ユリウスさんのブログ

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アンチエイジング & 電子機器 -小池真理子説に異議あり

 今日の読売新聞夕刊に小池真理子が「アンチエイジング 失う『凹凸』肌も心も」を書いている。その言わんとしていることはアンチエイジングのための商品が、これでもかこれでもか、と賑々しく売られていること。そしてTVでは、一般消費者たちが、実際に使用した商品の効果のほどを笑顔でしゃべりまくっていること。こんな風潮に対して彼女は疑問を呈している。



曰く。
「人生の他の楽しみをすべて諦めてエステに通い、疲れ果てているのにジムで贅肉をしぼり、連日連夜、鏡を見ては老いの兆候を見つけ、新たなサプリや化粧品を求めるだけの人生のどこに、本来、人間がもっているはずの思考する力、本質的なものを見極めるための力を発揮する場所があるというのだろう。」

 ここまで極端ではないけれど、アンチエイジングの商品のみならず、「〇〇が癌を抑制する成分を含むといわれたら、それが「赤ワイン」であれ、「納豆」であれ、多勢が同じ商品を健康に良いからと買いに走るような風潮を、翔年も嘆かわしく思っている。マスメディアの作り出す幻影に、思考停止して、右往左往する愚はしたくない。そういう行動を繰り返すおつむをあまり使わない人たちの群れから、出来るだけ離れたい心理状態になる。

 更に彼女はこうも言う。
「『アンチエイジング』用の化粧品を塗りたくった肌同様、人の内面もまた、活き活きとした自然な凹凸を失って、人工的に作られていきつつあるのではないか。」と。
 ここまでは翔年もまぁまぁ認めよう。

 しかし、この後の彼女の言い分は絶対に同意できない。
「その『凹凸のなさ』というのが、無機質なパソコンや携帯のつるんとした画面を連想させて、私には何やらひどく薄気味悪い。」
 何だ、これは。アンチエイジングの話が突如パソコンや携帯の無機質な画面の連想によって「薄気味悪い」と結論付けられている。彼女もまた「本質的なものを見極めるための力」が弱まっているのではないのか。

 こういう作家や評論家も、何かを煽りたてねばすまぬマスメディア同様、困った存在だと翔年は思う。パソコンや携帯電話は道具だ。道具には人のぬくもりを感じさせるハンドメイドもあれば、技術の粋を詰め込んだパソコンや携帯電話のような無機質なものもある。ただし、それを使っているからと言って、使っている人間が機械と同じように無機質なつるんとした人間になるとは限らない。当たり前のことながら、複雑な機械ほど、道具を使う人の識見や技術力のあるなしによる差が大きいのだから。

 かつてこんなことを言った老作家がいた。「作家は原稿用紙の桝目を一語一語万年筆で刻んでいる。ワープロのような便利な機械でサラサラ書いていたら文章が荒くなる。」
 これが本当なら、昔からタイプライターで書いていた欧米の作家達は全員荒れた文章を書いていたことになる。翔年はタイプライターで書かれた人間についての深い洞察やグローバルな視点に立って書かれた文章の方が、万年筆で一桝一桝丁寧に、チマチマした身辺雑記を記すわが国の作家の作品よりも、よほど価値が高いと思っている。

 もっともっと大昔、インク壷からインクをつけつけ羽根ペンで書いていた時代から、万年筆の時代に移りはじめた頃に、こういった作家もいたことが記録に残っている。
 「インクをつける度に、思考を確認するから、キチンとした文章がかける。」「インクをつけなくてもスラスラ書ける万年筆では、思考が練れない。」
 一見もっともらしく聞こえるが、これは時代の波に遅れ始めた老作家のくりごとではないのか。

 旅の好きな人たちはローカル線の景色や駅弁を懐かしがって、「新幹線には旅の楽しさや潤いがない」と言って、世界に誇るわが国の新幹線を非難したことも翔年は覚えている。そこから論理は早いもの、新幹線、車、オートバイ、すべて悪者というような論もあったと記憶する。
 古い話はこれぐらいにしておこう。

 いつの時代にあっても、自分が慣れ親しんだ道具が一番いいと思う人がいる。しごく当たり前の感情ではあるが、だからと言って小池真理子のように「無機質なパソコンや携帯のつるんとした画面」などと見下げる必要がどこにあるのか。
 
 現在の映画は昔の「影絵」や「紙芝居」の素朴な良さはほとんどなくしたかもしれない。しかし、最近の映画技術は誰でも簡単にポルノ映画をつくれるが、作る監督によっては、詩情溢れる感動を呼ぶ映画を作ることも、壮大な歴史や大自然を記録することも、宮崎駿作品のような親子で楽しめてなおかつ奥が深いアニメを作ることも可能なのだ。道具ではなくて、それを使う人に大きく依存していることは間違いない事実だ。

 技術の発達した現代に住む我々は、自分の理解できないもの、自分が使いこなせないもの、自分になじみのない新しい複雑な機械などに、ややもすると否定的な感覚を持ちがちである。これこそ心のエイジングがすすんでいる証拠ではないのか。
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