違和感を感じた市場参加者も少なくない。米国債の元利金支払いの原資が枯渇しているわけではなく、仮にデフォルトした場合にでも、政府は国債の元利金の支払いを優先する方針を示している。市場は欧州債務問題の震源地であるギリシャとは別物ととらえられている。

 安全資産として米国債の優位性は、当面揺るがないのではないか──と強調するのは国内金融機関の債券関係者。米連邦債務問題は信用不安をあおる材料に使われたにすぎず「市場の主要テーマは世界景気の減速だ」と指摘する。世界経済は原油をはじめとする商品価格の上昇でコスト・プッシュ・インフレへの警戒感が台頭し、先進国経済をけん引してきた新興国の成長に陰りが見え始めた。成長鈍化は財政再建に影響を及ぼしかねないだけに、先進国のソブリンも安全でないことを意識させるきっかけにとなったが、国の信認を揺るがす事態には程遠い。「結果的には、安全資産として日米独の国債に対する安全性を印象付けた」(同関係者)という。

 大手海外格付機関の中で、ムーディーズ・インベスターズ・サービスとフィッチ・レーティングスは2日、債務上限引き上げ法案の成立を受けて米国格付けに付与している最上格の格付け維持を表明。スタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(S&P)だけが、見直しの結論を出していない。

 ニッセイ基礎研究所・上席主任研究員の徳島勝幸氏は「大手格付機関3社のうち、S&Pの1社だけが格下げに動いたところで、市場の影響はほとんどでないのではないか。安全性でUSトレジャリーに勝るガバメントボンドがあれば、資金シフトも予想されるが、むしろ米国債は質への逃避の動きで買われている。現在の状況ではそうした動きも出にくい」とみている。

 <米債急落なら日本国債で合わせ切りも>

 国内銀行でも、米国債が引き下げられても、現時点では「投資スタンスが変わることは、まずない」(メガバンク幹部)というのが一般認識だ。ただ、相場変動率の上昇などで相場が不安定化すれば景色は一変しかねない。

 ある大手銀行の運用担当者は不安を隠さない。米国債を中心とする外債投資は、調達した外貨を外貨建て資産に振り向ける「外―外の投資スタイル」(メガバンク関係者)をとっており、ポートフォリオに占める割合はさほど大きくない。

 3メガバンクグループが6月末時点で保有する米国債残高は、およそ7.1兆円とみられる。

 内訳は三菱UFJフィナンシャル・グループが約3.7兆円、みずほ(2行合算)が約2兆円、三井住友銀行が約1.4兆円弱。これらの資産価値がゼロになることは事実上、考えられないが、市場には「時価会計の処理を迫られれば、期間利益を吹き飛ばしかねない」(前出のメガバンク)との声もある。

 米連邦債務の上限引き上げ問題は2日の期限ギリギリで決着し、デフォルト(債務不履行)の懸念は遠退いた。ここもとでは景気悪化の観測が急浮上し、主要先進国の国債利回りは急ピッチで低下(価格は上昇)し、むしろ追い風が吹いている。

 しかし、今後も米国債相場が安定的に推移するかどうかの補償はない。外債投資で評価損を抱えた銀行が、日本国債の含み益で損失を相殺する「苦渋の選択」(別の銀行)に迫られれば、昨年末のような国債急落劇が現実味を帯びる。

 財務省や日銀からは米国債が格下げされれば米レポ市場などに若干のストレスがかかりそうだとの声が聞かれる。レポ市場は証券市場の仲介者(マーケットメーカー)や参加者の資金流動性を支えており、レポ取引が円滑に行われなくなるとマーケットに大きな影響を与える。リーマンショック時にはレポ市場に大きな影響が出て、一部金融機関のドル調達に問題が生じ、各国の中央銀行はドル供給に追われた。欧米の債務問題は解決に程遠く、市場の緊張感が消えたわけではない。

 東短リサーチの加藤出氏は「リスク・フリーのベンチマーク」であった米国債がその地位から仮に滑り落ちると、他にAAAの国債に対し米国債の利回りが相対的にじわりと上昇する可能性は考えられると指摘。そのうえで「米国債は世界中の様々な店頭(OTC)取引や取引所取引の証拠金に差し入れられており、格下げがあれば、マージン・コールの発生によりドルの短期金融市場に余波を及ぼす恐れはある」と述べている。

 (ロイターニュース 星裕康、山口貴也、石田仁志;編集 伊賀大記)

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